ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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百十手年末の重大ライブ~sideA~

 

 

 年末のライブは結束バンドにとっても重要なものです。特に今回は年明けからのCDの発売の告知もありますし、私が正式に演奏メンバーとなってから初めてのライブでもあります。

 今年の締めくくりにして、来年の布石ともなる重要なライブでもちろん練習にも力が入ります。まぁ、それはそれとしてひとりさんと恋人になって初めての年末なので、そこも楽しみたいところです。

 

「せっかくですし、一緒に除夜の鐘を聞きに行きませんか?」

「あっ、いいですね。けど、人が凄そう」

「場所にもよりますが混むでしょうね。とはいえ、直接鐘を打ちに行ったりせずに、ある程度人の少ない場所で聞けば大丈夫ですよ」

「なっ、なるほど……お汁粉とか食べたいですね」

「いいですね。冷える夜に温かいお汁粉は美味しいでしょうし、楽しみですね」

「えへへ、はい」

 

 結束バンドの年末ライブは30日であり、その翌日は自由なのでひとりさんとのデートを計画しています。一緒に除夜の鐘を聞きながらお汁粉を食べるというのは、なんとも風情があっていいですね。

 そんな風に話していると、どこか狐のような顔をした虹夏さんが声をかけてきました。

 

「お~い、そこのバカップル。いちゃつくのはいいけど、明日のライブの打ち合わせするよ~」

「分かりました。新曲リリースに関する発表は最後に回す形でしょうか?」

「うん。最後に喜多ちゃんに発表してもらう感じかな。今回の目玉が有紗ちゃんの加入発表と新曲リリースだし、有紗ちゃんの加入を頭に持ってくる予定だから、それを考えると最後がいいね」

 

 大きな発表を開始前と終了後で分けるのは理にかなっています。続けざまに伝えるよりその方が印象に残りやすいですね。

 私の加入に関してはそもそも、ライブ前でないと意味がないので必然的に新曲のリリースは最後に回る形になります。

 

「う~ん、有紗ちゃんと一緒に歌えるかと思ったんだけど……」

「さすがにツインボーカルに調整するような時間は無かったですから、仕方ないですよ」

「でも、郁代が言ってるみたいに有紗は歌もいけるから、今後はボーカルふたりの形でも曲が作れるし、幅が広がる。結構インスピ湧いて来て、何曲か仮に打ち込んでみたりしたから、今度ぼっちの意見も聞きたい」

「あっ、もう新曲作ってるんですね」

 

 喜多さんは賑やかなのが好きなので、複数人で歌うということが楽しみみたいです。実際に私も喜多さんのボーカルトレーニングを指導した際にデュエットなどをしたこともあるので、コンビネーションなどに関しても大丈夫だと思います。

 まぁ、夢は広がりますがそういったものは追々といった感じですね。まずは、間近であるライブをしっかりと成功させるための打ち合わせです。

 

 ライブのスケジュールなどを相談しつつ、話を進めていき、しっかりと翌日のライブに備えて準備を進めていきました。

 

 

****

 

 

 迎えた結束バンド年末ライブには、クリスマスの際の観客を超えるかなりの人数の観客が集まってくれていました。

 クリスマスイブはいろいろなライブハウスでライブがありましたが、12月30日はそれほど被っているところが多いわけではありませんので来やすいというのもあるかもしれません。

 

「今日は年の瀬に相応しいいいライブ日よりだね!」

「あっ、そっ、そういえばいまさらですけど、虹夏ちゃんってクリスマスに続いて年末のライブでもいろいろしてましたけど、受験の方は大丈夫ですか?」

「このぐらいは全然平気だよ。模試もA判定だったし、勉強のいい息抜きになるね」

 

 虹夏さんはかなり頭がよく、コツコツと真面目に努力できる方なので受験もまったく問題は無さそうです。実際私も度々、私の分かる範囲ですが勉強を教える機会もありました。

 実際に本番にも強く模試もA判定を余裕でとれているので、正直受験に関してはまったく心配はいらないと思っています。

 もちろん世の中に絶対はありませんが、かなり安心していいという印象です。

 

「やれやれ、そんな中途半端な姿勢で今日のライブが務まるのかね?」

「ニートになるやつが、なに言ってやがる」

「ふっ、これが勝ち組ってやつ……な、なんで、有紗は微笑ましげな顔でこっちを見てるのかな?」

「説明しましょうか?」

「……やめてください、お願いします」

 

 悪態をつくリョウさんですが、最近受験勉強に集中している虹夏さんがあまり構ってくれなくて少し寂しそうという印象だったので、なんというか微笑ましさを感じます。

 まぁ、リョウさんにとっては知られたくない様子で、慌てて私を止めに来ていましたが……流石にそれを話したりするつもりはありません。

 とはいえ、虹夏さんはなんとなく気付いているようでニヤニヤと笑みを浮かべていました。あとでリョウさんとふたりになった時に揶揄うつもりなのかもしれません。

 

「あっ、有紗ちゃん、頑張りましょうね! 初めてのライブで不安だとは思いますけど、あっ、有紗ちゃんならきっと大丈夫です」

「ありがとうございます。ひとりさんが一緒なので心強いですね。ライブに関しては私よりずっと先輩ですもんね」

「えへへ、そっ、そんな、たまたま少し回数が多いだけで、うへへ……なっ、なんでも頼ってくださいね!」

 

 実際のところは特に不安に思う部分などはありませんが、ひとりさんがこちらを気遣ってくれるのは嬉しいですし、私の言葉に喜んでいるひとりさんも大変可愛らしいです。

 ただ、実際にひとりさんも以前と比べればライブにも慣れて、ちゃんとお客さんの方を向いて顔を上げて演奏できていますし、相当成長していると思います。

 

「……ねぇ、有紗ちゃん緊張してると思う?」

「いや、まったく。有紗メンタル最強だし、猛将だし」

「というか……クリスマスライブでもうライブ自体はやってるんですよね」

 

 

****

 

 

 そうこうしているうちにライブ開始の時間が近付いて来ました。今回はきくりさんや都さんも観客として見に来てくれているみたいです。

 レーベルの都さんにとっても、来年の結束バンドの行く末を占うライブといっても過言ではないので見に来てくれたのでしょうね。

 ちなみに余談ですが、やみさんは毎回必ず来てくれます。路上ライブの際もほぼ毎回来てくれていたので、ありがたい限りですね。

 

「どうも! 結束バンドです! 今日は年内最後のライブですが……重大発表がふたつあります。ひとつ目は、私たちのライブを普段見に来てくれてる人には周知の存在ですが、有紗ちゃんがキーボードとして正式に加入してくれました!」

 

 喜多さんのMCの紹介に合わせて軽く会釈をすると、どうやら好意的に受け入れてもらえたようで観客からは歓声が上がりました。

 そして喜多さんからパスされる形でMCを引き継いで、観客の皆さんに挨拶をします。

 

「改めまして、今回よりキーボードとして正式に加入させていただくことになりました時花有紗です。急にメンバーが増えて戸惑ったり心配される方もいらっしゃると思いますが……ファンの皆様を納得させられる演奏をしてみせますので、今後ともどうかよろしくお願いします」

「はい。というわけで今後は有紗ちゃんを加えて5人体制でやっていきますので、応援よろしくお願いします! そして、ふたつ目の重大発表はライブ後に行いますので、楽しみにしておいてください。それじゃあ、さっそくいきます!」

 

 喜多さんの合図でライブが始まり、私も演奏を開始します。最初の曲はギターと孤独と蒼い惑星……記念すべき結束バンドの初シングルであり、思い出深い曲です。

 ひとりさんが作詞に苦戦していたり、最初のライブに観客を集めるために路上ライブを行ったりと、いろいろありました。

 観客の前で演奏するのは、ひとりさんときくりさんと3人で行った路上ライブ以来ですが、あの時はピアノの技術で最低限のコード弾きをしただけで、私もキーボードとしてはまだまだ未熟でした。

 

 いまは、キーボードとしての練習も多く積んできたので、あの時よりもっとひとりさんをサポートできる自信があります。

 演奏しながらチラリとこちらを見るひとりさんとアイコンタクトと交わして音を調整して、結束バンドの曲がより綺麗に響くようにと演奏を行っていきます。

 こうして、ひとりさんと一緒にステージに立つのは……思ってた以上にいい気分と言えますね。正直、こんなに楽しいのであればもっと早く正式加入すればよかったとすら思うほどです。

 

 ただ、それでも、やはりあの時が最善のタイミングだったのでしょうね。私にとっても、ひとりさんにとっても……。

 

 思わず口元に笑みが浮かぶのを実感しながら1曲目を終わらせると、会場は非常に盛り上がっておりかなりの熱気を感じました。

 どうやら私の演奏もファンに認めてもらえたようで、いい雰囲気のまま2曲目に入り演奏はどんどんノッていき、結果最高にいい空気ですべての演奏を終えることができました。

 

「さて、それでは最後にふたつめの重大発表です。実は来年デジタルシングルを順次リリースします。いまのところは有紗ちゃんが加わる前の4人で録ったものがメインですが、今後は有紗ちゃんが加わった曲も出てくるかもしれません……まぁ、ぶっちゃけると売上よかったらミニアルバムとかも出るらしいので、絶対買ってくださいね!」

 

 喜多さんの発表を受け、観客からは割れんばかりの歓声が上がりました。かなりウケはいいようで、都さんとやみさんがサムズアップし合っているのも見えました。

 こうして結束バンドの年内最後のライブにして、私が初参加したライブは大成功で幕を閉じました。

 

 

 




時花有紗:例によってメンタル最強の猛将なので、加入後初ライブでもまったく問題は無し。先輩ぶれて嬉しそうなぼっちちゃんを見て、ニコニコしていた。

後藤ひとり:有紗に頼られているというシチュエーションが嬉しく、かなりデレデレな顔をしていた模様。
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