ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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百五手福音のホーリーナイト~sideA~

 

 

 いよいよやってきたクリスマスイブ当日、今回は結束バンドが主催ということもあって私たちは早くから集まって会場の飾りつけを行っていました。

 

「有紗ちゃん、この辺りでいいかな?」

「ええ、大丈夫です。ひとりさん、そっちを持って貰えますか?」

「あっ、はい。こうですね」

 

 現在虹夏さんとリョウさんは、キッチンで星歌さんの誕生日ケーキを作っており、私と喜多さんとひとりさんでクリスマスの飾りつけを行っていました。

 今回の自主企画ライブに関しては、私と虹夏さんが分担して指揮を執っており、現在は虹夏さんが料理に専念するために私が全体のまとめ役をしています。

 

「あら、ずいぶん綺麗に飾り付けましたね~」

「PAさん、こんにちは。今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ~皆さんの企画ライブ楽しみにしてますよ~」

 

 出勤してきたPAさんに軽く挨拶を行います。現在星歌さんは虹夏さんの提案で開始の時間まで外に出てもらっています。星歌さんの誕生日パーティも兼ねたライブですし、星歌さんはサプライズ派ということもあってどんなライブかは本番になってのお楽しみという形です。

 

「3人とも飾り付けありがと~ケーキもバッチリ準備できたから、これで殆どの準備は完了だね」

「ふっ、手こずらせやがって……」

「リョウは殆どなにもしてないでしょ?」

「いや、生クリーム混ぜたから……」

 

 ケーキを作り終えた虹夏さんとリョウさんが来て、後は参加バンドの方々を待つ形になると思っていると、丁度そのタイミングで扉が開きSTARRYを拠点とするバンドで、結束バンドとも何度かブッキングライブをしたことがあるしじみ帝国の皆さんがやってきました。

 

「おはよーございます」

「今日はよろしく~」

「こんにちは、今日は参加してくださってありがとうございます」

「いつもお世話になってる店長さんの誕生日だしね~。いいライブにしようね!」

 

 しじみ帝国の皆さんと軽く挨拶をしていると、今度はお義父様がやってきました。

 

「皆おはよう!」

「あ、ぼっちちゃんのお父さん! 今日はよろしくお願いします。まさか本当に出てもらえるなんて……」

「娘がいつもお世話になってるし、こういう機会ぐらい一肌脱がないとね! ああ、うちのバンドメンバーを紹介するよ」

 

 そう言ってお義父様がいろいろな人生が垣間見えるバンドメンバーを紹介してくださり、更に続いて星歌さんが以前に所属していたバンドのメンバーもやってきました。

 ドラムのリナさんは虹夏さんにドラムの基礎を教えてくれた方でもあるようで、虹夏さんを妹のようにかわいがっている感じがしました。

 

「やほ~」

「あ、リナさん! 今日はありがとうございます!」

「なんのなんの、あの虹夏ちゃんが主催のライブなら絶対出なきゃねぇ。しっかし、大きくなったね~前はあんなに小さかったのに」

「えへへ」

「……ところで、いま星歌って外に出てたりする?」

「え? ええ……どうしました?」

「ああ、いや、なんか、ルンルンとスキップしながら歩いてる星歌に似た気持ち悪い人を見かけたから……」

「……み、見なかったことにしてあげてください」

 

 どうやら、星歌さんは今日のライブを相当に楽しみにしている様子で、私たちの前では見せませんが相当はしゃいでいるのでしょうね。

 どことなく微笑ましい気持ちになりつつ、今日の演奏順の書かれた紙を到着したバンドの方々に渡していると……勢いよくドアが開かれました。

 

「有紗~!! 来たよ~!」

「ああ、玲さん。今日はよろしくお願いします」

「うんうん。楽しいライブにしようね~! あ、そうそう、来る途中で面白いフレーズが思い浮かんだんだけど……」

「駄目です」

「……あ、いや、ちょっと、一部変えるだけですぐに使えるやつで……」

「駄目です」

「……あ、有紗なら一発で弾けると……」

「駄目です」

「……はい」

 

 玲さんはピアノに関しては徹底していますが、サックスに関しては割と思い付きでアドリブを入れようとしたりすることがあります。音楽の日などに、サックスとバイオリンで演奏をしたこともありますが、あの時の本番直前にオリジナルのフレーズを入れたいと言ったりして大変だったので、それ以後本番直前の思い付きの変更は一切受け付けないことにしています。

 

「あっ、こっ、こんにちは」

「あ、ひとりちゃん! こんにちは~今日はよろしくね! ところで、あれから有紗とキスのひとつでもした?」

「しっ、ししし、してないです!?」

「え~そこはもっと積極的にいかなくちゃ駄目だよ。恋愛は勢いだよ! いや、ボク恋愛したことないけど、なんか雑誌にそう書いてあったしたぶん間違いないよ!」

 

 玲さんに絡まれてアタフタしつつ、こちらに助けを求めるような視線を向けてくるひとりさんを見て、私は無言で玲さんの首根っこを掴んでひとりさんから引き離しました。

 類は友を呼ぶと言いますが、私も大概ですけど玲さんも思いついたら即行動みたいなところがあるので……まぁ、とりあえず本番までは大人しくしているようにしっかり言い聞かせておきましょう。

 

「えっと、これであと1組なんだけど……まだかな? 1番手なんだけど?」

「……エレ&ネネ? 初めて見るバンド名ですね」

 

 玲さんの到着を確認した虹夏さんが周囲を見渡しつつ、まだ来ていないバンドを話題に出します。すると喜多さんも興味を持ったのか会話に参加してきました。

 

「音源は超素人だったんだけど、メールの熱意は凄かったし、有紗ちゃんが是非にって推すから出てもらうことにしたんだけど……有紗ちゃんは知ってるバンドなの?」

「ふふ、そうですね。私とリョウさんはよく知っているバンドですね」

「え? リョウも? それってどういう……」

「すみません!! 遅くなりました!!!」

 

 虹夏さんが不思議そうに首を傾げるのとほぼ同じタイミングで、これはまた勢いよく扉が開いて話題の1番手のバンドがやってきました。

 

「エレ&ネネです!!」

「え? 大山さんと日向さん!?」

 

 そう、エレ&ネネというバンドは恵恋奈さんと猫々さんのふたりのバンドです。なぜ私とリョウさんが知っていたのかというと、ふたりの練習に関わっていたからです。

 驚く虹夏さんに対し、リョウさんが何処か誇らしげな表情で口を開きます。

 

「実は私がふたりを教えてた」

「嘘!? リョウが!?」

「はい! 本当に勉強になりました――山田メソッド!!」

「なにそれ!?」

 

 猫々さんがキラキラとした目で語る山田メソッドという言葉に、虹夏さんが大声でツッコミを入れます。すると、リョウさんが自信満々の表情で語り始めます。

 

「山田メソッドとは、金無し、才能無し、人脈無し……そんなどん底からのスタートでも一人前のバンドマンに成長できるというテーマの、音楽教材だ」

「ほぼ、情報商材みたいな香りしかしないんだけど!?」

「でもでも、本当に分かりやすくて1曲丸々弾けるようになったんですよ! これで500円は安いです~」

 

 恵恋奈さんが猫々さんと同じくキラキラとした目で、山田メソッドの教材を差し出すとそれを見た虹夏さんはなにやら驚いたような表情を浮かべました。

 

「……あれ? 大方ネットの講座を印刷してるだけかと思ったら……意外とちゃんとした教材? 段階的にレベルアップしていけるように、分かりやすく解説してある」

「はい! それにオーチューブの限定公開動画で、課題フレーズを見れたり、運指を細かく解説した動画もあるんですよ」

「……え? 意外にちゃんとしてる?」

「教材の製作協力は有紗、カリキュラムとかいろいろ意見だしてもらった」

「おっと、急に滅茶苦茶信頼度が高い教材に思えてきたぞ……」

 

 実は前々からリョウさんには相談を受けていまして、喜多さんや私に指導した経験を活かして、教材を作ってみたい……もとい、そういったものを作ったら儲けられるのでは? と相談を受けて、内容などを度々相談しながら作っていました。

 そしてそこにたまたま、ギターとベースの素人である猫々さんと恵恋奈さんが居て、結束バンドの自主企画ライブになんとかサプライズ参加したいということだったので、その教材を使いつつ指導してみたという形です。

 

 実際、結構拘って作りましたし、ギターの教本にはひとりさんの意見なども参考にしたので、それなりの完成度にはなったと自負しています。

 実際もう少し内容を詰めれば、本当に教材として売り出せるかもしれませんね。

 

 

****

 

 

 リハーサルを簡単に終えて、いよいよ本番です。結束バンドの人気も最近ではかなり上がってきたこともあり、クリスマスイブでもかなりのお客さんが集まってくださいました。

 1番手は猫々さんと恵恋奈さんのコンビ、2番ではしじみ帝国、そして3番手に玲さんと私のコンビという順番です。

 

「あっ、もっ、もうすぐ始まりますね」

「ええ、大勢の人が集まってくれましたしきっとうまくいきますよ。楽しみですね」

「あっ、はい。でも、有紗ちゃんの演奏も凄く楽しみです」

「ふふ、私の方が先に出番ですね。ひとりさんの期待に応えられるように頑張ります」

「えへへ、なんか、私が有紗ちゃんを送り出すのが凄く新鮮です」

 

 言われてみれば、基本的に演奏メンバーではない私がひとりさんに「頑張ってください」と告げて送り出すのがいままでの形だったので、私が送りだされる側というのは初めてですね。

 ひとりさんはその事がよほど嬉しいのか、ニコニコと可愛らしい笑顔を浮かべていました。

 

「あっ、有紗ちゃん。頑張ってください」

「はい。頑張ります……ああ、そういえば……」

「うん?」

「おまじないはいただけないんでしょうか?」

「おまじな……~~~~!?!? なっ、なな、なにを……」

「ひとりさんに、おまじないをして貰えたら、私はきっと凄く頑張れると思うんですが……」

 

 顔を真っ赤にしてパクパクと口を動かして、言葉が出てこない様子のひとりさんに悪戯っぽく微笑みます。ほんの冗談のつもりでしたが、ひとりさんは真っ赤な顔で悩むような表情を浮かべたあと……。

 

「……あっ、その、おっ、おでこくっつけるやつなら……」

「いいんですか? それは嬉しいですね。是非!」

「あぅ、もの凄く嬉しそうにしてる。もっ、もぅ、有紗ちゃんは……」

 

 どこか呆れたような表情で苦笑したあと、軽くしゃがんだ私の前髪をそっとあげて、ひとりさんは自分の額を私の額にくっつけ、優しい声で応援してくれます。

 

「……頑張ってください。有紗ちゃん」

「はい! 頑張ります!」

 

 それは本当に魔法の言葉のようで、不思議と最高の演奏ができると……そう確信出来ました。

 

 

 




時花有紗:虹夏にしてみれば、安心して指揮を任せられる相手なので、虹夏の負担がかなり軽減されている。隙を見てぼっちちゃんといちゃつくのは相変わらず。

後藤ひとり:いちゃいちゃ度は上がっているし、時期はクリスマスイブ……決めるなら今日しかないのでは?
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