ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

31 / 211
十六手躊躇の申し込み~sideB~

 

 

 2学期が始まりひとりが通う秀華高校では、10月1日と10月2日の2日間にかけて行われる文化祭である秀華祭に向けてHRでクラスの出し物を話し合っていた。

 とはいえ持ち前のコミュ症で学校内でも喜多以外に友達と呼べる相手のいないひとりは、積極的にHRに参加することは無く……もとい、一致団結という彼女にとってのトラウマワードが出た時点で意識を飛ばし、しばし妄想をしている間に、出し物は決まってしまっていた。

 ひとりのクラスである2組の出し物はメイド執事喫茶に決定し、女子は全員メイド服を着ることに決まった。

 

(わ、私がメイド……む、無理、戦力外過ぎ……あっ、有紗ちゃんは絶賛してくれそうな気も……褒めてはくれる。有紗ちゃん優しいし、絶対褒めてくれる……それは間違いない)

 

 メイド服着用という言葉に再び意識を飛ばしかけたひとりだったが、己がメイド服を着た場合、明らかに喜んでくれそうな相手が思い浮かんでそちらに意識が向いた。

 

(ま、まぁ、その、有紗ちゃんに見せるだけなら別に……着ても……その、喜んでくれたら嬉しいし……で、でも、メイド姿で接客は……うぅぅ)

 

 そんなことを考えていると、文化祭2日目に行われるステージでの出し物について、個人で参加を希望する人は用紙に記入して生徒会前の箱に入れるようにという話が出た。

 そもそもひとりがギターを始めたのは、人気者になってチヤホヤされたいという動機が発端であり、文化祭でのライブはある意味憧れの舞台のひとつだった。それこそ妄想の中で1000回以上ライブを行うほど……だから、だろうか? HRが終わって気が付いた時には、彼女は生徒会室前の専用BOXの前に申し込み用紙を持って立っていた。

 

(え? あれ? なんで私生徒会室の前に……何この紙? バンド出演希望……結束バンド!? う、うわぁぁぁぁ!? 私、いったいなにを!!)

 

 気づかぬ内に申し込みかけていたことに慌てたひとりは、用紙を持って即座にその場から逃げ出した。

 

 生徒会室からある程度離れた廊下で、ひとりは自分が書いたであろう申し込み用紙をジッと見つめながら思考していた。

 

(……個人ステージ……出たいって気持ちはあるけど……まだSTARRYですらロクにライブをしてないし、勇気が……)

 

 文化祭のステージに結束バンドのメンバーと一緒に立ちたいという思いは間違いなくあるが、それでも己が普段通っている学校の文化祭においてライブをやる勇気は沸いてこず、悶々とした表情で用紙を見つめ続けていた。

 

「あれ? 後藤さん? なにしてるの?」

「あっ、き、喜多さん! なな、なんでここに……」

「たまたま通りがかっただけだけど……その用紙ってもしかして、個人ステージの申し込み?」

「あわわわ!? ここ、これはその、えっと……」

「いいじゃない! 私も出たいと思ってたのよ!」

「うぐっ……」

 

 たまたま通りがかった喜多は、ひとりが手に持っていた用紙を見て明るい笑顔を浮かべて告げる。その勢いに押されて顔を青ざめさせつつも、ひとりは慌てた様子で告げる。

 

「あっ、いや、えっとこれはその、一時の気の迷いといいますか……」

「後藤さんは、個人ステージに出たくないの?」

「……あっ、いや、えっと……出たくないわけでは無いですが……でもでも、私みたいな陰キャが文化祭の、すす、ステージなんて無理で……そもそも、虹夏ちゃんとリョウさんは他校ですし……」

「きっとふたりもOKしてくれるわよ! それに、時花さんも喜んで見に来てくれるわよ!」

「……あっ、有紗ちゃんが……喜んで……うっ、うぅぅ……」

 

 有紗という言葉を聞いて、ひとりは先ほどまでより迷いの強い表情を浮かべる。先ほどまではどちらかといえば否定的な……「出たいけど無理」というような思考に寄っていたのだが、有紗の存在はひとりにとってかなり大きく、有紗の名前が出たことで出たいという気持ちが強くなりつつあった。

 

「……あっ、えと、す、すみません。猶予を……どうか、考える時間をください」

「そっか、まぁ、無理強いするものでもないしね。あっと、ごめんね。私友達と約束があるから、そろそろ行くわね」

「あっ、はい。すす、すみません。時間をとらせて」

「……後藤さん、私は賛成だからね!」

 

 そう言って笑顔を浮かべたあとで、喜多は軽く手を振りながらひとりと別れて校門に向かった。そしてその途中でスマートフォンを取り出した。

 

(後藤さん、だいぶ迷ってるみたいだった。たぶんこの状況を解決できるのは、時花さんぐらいかな? 明らかに時花さんの名前を聞いて、迷ってるみたいだったし……)

 

 出たいけど勇気が出ないという状況のひとりの背中を押すことができるのは、有紗を置いて他には居ないだろうと判断した喜多は、有紗に簡単な事情を説明したロインを送り、ひとりの相談に乗ってあげて欲しいとお願いした。

 できれば上手く行って、文化祭のステージに結束バンドのメンバーで立てることを願いつつ……。

 

 

****

 

 

 バイトの為にSTARRYにやって来たひとりだったが、表情は浮かないままで申し込み用紙を手に持って見つめていた。

 すると同様に学校が終わって来た虹夏とリョウが現れ、ひとりの様子を見て首を傾げた。

 

「あれ? ぼっちちゃん、どうしたの? なんか浮かない顔だけど……」

「あっ、虹夏ちゃん、リョウさん……いっ、いえ、これはその……」

「なにその紙……文化祭ライブの申し込み?」

「あぅ、そっ、その……実は……」

 

 リョウの言葉にひとりはポツポツと事情を話し始めた。文化祭の2日目に個人ステージの申し込みが可能であり、そこに結束バンドで出たいという思いがあるが迷っていると……。

 

「なるほど、いいじゃん! 出ようよ。私もリョウとは文化祭ライブ出たことないし、出たいな~」

「えっ、そうなんですか?」

「バンド組んだの最近だし、うちの学校厳しいからそういうの無いんだよ。中学の頃はお互い別のバンドしてたしね」

「私もオリジナル曲をハコ以外でライブしたいし賛成……ちなみに私は中学の時に文化祭ライブに出て、マイナーな曲弾いて会場お通夜にしてやった」

「なんで誇らしげなんだよ……」

 

 文化祭ライブに乗り気な様子の虹夏とリョウを見て、ひとりは再び悩むような表情を浮かべる。するとそこに星歌やPAも近づいてきて話に入って来た。

 

「まぁ、迷ってるぐらいなら出た方がいいと思うぞ。一生に一度の青春の舞台だしな」

「ですね~きっとなるようになりますよ~」

「……お姉ちゃん文化祭ライブなんてしたことないじゃん」

「そもそも高校自体ロクに行ってないしな」

「私は中退でーす」

「……ふたりともよくそれで、堂々とした顔で話に入ってこれたよね……」

 

 話に入って来たわりにはまったく戦力にならなかった大人ふたりに、虹夏がなんとも言えない呆れた表情を浮かべる。

 そのタイミングで、リョウがひとりに穏やかな口調で話しかけた。

 

「ぼっちの迷ってる気持ちもわかる。下手したら……というか、絶対ハコより多い人数の前で演奏するわけだし不安になって当然……正直、お通夜状態になった文化祭ライブは今でもたまに夢に見る。地獄だった」

「トラウマになってるじゃん……リョウはぼっちちゃんを慰めたいのか追い詰めたいのか……けど、まぁ、無理して出る必要も無いよ。それこそ機会なら来年だってあるわけだしね。ぼっちちゃんが後悔しない選択が一番だと思うよ」

「虹夏ちゃん……そっ、そうですね。後悔……でも……」

 

 今年は見送って来年出場する方法もあると、ひとりの不安を和らげるように笑顔で告げる虹夏を見て、ひとりは少し表情を明るくしつつもまだ悩んでいる様子だった。

 根底としてひとりには結束バンドのメンバーと文化祭ライブに出たいという思いはあり、それはひとり自身も自覚している。

 つまり、現状のひとりに必要なのはあと一歩を踏み出すための勇気であり……彼女にはそういった時に決まって背を押してくれる心強い存在が居た。

 

「こんにちは、皆さん」

「あっ、有紗ちゃん!」

 

 STARRYを訪れた有紗を見て、ひとりはパァッと明るい表情を浮かべた。いま、まさに会いたいと思っていた相手……いつもひとりの背を押してくれる大好きな友達。

 喜多から話を聞いたという有紗は、優しい微笑みでひとりの相談に乗り、そして……。

 

「いまから私はとてもズルいことを言います」

「え? ずっ、ズルいこと、ですか?」

「はい。とってもズルいことです……ひとりさん、私はひとりさんと結束バンドの皆さんが文化祭のステージで演奏するのを見てみたいです。なので、ひとりさんが怖がっているのも分かった上で、私の欲望を優先してお願いしてしまいます……ひとりさん、私のワガママを……叶えてくれませんか?」

 

 いたずらっぽく笑いながら告げられたその言葉を聞いて、ひとりは目を見開いた。彼女とて馬鹿ではない。有紗のこの言い回しが、文化祭ライブに出るためのあと一歩の勇気が出ないひとりの背中を押すためだというのも分かっている。

 だが、たとえそうだとしても、彼女にしてみれば滅多にない有紗のワガママ……いつも優しく自分を支えてくれる大好きな友達の願いを叶えないなどという選択肢を選べるわけがなかった。

 

(……本当に有紗ちゃんは……ズルいなぁ……ズルくて優しいよ)

 

 思わず目の奥にジーンとした痺れを感じながらひとりは小さく苦笑をして、有紗の目を見つめ返しながら口を開く。

 

「……ほっ、本当に、凄くズルいです。あっ、有紗ちゃんにはいつもいっぱい助けてもらってますし、お世話になってますし……そんな風にお願いされたら、断れないです」

「はい。私はこう見えてとてもズルい女なので、嫌がるひとりさんに無理やりワガママを聞いてもらおうとしています。私の為に、頑張ってくれませんか?」

「……はい。有紗ちゃんの願いなら、叶えてあげたいですし……がっ、頑張ってみます」

 

 不思議なものだった。先ほどまではアレだけ尻込みしていて、どうしても踏み出すことができなかった一歩……だがそれが、有紗のために頑張ると思えば、どうしようもなく簡単に踏み出せるような気がした。

 

 

****

 

 

 一夜明けた翌日、登校してすぐにひとりは生徒会室前の専用BOXに向かった。そして昨日は出せなかった申し込み用紙を見つめる。

 

(……不安が全部なくなったわけじゃない。いまだって怖いし、失敗したらって不安もある……けど、うん。文化祭ライブで頑張る姿を……有紗ちゃんに、見てもらいたいなぁ)

 

 そして有紗を思い浮かべて小さく微笑み、申し込み用紙をBOXに入れたあとで踵を返して廊下を歩きだした。

 そのまま自分の教室に向かっていると、途中でたまたま登校してきた喜多と遭遇した。

 

「後藤さん、おはよ~」

「あっ、お、おはようございます」

 

 軽く挨拶を交わして、そのまま教室の方に向かって歩きつつ……ひとりは、喜多に報告する。

 

「あっ、その……さっき、申し込み用紙を出してきました」

「そっか……決心付いたんだね」

「はっ、はい。その……ありがとうございました。喜多さんが、有紗ちゃんを呼んでくれたんですよね?」

「後藤さんには一番効果的だと思ったからね。それに、私も出たかったしね」

 

 実際喜多が有紗を呼んでくれなければ、ひとりは決心できなかったかもしれない。あるいは、結局申し込み用紙を出すことはできなかっただろう。

 背を押してくれたのは有紗だが、その切っ掛けを作ってくれたのは喜多であり、その気遣いに心から感謝していた。

 

「……素敵な思い出作りましょうね!」

「……はっ、はい! が、頑張ります!」

 

 喜多の言葉にしっかり頷いて、互いに小さく微笑み合ったあとでひとりと喜多はそれぞれの教室に向かっていった。

 

 

 

 




時花有紗:ひとりにとって圧倒的な精神安定をもたらしてくれる存在であり、居ないところでもかなり影響は大きい。有紗が居るとぼっちちゃんの奇行が減り、仮に奇行を起こしてもすぐに有紗が対応するので、傍に居るだけでぼっちちゃんの精神安定感が高くなるバフ持ちといえるかもしれない。

後藤ひとり:有紗の影響で原作より精神が安定しており、生徒会室前で地面に頭突きもしていないし、用紙も捨てなかったし、喜多にも文化祭ステージに出たいという思いがあることを伝えることもできたという感じで、なんだかんだでかなり影響を受けている。メイド服姿も、有紗だけに見られるなら別にいいかなぁと考えているあたり、もう結構フラグが建ってる気もする。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。