最終話が長めになった場合は、更新に2日ぐらいかかるかも?
年の瀬の鐘が鳴り響く音が聞こえる中、有紗とひとりは木造りのベンチに並んで座り、お汁粉を飲んでいた。
以前に約束した通りふたりで除夜の鐘を聞きに来たのだが、流石に境内などは人が多すぎてひとりが敬遠したため、こちらもある意味では予想通りメインの通りを外れて少し人が少なくなっている場所へ移動した。
もちろん賑わう大晦日であり、メインの通りから離れたとしても人はそれなりに居て、チラホラと出店も見える。おかげで目当てのお汁粉の屋台も見つけることができたのはふたりにとっても幸いだった。
「……はぁ、あっ、温かいですね」
「ですね。気温の低さも相まってより一層美味しく感じますね」
「はい。あっ、すっ、すみません。結局境内には行けなくて……」
「いえ、凄い人でしたしむしろ行かなくて正解だったと思います。アレでは移動にも時間がかかったでしょうからね。それに私としては、賑やかな境内で除夜の鐘を打つより、こうしてひとりさんとのんびりできている方が嬉しいですよ」
「……あっ、わっ、私もこうやってるのが、楽しくて……なっ、なんか幸せです。えへへ」
はにかむ様に笑うひとりに、有紗も笑顔を返す。元々有紗もひとりも絶対に境内に行きたいという思いは無かった。誘った側の有紗にとっても、重要なのは除夜の鐘ではなく年末にひとりと年越しデートをすることだったので、境内であろうが木造りのベンチだろうがひとりと一緒なら何の問題も無い。
「あっ、でも、こうして大晦日になるともう一年経ったのかって驚きます。なんていうか、本当にあっという間って気がします」
「確かに、少し前に夏フェスを目指して皆で頑張っていたと思うと、あっと言う間に冬になった気がしますね。やはり熱中していると、時の流れも早く感じるものですね」
年末の雰囲気がそうさせるのか、お汁粉を食べながら有紗とひとりは思い出話に花を咲かせる。普段は振り返る暇がないほど、真っ直ぐに前を向いて歩いているが、こうして一息ついた際には歩いてきた道を振り返ってみるのもいいものだ。
「みっ、未確認ライオットも、なんだかんだでいろいろ課題もありましたし大変でしたけど、楽しかったですね」
「そうですね。そこまでは漠然とメジャーデビューしたい、ビッグになりたいという曖昧なものだったのが、明確な目標を得たことで指針が固まったというか、結束バンド自体が急成長した感じですね」
「あっ、それ、分かります。去年といまじゃ、全然違う……私も、あの頃よりずっと上手くなれた自信があります」
「演奏技術もそうですが、ひとりさんは精神的にも逞しくなりましたね。以前よりちゃんと自分に自信を持てていて、それがいい精神状態に導いている気がします」
もちろんひとりの演奏技術も伸びているが、それ以上にメンタル面での成長が著しかった。もちろんまだ人見知りだったりコミュ症気味だったりという部分もあるが、こと演奏に関して言えば畏縮せずに確かな自信を持って演奏できるようになったのは、ひとり自身も自覚していた。
「……それは、きっと、有紗ちゃんのおかげです。あっ、有紗ちゃんは私が頑張ったからだって言ってくれるでしょうけど……私自身が、有紗ちゃんのおかげだって思うんです。いっぱい背中を押してもらえて、いっぱい支えてもらえて、すっ、少しではありますけど前向きになれた気がします」
「ひとりさんの力になれたのなら、私としては嬉しいですね。でも、背中を押してもらったのは私も一緒ですよ……ひとりさんがクリスマスの時にああ言ってくれなければ、私はなんだかんだで正式に結束バンドには所属していなかったと思いますからね。年末ライブのあの楽しさを味わえたのは、ひとりさんのおかげです」
「え、えへへ、そう言ってもらえると、嬉しいです。あっ、えっと、前にお姉さんが言ってたんです。貰ってばっかりのつもりでも、ちゃんと返せてて、相手も同じ風に思ってくれてるものだって……わっ、私も有紗ちゃんの力になれてますかね?」
「はい。それはもうたくさん」
有紗との関係は、ひとりにとって「支え合う」という言葉がしっくりくるものだった。もちろんスペックで言えば有紗が圧倒的に上ではあるが、有紗とて何もかも完璧なわけではない。暴走したり呆れるような行動をとることもあるし、失敗することだってあるし、悩むこともある。
だからこそ、だろうか? 一緒に成長出来ているということが実感できていた。そしてきっとこれからもこんな関係が続いていくのだと……続いて行ってほしいと、そう感じていた。
「……あっ、有紗ちゃん。また来年も、こうして一緒に来ましょうね」
「はい。そうですね。来年もその次も、ずっとずっと先も、こうして一緒に笑い合いたいですね」
「はい……さっ、先のことは分からないですけど、なんとなく、有紗ちゃんとはずっとこうして一緒に笑い合える気がします……そっ、その……大好きです」
「私も同じ気持ちです。ふふ、先に言われてしまいましたが、大好きですよ、ひとりさん」
「えへへ」
幸せそうに笑い合って肩を寄せ合うふたり……その未来を祝福するかのように、ひと際大きく鐘の音が鳴り響いた気がした。
****
――5年後。
後藤家のリビングでは、やや苛立った様子のふたりが台所にいる直樹と美智代に呼びかけていた。
「お父さん、お母さん、ほら、早くしないと始まっちゃうよ!」
「おっと、しまった。もうそんな時間か……せっかくのひとりの晴れ舞台なんだしちゃんと録画しないとな」
「ふふ、楽しみねぇ」
ふたりの声を聞き、食器を洗い終えた直樹と美智代が少し慌て気味に来たのと同時に、リビングにあるテレビに彼女たちがよく知る人物たちが映る。
現在リビングに映し出されているのは、メジャーデビューし今年の上半期の楽曲DL数で1位を獲得し、名実ともに人気バンドとなった結束バンドの面々が、昼の生放送番組に出演している様子だった。
最初にあいさつ代わりに一曲披露したあとは、席に座って司会者と雑談形式で進行していくことになる。
「うぅ、ひとりがお昼の生放送に……感激だなぁ」
テレビに映るひとりの姿に直樹が感動したように呟くと、丁度そのタイミングで司会者がひとりに話を振った。
『そういえば、ギターのBocchiさんは、よくピンク色の入った服を着てますよね? やっぱりトレードマークだったりするんですか?』
『そうですね。高校時代はいつもピンク色のジャージを着ていたので、服にピンク色が入ってた方が自分でもしっくりくるってのはありますね。まぁ、いまでも家ではピンクのジャージを愛用してるんですけどね』
『へ~そうなんですね。Bocchiさんというと、最近ではファッション誌の表紙を飾ったりとお洒落なイメージがありますが、家ではラフな格好もしたりするんですね』
『そっ、そうですね。あっ、あはは……』
司会の言葉に画面に映るひとりは、若干気まずそうな表情で苦笑し、それを見ていたふたりもテレビの前で苦笑する。
「お姉ちゃんの服は、有紗お姉ちゃんがコーディネートしてるんだよ」
「ああ、通りで毎回テレビに出る時はバッチリ決まってるなぁって思ってたよ」
かつてはどこに行くにもジャージ姿だったひとりだったが、メジャーデビューしてテレビ出演などをするようになってからは、服装も改めてロックバンドらしくカジュアルでカッコいい服を着ることが多くなっていた。
そして元々整っていた容姿も相まって、最近ではファッション誌などにも出ることがあるなどお洒落なイメージが定着してきているが……実際は同棲している有紗が選んでくれた服を着ているだけで、ひとり自身にファッションセンスはあまりない。
本人もそれを自覚しているからか、なんとも言えない表情で苦笑していた。
「それにしても、ひとりも生放送でも物怖じせずに堂々と話せてるし、本当に成長したなぁ……」
「ホントね。もうすっかり人見知りは直ったのかもね」
「……う~ん。いや、片手が服の後ろ……う~ん。たぶんこれ有紗お姉ちゃんに手を繋いでもらって、必死に頑張ってるだけで、緊張しまくってると思うなぁ……」
なんとも言えない表情でふたりが呟く先で、テレビの生放送ではひとりを始めとした結束バンドの面々が近々始まる全国ツアーに関しての告知を行っていた。
そんな光景を見つつ、後藤家のリビングは賑やかに盛り上がりつつ、テレビに映るひとりを応援していた。
時花有紗:ぼっちちゃんと年越し、5年後はどうやら同棲をしている模様。
後藤ひとり:5年後には流暢に生放送で受け答えをしており、無事に陰キャもコミュ症も脱却……本当に? それは、次回に分かります。有紗ちゃんとは5年後も仲睦まじく、同棲している模様。