ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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二十六手課題の記者襲来~sideA~

 

 

 11月に入りそろそろ冬が近づいてきたのか肌寒くなってきた印象です。今日は結束バンドのライブ日でもあります。

 10月下旬にもライブを行い、そちらもなかなかの盛況具合でした。喜多さんのボイストレーニングの成果も少しずつ出ている様子で、今後の成長が期待できますね。

 

 ただやはり、課題は残ります。特に新規の客層の取り込みが今後の課題でしょうね。現状結束バンドのライブを見に来る客は、1度目のライブでファンとなってくださった方、日頃からSTARRYによくライブを見に来る常連、文化祭ライブで結束バンドに興味を持ってくれた人……その辺りでしょう。

 一見すると順調にファン数を増やしているようにも見えますが、いま以上のファンを獲得するには外へ露出を増やしていく必要があるでしょうね。そろそろそういったことも提案してみてもいいかもしれません。

 まぁ、ライブ前に言うことではないのでライブが終わったあとに反省会と共に今後の課題ということで話してみることにしましょう。

 

「じゃ~ん! 寒くなってきたのでバンドパーカー作ったよ!」

「おーいいじゃん」

「皆に合わせてちょっとずつ違うよ。有紗ちゃんのは例によって白色だね」

「この格好だと髪は纏めた方が合いそうですね」

 

 ライブ前のミーティングにて、虹夏さんが新しく作ったバンドパーカーを配り、皆で試着します。私も用意していただいた白色のパーカーを着て、ヘアゴムを使って髪をポニーテールに纏めます。

 

「……あっ、有紗ちゃんのビジュアルの強さですよ」

「……なんとか、ぼっちとペア扱いみたいな感じで物販商品に写り込ませられないか……」

「まぁ、でも、有紗ちゃんって結束バンドのファンの人たちにとっては実質5人目のメンバーみたいな扱いなので、物販になんかあっても違和感は無いですけどね」

 

 そんな風に新しいパーカーに関してワイワイと話していると、まだ開店前のはずのSTARRYのドアが開かれました。

 てっきりきくりさんがやって来たのかと思いましたが、現れたのは見覚えのない方でした。

 

「こんにちは~! ばんらぼってバンド批評サイトで記事を書いているものですが、結束バンドさんに取材をお願いしたく~あっ、あたしはぽいずんやみ14歳で~す」

 

 記者の方でしょうか? パッと見た印象では20代中盤ほどに見えますが、年齢に関してはあまり突っ込むべきではないでしょう。名前はペンネームですかね。

 突然現れたやみさんにPAさんがにこやかな笑顔で近付いてアポの確認をしています。日頃きくりさんの襲来などで慣れているのか落ち着いた対応です。

 

 やみさんは下北沢で活動中の若手バンドの特集記事を書くために取材に来たらしいですが……少し妙ではありますね。

 正直結束バンドの知名度は低いと言っていい現状で、取材の申し込み……他に意図がありそうな気がしますが、それほど悪そうな人ではないですし、虹夏さんたちも乗り気なのでそこまで大きな問題にはならないでしょう。

 そう思いつつ、取材を受ける皆さんを眺めます。

 

「今後の結束バンドの目標は?」

「メジャーデビュー!」

「エンドース契約してただで楽器貰う」

「皆でずっと楽しく続けることかしら」

「あっ、世界平和……」

 

 虹夏さん、リョウさん、喜多さん、ひとりさんの返答……見ごとにバラバラです。ひとりさんに関しては、初対面かつ勢いの強い相手ということで、心を閉ざしているだけですが……。

 そう思っているとやみさんは、やや引き攣った笑顔で私の方を向いて口を開きます。

 

「皆さん、夢がいっぱいで素晴らしいですネ」

「そうですね。個人の夢は様々ですが、結束バンドというバンド自体の目的としてはメジャーデビューということでいいと思います」

「なるほど! では、その目標に向けてこれまでどんな活動を?」

「え? ああ、そうですね。結束バンドはまだ結成1年に満たない若いバンドですので、ここまではバンドそのものの安定化を重視してきました。そういう意味合いでは、メジャーデビューに向けた活動はむしろこれからといったところです」

「ふむふむ」

 

 ……まずそもそも、私は正式に結束バンドのメンバーというわけではないのですが、なぜ私に尋ねてきたのでしょうか? 先ほどのバラバラの返答を聞いたからでしょうか? それにしては少し違和感も……。

 

「今後の活動に当たっての課題などはありますか?」

「やはり経験不足の解消と発信力の向上でしょうかね。これまで結束バンドはほぼこのSTARRYのみでしかバンドを行っていませんし、客層も固定化されつつあります。今後は新たな客層を呼び込むと共に、経験のために他のライブハウスでの活動や、MVなどを用いた動画サイトでの宣伝等に力を入れていくべきと考えています」

「なるほど! よく考えてますね。確かに、昨今は動画サイトなどの影響は大きいですしね。しっかりと先を見据えて活動していらっしゃるのはとても立派です。あっ、次の質問ですが……」

「いえ、あの……私は結束バンドの正式なメンバーというわけでは無いのですが?」

「………………うん?」

 

 続けざまに質問がきたことで、私はある考えに至りました。それはすなわち、やみさんが私を結束バンドのメンバーと勘違いして質問をしているのではと……そして、その予感はどうやら正解だったみたいで、私の言葉に明らかに驚いた表情を浮かべていました。

 こうなってくると、ますます不思議ですね。どうもやみさんは結束バンドのメンバーを詳しく知らない状態で取材をしにきた様子……やはりこれは、他に理由がありそうですね。

 

「……え? だって、ひとりだけ色の違うパーカーで、このえげつないほどに整ったビジュアルで……え? 貴女がリーダーなんじゃ?」

「リーダーはそちらの虹夏さんです。私はサポートなどでお手伝いしているだけで、正式なメンバーというわけではりません。そちらの黒いパーカーの4人が正式なメンバーです」

「あっ、そうなんですか……なんだ……この圧倒的なビジュアルなら変にネタ記事にしなくても……次期メジャーデビュー候補って感じで……特集組めると思ったから予定変えたのに……」

 

 やみさんは私の返答に肩を落とし、こちらには聞こえない小声でブツブツとなにかを呟いたあとで、気を取り直すように笑顔を浮かべて結束バンドの皆さんに取材を再開しました。

 

「し、失礼しました。改めて、今日のライブに臨む心境などは?」

「ファンを少しずつ増やせるように頑張る!」

「物販の売り上げ2割増し」

「お客さんに笑顔で楽しんでもらえるのがいいわね」

「あっ、秘めたる芸術性の表現……」

 

 そして再びのバラバラの返答に、頬を少し引き攣らせた後で、私の方を軽く示しながら呟きます。

 

「……あの、あの人がマネージャーってことで、取材しちゃ駄目……ですよね。あ~方向性は違えど、皆さんやる気に溢れて素晴らしいですネ……あっ、そういえば! そちらのギターの方って、少し前に動画サイトでラブダイブって有名になってた人ですよね!」

「えっ!?」

「なんで、あの時ダイブしたんですかぁ? やっぱり、溢れる愛が抑えきれなかった感じですかね?」

「あっ……えっ……あぅ……」

 

 なるほど、そういうことでしたか。文化祭でのひとりさんのダイブが、ラブダイブとして動画サイトで反響を呼んでいるというのは、以前喜多さんに教えてもらいました。

 私やひとりさんの顔は分からないように配慮されていたみたいですが、その辺りは調べようと思えばどうとでもなるので……それで、結束バンドの話を聞いて取材に来たのでしょうね。

 ……まぁ、それはそれとしては、いまはひとりさんの救出ですね。

 

「……ああ、申し訳ありません。ひとりさんは、かなり人見知りな性格でして、その話でしたら私も当事者なので、私が聞きますよ」

「あっ、有紗ちゃん!」

 

 私が割って入ると、ひとりさんは素早い動きで私の背後に隠れました。

 

「え? 当事者? ああ、言われてみれば動画の相手の女性と髪の色が同じ……あっ、それじゃあ、お話聞いてもいいですか?」

「ええ、とはいってもそれほど大袈裟な話はありませんよ。動画にはダイブ部分しかなかったので分からなくとも無理はないのですが……あの時、ライブで機材トラブルが発生しまして、それを上手く機転で乗り越えて会場が盛り上がったことでテンションが上がった彼女が衝動的にライブハウスの感覚でダイブをしてしまい。たまたま観客席にいた私が受け止めたというものでした」

「……あ~なるほど、確かに文化祭の参加者にダイブは分かりませんよね」

「ええ、ただ偶然ではありましたが状況的に彼女が私に飛びついたように見えたことと、盛り上がっていた空気の中での出来事だったので、面白おかしく拡散された形ですね。私とギターのひとりさんは友人同士ではありますが、恋人等ではありませんよ」

「そうですか、まぁ、真実って大体そんなものですよね。けど、動画サイトで人気が出るのも分かりますよ、あたしも見ましたけど、映画のワンシーンみたいでしたからね」

「ふふ、ありがとうございます」

 

 そう言ったやりとりをしていると、ふと虹夏さんが少し険しい表情を浮かべているのが見えました。どうやらやみさんを警戒しているようです。

 たしかにいまの様子やここまでのやりとりを見ると、やみさんの目的が文化祭でのダイブの件というのは分かりやすいですし、それで警戒をしているのでしょう。

 

「……大丈夫ですよ、虹夏さん」

「え? 有紗ちゃん?」

「確かに、この方も記事を書く上で話題性のある話ということで、文化祭の件を目的に取材を来たのでしょうが……それほど悪い方には見えません。少なくとも、意味なく相手を貶めるような記事を書く人ではないと思いますよ……ですよね?」

「え? ああ、当たり前じゃないですか! こんな見た目ですけど、あたしは音楽には真摯なつもりです!」

「ということなので、大丈夫ですよ」

「……う~ん、有紗ちゃんがそういうなら」

 

 もちろんパッと見た印象で悪い人ではないというのも要因ではあるが……いまの私の発言は遠回しの釘差しみたいなものです。私がこう言って、やみさんがあの返答をした以上、貶めるような記事は書かないでしょう。

 

「それより、皆さん。そろそろライブの準備をする必要があるのでは?」

「あっ、そうだね! すみません、続きはライブ後でいいですか?」

「大丈夫ですよ~。ライブ頑張ってくださいね~」

 

 開店時間が迫っていたこともあり、取材の続きは後ほどということになり、結束バンドの皆さんは控室の方に向かっていきました。

 やみさんはというと、私に軽く一礼したあとで受付の方に向かってしっかり当日券を購入した上で、ライブを見ていく様子でした。

 

 そのまましばらくするとライブが始まり、一番手だった結束バンドがさっそくステージに上がって演奏を開始しました。

 少し気になってやみさんの様子を伺ってみると、やみさんはライブが始まると少し感心したような表情で微笑みを浮かべていましたが……途中でなにかに気付いた様子で、驚愕した表情に変わりました。

 

 これは、少し気になる反応ですね……どうやらまだひと騒動ぐらいはありそうな気がします。

 

 

 

 




時花有紗:なんか結束バンドのリーダーと間違えられた。そりゃ(ひとりだけ色違いのパーカー)そう(圧倒的なビジュアル)なるよ。相変わらずメンタルが鬼つよなので、取材にも特に動揺することなく返答。

後藤ひとり:未知の人種の登場に終始心を閉ざしていた。有紗の背後に隠れている時だけはホッと胸を撫で下ろしていたとか……。

14歳(仮):……あの、この人(有紗)……酷評ポイント全部先回りして潰してくるんですけど……この流れで、私「本気(ガチ)じゃない」とか、言えます? 無理ですよね!?
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