ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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十五手閑雅のホテルスパ~sideB~

 

 

 有紗に連れられてやってきた高級ホテルスパ。専用の服に着替えて移動すると、マッサージルームへと通された。

 そこは高層階の大きな窓がある部屋であり、絶景と言えるような景色が広がっていた。

 

「……へっ、部屋が凄いです。どっ、どこも広い。けっ、景色も凄すぎて怖いレベルです」

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。私も一緒ですし……ちなみに、今回は筋肉痛マッサージですね」

「あっ、えっと、筋肉痛マッサージ……普通のマッサージとは違うんですか?」

「筋肉痛の際に強い力でマッサージを行うのは修復中の筋繊維を傷つけるので逆効果と言われています。筋肉痛マッサージは揉み解したりというのではなく、血液やリンパの流れを促して疲労回復を早めることを目的とした優しいマッサージです」

「なっ、なるほど……」

 

 有紗の説明を受け終えたタイミングで施術を行うスタッフが入ってきてマッサージが開始される。有紗と並ぶようにマッサージベッドに寝転び、スタッフによる丁寧なマッサージが行われる。

 有紗の説明通り、疲労回復を目的とした優しく撫でるようなマッサージであり、痛みなどを感じることもなく、スタッフの腕もいいため最初は緊張していたひとりもすぐにリラックスして心地よさそうな表情を浮かべていた。

 

(はぅ……これ、気持ちいいなぁ。なんかいい匂いもするし……有紗ちゃんも傍に居てくれるから、あんまり怖くないし……はぁ、落ち着く)

 

 それでもひとりであればガチガチに緊張していた可能性もあるが、やはり有紗が傍に居てくれるというのはひとりにとって大きな安心をもたらしており、人見知りのひとりもある程度心の余裕があった。

 チラリと視線を横に向ければ有紗が居て、目が合うと微笑んでくれる。そんな細かな仕草を嬉しく感じるほど、ひとりにとって有紗は大きな存在になっていた。

 

 

****

 

 

 マッサージを終えたあとは、有紗とひとりはリラクゼーションルームという、いわゆる専用の個室に移動していた。

 そこは休憩室のような場所であり、テレビや雑誌など時間を潰すことができるものなども多く置いてあり、のんびりと過ごせるようになっていた。

 

「ひとりさん、この後は岩盤浴の予定ですが、その前にいい時間なのでお昼を食べませんか?」

「あっ、はい。たっ、確かに、お腹がすきました」

「食後2時間ほどは空けた方がいいので、食べ終えたあとは部屋の中で休憩をしてから岩盤浴に行きましょう。テレビや雑誌などいろいろありますからね」

「あっ、はい」

 

 休憩室といっても、かなり広くシンプルながら高級感を感じる椅子に座るひとりに、有紗は部屋に備え付けられていたタブレット端末を手に持ちながら近づいてきた。

 

「このタブレットで、食事などを注文できますよ」

「あっ、そうなんですね。へぇ……かなり種類があるんですね」

「このホテルの厨房で作るので、出来立てを食べられますよ」

「どっ、どれもお洒落過ぎて目がくらくらするというか……あっ、ドライカレーとかもあるんですね。これにしようかな……」

「いいですね。ここのホテルのドライカレーは有名らしいですよ。私も食べたことがないので、同じものを注文しましょうかね」

「あっ、じゃあ、これにします」

 

 どうやら有紗も同じものを頼むというのが決め手になったみたいで、ひとりはドライカレーを注文することに決めた。

 タブレットを操作してふたり分のドライカレーとドリンクを注文すると、それほど時間がかからず料理が運ばれてきた。

 

「……すっ、凄くお洒落……やっ、やっぱり、ハイソサエティって凄いです」

「ドライカレーは果たしてハイソサエティなのでしょうか?」

「おっ、お洒落で高級そうならハイソサエティです」

「ふふふ、なるほど」

 

 他愛のない会話をしつつ隣り合うように席に座ってドライカレーを食べるふたり、向かい合う形で座っていないのは一種の癖のようなものかもしれない。

 ひとりの家でおやつなどを食べる際に、並んで食べることが多いので自然とこういう時には隣同士に並ぶことが多い。

 

「……あっ、美味しい」

「体にいいスパイスも使われているので、疲労回復にもいいですね」

 

 ふたりっきりのシチュエーションであり、こうして一緒に食事をしている。前回江の島にて「あ~ん」をした実績もあるという条件も整ってはいる。有紗がアプローチに動いてもおかしくない状況ではあったが、有紗が動くことは無く、穏やかに雑談をしながらひとりと共に食事を楽しんでいた。

 というのも、そもそも有紗は基本的にひとりが最優先であり、アプローチはその次の優先順位だ。今回は前日の江の島観光で疲労しているひとりのリラックスという目的で来ているので、変にアプローチをしたりはせずにひとりがリラックスして過ごせるようにしている。

 まぁ、それでもそもそも、有紗にとってこうしてひとりとふたりきりで食事できている時点で、どうしようもないほど幸せではあるのだが……。

 

 

****

 

 

 食事を終えたあとは2時間ほど休憩室でテレビや雑誌を見て食後の休憩を挟んでから、岩盤浴を行うために専用の部屋に移動する。こちらも高級スパらしく広々とした上品な空間であり、若干気圧されたひとりは有紗の手を握りつつ尋ねる。

 

「あっ、岩盤浴って初めてなんですけど、いっ、陰キャでもできますかね?」

「大丈夫です。難しいものではありませんよ」

 

 ひとりを安心させるように微笑んだあとで、有紗はひとりを連れて大きなタオルが敷かれた岩盤プレートの前に移動して、簡単に説明を始める。

 

「まず最初にうつ伏せで5分から10分程度寝転びます。こうすることで、内臓を温めてデトックス効果が高まると言われていますね」

「あっ、はい。こっ、こんな感じですか」

「ふふ、ええ、ですがちょっと肩に力が入り過ぎですね。ちょっと失礼します」

「ひゃっ!? あっ、有紗ちゃん?」

 

 どこか緊張した様子で寝転ぶひとりを見て苦笑したあとで、有紗はひとりの肩に手を当て軽く揉み解すように手を動かす。

 

「力を抜いてリラックスしてください」

「うっ、あっ、は、はい」

 

 優しい有紗の声を聴き少し安心したのかひとりの肩から力が抜け、それを確認した有紗はひとりと同じようにうつ伏せで寝転んだ。

 

「あっ、お、思ったほど……熱くはないんですね」

「岩盤浴はサウナなどと比べて45度程度で、温度は低めですからね。じっくり体を芯から温めるためですね」

「なっ、なるほど……なっ、なんだかいい匂いもしますね」

「アロマの香りですね。岩盤浴の室内はリラックスできるようにアロマを焚くところも多いんですよ」

「かっ、香りまでお洒落……うっ、ほ、本当に私とは縁遠い世界過ぎます」

 

 部屋も装飾も香りも、どれもお洒落で上品な印象であり、普段は主に押し入れの中で活動することが多いひとりにとっては、まさに未知の環境とも言える空間だった。

 

「そんなことないですよ。たまたま縁が無かっただけで、いまは実際こうしてその世界にいるわけですしね」

「いっ、いや、有紗ちゃんが居なければ絶対こんなとここれないです。最初の入り口で回れ右して帰ってますよ」

「私が居れば大丈夫ですか?」

「あっ、有紗ちゃんが居れば……まぁ、その、あっ、安心できますし……こっ、こうして実際大丈夫ですから……」

「でしたら、次の機会も一緒に来ましょうね」

「うっ……はい」

 

 楽し気に微笑む有紗を見て、ひとりは少し顔を赤くして言葉を返す。その頬の赤みは少なくとも、岩盤浴によるものとは別の要因があるように見えた。

 

「うつ伏せで温めたあとは、後向けに寝転んで15分ほどゆっくり汗をかきます」

「ふぅ……なっ、なんか、じんわり温かくて気持ちいです」

「ええ、本当にいつまでもこうしていたいぐらい心地よいのですが……岩盤浴は汗も多くかくので、15分ほど仰向けで寝転んだあとは、隣の部屋で休憩しつつ水分を補給します。15分ほど休んだらまた岩盤浴に来てという繰り返しですね」

 

 有紗の説明に頷きつつ、ひとりは仰向けに寝転んで岩盤浴の温かさに気持ちよさそうな表情を浮かべる。出てくる汗も不快なものではなくサラッとしており、全身がリラックスしているような心地良さがあった。

 

(……これ、結構好きかも。なにより専用ルームばっかりで、他の人が居なくて有紗ちゃんとふたりだけなのが安心できる。い、いや、セレブ御用達みたいな場所だからこそだろうけど……コミュ症の私としては、ありがたい)

 

 人見知りのひとりにとっては、スタッフであっても多く居ると委縮してしまう。有紗はその辺りもよく分かっているので、おそらく事前にあまりスタッフが付かないように話を通してくれたのだろう。岩盤浴などの入り方についても有紗が説明してくれており、ひとりとしては緊張することなくリラックスできていた。

 有紗の気遣いを嬉しく思い、口元に小さく笑みを浮かべながらぼんやりと思考を巡らせる。

 

(こうやって、有紗ちゃんとふたりでのんびり過ごせるのは……好きだなぁ。有紗ちゃん優しいし、一緒に居て安心できるし……)

 

 そんなことを考えていたからだろうか、寝転がってたひとりの手は無意識に動いて、隣で同じように仰向けに寝転んでいた有紗の手に触れる。

 それに気付いた有紗は一瞬キョトンとした表情を浮かべたあとで、穏やかに微笑みながら口を開いた。

 

「……また、手を繋ぎますか?」

「はぇ? あっ、え!? す、すす、すみません! あ、あれ、なんか変な癖になってたというか、有紗ちゃんと手を繋いでると安心できるから無意識にというか……ああもうっ、えと、つつ、つまりこれはその……」

 

 完全に無意識で有紗の手を取ろうとしていたことに気付き、ひとりは赤い顔で慌てたように告げるが、それを見た有紗はどこか楽しそうに微笑みながら、ひとりに見えるようにスッと手を差し出した。

 

「なにも、問題ないのではないでしょうか? 私はひとりさんと手を繋げるのは幸せなので、嬉しいですよ」

「……うっ、あ、有紗ちゃんはすぐそうやって恥ずかしいことを平気で……うぅぅ……」

 

 隠すことなく真っ直ぐに好意を向けてくる有紗に対し、ひとりはより一層顔を赤くしつつ……それでもどこか、有紗らしいと感じながら……有紗が差し出した手を少し強めに握ってから、恥ずかしそうに顔を逸らした。

 

「……がっ、岩盤浴って……暑いですね」

「ふふ、はい。たしかに今日の岩盤浴は、いつもより暑いかもしれません。ですが、私はこの暑さも嫌いではないですよ」

「……あっ、私も……嫌いでは……ないです」

 

 岩盤浴によるもの以上の温もりを繋いだ手に感じながら、有紗とひとりはどこか気恥しくも心地よい温もりの中で、しばしふたりきりの時間を楽しんだ。

 

 

 

 




時花有紗:ひとりとのんびりふたりっきりの時間を楽しんでいる。思い付きでの行動ではあったが、今後もたまにこうして一緒に来たいなぁと思っている。

後藤ひとり:順調に有紗との距離感がバグっており、普通にイチャイチャしてきてる感じがするぼっちちゃん。
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