結束バンドによる初めての自主企画ライブは大成功と言っていい雰囲気で幕を下ろしました。観客が帰り、出演したバンドの皆さんが帰るのを見送ります。
主催である私たちは最後まで片づけを行う予定なので、まだしばらくはSTARRYに居ることになります。
「じゃあ、迎えが来たみたいだから、ボクも帰るね~。あ、そうそう、これ年末のボクのコンサートのチケット。皆で見に来てね~」
「ありがとう、玲ちゃん。今日の演奏も凄かったよ」
「あはは、ありがと~。でも、やっぱりボクの本業はピアニストだからね。本気の演奏はコンサートでね。それじゃ、有紗、また連絡するね~」
「ええ、お疲れ様です、玲さん」
元気よく手を振って去っていく玲さんを見送ると、残るのは結束バンドとSTARRYの一部のスタッフだけとなりました。
あとは片付けと清掃を行って終了であり、それぞれ箒やモップを持って清掃を開始します。
「いや~無事に終わってよかったね~」
「まぁ、よく来てくれる客が中心だったけど、いい感じだったね」
「次はワンマンでも行けるかもしれませんね!」
虹夏さんの言葉にリョウさんは苦笑しつつ同意して、喜多さんも明るい様子で会話に加わります。その様子を見てひとりさんと一緒に軽く苦笑したあとで、大事な用件を伝えることにして、虹夏さんに近付きました。
「……虹夏さん?」
「うん? どうしたの、有紗ちゃん?」
「『気が変わりました』。以前一度誘いを断っておいて恐縮ですが、私を正式に結束バンドに入れていただけないでしょうか? ……キーボードとして」
「「「ッ!?」」」
私の言葉が予想外だったのか、虹夏さんだけでなく近くに居たリョウさんと喜多さんも驚いたような表情を浮かべます。
ただ、それは一瞬のことで、虹夏さんの表情は驚きから喜びに変化していき、パァッと花が咲くような笑顔を浮かべてくれました。
「……うん! うん! 大歓迎だよ! というか、ずっと気が変わってくれないかなぁって待ってたんだよ!」
「有紗ちゃんが演奏メンバーに! 凄い!!」
「キーボードが入ると音の幅が広がるし、有紗なら腕は文句なしだし、セカンドボーカルもいけそう」
虹夏さんだけでなく喜多さんやリョウさんも快く私の正式加入を歓迎してくれており、どこか楽し気な様子で話が盛り上がっていきます。
「司馬さんとかにも連絡する必要があるよね?」
「そうですね。ファーストアルバムはもう収録済みなので、それ以降から所属になるとは思いますが、STARRYなどのライブであれば問題はありません。もちろん、中途半端な時期に加入を申し出る以上皆さんやファンの方々を納得させられるだけの演奏をしてみせます」
「あっ、有紗ちゃんなら大丈夫です! だっ、だって、キーボード本当に上手ですし!」
「ふふ、ありがとうございます」
ひとりさんの言葉に私も笑顔を浮かべます。急な話ではありましたが、ここまでずっとサポートで皆さんと一緒に活動してきた信頼関係のおかげか、非常に好意的に受け入れてもらえてありがたい限りです。
この期待に応えられるだけの演奏を返していこうと、そう改めて心に誓いました。
「いや~それにしても思わぬサプライズだね! なんか楽しくなってきちゃった!」
「ですね! テンション上がりますよね!! このまま打ち上げしちゃいますか!!」
「賛成、お腹空いた」
皆さんは非常に盛り上がっており、私の歓迎会も兼ねた打ち上げを行う方向で話が進んでいます。時間もそうですがクリスマスイブということもあって、いまからどこかの店に行くのは難しいでしょう。打ち上げをするとすればコンビニ等で食べ物や飲み物を買ってSTARRYで行うことになりそうです。
掃除がそっちのけになりそうですが、チラリと視線を向けると星歌さんも苦笑しており、どうやら店内で打ち上げすることは許可してくれるみたいです。
そんな楽し気な空気に微笑みつつ、私はもうひとつ大事なことを伝える必要があると考えて口を開きました。
「ああ、それと、今日を持ちましてひとりさんと正式に恋人となりました!」
「ちょっ、あっ、ああ、有紗ちゃん!?」
『えぇぇぇぇ!?』
なんならこちらが最重要と言えるかもしれません。ひとりさんと恋人、そう、恋人です! 頭に思い浮かべるだけで幸せな気分になれる素晴らしい言葉の響きです。
私の宣言にSTARRY内は再度驚愕に包まれ、ひとりさんが慌てたような表情を浮かべます。
「なっ、なな、なんで言っちゃうんですか!?」
「いえ、どちらにせよいずれ分かることですし、遅いか早いかだけですから」
「あっ、有紗ちゃんはメンタルが強すぎます!!」
実際虹夏さんを始めとした面々からいつ付き合うのかなどと聞かれることも多かったので、こうして正式に恋人となったことを報告しておきます。
あと、若干ではありますが、こうして報告しておけば堂々とひとりさんとイチャイチャできるという打算もあります。
「び、ビックリした!? い、いや、いつかはそうなると思ってたけど……」
「ふむ、つまり……バカップルが、正式にバカップルになったってこと?」
「じゃあ、別にいままでと変わりませんね」
「……そだね。よく考えれば、別に変わんないね。ふたりともおめでと~」
「はっ、反応がアッサリ!?」
虹夏さん、リョウさん、喜多さんは最初は驚いたような表情を浮かべていましたが、すぐに冷静になったのか割とアッサリした感じの反応に変わりました。
ひとりさんが思わずといった感じでツッコミを入れますが、3人は顔を見合わせて頷き合います。
「だって、ね?」
「普段からあれだけいちゃついてたわけだし……いまさらと言えば、いまさらですよね」
「むしろ、いままでマジで付き合ってなかったのかと、そこに驚いた」
ひとりさんは微妙に釈然としない表情を浮かべていましたが、交際の報告に関しても問題なく受け入れられました。
****
なんだかんだでワイワイと盛り上がった打ち上げは遅くまで続きました。ひとりさんは電車の時間がありますが、去年と同じように私の家に泊るという話になってからは、時間を気にせずに楽しんでいました。
そして打ち上げが終わりひとりさんと共に車で移動して私の家に向かうところですが、途中で寄りたい場所があったのでそこに寄ることにしました。
「この道も懐かしいですね」
「あっ、ですね。去年もこうして、歩きましたね」
去年のクリスマスにひとりさんと一緒に見に行ったクリスマスのイルミネーションを今年も見に行くことにして、夜の道を手を繋いで歩きます。
去年とは違って雪は降っていませんでしたが、互いにクリスマスプレゼントで送ったマフラーを巻いて、恋人繋ぎで歩くとなんだか特別な気分になれるような気がしました。
去年とは違っていまの私とひとりさんは恋人です……まぁ、とはいえ、恋人になったからと言って大きく関係が変化するわけでもありません。
私はひとりさんと一緒にいるのが幸せですし、ひとりさんもそう思ってくれているのは伝わってきます。だからこうして一緒にイルミネーションを見にきたりと、ふたりで楽しい気持ちを共有するという感じです。
「あっ、やっぱりカップルが多いですね」
「クリスマスイブですからね。まぁ、今年は私たちもカップルですがね」
「あっ、あぅ……そっ、そうですね。なっ、なんかちょっと緊張します」
「あまり意識しなくても大丈夫ですよ。恋人になったからと言ってこれまでと大きく関係が変化するわけでもないですよ。一緒にいろんな場所を見て、いろんな楽しさを共有して仲良く楽しく、幸せな関係を築けていければいいですね」
「あっ……はい」
恋人になったからと言っていままでの関係が大きく変わるわけではありません。理由としては単純で、そもそも私の方がずっと好意を伝え続けていたわけですし、そういう意味では変化と言えばひとりさんが受け入れてくれるようになった……ふむ。
「……」
「あっ、有紗ちゃん?」
「つまり、恋人になったという名目さえあれば、いままで躊躇していたり遠慮していた、あんなことやこんなことも実行可能というわけでは?」
「……まっ、待ってください。ちょっ、ちょっと冷静になりましょう。たっ、たぶんですけど、それにイエスって返すと私が大変なことになりそうなので、そっ、その辺りはゆっくりじっくりいきましょう? ね? 有紗ちゃん?」
「……そう、ですね。確かに、焦ってしまっても仕方ないですね」
「そっ、そうです! あっ、焦らずに行きましょう!」
確かにひとりさんの言う通りです。恋人になったことによって、いままで以上に制限は無くなりましたが、だからといってすぐにそれらを実行していくべきというのは焦り過ぎかもしれません。
ひとりさんと一緒に私たちのペースで関係を深めて行ければいいですね。
「……ただ、ひとつだけハッキリさせておきたいことがあります」
「あぇ? なっ、なんでしょう?」
「キスは解禁ということでいいですよね?」
「……あっ、あの、さっ、さっきしましたよ?」
「私は何度でもしたいです」
「そっ、そんなストレートに……うぅ……いっ、いや、その駄目じゃないですけど……駄目じゃないんですけど、恥ずかしさが凄くてですね。あとなんか頭がフワフワしますし、心臓は五月蠅くなりますし……そっ、相当の覚悟がですね」
恥ずかしがってはいますが駄目とは言っていません。というわけでキスは解禁ということでいいでしょう。いままでも、ひとりさんのあまりの愛らしさにキスをしたいと思う場面は多々ありましたが、そこはグッと堪えていました。
しかし、いまはもうそれを我慢する必要は無いということです。
「……ひゃっ!? あっ、あの、あっ、有紗ちゃん? なっ、なんで顎に手を添えて……」
「ひとりさんの反応が愛らしいですし、イルミネーションが綺麗でいい雰囲気なので……キスをします」
「断言!?」
宣言しつつひとりさんの顎に手を当てて少しだけ上を向かせるようにすると、ひとりさんは驚いたような反応をして顔を真っ赤にしたものの、やはり嫌がったりする様子はありませんでした。
吸い込まれそうな綺麗な瞳を見つめつつ、ゆっくり顔を近づけると、ひとりさんは私を受け入れるように目を閉じてくれました。
「んっ……ふっ……」
クリスマスツリーとイルミネーションに照らされる幻想的な雰囲気の中で、腕の中には最愛の人が居て、その相手と唇を重ねキスをしている。これ以上ないほど幸せな状態です。
これからもずっとこんな幸せが続いていくようにと願いながら、ひとりさんの背に回した手の力を強めました。
時花有紗:結束バンドにキーボードとして正式に所属が決定。あとぼっちちゃんとの関係も即報告。相変わらずの猛将っぷりである。
後藤ひとり:恥ずかしがってはいるが、ちゃんとラブラブなぼっちちゃん。有紗が演奏メンバーになってくれて嬉しいし、恋人になってくれて幸せだしで、なんだかんだで最高にハッピーな感じである。
チベスナ三人衆:つ、ついに恋人に……ああ、いや、でも、前々からしょっちゅういちゃついてたし、ふたりの世界に入ってたし、別に変らないわ……むしろいまさらって感じだ。