ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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十四手愉楽の江の島観光~sideB~

 

 

 結束バンドのメンバーと有紗の5人で行くことになった江の島観光。無事に駅で合流した5人は、軽く海を見てからテレビや雑誌でもよく紹介されているたこせんべいを全員で食べたあとは、喜多の希望で江の島の頂上部へ向かうことになった。

 元々アウトドア派であり、今回のお出かけでテンションが上がっている喜多の陽キャオーラに押される形で階段を上って頂上を目指すことになった。

 

 江の島の頂上部に向かう階段は250段を越え、普通に登れば10~15分ほどかかる長い階段である。アウトドア派の喜多や、運動神経も優れている有紗の2人以外は、全員インドア派であり長い階段はまさに地獄といえるものであり、登り始めて早々に体力は限界を迎えていた。

 

「も、もぅ、無理、登れない」

「……喜多ちゃんからどんどん離されていく……」

 

 リョウと虹夏の足取りは重く、先を行く喜多との差はかなり開いていた。そして、そのふたり以上に体力がないひとりはとうの昔に限界を迎えていたが、幸い彼女には味方が居る。

 

「ひとりさん、大丈夫ですか?」

「あっ、あひっ……なな、なんとか……」

「いっそ私がおんぶしましょうか?」

「いっ、いや、流石にそれは……こうして、肩を貸してもらえてるだけでも、ありがたいです」

 

 有紗が肩を貸して補助することで、ひとりはなんとか他の面々に引き離されずに階段を上ることができていた。そして、ひとりに肩を貸している有紗に関しては特に疲れた様子もなく余裕そうな表情である。

 

「……いいなぁ、ぼっちちゃん。献身的なサポートが居て……」

「なんで、なんで、有紗はぼっちを支えながら上がってるのに、汗ひとつかいてないの? バグってない?」

「たぶん……私たちとは、基礎体力が違うんだよ……はひぃ」

 

 必死に足を進めて階段を上っていた虹夏とリョウではあるが、ある程度登ったところで限界を迎えたのか、大きな鳥居の麓に座り込んだ。

 

「もぅ、無理ぃ……」

「景色とか知らん……どうでもいい……」

「ふたりともしっかりしてください。まだ始まったばかりですよ?」

 

 座り込むふたりに声をかける喜多は余裕そうであり、基礎体力の違いが如実に表れていた。そして少し遅れてひとりに肩を貸しながら到着した有紗が、苦笑を浮かべながら喜多に声をかける。

 

「急ぐ必要があるわけでもありませんし、少し休憩をしましょう。ひとりさんもだいぶ疲れているみたいですしね」

 

 穏やかに告げる有紗の提案を聞き、ひとまずこの場で休憩という流れになりかけたタイミングで、息を整えていたひとりがなにかに気付いた様子で声を上げた。

 

「あっ、あれ! えっ、エスカレーターで行けるみたいですよ!」

「ああ、江の島エスカーですね」

 

 ひとりが発見した江の島エスカーは虹夏とリョウにとっても救いと呼べるものであり、項垂れていた顔を上げて目を輝かせる。

 

「え~階段で登りましょうよ~」

「まぁまぁ、喜多さん。階段を上るのがメインではなく、目的は頂上部での観光です。せっかく頂上部についても3人が疲労困憊では楽しめないでしょうし、ここはエスカーを利用しましょう」

「うっ、確かに……」

 

 唯一エスカーを使用することに不満げだった喜多も有紗が説得し、5人はエスカーを利用するために移動した。しかし、そこで思わぬ問題が立ちはだかった。

 江の島エスカーは有料エスカレーターであり乗るにはチケットが必要となる。だが、リョウはここに来るまでに塩ソフトとたこせんべいで持ち金を使い切っており、エスカーのチケットを買うお金が無かった。

 

 かといって、ひとりに次いで体力のないリョウにとって頂上部までの階段を上るのはあまりにも絶望的であり、絶対にエスカレーターを利用したかった。

 そのためリョウは受付の女性に無茶な交渉を始める。

 

「い、いまお金が無くて……ベース! 私、いいやつ結構持ってるんですけど、1本差し上げますから!」

「いや……」

「2本ですか! 3本がお望みですか!?」

「あの……チケットを……」

 

 物々交換のような取引を持ち掛けるリョウだが、当然そんなものに応じられるわけもなく受付の女性は困惑した表情を浮かべる。

 すると、そんなリョウに対し思わぬところから救いの手は差し伸べられた。

 

「リョウさん、皆さんの分のチケットは私が買いますので、大丈夫ですよ。今日誘っていただいたお礼ということで……」

「あ、有紗……有紗は本当に、気が利くいい女。さすが、ぼっちの未来の嫁! 私は、有紗とぼっちの関係を心から応援している」

「そう言ってもらえると光栄です。ああ、それと……」

 

 地獄で仏を見たかのような表情を浮かべて有紗を賞賛するリョウに対し、有紗は穏やかに微笑んだあとで財布から札を取り出してリョウの手に握らせた。

 

「お金が無ければ楽しめないとまでは言いませんが、あった方がいろいろと融通が利くのは事実です。そのお金は返さなくて結構ですので、せっかくこうして江の島に来たのですから、リョウさんも一緒に江の島観光を楽しみましょう」

「……有紗、好き。ぼっちとのことで協力できることがあればいつでも言ってほしい。私は、全力で有紗の力になる」

「ありがとうございます。とても心強いです」

 

 目に涙を浮かべて感謝するリョウに対し、有紗は軽く苦笑しつつ答える。その光景を少し離れた場所で見ていた虹夏は、どこか呆れた様子でひとりに声をかけた。

 

「……清々しいほどにアッサリ買収されてる奴がいるけど、どうする? 一発殴っとく?」

「あっ、いや、その、大丈夫だと思います」

「あれ? ぼっちちゃん、余裕だね。これは意外と脈ありだったりするのかな?」

「あっ、いえ、そうじゃなくて……」

 

 ニヤニヤと楽し気に笑う虹夏に対し、ひとりは少し考えるような表情を浮かべつつ口を開く。

 

「えっ、えっと、リョウさんを味方に付けたとしても……その、有紗ちゃんがなにかしてくるなら、小細工とか搦手とか、そういうのはたぶん使わないと思うので……」

「……そうだね。正面からパワーで来るもんね」

「あっ、はい。なので、そういう部分に関してはある意味安心といいますか……」

 

 そう、有紗は基本的に回りくどいアプローチなどせず、正面からひとりに好意を示してくる。なので、外堀が埋められていても、誰かを味方につけていたとしても、有紗の攻めが予想外の方向から来ることは無いので、ある意味では安心だった。

 まぁ、来る方向が分かっていたとしても、対処できるかどうかは別ではあるが……。

 

 ともかく、無事にエスカーのチケットを手に入れた一行は、エスカレーターによって江の島の頂上部に到達する。

 そこはさすがの見晴らしであり、テンションが落ち込んでいたインドア派の3人も綺麗な景色にテンションを上げていた。

 どこか浮かれた様子で写真を取り始めるひとり、虹夏、リョウを、喜多はなんとも言えない微妙な表情で見ていた。

 

「きゅ、急にハイテンションになり始めた……」

「あれは、むしろ疲労でハイになっているだけなのでは?」

 

 エスカレーターでの移動とはいえ、距離はそれなりだったためインドア派3人はそれなりに疲労しており、元気な喜多と有紗に比べれば大きな差がある感じだった。

 続いて江の島シーキャンドルという展望台に全員で移動する。展望台からの絶景にテンションを上げる喜多だが、例によってインドア派3人はあまりテンションが高くなく、景色よりもエアコンの涼しさなどに感動していた。

 

「……じゃあ、喜多ちゃんが満足したら降りよっか」

「でっ、ですね」

「涼しいのは最高だった」

「…‥え? あの……景色……」

 

 明らかな温度差になんとも言えない表情を浮かべたあとで、喜多は近くに居た有紗の肩にしがみつく様にしながら小さく声を出す。

 

「インドア人たちが……インドア人たちが……」

「あ、あはは……今日は天気がいいですから展望台からの景色も綺麗ですね。一緒に写真でも撮りますか?」

「……うん。時花さんが居てくれてよかった」

 

 唯一喜多の高めのテンションやアウトドア派のノリにも付いていける有紗の存在は、喜多にとっては救いであり、江の島の絶景をバックにふたりで写真を撮ったことである程度精神は回復した。

 結局あまり長く展望台に留まることもなく移動した面々は、休憩も兼ねてアイスクリームを買い並んで座って食べていた。

 すると高い鳴き声のようなものが聞こえてきて、ひとりが不思議そうに周囲を見渡す。

 

「……この音、なんですか?」

「あ~トンビじゃない? 江の島にはたくさんいるんだよ。人の食べ物とか狙ってくるから気を付け――」

「ッ!?」

 

 虹夏が忠告しようとするも遅く、空から凄まじい速度で舞い降りたトンビがひとりが手に持っていたアイスクリームを奪い取っていった。

 

「あぁ、言った傍から……」

「後藤さん、私のアイス食べる?」

「あっ、え……はっ!? ひぃぃぃぃ!」

 

 アイスクリームを奪われて呆然としていたひとりだったが、悲劇はそれで終わらなかった。空には何匹ものトンビが集まってきて、一斉にひとりに襲い掛かってきたのだ。

 

「ぼっちちゃんが獲物にされてる!?」

 

 ひとりを弱そうと判断したのか襲い掛かって来たトンビたちに、ひとりは怯えて身を小さくして、虹夏たちもあまりの状況にどうしていいか分からず硬直する。

 だが、しかし、そんな状況でひとりを放置するわけない人物がいた。そう、有紗である。

 

「ひとりさんっ!」

 

 即座に動いた有紗は、ひとりの手を引き、その体を庇うように抱きしめつつトンビたちを鋭い目で睨みつけた。

 

「私の前でひとりさんに危害を加えるなど、覚悟は……できているのでしょうね?」

 

 それはとてつもない怒気であり、直接向けられたわけでもないのに虹夏たち3人が怯えて背筋を伸ばすほどに凄まじかった。

 そして野生の動物というのは危機に敏感である。有紗の凄まじい怒りを感じ取ったトンビたちは、蜘蛛の子を散らすような勢いで逃げ去っていった。

 そのまま少しの間飛び去っていったトンビたちを睨んでいた有紗だったが、すぐにハッとした表情を浮かべて抱きしめているひとりに声をかける。

 

「ひとりさん! 大丈夫ですか! 怪我はありませんか?」

「……あっ……はははは、はっ、はい!? だだだ、大丈夫です!」

 

 有紗に声を掛けられて、ひとりは最初熱に浮かされたように赤い顔で有紗を見ていたが、すぐに大慌てで有紗から離れて言葉を返した。

 だが、大丈夫と言いつつもひとりの心臓はいま早鐘のように脈打っており、有紗の顔をまともに見れない状態だった。

 

 トンビに襲われて本当に怖かった。すぐに有紗が助けてくれて嬉しかったし、安心した。有紗の胸に抱きしめられて、見上げた普段とは違う凛々しく鋭さを感じる有紗の顔は凄く頼りがいがあって……カッコよく感じた。

 いつの間にかトンビに襲われた恐怖は消えており、まるで王子様に守られる姫のような心境で有紗の顔を見上げていた。

 

(な、なな、なにこれ……か、体中熱くてドキドキして、全然有紗ちゃんの顔が見れない)

 

 ある意味では吊り橋効果とでもいえる現象ではあるが、ひとりはいま有紗のことをあまりにも強く意識しており、非常に落ち着かない心境だった。

 そんなひとりを心配そうな表情で見つめながら、有紗は声をかける。

 

「申し訳ありません、もっと早く助けられればよかったですね」

「あ、あぅ……いっ、いや、その、有紗ちゃんのおかげで助かりました。あ、あの、その、助けてくれて、ありがとうございます」

「ひとりさんに怪我がなかったのなら、本当によかったです」

「あっ……はぃ」

 

 恥ずかしそうにしつつも、それでも有紗の微笑みはやはり安心できるのか、ひとりは顔を赤くしつつもほっと息を吐いた。

 胸の鼓動が収まるまではしばらく時間がかかったが、それでも心の内には喜びの感情が大きく表れていた。

 

「……え? なに、この青春感……私たち完全に蚊帳の外じゃない?」

「時花さん、凄かったですね。思わず背筋が冷たくなりましたよ」

「マジで怖かった。有紗だけは、絶対に怒らせないようにしよう」

 

 

 

 




~おまけ・独断と偏見による主要人物属性表~

【後藤ひとり】
属性:陰 趣向:インドア 傾向:羨望型
属性趣向共に陰で陰の中の陰と呼べるタイプではあるが、陽キャに対して憎しみを抱いていたり、陰キャでいることに満足しているタイプではなく、陽キャに成りたいという願望を抱いているタイプ。
有紗のおかげで原作よりはかなり精神的に成長している感じがある。

【山田リョウ】
属性:陰 趣向:インドア 傾向:孤高型
属性趣向共に陰ではあるが、ひとりのように陽キャに成りたいという願望は無く、自分らしく行動した結果として陰のポジションに居る存在。ひとりでいることが好きな孤高タイプではあるが、唯一虹夏だけは例外であり、原作などでも虹夏に対しては妙な執着を見せたり大き目の感情を抱いている感じである。

【伊地知虹夏】
属性:陽 趣向:インドア 傾向:特攻型
どちらかといえば陽の属性ではあるが、趣向が陰よりであり陰とも陽とも仲が良い。良い意味でも悪い意味でも普通。陽の属性でありながら、むしろ陰との方が話が合ったりするので、陰キャに好かれやすいタイプであり、陰キャ特攻を持っていると言っていい。彼女の笑顔に勘違いしたものは多そうで、ある意味喜多以上に罪な女。

【喜多郁代】
属性:陽 趣向:アウトドア 傾向:努力型
属性趣向共に間違いなく陽の中の陽といっていいものではあるが、彼女の場合は陽キャでいるためにしっかりと努力をしているタイプ。流行やトレンドにアンテナを張り、周りの空気をしっかりと呼んで合わせるタイプ。原作ではひとりに「陽キャには陽キャなりの苦労がある」と語っていたりもする。他の結束バンドメンバーがインドア派であり、原作ではたびたび疎外感を覚えていたが、有紗が居るのである程度マシ。

【時花有紗】
属性:陽 趣向:万能 傾向:自然体型
こちらも間違いなく陽キャではあるが、喜多のような努力型とは違って自然体。人当たりもよく本人自体のスペックが異様に高いこともあり、周りに合わせなくても周りが合わせてくるタイプの選ばれし陽キャ。流行最先端を掴んでいれば「流行に鋭く素敵」、流行外れの物を持っていても「流されないのが素敵」と意図せずともカーストトップに位置している生まれながらの勝ち組。アウトドアもインドアもどちらもいける万能型であり、陰とも陽とも話が合うので好かれやすい。
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