ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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百八手加入の新体制~sideB~

 

 

 都内某所にあるホールには不思議な光景が広がっていた。室内で綺麗に並ぶのは老若男女これと言った法則の見えない面々であったが、どこか軍隊を思わせるように綺麗に整列する姿からは独特の威圧感があった。

 そんな面々が見つめるホールの壇上、マイクと机が置かれたそのステージの脇で死んだ魚のような目をしているのは結束バンドのファン1号を自称し、1号さんというあだ名で呼ばれる女性だった。

 なぜ彼女がこの場に居るのかと言えば、原因は付き合いの長い友人であり親友でもある2号に連れてこられたから……。

 そして当の2号はどこか神妙な表情を浮かべながら、ゆっくりと壇上を歩いてマイクの前に向かう。ホールに集まった者たちの視線が集中する中で2号は静かに告げる。

 

『……皆、急な話にも拘らず集まってくれてありがとう。今回は重要な報告がある』

 

 集結した者たちを見渡しながら話す2号の声はどこか興奮を抑えているようで、そこから伝わってくる重要な報告への期待もあり、ホール内はピリッとした空気になる。

 その中で2号は、たっぷりとタメを作ってから重要な報告を行う。

 

『……確かな筋から……というか本人からロインで聞いたので確定情報……ついに……ついに……有紗ちゃんが結束バンドの演奏メンバーとして正式加入することが判明した!!』

『うおぉぉぉぉ!!』

 

 瞬間、大きな歓声が響き渡る。ここに集まった者たちは2号と志を同じくする者たちだ。有後党という固い絆で結ばれた同志たち……そんな彼ら彼女らが待ち望んでいた有紗の正式加入。これで興奮するなというのが無理な話である。

 

(……友達がなんか教祖みたいになっちゃってる現状に、私はいったいどんなリアクションをすれば……)

 

 ただその熱気の中で1号だけは、なんとも言えない表情を浮かべていた。いや、彼女としても有紗の正式加入は朗報である。活動を始めたばかりの頃から追っかけている結束バンドのサポートメンバーであり、最初に路上ライブで演奏を聞いた時から1号も有紗とひとりのファンである。

 ただ1号はどちらかと言えば結束バンド全体が好きであり、推し活用語ではハコ推しと呼ばれる形で、メンバー全員のファンだ。

 対して2号はもちろん結束バンド自体のファンでもあるのだが、それ以上にひとりと有紗のファン……もっと言えば、ひとりと有紗のカップリングを強く推すファンであり、いつしかその想いは他の結束バンドファンにも広がっていき有後党という、一種のファンクラブが形成されるまでになった。

 その党首として精力的に活動する2号は生き生きとしており、それ自体は友人としていいことだとは思うし、微笑ましいとも感じているが……「自分を巻き込まないでほしい」というのも1号の本音ではあった。

 

『その影響でいままでは、ほぼ存在しなかった有紗ちゃんの物販グッズも出てくると思う。たくさん買いたい気持ちは分かるけど、同志たちにもちゃんと行き渡るように購入個数はちゃんと考えてほしい。まぁ、皆マナーを守る素敵なファンだから大丈夫だとは思うけど、結束バンド、ひいてはひとりちゃんと有紗ちゃんに迷惑をかけないように推していこう!』

 

 2号の言葉に集まった有後党のメンバーたちは静かに頷く。有後党は統率の取れたマナーのいい組織であり、ライブや物販でも他に迷惑をかけることはよしとしない。むしろ、マナーの悪い客に声をかけて注意したりするようなファンたちなので、その辺りは代表の2号も安心している。

 メンバーの様子を見て満足気に頷いたあと、2号は笑顔を浮かべつつ口を開く。

 

『……じゃあ、これで重要報告は終わりとして、せっかく集まったので他にも連絡事項を伝えていくね。まず、兼ねてから上がっていたライブでは法被は着にくいという意見を考慮して作成していた有後党パーカーとTシャツが完成したから、今日はそれも紹介するね』

 

 2号がそう告げると、舞台脇から世紀末的風貌の男たちが段ボールを持って歩いて来て、2号の近くに箱を置き、中からパーカーとTシャツを取り出してメンバーたちに見えるように掲げる。

 

『パーカーは黒と白の2種類で、Tシャツは有紗ちゃんカラーやひとりちゃんカラーを含めて、計5種類のバリエーションがある。パーカー1枚とTシャツ1枚は全員に支給って形でプレゼントするから、帰る時に好きなのを選んで持って帰ってね。追加で別のデザインや色が欲しい場合は有料購入になるから注意してね。明日以降、有後党の公式HPから購入できるようにするから、注文はそちらでお願い。えっと、次はこれも前から要望のあった……』

 

 そのまま続けて各種連絡事項を伝え、最後に次の結束バンドのライブ予定の情報を共有し合ってから、有後党の緊急集会は幕を閉じた。

 メンバーたちが帰るのを笑顔で見送った後、2号は1号に笑顔で声をかける。

 

「いや~いい集会だったね!」

「いや、むしろ怖い集会だよ!? というか、いつの間にパーカーとか作ったの?」

「ああ、前々から法被はちょっと恥ずかしいって意見もあったからね。えれちゃんと相談しながらライブハウスでも着やすいパーカーとTシャツの製作を進めてたんだよ」

 

 そう言いながら2号は話題に出ていたパーカーを羽織って見せる。背中の部分には書道で書かれたような達筆な漢字で「有後党」という文字が入っている。

 

「……というか、無駄にカッコいいねそのパーカー」

「いいでしょ? アパレル関連でデザインとかしてるメンバーがデザインを考えてくれて、漢字に関しては書道教室を開いてるメンバーが実際に筆で書いた文字を使ってるから、本格的だよ」

「通りで達筆な字だと……」

「ベンチャー企業の社長とか、上場企業の重役とかもメンバーに居て、その辺が制作スポンサーとして予算出してくれて、公式サイトでの販売にも協力してくれてるね」

「……どんな組織なんだよ、有後党……もうほぼ秘密結社じゃん。私が思ってた以上に怖い組織なんだけど!?」

 

 想像以上に謎の組織感の強い有後党の現状を聞いて、1号は頭痛を押さえるように頭に手を当てた。そんな1号に対して、2号は明るく笑みを浮かべながら告げる。

 

「有紗ちゃんが加わってのライブは年末らしいから、楽しみだね~」

「……まぁ、確かに楽しみだね。クリスマスライブで有紗ちゃんのキーボードは聞いたけど、滅茶苦茶上手かったし楽しみだね」

「うんうん。私たちも結束バンドのファンとして、有後党として、応援を頑張ろ~」

「……待って、サラッと私を有後党に組み込んでない?」

「なに言ってるの? 1号は、有後党の参謀長だよ!」

「やめてぇっ!! なんか、怖い組織で変な幹部っぽいポジション与えないで!?」

 

 しれっとした顔で有後党メンバーに組み込む2号に対し、1号は悲痛な叫びをあげた。

 

 

****

 

 

 結束バンドに有紗が正式に加入するという話は、当然ではあるが契約を結んでいるレーベルであるストレイビートにも連絡が入り、都と愛子も時間を見つけて結束バンドの練習を見にきた。

 そして有紗を加えた5人での演奏を見て、どこか唖然とした表情を浮かべており、少しして愛子が肩を震わせながら口を開く。

 

「……いや、むしろなんでいままでこの体制じゃなかったの!? この演奏なら未確認ライオットのグランプリとれたでしょ!?」

「凄いですね。キーボードが増えるだけでこうも変わるんですか?」

「いや、これは完全に有紗さんの腕前。このレベルのキーボードはそうそう居ないわ。それに、他のメンバーとも息が合ってるけど、なによりギターヒーローさんとのコンビネーションが完璧で、リードギターとキーボードでメロディラインがガッツリ作れてるから、存在感が増してるのよ」

 

 有紗の腕前はもちろんのことだが、有紗が加わることでひとりのパフォーマンスが明らかに上がっている。ひとりにとって有紗は本当に信頼できて頼りになる存在であり、そんな有紗が後ろで一緒に演奏してくれていることが大きな支えとなり、ここに至ってひとりはギターヒーローの際と遜色ない実力が発揮できるようになっていた。

 そのため結束バンド自体の演奏レベルが全体的に一段階引き上がったかのような錯覚を都と愛子に与えるまでの変化を見せた。

 

「……年明けのリリース自体には間に合いませんが、2枚目の目玉になり得ますし、企画しているツアーやレコ初ライブには間に合いますし、結束バンドのレベルが上がってくれることは我々としても喜ばしいですね」

「お、司馬さん、2枚目の話? 1枚目もまだ出てないのに?」

「いまの演奏を聞いて、ほぼ確信しましたからね。楽観視すべきではありませんが……大丈夫でしょう」

 

 愛子の問いかけに都は微笑みを浮かべて答える。有紗が加わった結束バンドの演奏レベルは極めて高く、これならばきっとと……そんな予感を彼女に抱かさせるだけの魅力があった。

 これからが楽しみだとそんな風に感じつつ、演奏を終えてアレコレと話し合っている結束バンドの面々を見つめていた。

 

 

 




時花有紗:演奏レベルはプロ級、ひとりとのコンビネーションはほぼ完璧。バンドの配置的にリードギターであるひとりの後方。ひとりの背中がよく見える演奏位置は本人も気に入っている。

後藤ひとり:原作に先んじて、ギターヒーローとしての能力をほぼ完全に発揮できるようになったぼっちちゃん。愛の力は偉大であり、リードギターの存在感はかなり増しているし、有紗とはアイコンタクトでアドリブもできるぐらいに息ピッタリ。

有後党:謎の人脈、謎の技術、かなりの規模、統率された組織力、謎の財力と秘密結社みたいな組織になりつつあるファンクラブ。党首2号、参謀長1号、エース恵恋奈と強力な布陣。有紗の加入は2号が本人から聞いて知っているが、有紗とひとりが交際を始めたことはまだ知らない。知ったらそれはそれで凄そう。公式サイトで有後党パーカーなどを購入可能、メンバー用の掲示板もある。実はこっそり有紗パパとママが別の人間を使って出資しており、変に財力がある組織である。
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