ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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十八手悩殺の文化祭1日目~sideA~

 

 

 10月1日。ひとりさんの通う秀華高校の文化祭1日目の日。私は虹夏さんとリョウさんと共にひとりさんの学校を訪れていました。

 結束バンドのライブは明日の10月2日、秀華祭2日目なのですが、文化祭自体は2日に渡って行われるため、今日は遊びに来た感じです。

 そして、ひとりさんのクラスの出し物は1日目がメイド喫茶。2日目が執事喫茶らしく、1日目である今日は……なんとひとりさんがメイド服を着て接客を行うという話なので、見に来ないなどという選択肢はありません。本当にいまから楽しみで仕方がないです。

 

「いや~凄い盛り上がりだね。私やリョウの高校とは全然違うね~」

「こういった行事は特に高校ごとの差が大きい印象ですね」

「ウチはいろいろ厳しすぎてつまらない感じだけど、有紗の学校は?」

「私の学校は入場制限が厳しいですね。在学生の家族か聖真女学院の中等部を受験予定の小学生とその保護者のみしか入場ができません。女子校なので、必然的に保護者以外では女性のみの参加になりますし、入場の際に身分確認などもあります」

「へぇ~やっぱりお嬢様学校だとその辺も厳しいんだね」

 

 虹夏さんとリョウさんの学校も文化祭は校則が厳しく、あまり自由に出店などはできないらしいです。私の学校は、出し物の制限はほぼありませんが、入場制限が厳しいです……無ければひとりさんを招待できたのですが、残念です。

 そんな風に話しながら移動していると、ふと妙な感じがして私は足を止めました。

 

「……有紗ちゃん、どうしたの? ぼっちちゃんの教室はこっちだよ?」

「ああ、えっと……申し訳ありません、先に行っておいていただけますか? 勘違いかもしれませんが、少し気になることがあるので……後ほど合流します」

「え? あっ、ちょっ、有紗ちゃん!?」

 

 断りを入れてから、私はひとりさんの教室がある方向とは全く別の方向に向かって歩き出しました。特に根拠などがあるわけでもないので上手く言葉で説明はできませんが……なんとなく、こちらにひとりさんが居るような……そんな気がしました。

 普通に考えれば、ひとりさんが居るのは自身のクラスに決まっているのですが……ここは直感と、愛の力を信じることにして足を進めていきます。

 

 出店がほとんどなく、文化祭で使用されていない教室が並ぶ人のほとんどいない通路をさらに進み、学校の中庭、あるいは裏庭に繋がるであろう道に辿り着きました。

 周囲に人影はまったく見えず、文化祭の喧騒すら遠くに聞こえる静かな場所ではありますが、やはりなんとなくひとりさんが居る気がします……この通路の先のドア……外でしょうか?

 

 足を進め横開きのドアに近付くと、見覚えのある桃色の髪が見えてきました。後ろ姿であっても私が見間違うことなどあり得ません。アレは間違いなくひとりさんです。しかし、なぜこのような人気のない場所に?

 疑問に感じつつ、扉を開けてひとりさんに声をかけます。

 

「……ひとりさん」

「ひゃぅっ!? あっ、ああ、有紗ちゃん!?」

「なぜこのような場所……に……」

「……有紗ちゃん?」

 

 なぜこのような場所に居るのですかと、そう問いかけようとしましたが、その言葉の途中で私の思考は塗りつぶされ言葉を失いました。

 私の声に振り返ったひとりさんは、エプロンドレスを付けたメイド服を着ており、その姿は私の思考を一瞬で吹き飛ばすほどの破壊力を備えていました。

 

「……か……か……」

「か?」

「可愛すぎます!」

「はぇっ!?」

「な、なな、なんですかこの愛らしさは……こ、こんなに可憐な生物が地球上に存在していていいのですか? 可愛らしさの限界値を越えてしまっているのではないでしょうか」

「え? あっ、有紗ちゃん? きゅっ、急になにを……」

「私は正直、メイド服というものを見くびっていたのかもしれません。多少の差異こそあれど、仕事着ですし割と見慣れたものであるという認識がありましたが、着る人によってここまで劇的な変化があるとは思いませんでした」

「……こっ、これ、たぶん、心の声的なやつですよね? あっ、あの、有紗ちゃん? 全部口から出てるんですけど……」

「もしかしたらひとりさんが普段着ているジャージは、一種の枷と言えるのかもしれません。もちろん普段のジャージ姿も愛らしく素晴らしいのですが、他の服装をした時の破壊力たるや筆舌に尽くしがたいと言えます」

「……あの、有紗ちゃん? 聞いてます? 聞いてない感じですね、これ……どっ、どうしよう……」

「いまのひとりさんは、美の化身と称しても過言ではないでしょう」

「い、いや、過言です! 過言過ぎます……美の概念が、助走つけて殴ってくるぐらい過言です」

「叶うのなら今すぐにでもひとりさんを力いっぱい抱きしめて、キスをして、そのまま教会に直行したいところではありますが、以前ひとりさんの私服を見た際にも冷静さを失って暴走してしまい迷惑をかけてしまいました。同じ過ちを繰り返すわけにはいきませんので、ここはグッと堪えなければ……」

「……えっ、えっと……いまのこの状態がすでに暴走のような気が……」

「い、いや、しかし……これだけ愛らしいひとりさんを前にして、暴走しない方が失礼という可能性も……」

「なっ、無いです。手遅れな気がしますが、暴走しないように、頑張ってください」

「はぁ、それにしても、本当になんて愛らしい……フリルが多目のデザインが、ひとりさんの甘く魅力的な容姿にマッチしていて、その美しさを何倍にも高めてくれているようです」

「あっ、あの、有紗ちゃん……その、恥ずかしいので、もうそのへんで……」

「とりあえず、なんとかお願いして写真を撮って……」

「有紗ちゃん!!」

「ッ!?」

 

 頭が真っ白になっていた私でしたが、ひとりさんが大きな声で私の名前を呼んだことで我に返りました。失態でした。つい頭が真っ白になって思考が停止してしまっていました。いや、むしろ思考が巡り過ぎて止まらなかったというか……ともかく、ひとりさんは目の前で沈黙されてさぞ不思議だったでしょう。

 

「申し訳ありません、ひとりさん。長く放心していたのかもしれませんが、つい思考が真っ白になって……」

「あっ、いや、放心というか……その、えっと……思考が口に声に出てましたけど……」

「………‥……え?」

 

 戸惑いがちに告げられたひとりさんの言葉を聞いて、私は再び停止しました。そしてサァッと体から血の気が引いていくような感覚を覚えました。

 

「……あ、あの、ひとりさん? 口に出ていたとは、その、どの辺りから……でしょうか?」

「……あっ、えっと……最初から全部……です」

 

 引いていた血の気が今度は一気に顔に集まってくるような感覚を覚えます。全部口に出ていた? 先ほどまでの思考が? とんでもない大失態です。

 顔から火が出そうとはまさにこのことですが、自身の恥より謝罪が先です。

 

「も、申し訳ありません! ま、まさか、全て口に出ていたとは……失態です」

「あっ、い、いえ、大丈夫です。そっ、その、有紗ちゃんでもそういう失敗をすることがあるんだなぁって、ちょっと新鮮でした」

「お恥ずかしい限りです……ただ、全て嘘偽らざる本心なので、問題が無いと言えばないですね」

「きっ、切り替え早っ……そして、相変わらず羨ましいぐらいにメンタルが強すぎです」

 

 失態を犯したのは恥ずかしいですが、口にしたことは全て本心であり、むしろ私の気持ちをストレートに知ってもらえたという意味ではプラスでもあります。

 実際にひとりさんの愛らしさは凄まじいですし、いまこうしているだけでも眩しすぎて目を細めてしまいそうなほど輝いて見えます。

 とはいえ、いつまでもひとりさんの美しさに魅了されているわけにも行きませんね。

 

「……私のせいで脱線してしまいましたが……ひとりさん、どうしてこのような場所に?」

「あっ、じ、実は、メイド服を着て接客って考えると恥ずかしくなって……無意識に嘘ついて逃げてきてしまいました」

「そうだったんですか……」

「あっ、で、でも、その……なんか、有紗ちゃんの顔見て、さっきの反応を見たら……ちょっと落ち着いてきました」

 

 そう言って苦笑するひとりさんからは、確かに暗い雰囲気は感じず、どこか楽しそうにも見えました。

 

「……あっ、そういえば、有紗ちゃんはなんでここに?」

「虹夏さんとリョウさんと一緒に来たのですが、なんとなくひとりさんがいるような気がしたので途中で別れてこちらに……」

「なっ、なるほど? けっ、けど……こうして、有紗ちゃんに会えて安心しました。あっ、そそ、そうだ。迷惑かけちゃうし、教室に戻らないと……」

「それなら、一緒に向かいましょうか。虹夏さんたちも行ってるはずですしね」

「……はい! あっ、で、でも、その……その前に……」

 

 ひとりさんはそこで言葉を止めて、少し恥ずかしそうな表情を浮かべながら私の方を向いて口を開きました。

 

「あっ、あの、ちょっとだけ……手を繋いでも、いいですか? あっ、有紗ちゃんと手を繋ぐと、安心できるので……」

「はい。もちろんですよ。私もここまで歩いて来て少し疲れたので、戻る前に少し座って休憩をしましょうか」

 

 ひとりさんの要望を断る理由などなく、私は微笑みを浮かべてひとりさんの手を取り、扉の前の段差に並んで座りました。

 どこか安堵したように微笑むひとりさんを見て、胸の中に温かな気持ちが湧き上がってくるのを感じていると、スマートフォンがロインの通知を鳴らしたので確認すると、虹夏さんからでした。

 

『ぼっちちゃんが、教室から消えたみたいなんだけど……有紗ちゃん、知らない?』

 

 という内容だったので「ひとりさんならいま私と一緒に居ますよ」と返信した上で、場所も教えるとメッセージが返ってきました。

 

『やっぱり! 有紗ちゃんが急にどこか行ったから、もしかして~って思ったんだよね』

『申し訳ありません。根拠は無かったのですが……なんとなく、ひとりさんが居るような気がしたので』

『有紗ちゃんってぼっちちゃん関連だと、本当にエスパーじみてるよね。愛の力って凄いなぁ……まぁ、とにかく今から喜多ちゃんとリョウとそっち向かうから、そこで待っててね』

 

 とのことだったので、どうやらすぐに動く必要はなさそうです。虹夏さんたちが到着するまでの間は、ここでひとりさんとゆっくり過ごすことにしましょう。

 

「ひとりさん、虹夏さんたちがこちらに来るみたいなので、皆さんが来るまでこのまま待っていましょう」

「あっ、はい」

 

 そのまま虹夏さんたちが到着するまでの間、静かな場所でふたりっきり……手を繋ぎ合って心穏やかな時間を過ごしました。

 

 

 




時花有紗:愛の力によりぼっちちゃんを超速発見。ほぼ迷いなく勘のみで辿り着くというエスパーじみたぼっちちゃん捜索能力を保有。メイド服を着たぼっちちゃんの可愛らしさに暴走して、珍しく慌てたり恥ずかしがったりしていたが、例によって鬼つよメンタルなので速攻持ち直した。

後藤ひとり:メイド服を着て恥ずかしかったのだが、有紗の絶賛や暴走っぷりを見ているとなんかどうでもよくなって気持ちが楽に……有紗の精神安定効果が凄まじい。そのあとで有紗に甘えるような行動をとっているあたり、ラブ度が高まってきた気がする。

美の概念:いや、殴らんよ。百合は美しい……それが真理だ。
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