ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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百六手聖夜のマイヒーロー~sideB~

 

 

 しばらく経ってようやくある程度落ち着いたひとりが有紗と一緒に店内に戻ると、そろそろ結束バンドの出番が近い状態だった。

 現在はリナのバンドが演奏を行っており、それが終わった後のMCで元メンバーである星歌にメッセージを送っていた。

 

「えー星歌がバンドやめてライブハウスやるって聞いた時は、なに言ってんだって思ったし、正直無理だろうとも思ってたんですけど……まじめに勉強して働いて、このライブハウスを作って、いまじゃこんなにたくさんの人が来てくれる箱の店長になってて、本当に頑張ったんだな~って少し感動しました。星歌! これからも何十年も続く箱にしろよ! 誕生日おめでとう!!」

 

 元バンドメンバーからの激励の言葉に、星歌は微かに笑みを浮かべていた。その後にリナが星歌が毎晩ぬいぐるみを抱いて寝ていること、そのぬいぐるみを虹夏に洗ってもらっていることなどを暴露するまでは……。

 そんな空気の中で有紗とひとりは結束バンドのメンバーが集合している控室に移動する。道中で玲がふたりを見て、その雰囲気から話がうまく行ったのを察したのか、軽くサムズアップをしており、それを見た有紗は思わず苦笑する。

 

 控室に着くとやや慌てた様子の喜多が駆け寄ってきた。

 

「あ、ふたりともやっと来た! ひとりちゃん、早く着替えないともうすぐ本番よ!」

「え? あっ、サンタ服着るとかって……いっ、いや~でもサンタ服なんて買ってない」

「サンタ服は私が全員分用意してますよ。物品の担当は私だったので……」

 

 今回のライブは結束バンドのメンバーは全員サンタのコスプレをしてライブを行うと、喜多の提案により決定していた。ひとりとしてはコスプレは恥ずかしいので、衣装が無いことを理由に避けようとしたのだが……そもそも、そういった備品系は有紗が担当であり、当然の如く準備のいい有紗がちゃんと人数分の衣装を用意していないわけもなく、ひとりの抵抗は空しく終わった。

 諦めた様子でサンタ服を受け取るひとりを見て苦笑を浮かべたあと、有紗は今日のために持って来ていたケースの中からカメラを取り出した。

 

「……有紗ちゃん? なにその凄いカメラ?」

「ひとりさんがサンタの服を着るので、写真を撮るために用意してきました」

「ブレない。流石、有紗はブレない」

 

 虹夏の質問に有紗は明るい笑顔で答え、その場にいる全員がここで撮影した写真を額縁に入れて部屋に飾るつもりだろうということを察した。

 

 

****

 

 

 今回の企画ライブのメインだけあって、結束バンドがステージ上に現れると会場は今日一番の盛り上がりに包まれた。

 

「メリークリスマース! 今日は結束バンドサンタたちが皆に最高の歌のプレゼントをお届けしちゃいまーす! 写真もたくさん撮っていいからね~!」

「ど~も~今日はクリスマスなのに来てくれてありがと~」

「ちょっと、伊地知先輩もっとサンタになりきってください。照れてるじゃないですか!」

 

 ノリノリでMCをする喜多といざステージに来ると恥ずかしさが勝ってきたのか、少し照れた様子の虹夏……そして、リョウとひとりは無に徹していた。

 そもそもひとりの精神は割と限界である。今日がライブ日でなければとうの昔に気を失っていた。というよりは、有紗とのキスを思い出すだけで恥ずかしすぎて、サンタのコスプレの方は比較的に平気というほどである。

 ただそれでも不思議と演奏はいつも以上に上手くできる気がした。

 

「じゃあ、さっそく歌のプレゼントいきまーす! ギターと孤独と蒼い惑星!」

 

 そして演奏がスタートすると、その予感は現実のものとなった。いつも以上に滑らかに指が動いた。ひとりで演奏している時と同じような感じで、十全に己の力を発揮しつつも結束バンドのメンバーの音に合わせられている気がした。

 

(え? やば、ぼっちちゃん音滅茶苦茶ノッてるじゃん。ギターヒーローとして演奏してる時と同じかそれ以上……これ、私たちもしっかり気合入れて演奏しないと、全部ぼっちちゃんに持ってかれちゃうかも)

 

 ひとりが絶好調であることは他のバンドメンバーにもすぐ伝わっており、皆ひとりに負けじと気合を入れて演奏を行いバンドとしての演奏の質が上がっていく。

 その演奏を観客席で見ていた有紗の元に、玲が近づいて来て声をかけてきた。

 

「……いいバンドだね~。音もいいけど色もいいね」

「そうですね。でも、今後はもっとよくなると思います……よくして見せますよ」

「やっぱり、ひとりちゃんに任せたのは正解だったね。う~ん、これからの結束バンドがますます楽しみだよ。あ、ちなみにそれ以外もなんか進展あった?」

「どうでしょうね? とりあえず……結婚式ではスピーチよろしくお願いしますね」

「あはは、そうこなくっちゃ!」

 

 微笑みながら告げたその言葉ですべてを察したのか、玲は心底楽しそうな笑顔を浮かべたあとステージ上の結束バンドに視線を向ける。

 音を色として認識することもできる彼女には、ステージ上で輝く美しく鮮やかな色を見ることができた。

 

「さて、私は演奏後のサプライズの準備に行きますね」

「サプライズ?」

「ええ、星歌さんの誕生日なので……」

 

 そう告げて有紗は軽く一礼して奥に移動していった。そして、結束バンドのメンバーと同じようにサンタの服に着替えてから、星歌へのプレゼントを運びだしやすい場所に移動させる。

 そして、結束バンドの演奏が終わったタイミングでマイクを持ってステージ上に、移動していった。

 

「さて、素晴らしい演奏の余韻を邪魔してしまいますが、ここでサプライズタイムです。もうすでに観客の皆さんもご存知とは思いますが、本日はSTARRYの店長である伊地知星歌さんの誕生日です。なので、これからそのお祝いを行いたいと思います。星歌さん、ステージ上にどうぞ」

「え? あ、あぁ……なんだ、いったい?」

 

 有紗がマイクで話している間に奥に移動した虹夏が予め作っておいたバースデーケーキを持ってステージに戻ってくる。

 そして、ステージに上がった星歌に笑顔でそのケーキを差し出す。

 

「ハッピーバースデーお姉ちゃん! 誕生日ケーキで~す! ささっ、遠慮せずに一口どうぞ?」

「……」

 

 虹夏が差し出したケーキには、可愛らしいSTARRYのスタッフや結束バンドのメンバー、そして星歌を模した飾りが付いており非常に可愛らしい完成度になっていた。

 可愛いものが好きな星歌にとっては、勿体なくて食べられないほど可愛らしく、差し出されたケーキの前で硬直する。それを見た虹夏は怪訝そうに首を傾げる。

 

「何? 早く食べてよ」

「……いらないなら頂き――」

「駄目です」

「――あだだだだ!? 待って、有紗!? 腕が変な方向に!?」

 

 星歌が食べようとしないケーキに手を伸ばそうとしたリョウだったが、素早く有紗に手を捻り上げられる形で阻止された。

 

「虹夏さん、おそらくあまりに可愛らしく綺麗に出来ているので、勿体なくて食べられないんだと思いますよ。確かにその状態でフォークで食べると型崩れしてしまうので、あとでカットして食べましょう」

「あ、そうだね。じゃあ、ケーキはあとで食べてもらうことにして、プレゼントタイムに移行しよう! 今回はリョウもちゃんと用意したんだよね?」

「……その前に、有紗に片腕で抑え込まれてる姿を見てなにか言うことは?」

「自業自得」

 

 とりあえずケーキはあとで食べるということで、星歌への誕生日プレゼントを贈ることにした。有紗からマイクを受け取って、虹夏が進行を代わる形でメモを取り出して読み始める。

 

「え~まずは会場に来れなかった新宿FOLT勢からのプレゼントです! SIDEROSを代表して大槻ヨヨコさんからのプレゼントは、スターリー前に置いていた花輪です!」

 

 ヨヨコは開店祝いのような花輪とハムギフト、そして電報を送ってきており、電報の文面も非常に硬いもので、なんだかんだで根の真面目さと少しズレているところが出ており、ヨヨコらしいといえるプレゼントだった。

 

「続いて、廣井さんからはポケットティッシュの詰め合わせでーす!」

「歌舞伎町一周して配ってたやつ集めて来ただけだろ……それでも、去年よりはマシってのが酷いが……」

 

 きくりのプレゼントに呆れつつも、去年の期限切れのゴミよりはマシだと苦笑する星歌に、続けて志麻や銀次郎からのプレゼントも送られ、次は結束バンドのメンバーからのプレゼントを贈ることになった。

 

「私はホットアイマスク~」

「私はアロマディフューザーです! 癒されてください!」

 

 最初に虹夏と喜多がプレゼントを渡し、続けてリョウの番となったのだが、リョウはなにやら気まずそうな表情を浮かべていた。

 

「うん? リョウも早く出しなよ、用意したんでしょ?」

「なに用意したんですか? 古着とか?」

「う……廣井さんと被った……ボックスティッシュ」

「……いやまぁ、ちゃんと買ってるだけ箱ティッシュの方がマシだ。保湿ティッシュだし、ありがとうな」

 

 リョウが用意したのは3つセットのボックスティッシュであり、いちおうきくりと違って自分で購入したものではあるが、ティッシュという部分が被っていたため気まずそうな表情を浮かべていた。

 

「では、次は私とひとりさんですね」

「あっ、わっ、私たちのプレゼントはセットで使うものなので、一緒に渡します」

 

 最後は有紗とひとりである。去年はテディベアのセットを贈ったふたりだが、今回は渡す場所が観客もいるステージ上ということもあり、可愛いもの好きということを隠したいであろう星歌に配慮したものを選んだ。

 まぁ、尤もそれに関してはリナにより暴露されたので、あまり意味は無かったのだが……。

 

「私からはノートパソコンです。以前そろそろ新調したいと言っていたので、丁度いい機会と思いまして……」

「あっ、わっ、私はマウスです」

「おぉ、ふたりともありがとう。ちょうど、使ってるノートパソコンが古くなってたから、助かる」

 

 ふたりのプレゼントを星歌が受け取ったことで、すべてのプレゼントが終わる。するとそのタイミングでマイクを持った喜多が口を開く。

 

「それでは最後に、全員からバースデーソングを贈ります! 観客の皆さんもよかったら一緒に歌ってください!」

 

 そして、全員でバースデーソングを歌い星歌の誕生日パーティを兼ねたクリスマスイブのライブの全プログラムが終了した。

 

 

 




時花有紗:恋人同士になってもブレない安定した有紗ちゃん。正式なメンバー所属の話はライブが終わってから行うつもり。

後藤ひとり:とりあえず、全力でキスのことは思い出さないようにしてる。思い出したら気絶する。ただ、やはり思いが通じ合ったことでテンションは上がっているのか、絶好調だった。

世界のYAMADA:原作よりやや経済的に余裕があるため、ポケットティッシュではなくボックスティッシュのプレゼントだった。
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