ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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十二手絢爛の花火大会~sideA~

 

 

 夏休みというのは学生にとって大きなイベントと言えます。一ヶ月を越える長期休み、部活動などに勤しむ方も居れば、友達と遊んで過ごす方も居て、家族と海外などに旅行に行く方もいるなど楽しみ方は様々です。

 そして夏は恋においても重要な季節。海、山、お祭りなどとレジャーにイベントと多くの選択肢があり、それを有効に利用することは恋愛においても極めて重要ではないかと考えます。

 

 もちろん私も恋する者として、この夏休みというイベントに意中の方との仲をより深めたいという思いがあります。とはいえ愛するひとりさんの都合を無視してしまうのはあり得ぬ愚行。なので、8月中旬のライブまでは、レジャーやイベントに誘ったりすることは控えていました。

 しかし、先日無事にライブも終わりひとりさんに確認したところ、現時点でアルバイト以外はこれといった予定は入っていないということでした。

 

 今後結束バンドの皆さんとの予定が入る可能性もあるので、ひとりさんとふたりきりで仲を深めるためには迅速な行動が必要ですが、それに関しては自信があるので大丈夫だと思います。

 ですが、問題がないわけでもありません。それは、ひとりさんを誘うのであれば配慮が必要な部分も多いという点です。

 

 まず人が多すぎる場所はNG。ある程度なら大丈夫な様子ですが、お祭りなどのように人で溢れかえるような場に行くのは難しいでしょう。あとは、青春コンプレックスを刺激するような場所は慎重に選ぶ必要があることですね。

 この青春コンプレックスにも度合いがあり、ものによってひとりさんが受けるショックのレベルが違います。これまでの私の経験上……たぶん海は迂闊に連れて行くと、一発気絶です。あと一年くらいたって、もう少し青春コンプレックスが解消されて来れば話は別でしょうが、海は候補から外します。

 

 私個人の希望としてはひとりさんと一緒にお祭りや花火を楽しみたいところですが、流石に人が多すぎて難し……ふむ。要は、他に人が居なくて祭り気分と共に花火が楽しめればいいわけです。

 それならば……手はありますね。いくつか根回しは必要な部分がありますが、この方法なら……。

 

 

****

 

 

 いつも通りひとりさんの家に遊びに来た私は、ひとりさんが演奏するギターを聞きながらタイミングを計っていました。ひとりさんが明日の予定も空いていて、今日はある程度遅くなったとしても問題ないことは確認済みなので、後は切り出すだけ……演奏が一区切りしたタイミングで……よしっ、いまです。

 

「ひとりさん」

「あっ、はい?」

「私と一緒に、花火大会を見に行きませんか? ちょっと距離はありますが、ちょうど今日やっている花火大会があるんですよ」

「……はっ、花火大会? むっ、むむ、無理です絶対! だっ、だって、花火大会とか人が多すぎて、私には……い、いや、行きたくないわけでは無いですが……あんな人の多い場所に行くのは無理です!?」

 

 ひとりさんの反応は予想通りです。ひとりさんも別に花火が嫌いだとかそういうわけではありません。ネックなのは人の多さ、逆に言えばそこさえ解消できるなら問題ないというわけです。

 私は口元に小さく笑みを浮かべつつ、慌てるひとりさんに声を掛けます。

 

「大丈夫です、ひとりさん。その辺りも、しっかりと考えてあります」

「……へ?」

「しっかりと下調べをして来まして、綺麗に花火が見えて、なおかつ他に人が居ない場所を確保することにも成功しています。なので、私の提案としては花火大会の中心部から離れた、人が比較的少ない出店などで食べ物などを買って移動し、その場所で買った食べ物を楽しみつつ花火を見るという案です」

「……あっ、ほ、他に人が居ない? 穴場スポットみたいな感じですかね……そ、それなら、確かに私でも……」

「どうでしょう? もちろん無理にとは言いませんが……」

「あっ、えっと……いっ、行きます」

 

 ひとりさんの言葉に体の奥から喜びが湧き上がってくるのを感じます。無事了承してもらえてよかったです。

 

「ありがとうございます。それでは、夕方近くになったら出発しましょう」

「あっ、はい」

 

 ひとりさんと一緒に花火を見られると思うだけで、自然と笑顔になってしまいます。あぁ、夕方になるのが待ち遠しいです。

 

 

****

 

 

 夕方が近づき、そろそろというタイミングでひとりさんと一緒に出掛ける準備をします。といっても、別に浴衣などを着るわけでは無く互いに私服とジャージですが……。

 

「あっ、有紗ちゃん。電車で行くんですか?」

「いえ、電車は混みますし、花火大会の会場が目的地ではなく少し外れた場所に行くので車を手配しています」

「あっ、なるほど……手配? まっ、まま、まさか、リ、リムジンとか?」

「いえ、2人なので普通の送迎用車ですが……リムジンの方がよかったですか?」

「いっ、いえ、むしろ、安心しました」

 

 ひとりさんがホッと胸を撫で下ろしたタイミングで、私のスマホに迎えが到着したとの知らせが届き、ひとりさんと共に家の外に出ます。

 すると手配していた車を見たひとりさんが、唖然とした表情を浮かべました。

 

「……あっ、有紗ちゃん? ふ、普通の車って……」

「はい。普通のロールスロイスです」

「……普通じゃない……絶対普通じゃない」

「うん? とりあえず、乗りましょう」

 

 運転手がドアを開いてくれたので、混乱している様子のひとりさんの手を引いて車内に入り席に座ります。目的地は事前に伝えてあるので、後はなにも言わなくても目的地まで送り届けてくれます。

 

「……ひっ、ひひ、広っ!?」

「なにか飲みますか? いちおう、冷蔵庫にいくつか入ってますが……」

「あっ、そ、そこ、冷蔵庫なんですね。す、凄い……あっ、有紗ちゃんは、いつもこの車に乗ってるんですか?」

「基本的にこの車が多いですね。私はそこまで拘りはありませんので……私のお父様は車が好きなので、毎回違う車に乗っていますね」

 

 冷蔵庫からグラスとミネラルウォーターを取り出しながら、ひとりさんの質問に答えます。お父様はかなり車好きで、巨大なガレージにたくさんの高級車を所持していますが、私はいまいち車の良さは分からないので、乗り心地がよければなんでもいいといった感じです。

 

「ひとりさん、楽にしてください。目的地までは1時間ほどですから……水をどうぞ」

「あっ、ありがとうございます。こ、これが、ハイソサエティの生活……あっ、そ、そういえば、穴場スポットってどんなところなんですか?」

「ああ、それは……」

 

 質問に答えようとしてふとせっかくなので驚かせたいという気持ちが湧き上がってきました。もったいぶる気も無いのですが、我ながら花火を見る場所としては最高の場所が用意できたと思っているので、少しもったいぶりたいという欲求が……。

 

「……う~ん。せっかくなので、着いてからのお楽しみということにさせてください」

「あっ、はい。わかりました」

「そういえば、ひとりさん。結束バンドは来月もライブを行う予定なんですか?」

「どっ、どうなんでしょう? 虹夏ちゃんはそのつもりみたいですけど、上手く枠が空いていれば……ですかね?」

「なるほど、新曲も考えているんですか?」

「あっ、はい。来月ってわけじゃないですけど、秋頃にもう一曲ぐらい作って、冬にミニアルバムとか作れたらいいなぁって話はあります」

 

 目的地までの時間はひとりさんとの雑談を楽しむことにして、主に結束バンドの話題で盛り上がりました。新曲も楽しみですね。私もサポートとして出来ることは協力したいものです。

 

 

****

 

 

 事前に伝えておいた目的地に到着して車から降ります。運転手にお礼を言って車を見送ったあとで、すぐ近くの巨大な建物を見上げているひとりさんの方を向くと、ひとりさんもこちらに視線を向けて口を開きます。

 

「あっ、えっと、有紗ちゃん。ここから、出店のある場所まではどれぐらいなんですか?」

「徒歩で5分から10分程度でポツポツと出店が見えると思います」

「なっ、なるほどだからこの場所に降りたんですね」

 

 いま私たちが居るのは大きなホテルのすぐ前であり、ひとりさんはなぜこの場所に降りたのかという疑問を抱いていたようでしたが、ここから花火大会の会場付近の出店まで歩くためにここに降りたと納得した様子です。

 しかし、ここに降りたのはなにも出店が比較的近い場所だからというだけの理由ではなく、このホテル自体が目的地のひとつでもあるからです。

 

「う~ん。もうここまで来てはもったいぶる必要もありませんね。ひとりさん、花火を見る場所に関してなんですが……」

「あっ、はい」

「実は、このホテルの最上階のスイートルームを押さえています」

「ッ!?!?」

 

 ふふふ、ひとりさんも驚いているようです。サプライズは成功でしょうか……いや、それにしても本当に運が良かったです。場合によってはジュニアスイートやエグゼクティブでもいいと思って探していたのですが、丁度キャンセルが出ていたみたいでスイートを押さえることができました。

 

「だっ、だだ、駄目です! 有紗ちゃんのことは好きですが、あくまで友達としてであってこういうのはまだ――」

「まぁ、花火を見る場所として確保しただけなので宿泊したりするわけではないのですが――」

「「――え?」」

 

 ほぼ同時にひとりさんと私が喋り、互いに互いの言葉に硬直するという事態になりました。こ、これは、よくない流れです。

 ひとりさんは誤解をしていた様子でしたが、私の発言でその誤解に気付きました。そうなると次にひとりさんに襲い掛かってくるのは言いようのない羞恥。

 

「~~~!?!?!?」

 

 みるみる顔を真っ赤にさせていくひとりさんを見て、私は己の失態を悟りました。いま、私は即座にフォローの言葉を発する必要がありました。しかし、私の方も予想外の言葉に硬直してしまって完全に初動が遅れてしまいました。

 もう、いまから慌ててフォローしても逆効果、ですがこのままでは……くっ、間に合ってください!

 

 混乱する思考を振り切って必死に伸ばした私の手は、走って逃げだそうとしていたひとりさんの手をギリギリ掴むことに成功し、なんとかひとりさんをその場に留めることができました。

 

「待ってください、ひとりさん! お互いに土地勘のない場所です。ここで逸れては、合流が難しくなります」

「……あひ、あはは、ひひ……」

 

 とりあえずここで逸れるわけにはいかないので、強くひとりさんの手を握ると、ひとりさんは真っ赤な顔で涙目になりながら視線を左右に忙しく動かしつつ自嘲するような笑みを浮かべました。

 

「こっ、ここ、殺してください……ここ、こんな自意識過剰のイキり陰キャは、殺して……はは、花火と一緒に打ち上げて、そそ、空の藻屑に変えてください……」

「いや、空に藻は――じゃなくて! 申し訳ありません! いまのは完全に私の落ち度です! ひとりさんが誤解してしまうのも当然のことです」

 

 とりあえずここでひとりさんが恥ずかしさのあまり逃げ出してしまい、捜索しようにも土地勘のない場所かつ花火大会の日で合流出来ないという最悪の事態は免れました。

 あとは、しっかりフォローを入れなくては……サプライズのつもりが完全に裏目に出てしまいました。いえ、普段の私の言動を考えると、ひとりさんの誤解も当然ではあるのですが……。

 

「本当に申し訳ありません。驚かせようと思って隠していたのが失敗でした。最初にちゃんと説明するべきでしたね」

「……あっ、い、いえ、へへ、変な誤解をしたのは私の方なので……」

「いえ、それも普段の私の言動のせいですし……とりあえず、改めて説明してもいいでしょうか?」

「あっ、はい」

 

 どうやらひとりさんもある程度落ち着いてくれたみたいで、改めて今回の件について説明します。

 

「今回花火を見る場所は、このホテルのスイートルームです。そこはパノラマビューになっている部屋があって、窓の方向も花火が打ち上がる方向にピッタリ合ってるので、綺麗に見えるんですよ。宿泊は目的ではないですし、むしろ予め迎えの車には花火が終わった後で来てもらうように伝えてあります」

「なっ、なるほど……」

「この方法なら、他の人が居ることは無くひとりさんも気兼ねなく花火を楽しめるかと思いまして……誤解させてしまって申し訳ないです」

「あっ、い、いえ、むしろ、私こそごめんなさい。そっ、その、有紗ちゃんが私のためにいろいろ考えてくれて、嬉しいですし……えと、ありがとうございます」

 

 無事に誤解も解け、ひとりさんも小さく笑みを浮かべてくれました。その様子を見て私もホッと胸を撫で下ろしつつ、ひとりさんに声を掛けます。

 

「……では、出店で食べ物などを買いに行きましょう」

「あっ、はい……え、えっと……あの……その……」

「どうしました?」

「いっ、いや、その……手を……」

 

 言い難そうに告げるひとりさんの言葉を聞き、ずっとひとりさんの手を握ったままだったことに気が付きました。

 現在は私が右手でひとりさんの左手を握っている状況……咄嗟のことではありましたが、う、う~ん……出来れば、このまま手を繋いで行きたいという気持ちもあります。

 いちおう、提案するだけしてみましょうか? ひとりさんが嫌がるようならすぐに離して……。

 

「……えっと、はぐれてもいけませんし、このまま手を繋いでいきませんか?」

「え? あっ……はい。分かりました」

 

 少しでもひとりさんが嫌がったり、勢いで押し切られてしまうような感じであれば訂正しようと思っていましたが……ひとりさんは意外とあっさり私の提案に頷いてくれました。

 私が変に意識し過ぎていただけで、手を繋ぐなどそれほど大したことでもないということでしょうか? 分かりませんが……とりあえず、私は幸せなのでよしです。

 自然と口元に笑みが浮かぶのを実感しつつ、右手に感じる心地よい温もりと共に歩き出しました。

 

 

 




時花有紗:ぼっちちゃんとふたりで花火を見たいがためにいろいろ準備をした。相変わらず思いついてから行動までが凄まじく早い。ただあくまでぼっちちゃん最優先なので、いろいろな面で配慮もしている感じである。

後藤ひとり:特大の羞恥プレイを味わった。ぼっちちゃんの照れ顔は万病に効く。有紗が思っている以上に有紗への好感度は高く、手を繋いだまま行くことに関しても「有紗ちゃんが言うなら」という感じであっさり受け入れた。ところどころに、結構意識している感じが出てきている気がする。というか原作と違って、普通に充実した夏休みを送っている。

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