ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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十五手閑雅のホテルスパ~sideA~

 

 

 江の島ではひとりさんがトンビに襲われるという非常事態は起きましたが、幸いひとりさんに怪我などは無くその後も江の島観光を楽しむことができました。

 あちこちを回って、最後に八臂弁財天(はっぴべんざいてん)妙音弁財天(みょうおんべんざいてん)が祀られている奉安殿でお参りをしたあとで、帰ることになりました。

 

「ここから下北沢まで1時間ぐらい?」

「ですね。後藤さんは藤沢で乗り換えですけど……時花さんは?」

「ああ、私はひとりさんの家に迎えを呼ぶつもりなので、ひとりさんと同じく藤沢で乗り換えます」

 

 呼ぼうと思えば江の島に呼ぶことも出来ましたが、運転手の方もひとりさんの家の方が道が分かりやすいでしょうし、ひとりさんと一緒に帰りたいという思いもあります。

 すると歩き疲れたのか、リョウさんと虹夏さんがウトウトと眠たそうな表情を浮かべていました。

 

「疲れた……下北着いたら起こして」

「しょうがないですねぇ」

 

 元気な喜多さんは少し呆れた様子で苦笑しつつ、少しだけ残念そうに言葉を続けます。

 

「あ~あ、本当は鎌倉も観光したかったし、皆で晩御飯したかったんだけどなぁ」

「それは次の機会、ですね」

「そうね。また皆で遊びに行って思い出いっぱい作りたいですね。いろいろ企画するので、時花さんも協力してね」

「ええ、私でよければ」

 

 実際このメンバーで言えば、そういった皆で遊びに行く企画を出すのは虹夏さんか喜多さんの可能性が高いです。少なくともひとりさんやリョウさんが提案する可能性は低いでしょう。

 私としても今回の様に皆さんと出かけるのは楽しいですし、秋には大型連休もあり、また冬休みもあるので機会は多そうです。

 と、そこでふと隣に座るひとりさんの様子を見て、声を掛けます。

 

「ひとりさんも、疲れているなら寝ても大丈夫ですよ」

「あっ、でも、数駅ですし……このまま起きてます」

 

 ひとりさんも疲労から眠そうな様子ではありましたが、藤沢まではそれほど時間もかからないということでそのまま起きておく様子でした。

 ひとりさんは、軽く目を擦った後で窓から見える夕日を見つめながら、軽く微笑んで口を開きました。

 

「……あっ、あの、今日は皆と遊べて楽しかったです」

「ええ、私も同じ気持ちです」

「うんうん。またこうして、皆で遊びましょうね!」

 

 ひとりさんの言葉に私と喜多さんも笑顔を浮かべ、そのまま藤沢に着くまでの間3人で今日の思い出などを楽しく話しました。

 

 

****

 

 

 一夜明けて新学期の開始となる9月1日……とはいえ、私の高校もそうですが大抵の高校は始業式で、午前中のみで終わりというのが多いでしょう。

 記念すべき新学期の始まりということで、私はひとりさんと一緒に登校しようと前日はホテルに宿泊して、ひとりさんが家を出る時間に合わせて訪ねてきました。

 

「おはようございます……おや?」

「ああ、有紗ちゃん。おはよう」

「……ひとりさん、どうかされたんですか?」

 

 家に入りお義母様に挨拶をすると、ひとりさんが青ざめた表情で椅子に座っているのが見えました。あまり体調が良さそうではない感じですが……。

 

「……あっ、あ、有紗ちゃん……」

「顔色が良くないですが……」

「ぜっ、全身筋肉痛で……」

「筋肉痛?」

 

 なぜ全身筋肉痛にと首を傾げて思いついたのは、昨日の江の島観光でした。とはいえ、筋肉痛になるほどあちこち見て回ったわけでは無いのですが……いや、普段運動慣れしていないなら、あり得なくはない……でしょうか?

 

「有紗ちゃん、昨日そんなにあちこち動いたの?」

「いえ、そこまでは……普通に観光しただけですし、早めに帰りましたので……」

「ほら、ひとりちゃん、しっかりしなさい。有紗ちゃんは全然平気そうじゃない」

「あっ、有紗ちゃんと私じゃ……基礎体力が違い過ぎて……」

 

 筋肉痛で動くのが辛いという気持ちは理解できますが、かといって筋肉痛が学校を休む理由になるかと言われると、それも難しいところがあります。

 

「……ひとりさん、私が肩を貸しますので頑張りましょう。今日はたぶん、始業式だけのはずですよね?」

「うっ、あっ、はい……頑張ります」

「ごめんなさいね、有紗ちゃん。ひとりちゃんをよろしくね」

「はい。お任せください」

 

 さすがにひとりさんの学校まで送るわけにはいきませんが、2時間の通学の間にある程度筋肉痛は楽になるでしょう。

 とりあえずいまは私が肩を貸す形で、ひとりさんと一緒に学校に向けて出発します。

 

 駅まで辿り着いて電車に乗ってしまえば、しばらくは座ったままなので、ひとりさんと隣同士に座りつつ声を掛けます。

 

「ひとりさん、大丈夫ですか?」

「あっ、な、なんとか……体が軋む感じですけど……」

「なるほど……」

 

 ひとりさんがこうして辛そうにしているのですからなにか力にはなりたいですが、いますぐにどうこうというのは難しいですね。

 ですが、学校が終わった後であれば……。

 

「ひとりさん、今日は確かバイトも練習も無い日ですよね?」

「あっ、はい。そうですけど?」

「それでしたら、学校が終わったあとに、私と一緒にスパに行きませんか?」

「……す、スパ?」

「はい。マッサージなども豊富な店を知っているので、筋肉痛の解消にもいいです。昨日の疲れを取ることができるかと思いますが……いかがですか?」

 

 そうスパならば筋肉痛解消のマッサージもありますし、岩盤浴などもあるのでリラックス効果は高いです。昼の時間帯であればかなり空いていますし、ひとりさんが畏縮する心配もありません。

 さらに食事をするところもいくつもあるので、昼食も食べられます。

 

「……うっ、きょ、興味はありますけど……そっ、そういうお洒落なところには行ったことが無くて」

「大丈夫です。私がよく行く店なので……それほど人も多くないですし、もちろん料金についても私が出すので問題ありませんよ」

「……有紗ちゃんがよく行く店だからこそ、逆にとんでもなさそうな気が……」

「うん?」

「あっ、いえ、えっと……まっ、まぁ、その、有紗ちゃんと一緒なら……」

 

 スパに行ったことがなく少し躊躇っている様子のひとりさんでしたが、最終的に一緒に行くことに納得してくれて頷いてくれました。

 ひとりさんと一緒にスパ……これは思わぬところで、素晴らしい予定が入りました。いまから本当に楽しみです。

 

 

****

 

 

 スパの予約も済ませて始業式とHRを終えてロインで連絡を取り、ひとりさんの学校も始業式とHRが終わったことを確認してから、待ち合わせ場所を決めて合流します。

 電車ではなく車で移動するので、希望の場所はひとりさんに決めてもらってそこに迎えに行きました。

 

「……なっ、何度乗っても凄い車……」

「ひとりさん、筋肉痛は大丈夫ですか?」

「あっ、あちこち痛いですけど、なんとか……とっ、ところでどんな場所に行くんですか?」

「リラクゼーションを主としたホテルスパですね。マッサージなどはもちろん、リラクゼーションルームで飲食したり、ジャグジーや岩盤浴も楽しめますよ」

 

 今回は筋肉痛のひとりさんのリラックスが主な目的なので、そういった部分に力を入れているスパを選びました。このスパの特徴として、リラクゼーションルームが共用でなく個別に用意されているので、人見知りのひとりさんでも安心して利用できるという点ですね。

 さすがにプールなどは共用なのですが、プールに行く予定はないですし岩盤浴やジャグシーは、専用のルームがあるので安心です。

 心行くまで、ひとりさんとふたりっきりの時間を楽しめるという実に素晴らしい空間です。

 

「簡単に説明すると、最初に到着してマッサージを受けたあとは、用意されたいくつもの施設で自由に楽しめるという感じですね。基本的にマッサージなども含めて私とふたりで受けられるように予約しましたが、大丈夫ですか?」

「あっ、はい。むしろ、有紗ちゃんが傍に居てくれた方が安心します」

「それならよかったです。せっかくの機会ですから、疲れを癒すとともに楽しみましょう」

 

 そんな風に話しながらしばらく移動すると目的のホテルに到着して、運転手の方がドアを開けてくださいました。お礼を言ってから移動して、高層階用の専用エレベーターにて移動します。

 

「……あっ、エレベーターも凄い高級感……な、なんか、ハイソサエティ専用感が凄いです」

「そんな大げさなものではないですが、いちおう会員制のスパですね。ただ、上級会員証があれば申し込めば同行者を連れていくことも可能です」

「もっ、もう会員制って時点で凄い感じが……あっ、有紗ちゃんはよく来るんですか?」

「リラックスしたい時などに来ますね。ここは特に専用設備が多くて、個人や少人数でゆっくりと過ごすのに適しています」

「へっ、へぇ……あわわわ、入り口から、すす、すごいです……あっ、有紗ちゃん……て、手を繋いでてもいいですか? なっ、なんだか怖くて……」

「ええ、大丈夫ですよ」

 

 なんと思わぬところで幸せな出来事が発生し、ひとりさんと手を繋いで向かうことになりました。初めてくる場所に気圧されているのでしょうが、それでも私としては非常に嬉しいです。

 上機嫌になるのを実感しつつ、受付で会員証を提示して案内を受けます。事前に予約してあるので、オプションなども確認されることはありません。

 

「こっ、ここは……部屋?」

「着替えをする部屋ですね。そこに用意してある専用の服に着替えてからマッサージに向かう形ですね。岩盤浴などでは汗もかきますからね」

「なっ、なるほど…‥こっ、ここ、着替えるだけのロッカールームなんですか?」

「はい。最大4人まで用の部屋ですね」

「……4人? こっ、この広さで4人? あわわわ、ハイソサエティってスペースを無駄遣いしすぎなのでは……」

「ふふ、確かに、スペースの無駄遣いかもしれませんね。ともかく着替えましょうか、カーテンで仕切りも出来ますので」

「あっ、はい」

 

 戸惑うひとりさんに簡単に説明をして、用意されている専用の服に着替えます。この服はマッサージだけでなく、岩盤浴でも利用できるものですし、生地もよい素材なので肌に優しいです。

 着替え終えてロッカーのダイヤル式ロックの設定を行って、同様に着替えを終えたひとりさんと一緒に移動します。

 不安げに私の手を握るひとりさんは、服装がいつもと違うこともあって、普段とはまた違った魅力があって大変素敵でした。

 

「……ひとりさん、怖がらなくても大丈夫ですよ。私が一緒ですから、ね?」

「あっ……はい。有紗ちゃんが一緒なら……安心です」

 

 不安げなひとりさんを安心させるように微笑むと、ひとりさんもはにかむ様に笑みを返してくれて、その愛らしさに思わず見惚れてしまいました。

 

 

 




時花有紗:ひとりと一緒で嬉しいし、手を繋いでくれてさらに嬉しい。今日も幸せいっぱいである。

後藤ひとり:もう相当の好感度であり、割と普通にイチャイチャしてるぼっちちゃん。有紗と一緒に初めてのスパ体験中。
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