ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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半年以上の長らくのお付き合いありがとうございました。これにて完結です。


最終手『必殺のプロポーズ』

 

 

 明後日から行われる全国ツアーに向けて宣伝を兼ねた生放送への出演を終え、控室でメンバーの皆さんと一緒にホッと一息つきます。

 

「いや~やっぱり、生放送は独特の緊張感があるよね」

「分かります。普段の収録とはちょっと違う感じですよね! でも、それが楽しいんですけど!」

 

 虹夏さんが体を伸ばしながら告げ、喜多さんが明るい声で同意します。そのあとで虹夏さんはキョロキョロと視線を動かしながら呟くように口を開きます。

 

「……んで、ぼっちちゃんは?」

「アリサニウムの補充中」

「ええ、私の後ろに居ますね」

 

 リョウさんが返答した通り、現在ひとりさんは私の背中に張り付くようにしがみついており、これまでの経験からあと10分前後はこの状態だと思います。

 生放送の緊張感はひとりさんにはなかなかきつかったようで、いまは疲弊したメンタルを回復している最中といった感じです。

 

「なんていうか、ぼっちちゃんは変わんないよねぇ。なんか安心するな~。いや、それでもだいぶ喋れるようになってるけどね」

「あっ、しゅっ、収録は大丈夫なんです。でっ、でも、まだ生放送はハードルが高いというか、あの空気にいつまでも慣れないといいますか……」

 

 ひとりさんは人見知りもかなり克服……とりあえず、人前では猫を被るといいますか、余所行きのキャラで対応ができるようにはなりました。

 実際生放送での受け答えもスムーズでしたし、間違いなく成長しています……ただ、本質的な部分はやはり大きくは変わっていないので、生放送などではかなりビクビクしていたりします。

 

「あとは、写真撮影なども苦手ですよね?」

「あっ、有紗ちゃんのメンタルが強すぎるんですよ。あのこっちに注目が集まりまくってる状態は、陰キャにはハードルが……」

 

 ひとりさんはその容姿もあって雑誌のモデルなどといった仕事が来ることも多いのですが、基本的に私と一緒でなければNGだそうです。最悪、私が写真に写らなくても現場に見に行ける状態であればOKですが、ひとりで撮影現場に行くのは断固拒否している感じですね。

 まぁ、私としては頼られて嬉しいですし、仕事中もひとりさんと一緒で幸せなので問題はありませんけどね。

 

「でも、ひとりちゃん今日は司会の人の質問にもスラスラ答えてて、全然大丈夫そうだったじゃない」

「……ああ、なんか有紗ちゃんが解答例を前日に作ってくれてるらしいよ」

「え? そうなんですか?」

「あっ、いっ、陰キャに突発的なアドリブとか無理です……」

 

 別に完全にすべてが分かるというわけではありませんが、番組の趣向などを考えればある程度の質問のパターンは予想できるので、生放送などの前日にはひとりさんと練習をしています。

 収録などでは撮り直しもできますが、生放送は一発勝負なので事前に出来るだけの質疑応答を練習するようにしています。ひとりさんが恥をかいてはいけませんしね。

 

「ところで皆さん、そろそろ出ましょうか」

「あ、そうだね。じゃあ、話の続きはいつもの場所で……ついでに、明後日からのツアーの打ち合わせもしようよ。皆は今日は仕事は大丈夫?」

 

 いつまでも控室に居るわけにもいかないので、そろそろ出ようと提案すると虹夏さんが頷きながら全員の予定を聞いてきました。

 最近は人気も出てきて個別で活動する機会も増えたので、予定の確認は大事です。まぁ、明後日からツアーなので今日明日は皆さんも仕事は入れてないと思いますが……。

 

「私とひとりさんは、もう今日明日はなにも無いですね」

「同じく」

「私はイソスタライブはやる予定ですけど、それは家に帰ってから個人でやるので、それ以外はなにも無いです」

 

 やはり特に仕事は入ってないようなので、明後日からのツアーの打ち合わせ……という名目の雑談を行うために全員揃って移動することとなりました。

 

 

****

 

 

 テレビ局から移動してSTARRYにやってきて、机と椅子を借りて打ち合わせを始めると、カウンターでノートパソコンを操作していた星歌さんが呆れたような表情で口を開きます。

 

「お前らなぁ、うちを喫茶店かなにかと勘違いしてないか? 当たり前のように開店前に来て打ち合わせ始めやがって……」

「いいじゃん。STARRYも私たちのおかげで繁盛してるでしょ! それに今だって年何回かはライブしてるんだし、立派なホームだよ!」

「……まぁ、確かにお前らが人気バンドになってあちこちで宣伝してくれるおかげで、改築して広くするかって案が出るぐらいには客は増えたけどな」

「でしょ? ふふん……サインしてあげよっか?」

「もうあるだろうが……」

 

 胸を張って誇らしげに語る虹夏さんの言葉に、星歌さんは呆れたようにため息を吐きつつも苦笑します。その苦笑はなんというかとても優しく、虹夏さんの成長を喜んでいるように感じられました。

 するとそのタイミングでリョウさんが軽く手を上げ、星歌さんに向けて口を開きます。

 

「あ、じゃあ売り上げに貢献しているということで、ドリンク一杯タダで……」

「なんでお前は、印税とかでバンド内でも他に比べて収入が多いくせに未だに金欠なんだよ」

「……虹夏がお小遣いあげてくれなくて……」

「いや、私が管理してるのは半分だけでしょ? 残り半分は自由に使わせてるじゃん……お金ないのは、リョウがお金が入ったら入っただけすぐに使っちゃうからでしょ!」

「それを言われると、返す言葉も無い」

「自覚あるなら直せよ!?」

 

 リョウさんは結束バンドの殆どの曲の作曲を担当しているので、印税などで収入は大きいですが、その分消費も非常に大きいというか、虹夏さんの言う通りあればあるだけ使ってしまう性格で、いまもよくお金が無いと口にしています。

 最近では見かねた虹夏さんがリョウさんの収入を管理しているとのことです。

 

「あっ、そういえば、喜多ちゃん。佐々木さんは今度のツアーライブ来るんですか?」

「最終日の東京は見に行くからS席よこせとか言ってきたわね。他は仕事もあるし来れないんじゃないかしら……」

「最近大きな企画も任されて順調らしいですね」

「いやはや、あのさっつーがバリキャリみたいな感じになるとは……いや、でも、元々リーダーシップみたいなのはあったし、意外と向いてるのかしら? そのうちCM依頼するから安く受けろとか言っちゃってさ~」

 

 次子さんは短大を出たあとで音楽関連の会社に入社し、現在は精力的に仕事をしているようです。元々要領がよくリーダーシップもあったので、順調にステップアップしているみたいです。

 喜多さんとの関係も良好そのもので、現在も互いの休日にはよく会って遊んでいるとか……。

 

「……ところでさ、お姉ちゃん」

「なんだ?」

「……なんで、PAさんはあんな世界の全てに絶望したような顔して座ってるの?」

「あ~ほら、少し前に誕生日だったから……アイツもな、到達してしまったんだよ」

「到達?」

「新しいステージってやつに……な」

 

 どこか哀愁漂う様子で告げる星歌さんの視線の先で、PAさんは虹夏さんの言う通り絶望したような表情で小さく「三十路……ああ、ついに……」と、そんな台詞を呟いていました。

 その様子に私たちは思わず顔を見合わせて苦笑してしまいました。なんというか、何年たってもSTARRYの空気は変わらないままで、心から落ち着くホームだと……そんな風に感じました。

 

 

****

 

 

 STARRYでの打ち合わせを終えてひとりさんと一緒に手を繋いで道を歩きます。今日は特に予定もありませんし、明日もオフなのでこのまま夕食の買い物でもというところではありますが……。

 

「ひとりさん、この後なのですが……」

「あっ、買い物とかして帰ります?」

「ああいえ、その前に行きたい場所があるのですが、一緒に行ってもらって大丈夫ですか?」

「行きたい場所? あっ、はい。大丈夫ですよ」

 

 ひとりさんに了承を取って移動をします。とはいってもここからそれほど遠い場所ではありません。

 

 不思議そうにするひとりさんを連れて移動したのは、ある通りでした。特に何の変哲もない普通の道で、目立つ店があったりするわけでもありません。

 ひとりさんはなぜここに来たか分からないようで、不思議そうに首を傾げます。

 

「あっ、えっと、有紗ちゃん? どこに行くんですか?」

「目的地はここですよ」

「え? でっ、でもここ、普通の道では?」

「ええ、普通の道です。ですが、私にとっては重要な場所でもあります。6年ほどの間に景色もそれなりに変わりましたが……」

「6年って……あっ、そっか、ここは……」

 

 私の言葉を聞いて、ひとりさんもここが何処か思い出したようです。そう、ここは私とひとりさんが初めて会った場所であり、私がひとりさんに初対面でプロポーズをした場所でもあります。

 

「もう、6年以上も経つんですね」

「あっ、そうですね。本当にあっという間でした……あっ、あの時は、ビックリしました」

 

 この道でひとりさんを初めて見て、私は恋に落ち……そして未来を夢に見ました。言ってみればここは、私にとって大きな転換となった場所でもあります。

 

「……ところでひとりさん、ご存知とは思いますが私も完璧ではありません。失敗することも間違うこともあります。ただ、私は同じ失敗は繰り返さないつもりです。失敗から学び次の機会にそれを活かす」

「うっ、うん? そうですね。有紗ちゃんはそういう人ですね……でも、なんで今それを?」

「これもまた、失敗から学んだ結果なので……今回はちゃんと準備してきました」

「準備?」

 

 首を傾げるひとりさんに対し、私は正面に向かい合うように立って鞄から手のひらサイズの箱を取り出します。

 

「え? あっ、それって……」

「ひとりさん、私はこの場所で貴女に一目惚れをして、夢というものを知りました。そして、貴女が同じ夢を追いかけて欲しいと言ってくれたから、夢を追うことの楽しさを知ることができました。最初に会った時以上に、もっとずっと貴女を好きになりました。あの時クリスマスイブにひとりさんが語った夢は、もうすぐ叶うでしょう。ですが、私はその先もずっと貴女と一緒に歩いていきたい。夢が叶ったその先で、貴女が新しく見つける夢も、一緒に現実に変えていきたいと、そう思うんです」

「……有紗ちゃん」

 

 願った夢を叶えればそれは現実へと変わっていく。私はこれから先も、ずっとずっと一緒に歩いていきたい。

 だからこそ、今日は最初にひとりさんと会った時と同じこの場所に、あの時は用意していなかった指輪を持ってやってきました。ひとりさんとの関係をもう一つ進めるために……。

 

「ひとりさん……私と、結婚してください」

「ッ!?」

 

 最初にあった時と同じ余計な飾りを省いたストレートな求婚の言葉。あの時は戸惑いつつも拒否されてしまった言葉でした。

 ひとりさんは私の言葉を聞いて驚いたような表情を浮かべたあと、目に涙を浮かべて苦笑しました。

 

「……失敗から学ぶって、そういう……ふふ、有紗ちゃんらしいです」

 

 そう呟いたあとで、ひとりさんは私が差し出した指輪を受け取って微笑みを浮かべました。

 

「……はい。私も、これからもずっと夢を叶えたその先も、有紗ちゃんと一緒に並んで歩いていきたいです。なっ、なので……えっと……うん。結婚しよう……有紗ちゃん……大好きだよ」

「ひとりさん!」

「わっ、とと……もう、こんな道端で……恥ずかしいけど、うん。それ以上に嬉しい。えっと、これからもよろしく、有紗ちゃん」

「はい。こちらこそ……ひとりさん、愛してます」

「……うん。私も、愛してる」

 

 ひとりさんは私のプロポーズを受け、同時に意識して私への敬語を止めました。ひとりさんは以前から、家族に対してだけは敬語ではなく素の口調で話していました。

 これはひとりさんにとってひとつの区切りという意思表示なのでしょう。これからは、私のことを家族として扱ってくれるという。

 それが理解できたからこそ、嬉しくてひとりさんの体を思いっきり抱きしめました。ひとりさんは少し驚いたような表情を浮かべたあと、私の背中に手を回してギュッと抱きしめ返してくれました。

 

 夕日に照らされる道で……私とひとりさんの歩いてきた道は、ひとつに重なりました。

 

 ですがもちろんこれで終わりではありません。これから先もまだまだずっと、ひとりさんとの日々は続いていきます。

 

 夢を叶えたその先まで――きっと、ずっと――いつまでも。

 

 

 





~5年後の面々~

時花有紗:ぼっちちゃんと同棲しており、いまも継続してラブラブな有紗ちゃん。ぼっちちゃんとの関係は日頃から公言しているので、周知の事実であり、実際ぼっちちゃんとふたりでの仕事が非常に多い。投資家としても継続して活躍中で結束バンド内では例によって最も金持ち。

後藤ひとり:余所行きの猫かぶりができるようになって、テレビなどではある程度流暢な受け答えもできるようになっているが、根っこの部分は相変わらずであり精神的に疲労するとアリサニウムを補充するのも変わらず。有紗とは同棲して仲良くしており、今回有紗のプロポーズを受け入れて結婚。有紗への敬語を止めた。

喜多郁代:5年後もキターンとしており、イソスタなどでもかなりのフォロワーを誇る有名人。さっつーとの関係も継続しており、休日はよく遊んでいるとか、そこそこ恋愛対象として意識しているとか……。

伊地知虹夏:5年後も元気な結束バンドのリーダー。リョウの財布の紐を握っていたりと、実質夫婦みたいな関係ではある。結束バンドも人気になりSTARRYも大繁盛なので、かなり誇らしげにしている。リョウに対して恋愛感情もあり、リョウが意識を向けてきているのも知っているので、告白を待っているが……いつも直前でヘタれるリョウを見て、もういっそ自分から行こうかと考えている。

山田リョウ:5年後も相変わらずなYAMADA。自分で持ってるとあるだけ使ってしまう浪費癖持ちなので、自分から虹夏に収入の半分を管理してくれるように頼んだ。虹夏との関係は良好で、恋愛感情も自覚しているが……肝心なところでヘタれるため、なかなか告白できていない。
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