ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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十三手可憐の個人撮影~sideA~

 

 

 8月下旬のよく晴れた日に、私は昼過ぎからSTARRYに足を運んでいました。結束バンドの皆さんや星歌さんやPAさんとも、以前の打ち上げなどを通じて交流が深まり、営業時間外でも好きに足を運んでいいと許可もいただいています。

 ドアを開けて店内に入ると、カウンターに星歌さんとPAさんの姿が見えました。

 

「こんにちは、星歌さん、PAさん」

「ああ、有紗ちゃんか、いらっしゃい……って、ずいぶん大荷物だな」

「こんにちは、お洒落な袋がいっぱいですね」

 

 星歌さんとPAさんに軽く挨拶をすると、おふたりは私が手に持っている袋について尋ねてきました。おふたりの言う通り現在の私の両手には複数の袋があります。流石に人数が人数なのである程度多くなってしまうのは仕方ないところはありますが……。

 

「これはお土産です」

「お土産?」

「ええ、先日友人に会いにフランスに行ってきましたので、STARRYの皆様にもお土産をと思いまして……少し迷ったのですが、消費できるものがいいかと思って無難にお菓子を買ってきました」

 

 首を傾げる星歌さんに説明しつつ、カウンターの上に複数の袋を置いて行きます。

 

「たぶん、スタッフさんの数は合っていると思うのですが、足りなければ連絡をください」

「え? ぜ、全員分買ってきてくれたのか?」

「はい。日頃お世話になっていますので……こちらは、星歌さんとPAさんの分です」

「あらら、私にまで、ありがとうございます」

 

 STARRYのスタッフさんの分をカウンターに置き、星歌さんとPAさんの分を手渡し、私の手元に残るのは虹夏さん、リョウさん、喜多さんの分のお土産です。

 ひとりさんに関しては、先日帰国してすぐに家にお土産を持っていったので、すでに渡しています。

 

「わざわざありがとうな、有紗ちゃん」

「いえいえ」

「フランスに行かれてたんですか?」

「ええ、パリでピアニストをしている友人が居まして、会いに行ってきました」

 

 今年は音楽の日には予定が空かずに行けなかったので、代わりに今回友人のコンサートの日程に合わせて訪問してきました。以前ひとりさんときくりさんと行った即興ライブの話を聞いて、羨ましがっていましたね。おかげで、来年の音楽の日には一緒に演奏する約束をすることになりましたが……。

 

 そのまま軽く星歌さんとPAさんと雑談をしたあとで、結束バンドの皆さんがいる練習スタジオの方に移動します。

 練習スタジオに入ると、丁度演奏中だった様子みたいなので邪魔はせずに部屋の隅の椅子に座って演奏を聴きます。

 一通り演奏が終わると、虹夏さんが明るい笑顔を浮かべて軽く手を振ってくださいました。

 

「有紗ちゃん、いらっしゃい」

「こんにちは、皆さん。お邪魔します」

 

 軽く挨拶をしたあと、虹夏さんたちにもフランスのお土産を手渡していきました。すると、リョウさんがなにやら感動した様子で、目を潤ませていました。

 

「……ありがとう、有紗。これで、久しぶりに草以外を食べられる」

「……草?」

「あ~気にしなくていいよ。いつものことだから」

 

 気になる発言をしていたリョウさんですが、虹夏さんがどこか呆れた様子でいつものことだと口にしていました。ひとりさんや喜多さんも気にしていないようなので、本当によくあることなのでしょう。

 

「すっごくお洒落な箱……時花さん! これって、有名なお店のお菓子とかなの?」

「いちおう王室御用達と言われていますパティスリーの名店で買ってきましたが?」

「王室御用達! 素敵! さっそくイソスタに……」

 

 喜多さんはキラキラと目を輝かせた後で、箱と袋を並べてスマートフォンで何枚も写真を撮ってイソスタに掲載する写真を吟味し始めました。凄い熱意ですが、喜んでいただけたようなのでよかったです。

 

「ひとりさん、お疲れ様です」

「あっ、はい。有紗ちゃんも……外、暑くなかったですか?」

「かなり気温は高かったですね。とはいえ、途中まで車だったので……」

 

 お土産を渡し終えたあとは、ひとりさんと軽く雑談を交わします。練習を終えたばかりのひとりさんは少し汗をかいていて、タオルで顔を拭っており、あまり見る機会のないその仕草は可愛らしくもカッコいいとそう感じました。

 

「……さて、有紗ちゃんも来たし、練習は一旦止めて、ロインで話していた写真撮影しよっか」

「たしか、個人写真を撮影するんでしたっけ?」

「そうそう、物販用だね。ブロマイドとか缶バッチとか使い道は多いしね」

「元手も安いから利益率もいい。1枚500円、メンバー4人セットで1800円ぐらいで売ろう。サイン入りは価格を上げて……」

「リョウ先輩のブロマイド、私も買いたいです!」

 

 今回は事前に結束バンドメンバー個人の写真撮影を行うと虹夏さんから話が来ていました。まぁ、物販のラインナップが増えるということはバンドの利益に直結しますから、力を入れるのも必然ですね。

 

「あっ、あの、今回もどこかに出て撮影するんですか?」

「う~ん。それもいいんだけど、ブロマイドだとやっぱり楽器も一緒に写った方が見栄えがいいし、STARRYでいいんじゃないかな?」

「缶バッチにすることを考えると、楽器ありとなしで両方撮影した方がいいかもしれないですね」

 

 たしかに喜多さんの言う通り、缶バッチも作るのであればそれ用の写真と分けた方がいいかもしれません。なんにせよ個人写真の撮影というのは、非常に楽しみです。

 理由はわざわざ語るまでもなくひとりさんの写真を撮れますし、お願いすればデータもいただけると思いますので楽しみです。

 

「そういえば、皆さんは以前のアーティスト写真は外で撮影されたんでしたね?」

「そうだよ。まぁ、近所でだけどね……あっ、そういえば、それで思い出したんだけど、前の撮影ではちょっとしたハプニングがあったんだよ。有紗ちゃんも私たちのアー写は見たと思うけど、アレを最初に撮った時にぼっちちゃんのパンツが写っちゃったんだよね」

「ふふ、なるほど、それはハプニングですね」

 

 その時のことを思い出してか楽し気に笑いながら話す虹夏さんに、私も笑みを溢します。そういったハプニングも、後で思い返してみると楽しいものだったりするので、なんだかんだでいい思い出になっているのかもしれませんね。

 まぁ、それはともかくとして……。

 

「ところで虹夏さん?」

「うん?」

「……10万円でいかがでしょうか?」

「え? なにが……待って、怖い怖い!? 目がマジなんだけど!?」

 

 いえ、一時のハプニングを写した写真というのは極めて貴重なものですし、譲っていただきたいという思いがあります。あくまで、純粋な興味によるものです、やましい気持ちはありません。

 

「……もう一声」

「リョウもなに値段交渉してるの!?」

「では、15万円で」

「よし、売った」

「こらっ! だいたい、あの写真のデータはとっくに消してるから残ってないよ!」

「そうなんですか……残念です」

「くっ、あの時データを貰っておけばっ……」

 

 どうやら既にハプニング写真は削除してしまったみたいです。それならば仕方ないですし、諦めましょう。まぁ、よくよく考えてみれば、そんな写真を残しているわけもないですね。

 そんな私の反応を見てか、それとも悔しがるリョウさんを見てか、虹夏さんが呆れた様子でため息を吐きます。

 

「もっ、ふたりともそんなこと言ってたらぼっちちゃんに失礼でしょ。ね? ぼっちちゃん」

「……ごくっ……じゅっ……じゅうご……まんえん……」

「ぼっちちゃん! 落ち着いて、変なこと考えちゃ駄目だよ! お金で尊厳を売らないでね!?」

 

 慌てる虹夏さんを見て苦笑しつつ、私は虹夏さんに声を掛けます。

 

「冗談はさておき、構図などを話し合いましょうか」

「……本当に冗談だったのかなぁ? ま、まぁ、いいや」

 

 いえ、もちろん単なる冗談でしたよ。その写真を見てみたいという思いこそあれ、ひとりさんの許可もなく得る気はありませんでした……いや、まぁ、ひとりさんが許可してくれた場合は、ありがたく頂戴したかもしれませんが……。

 

 

****

 

 

 練習スタジオ内で試しに何枚か、それぞれ個人の撮影を行いました。私も虹夏さんと一緒に撮影を手伝いました。

 一通り撮影し終えると虹夏さんはデータを確認して、頷きます。

 

「……うん。やっぱり、思った通りだ」

「なにがですか?」

 

 頷く虹夏さんに尋ねると、虹夏さんはチラリと少し離れた場所にいるひとりさん、リョウさん、喜多さんを見て、3人には聞こえないような声で話し始めました。

 

「いや、私が撮影した写真と比べて、有紗ちゃんが撮ると……ぼっちちゃんの表情がちょっと明るいんだよね。ぼっちちゃんの部屋の写真を見て、そうかもとは思ってたんだけど、それだけ有紗ちゃんを信頼しているんだろうね」

「それは、嬉しいですね」

「うん。だから、ぼっちちゃんの写真は有紗ちゃんが撮った方がいいものになると思って、今日来てもらったんだよ……というわけで、リョウと喜多ちゃんは私に任せて、ぼっちちゃんの撮影をよろしく!」

「分かりました。任せてください」

 

 確かに見比べてみると、虹夏さんが撮影したものよりも、私が撮影したものの方が若干ではありますがひとりさんが顔を上げているような印象でした。

 ひとりさんが多少なりとも私に対して心を許してくれていると実感できるその結果は、なんというか本当に嬉しくて胸の奥が熱くなる思いでした。

 

 そんなわけで、割り振りを決めて私はひとりさんの写真を撮影することになり、ひとりさんと構図などを相談することになりました。

 

「ギターを構えているポーズで問題ないですが、服装はどうしますかね?」

「あっ、ジャージよりは、結束バンドのTシャツの方がいいですかね?」

「確かにそれもいいですが、ジャージもひとりさんらしくていいですし……いっそ、ジャージの前を開けて結束バンドのTシャツが見える形がいいかもしれませんね」

「なっ、なるほど……」

 

 そもそもひとりさんは素材が素晴らしいので、どう撮影しても可憐極まりない写真が撮れるのは間違いないのですが、今回は物販で利用するという前提があるので、ある程度バンドマンらしさも欲しいところです。

 ギターを持ち結束バンドのTシャツを着ているだけでも、バンドらしさはありますが、個人的にひとりさんのトレードマークといえるピンクのジャージも入れたかったので提案してみました。

 

「どっ、どうでしょう?」

「とても素晴らしいですよ。ひとりさんは、本当に可愛らしくもカッコいいので、どんな姿もよく似合いますね」

「あっ、えへへ……い、いや、そう思うのは有紗ちゃんだけだと……というか、有紗ちゃんの方が何着ても似合うイメージです」

「そうでしょうか?」

 

 確かに容姿を褒められる機会は多いですし、お母様譲りの容姿は客観的に見ても整っている部類だとは思います。しかし、目の前ではにかむ様に笑いながら照れるひとりさんの可愛らしさを見ると、私など到底及ばないと感じるのですが……。

 

「……あっ、有紗ちゃんも撮影してみます?」

「私の写真を、ですか? う、う~ん、本来の趣旨からは外れますが、ひとりさんが撮りたいのであればかまいませんよ」

「あっ、じゃ、じゃあ、せっかくだからギターも持ってみてください」

「……こんな感じでしょうか?」

 

 なにやら乗り気な様子のひとりさんに促され、ひとりさんのギターを借りる形でギターを持って立ちます。ひとりさんがスマートフォンのカメラを向けてきたので、ギターを構えて軽く微笑みを浮かべました。

 

「…………」

「ひとりさん?」

「あっ、ああ、えと、無事撮れました! やっ、やっぱり、有紗ちゃんの写真写りは凄いですね。プロのモデルみたいです」

「私のお母様がモデルで、立ち方や目線などはお母様に教わったことがあるので、そのおかげかもしれませんね」

 

 なぜか少し顔を赤くしたひとりさんにギターを返しつつ、改めてひとりさんの写真について話すことにします。ふたりでアレコレと話し合った結果、最終的に結束バンドのTシャツの上にジャージを羽織ったものに決定しました。

 ちなみに、採用しなかった写真も私のスマートフォンに入っていますので、大切に保存することにします。もちろんひとりさんの許可も頂きましたので万事問題なしです。

 

 

 




時花有紗:ぼっちちゃんの写真は沢山欲しいタイプ。ただ、ちゃんと本人に許可は取って所有する。

後藤ひとり:有紗の写真のあまりの綺麗さに一瞬硬直して、本人もよく分からないが変に照れていた。なお、その際の写真は有紗の許可を得てそのままスマートフォンに保存している模様。

伊地知虹夏:結束バンドの良心。ぼっちちゃんを丸投げしておける有紗の存在により、多少苦労度は下がっている気がするが、有紗は有紗で時々暴走するのでプラマイはゼロな気もする。

山田リョウ:世界のYAMADA。有紗はたびたび差し入れ等で食べ物を持って来てくれるので好き。

喜多郁代:アニメ版だけだと分からないが、努力型の陽キャで有名店や映える商品が好き。四巻のキラキラが足りずに駄々こねる喜多ちゃんは大変可愛い。

友人のピアニスト:パリで活動している天才ピアニストで、有紗の友人。超人レベルであらゆる才能を持つ有紗が、ピアノにおいては絶対に敵わないと感じるほどの腕前……例によってたいして出番はないので、覚える必要は無し。
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