ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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十三手可憐の個人撮影~sideB~

 

 

 STARRYにてアルバイトを行っている結束バンドのメンバーは、開店前の清掃作業や準備を全て終えて、開店までの休憩時間にのんびりと話をしていた。

 その様子を見ていた星歌が、ふと思いついたように4人に声をかけた。

 

「そういえば、皆。夏休みはバイトや練習がない日はなにしてるんだ?」

「私は練習ない日はほぼバイト入れてたから、お姉ちゃんのお世話ぐらいかな? あんまり出かけたりはしてないけど、なんだかんだで結構充実してるね」

 

 星歌の言葉に最初に反応したのは虹夏であり、夏休みの日々を思い出すように口を開いた。虹夏の場合はSTARRYでバイトをしている時間も楽しく、PAや他の従業員とも仲良く会話しているため、遊びに行ったりする機会は少なくとも充実していた。

 

「私は、友達と遊ぶことが多いですね。渋谷いったりお祭りに参加したり、結構あちこち行ってますね。この前も雑誌で紹介されていた池袋のカフェに行ってきました」

「喜多ちゃんは、女子高生らしい夏休みで羨ましいね~」

「そんなことないですよ。よかったら、今度伊地知先輩も一緒に行きましょうよ」

 

 メンバーの中で一番アウトドア派な喜多は、夏休みは一番精力的に過ごしており、あちこちに出かけたりイベントに参加したりと、一番忙しくも充実した日々を過ごしていた。

 

「私は、家で映画見たり、古着屋巡りしたりとかしてた」

「リョウはいつも通りだね~」

「うん。いつもの休日と同じ……ぼっちは?」

 

 マイペースなリョウは特に夏休みだからといってなにか特別な行動もなく、普通の休日と同じようにひとりで過ごしていた。いつも通りながら本人的にはかなり充実しているので問題はない。

 そして、リョウが最後に残っていたひとりに話を振ると、ひとりは少し考えるような表情を浮かべたあとで口を開く。

 

「あっ、えっと、バイトと練習以外だと……ほぼいつも有紗ちゃんと遊んでました」

「本当に仲いいよね~有紗ちゃんとどこかに出かけたりしたの?」

 

 ひとりが告げた言葉を聞き、相変わらずの仲の良さを微笑ましく感じつつ、虹夏が笑顔で尋ねる。

 

「あっ、はい。花火を見に行ったりしました」

「え? 花火大会に行ったんだ、いいなぁ~夏って感じだよね」

「でも、後藤さんよく平気だったわね。花火大会ってかなり人も多いと思うけど……」

「あっ、えっと、花火は見に行きましたが、花火大会の会場の中心には行っていないというか……とっ、特殊な方法で見たというか……」

 

 その場に居る者たちの共通認識として、ひとりは人の多い場所が苦手であり、通い慣れた下北沢でさえ時折ビクビクしている姿を見るほどだった。そんなひとりが花火大会に参加できるとはとても思えないというのは、当然の帰結といえる発想だろう。

 

 不思議そうに尋ねてくる喜多に対し、ひとりは有紗と一緒に行った花火鑑賞の話をポツポツと語り始めた。実際は有紗が押さえたスイートルームで花火を見たこと、花火を見終えたあとは宿泊することなく帰ったことなどを詳しく説明すると、当然ではあるが他の面々の表情は唖然としたものに変わった。

 

「……へ、へぇ、そっか~花火を見るためだけで70万円の部屋を押さえて、宿泊とかもせずにそのまま帰った……馬鹿の発想だよ!? なんで、有紗ちゃんって普段はあんなに落ち着いてて頭もいいのに、ぼっちちゃん関連になると正面からパワーでぶち破るみたいな、脳筋一直線になるのかな?」

「70万……ハイエンドベースも買える。やっぱり、有紗はランクが違う」

「普通、思いついても実行しないですけど……時花さんだと、実現できちゃうのが凄いですよね」

 

 皆の反応を見て、ひとりは己の反応が正常であったことに胸を撫で下ろした。あまりにも有紗が普通のような顔をしていたので、若干不安になっていた。

 そんなひとりたちの話を聞いてたPAが、軽く苦笑を浮かべながら口を開いた。

 

「それはそれとして、70万円のスイートルームというのは興味がありますねぇ」

「あ、私もです! 後藤さん、写真とかないの?」

「あっ、何枚か撮影したものが……」

 

 花火を見るためだけに70万円のスイートルームを確保する有紗の行動には呆れつつも、それでも最高級のスイートルームは気になる様子で、ひとりが撮影していた写真を全員で見て盛り上がった。

 そのまましばしの間、ひとりと有紗の話で盛り上がったあとで虹夏が笑顔で口を開いた。

 

「けど、皆なんだかんだで充実した夏休みを過ごしてていいね。けど、せっかくだし、一回ぐらい皆で遊びに行きたいよね」

「あっ、いいですね! 時花さんも誘って、5人でどこかに行きましょうよ」

「う~ん、次の練習日は個人撮影の予定だし、8月31日がいいかな? 練習日の予定だったけど、練習はいつでもできるしね。夏休みの思い出に皆でどっかに行こう! というわけで、ぼっちちゃん、有紗ちゃんの予定の確認をお願いね」

「あっ、はい!」

 

 虹夏の提案に頷き、ロインで有紗の予定を確認するための文面を打ちながら、ひとりは小さく笑みを浮かべた。

 

(皆と一緒に遊びに行く……楽しみだな)

 

 夏休み中有紗と遊ぶ機会は多かったが、他の結束バンドメンバーとは練習日やバイトでしか会っていなかったので、全員揃って遊びに行けるというのは喜ばしいことだった。

 

 

****

 

 

 夏休みも終盤に差し掛かった日、かねてからの予定通りブロマイドや缶バッチ用の個人写真を撮影することになり、スタジオ内でアレコレと写真撮影を行っていた。

 ひとりは有紗とペアという形になり、構図などを相談しながら撮影していた。

 

「どっ、どうでしょう?」

「とても素晴らしいですよ。ひとりさんは、本当に可愛らしくもカッコいいので、どんな姿もよく似合いますね」

「あっ、えへへ……い、いや、そう思うのは有紗ちゃんだけだと……というか、有紗ちゃんの方が何着ても似合うイメージです」

「そうでしょうか?」

 

 仲がよく話しやすい相手であり、基本的に優しく褒めてくれる有紗とも撮影は順調に進んでいった。人見知りであるひとりも、有紗に対してはかなり気を許しており、写真もそれなりにリラックスして写ることができた。

 虹夏のにらんだ通り、有紗が撮影者であればひとりは他の人が撮影するよりもずっと写真の写りが良かった。

 

 何枚か撮影して、撮った写真を見ながら話し合っている時に、ふとひとりは思い付きで有紗に提案した。

 

「……あっ、有紗ちゃんも撮影してみます?」

「私の写真を、ですか? う、う~ん、本来の趣旨からは外れますが、ひとりさんが撮りたいのであればかまいませんよ」

 

 提案自体は本当に単なる思い付きだった。有紗と一緒に写真を撮ったことはあっても、有紗がひとりで写っている写真を見たことは無かったので、興味本位という感情が強い。

 

「あっ、じゃ、じゃあ、せっかくだからギターも持ってみてください」

「……こんな感じでしょうか?」

 

 有紗が特に嫌がることなく応じてくれたこともあって、少しテンションが上がったひとりはギターを貸し渡し、有紗は先ほどのひとりと同じような姿勢を取る。

 

(……姿勢綺麗だなぁ。凛としててカッコいいというか、立ってるだけでもなんかオーラがあるんだよね)

 

 顔立ちが極めて整っているのもそうだが、姿勢もよくプロポーションも整っており、立っている姿にどこか気品を感じる。

 思わず見惚れるような感覚を覚えつつ、ひとりがスマートフォンを構えて撮影しようとしたタイミングで、有紗がそれに合わせるように軽く微笑んだ。

 

「…………」

 

 反射的にシャッターを押して写真を撮影したが、ひとりは言葉を失っていた。それは、有紗が浮かべた微笑みがあまりにも美しく、輝いているようにさえ見えたからだった。

 

 有紗の交友範囲が広がり、ひとりだけでなく結束バンドのメンバーたちとも親しくなったことで気付いたことがある。

 有紗は基本的に誰にでも優しく穏やかで、よく優し気な微笑みを浮かべていたが……その微笑みにも違いがあることに気が付いた。

 

 そう、違うのだ。結束バンドのメンバーや星歌たちに向ける微笑みと、ひとりに対して向ける微笑みは……心の底から愛おしい相手に向けるような、愛情の籠った微笑み。見ているだけで心が温かくなるその笑みは、他の誰でもなくひとりにだけ向けられている。

 自分にだけ向けてくれるその微笑みは、有紗にとってひとりが特別な存在であるということを実感できるものであり……なんとも言えないくすぐったいような温もりを感じていた。

 

「ひとりさん?」

「あっ、ああ、えと、無事撮れました! やっ、やっぱり、有紗ちゃんの写真写りは凄いですね。プロのモデルみたいです」

 

 有紗の微笑みに見惚れていたひとりだが、有紗の声で我に返って言葉を返す。正直に言ってしまえば、ひとりはまだ恋愛に関してはよく分からないというのが本音だった。

 有紗のことは好きだ。それは間違いない。夏休みだって、それこそしょっちゅう一緒に居たが、それを疲れるとか感じたことは一度もなかった。

 いつの間にか傍に居ることが当たり前になっているとでも言うべきか、今回の様に複数人で集まった時は、ひとりは自然と有紗の傍に居ることが多い。それは、無意識で有紗の近くが安心できると感じているからかもしれない。

 

 それが恋愛感情であるか否かといわれれば、分からなかった。

 

 ただ、なんだろう? なんとなくではあるが……有紗のこの微笑みが写った写真は、あまり他の人には見せたくないような、そんな思いがあった。

 

「……あっ、あの、有紗ちゃん?」

「はい?」

「こっ、ここ、この写真、そのまま持ってても……い、いいですか?」

「ええ、もちろん構いませんよ」

「あっ、ありがとうございます」

 

 ほとんど無意識にその言葉は口を突いて出ていた。普段のひとりから考えれば、意外な申し出ではあったが、有紗は特に気にすることなく快く了承してくれた。

 

(……なんか少し変というか、ふわふわした気持ちだけど……なんだろう? うう~ん、分かんない。けど、やっぱり、有紗ちゃんのこの笑顔は……見てると温かくなるなぁ)

 

 纏まらない思考を振り切るように軽く頭を振った後で、ひとりは改めて有紗と個人写真について話を進めていった。

 

 

 

 




時花有紗:基本的にひとりに対しての愛情は一切隠しておらず、普段の態度にも表れている。むしろ本人はその想いを誇らしく思っている感じのつよつよメンタル。

後藤ひとり:すでに割と、有紗に対してクソデカ感情を持ち始めているというか、いろいろな部分を意識するようになってきている感じである。
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