ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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十八手悩殺の文化祭1日目~sideB~

 

 

 秀華祭の1日目、ひとりが己のクラスから逃げ出すというトラブルは、愛の力という名の超能力じみたひとり捜索能力を持つ有紗によって早々に解決した。

 虹夏、リョウ、喜多の3人も合流し5人でひとりのクラスに向かう傍らに他のクラスの出し物や模擬店などを楽しみつつひとりのクラスに到着すると、ひとりのクラスメイトの女子たちが出迎えて、メイドとしてクラスの仕事に戻り、有紗たちは案内された席に座っていた。

 

「後藤さんのクラス気合入ってますね~」

「皆可愛いね……そして、有紗ちゃんのこの貫禄だよ。設定としてじゃなくて、マジモンのお嬢様感が半端じゃないよ」

「というか、有紗なら家とかでお嬢様って呼ばれてそう」

「……確かに、呼ばれていますね」

 

 実際のところ有紗の家には使用人も多く居る。メイド喫茶に来るまでもなく、家にメイドは居る環境である。それも影響してか普通に座っているだけなのに、妙な気品があり元々の美貌もあってそれなりに注目を集めていた。

 尤も当の有紗が注目しているのはひとりだけであり、現在も教室の外で看板を持っているひとりを心配そうに見ていた。

 

「……ひとりさん、先ほどから立ったままたびたび気を失ってるみたいですが、大丈夫でしょうか?」

「おかしいな? 私たちにはぼっちちゃんの後ろ姿しか見えないんだけど……」

「でも、確かに有紗の言う通り立ったまま気絶してる……あっ、ヤバい」

 

 リョウの言葉の途中で看板を持って立つひとりの前に世紀末的風貌のふたり組が現れた。そして、そのふたり組のうちの片方が、ひとりにある言葉を投げかけたことで彼らの運命は決した。

 

「お譲ちゃーん、看板持ちしてるぐらいなら俺らと遊ばな――ッ!?」

 

 そんなナンパの常套句とも言える言葉を投げかけながらひとりに対して、ガンを飛ばした直後、背筋に氷の塊が張り付いたかのような寒気を感じた。

 

「……ひとりさんをナンパするというのでしたら、まず私に話を通していただきましょうか……」

「「ひっ……」」

 

 生物としての根源的恐怖を掻き立てるような濃厚な怒りと、押し潰されそうな重圧を放ちながらスッとひとりの隣に有紗が現れた。

 口元には穏やかな笑みを浮かべているが、目は欠片も笑っておらず周囲の空気が2度は下がったと錯覚するような冷たさがあった。

 

 男たちはいま直感的に理解した。己たちが分水嶺に立っていると……いまこの目の前に立つ女性はその気になれば己たちに容易くこの世の地獄を見せられるだけの力を有している。ここで選択を誤れば、物理的にも社会的にも叩き潰されると、頭で理解する前に本能が理解した。

 男たちの判断は早かった。流れるような……いっそ美しさすら感じるほどに流麗な動きで地面に両手を突き、深々と頭を下げた。

 

「「……も、申し訳ありませんでした」」

「分かってくださればいいのです。私の方こそ、怖がらせて申し訳ありませんでした。マナーを守って、文化祭を楽しんでくださいね」

「「お、押忍!」」

 

 男たちが謝罪したことで有紗は怒りを消して優しく微笑んだ。そこにはもう重圧も怒りも無かった。男たちは再び深々と有紗に一礼したあとで去っていった。

 

「……ひとりさん、大丈夫ですか?」

「んはっ!? あっ、有紗ちゃん? あれ? えっと、いまなにが?」

「ああいえ、なんでもないですよ。それより私たちの注文を取っていただいてもよろしいでしょうか?」

「あっ、はい」

 

 気を失っていたひとりはいまなにがあったかは知らず不思議そうな表情を浮かべており、有紗も特になにかを言うことは無くひとりと共に虹夏たちの居る席に戻った。

 すると、その席ではリョウがなにやら青ざめた表情を浮かべており、有紗が戻ってくるとビクッと肩を浮かせた。

 

「あっ、そそ、その、いま私はぼっちからお金は借りてない! ほ、本当に!」

「う、うん?」

「気にしないでいいよ。なんか、トラウマなんだってさ」

 

 明らかに怯えている様子のリョウを見て首を傾げる有紗に、虹夏が苦笑しながら気にしなくていいと告げる。流石の有紗も、まさかリョウが有紗に怒られる夢を見た結果、怒った有紗に軽いトラウマを持っているとは思い至らない。

 首を傾げつつも有紗が席に座るとひとりが注文を取りにきた。

 

「あっ、えっと、ご、ご注文は……」

「えっとね……う~ん、てか、それにしてもぼっちちゃんメイド服似合ってるね~」

「後藤さんはこういう甘い系の服似合いますね~」

「ね~」

 

 ひとりのメイド服姿を絶賛する虹夏と喜多、そしていつもの調子を取り戻して足元から頭まで値踏みするように視線を動かすリョウ。

 

「…‥ふむふむ」

「どっ、どうしました?」

「ビジュアル方面で売り出すのもありか。ぼっちはダイヤの原石――」

「リョウさん?」

「――あっ、嘘です。ごめんなさい」

 

 しかし、有紗にひと睨みされると即座に発言を撤回した。よほど、怒った有紗は恐ろしいらしい。

 

 その後改めて注文となり、名前が違うだけでオムライスのみの載ったメニューからオムライスを選ぶ。冷凍食品を使っているからか、さほど時間がかかることもなくすぐにひとりが4人分のオムライスを順に運んできた。

 

「あっ……ふわ☆ぴゅあとろける魔法のオムライスです」

「すいませ~ん、この美味しくなる呪文ってやつ、ひとつくださ~い」

「えっ、いや、それは……」

「……美味しくなる呪文? そのようなものがあるのですか?」

「有紗ちゃんは知らないかもだけど、メイド喫茶の定番ってやつだね~」

「そうなんですか? 興味深いですね。よろしくお願いします、ひとりさん」

「……あっ、はい」

 

 ニヤニヤと意地の悪い笑みで頼んでくる虹夏……ひとりとしてはその呪文は恥ずかしくてやりたくはないのだが、頼みの綱の有紗もメイド喫茶自体をよく知らないため、どういうものかを理解できていない。

 虹夏の説明でそういうものがあるのだと認識して、ひとりに笑顔で頼んできた……そうなってしまうともう、ひとりに逃げ場はなく、諦めた表情で手でハートを作り呪文を行う。

 

「あっ……ふわふわ……ぴゅあぴゅあ、みらくるきゅん……オムライス美味しくなれ……へっ」

 

 どんよりとした雰囲気の呪文が終わり、食べ始めるが虹夏とリョウと喜多は微妙そうな表情を浮かべた。

 

「……パサついてる」

「あっ、冷凍食品なので……」

 

 どうやら3人にはひとりの呪文は効果を及ぼさなかった……そう虹夏とリョウと喜多には……もうひとりは、まったく違った。

 

「素晴らしいです! 一般的な冷凍食品が、創意工夫によってここまで味のレベルを上げることができるのですね! まさに魔法です!」

「……ひとりだけ滅茶苦茶魔法効いてる子が居る!?」

「物凄く嬉しそうに食べてますね。ま、まぁ、特殊な例は置いておいて、後藤さん! もっと愛情込めて唱えないと駄目よ! こんな感じ――ひっ!? あっ、待って、時花さん。大丈夫だから! 伊地知先輩とリョウ先輩のお皿にだけするから……時花さんの皿には少しも飛ばない様に注意して魔法をかけるから……感情が抜け落ちた目で見ないで……」

 

 美味しくなる呪文を実践して見せようとしていた喜多だったが、直後に有紗が「この極上の料理になにをする気だ?」と言いたげな、熱が消え去ったかのような表情を浮かべているのに気づいて慌ててフォローした。

 喜多の言葉に安心したのか、有紗は再び表情を綻ばせてオムライスを上品に食べ始めた。どうやらひとりの呪文は、有紗に対してのみ桁外れの効力を発揮する特効魔法だったようである。

 

 

****

 

 

 メイド喫茶での食事が終わると、丁度ひとりのクラスの女子で喜多と知り合いの子が喜多にメイド喫茶を手伝ってくれないかとお願いし、喜多がそれを快く了承。

 さらに喜多の提案で有紗、虹夏、リョウもせっかくの機会だということでメイド服を着てみることになった。そして、現在……メイド喫茶内は異様な静寂に包まれていた。

 

「……あの?」

「だ、駄目だこれ……」

「駄目ですね」

「……似合いませんか?」

 

 メイド服に身を包んだ有紗を見て、虹夏と喜多が引き攣った表情を浮かべており、有紗が不安そうに首を傾げるが……ふたりが引き攣った表情を浮かべている理由は逆だった。

 そもそもの顔が凄まじくよく、姿勢やプロポーションも整っている上に、銀髪金目という神秘さを感じる絶世の美少女である有紗がメイド服を着ると、その破壊力たるや周囲の視線を釘付けにするほどであった。

 

「いや逆……似合い過ぎてて怖い。どれだけ神様に依怙贔屓されたら、こんなことになるのか……眩しくて直視できない!」

「な、なんか、貴族の令嬢が社会勉強してるみたいな高貴な雰囲気が……まったくそんな気は無い私でも、いまの時花さんを見てるとドキドキしちゃうぐらい眩しい!」

「有紗をビジュアル面で売り出したら、凄いことになりそう……怖いからできないけど」

 

 ともかく見た目がよすぎる有紗に、普段からよく見ているはずの虹夏と喜多とリョウでさえも圧倒されており、ひとりのクラスメイトの女子などもあまりのビジュアルに戦慄していた。

 

「……あの3人のビジュアルも凄いはずなのに、全部消し飛ぶほど眩しすぎる。オ、オーラが、オーラが凄い……あの、ちょっとだけ手伝ってもらったりしてもいいですか?」

「ええ、かまいま――」

「だっ、駄目です!」

「――ひとりさん?」

 

 ひとりのクラスメイトが有紗にメイド喫茶を手伝ってくれないかと尋ね、有紗が了承しかけたタイミングで赤い顔で慌てた様子のひとりが割って入った。

 

「こっ、ここ、この状態の有紗ちゃんが接客とかしたら、お客さん全部有紗ちゃんに集まっちゃいますし! 有紗ちゃん目当てのお客さんとかいっぱい来ると思うので、だだ、だから、有紗ちゃんの負担が大きくなりますし……だっ、駄目です!」

 

 コミュ症のひとりにしては珍しく、やや大きめな声かつハッキリと駄目だと言い切っており、その普段とは違う反応を見た虹夏はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「……ぼっちちゃん、嫉妬?」

「なぁっ!? しし、嫉妬とかそんなんじゃないです!!」

「可愛い有紗ちゃんを、あんまり他の人に見られたくないんでしょ~?」

「そそ、そうじゃなくて、あっ、ああ、あくまで有紗ちゃんの負担がですね……とっ、とにかく、駄目なものは駄目なんです!」

「……ふふふ、そういうことらしいので、申し訳ありませんがお手伝いはお断りさせていただきます」

 

 顔を真っ赤にして反論するひとりを見て、嬉しそうに微笑んだあとで有紗は丁重に手伝いを断った。すると虹夏も軽く頷き、ひとりのクラスメイトに声をかける。

 

「というわけだから、ごめんね~」

「いえ、私そういうのには理解がある方なので……むしろグッドです」

「あはは、有紗ちゃんには及ばないかもしれないけど、私たちでよかったら手伝うよ。接客はバイトでやってるから得意だしね」

「ありがとうございます! 助かります!」

 

 結果として有紗は手伝うことは無く、虹夏、リョウ、喜多の3人が模擬店を手伝うことになった。メイド服から私服に戻った有紗は顔から湯気を出しているひとりの元に近付き、穏やかに微笑みながら告げる。

 

「ひとりさん、心配してくれてありがとうございます」

「あっ、うぅ……」

「実のところ、私もあまり乗り気ではなかったのですが、断り辛い雰囲気だったので、ひとりさんがああ言ってくださって助かりました」

「あっ、そ、そうなんですね……それなら、よかったです」

 

 特大の羞恥の中にあるであろうひとりに穏やかにフォローを入れてから、有紗は模擬店を手伝っている虹夏たちの様子をみる。

 その横顔を見ながら、ひとりはなんとも言えない大きな混乱の中にあった。

 

(うっ、うぅ、な、なんで、私あんなことを……い、いや、別に嫉妬とかじゃなくて……そ、そう、本当に有紗ちゃんを心配して……ちょっと……ちょっとだけ、なんかモヤモヤした気持ちになったけど……それはたまたま。う、うん。たまたまなんだ……)

 

 ひとり自身先ほどの行動は衝動的なものであり、なぜそんなことをしてしまったのかハッキリと説明することは難しかった。

 顔が沸騰するのではないかと思うような恥ずかしさと共に、ひとりはぐるぐると巡る思考にしばし頭を抱えていた。

 

 

 




時花有紗:大体何着ても似合うほどに顔面戦闘力が異常。ひとりが気絶しながら接客しているさいには心配そうにしつつも、クラスの模擬店にあまり余計な口出しはすべきではないと静観していた……ただし、ひとりをナンパしようとするのは許さない。

後藤ひとり:なんかモヤモヤしちゃったぼっちちゃん。周りはニヤニヤである。たぶん原因となったのは喜多の「その気のない私でもドキドキしちゃう」という発言である可能性が高い。魔法の呪文は有紗に対してのみ超特効。

山田リョウ:実際直接怒られたことは無いが、有紗の怒りがトラウマである。

ひとりのクラスメイトのモブ子:百合に理解のあるモブ、ひとりの様子を見てサムズアップしていたとかなんとか……。

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