ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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二十六手課題の記者襲来~sideB~

 

 

 ライブ開始前にフリーライターぽいずんやみこと……佐藤愛子の取材というハプニングがあったものの、結束バンドのライブ自体はトラブルなどもなく滞りなく終了した。

 人見知りのひとりも、ある程度ライブを重ねたことでファンなどともある程度会話できるようになっており、一応の成長は見せていた。

 

 ただ、ハプニングはライブ中ではなくライブ後に発生した。

 

「貴女、ギターヒーローさんですよね!」

「ッ!?」

 

 そう、ライブ後の取材のためにライブを見ていた愛子……彼女はひとりの動画サイト上の名義であるギターヒーローのファンであり、それも演奏の癖を記憶しているほどのガチ目のファンだった。

 有紗と同じくひとりがギターヒーローであると知る虹夏がなんとか誤魔化そうとするも、愛子がギターヒーローをこれでもかと称賛したせいで、ひとり本人が嬉しそうな反応をしてしまうという墓穴を掘り正体は発覚した。

 

「へぇ、ぼっちはこんなことしてたんだ。再生数凄い……これは収入も相当……ごくっ」

「この大量の虚言には驚いたけど、アレだけ上手いんだしなにかあるだろうなぁとは思ってたし、驚きは少ないわね」

 

 とはいえ、知らなかったリョウや喜多の反応はアッサリしたものであり、どちらもひとりの高い実力は知っていたので、さほど驚いてはいない様子だった。

 

「なにその反応!? もっと驚いてよ! ギターヒーローさんは凄いのよ。この前だってトゥイッターに友人のピアノって2000万円以上する凄いグランドピアノの写真を載っけてたし、交友関係も超一流よ! 凄いパトロンも付いてるはずよ!」

「……うん」

「そうなんですね」

「だから反応が薄いっ!?」

 

 愛子の言葉に相変わらずリョウと喜多の反応は薄かった。なにせ、その件の凄いパトロンは、現在リョウたちに動画アカウントバレして死んだ魚のような目をしているひとりを慰めており、ふたりもよく知る人物だったからだ。

 2000万以上のピアノと言われても、「まぁ、有紗なら持ってても不思議じゃない」という結論に達するので驚きは少ない。

 結局それ以上ふたりと話していても、埒が明かないと思った愛子は話を切り上げてひとりに近付いて声をかける。

 

「ところで、ギターヒーローさん。さっきのライブはいつもよりかなり調子が悪くなかったですか?」

「あっ、わっ、私人見知りで……バンドだとうまく合わせられなくて、動画は家でひとりで弾いてるので……」

「……なるほど、天才にだって欠点はありますよね! むしろ逆にプラス要素ですよ!」

 

 愛子は本当に心底ギターヒーローのファンらしく、ひとりに対して甘い対応であり、続けて結束バンドのファンたちにもギターヒーローについてを熱く語っていた。

 そしてひとしきり熱く語ったあとで、少し沈黙……先ほどまでの浮かれた表情とは違って真剣な表情を浮かべたあと、改めて笑顔になってからひとりに声をかけた。

 

「……ところで、ギターヒーローさん。バンド抜けてソロで活動するとか、他のバンドに移る気とかありますか? なんなら、私が編集長に掛け合って業界の人を紹介してもらえるように言いますよ?」

「え? ちょっと、それ、どういう……」

 

 突然ひとりに独立したり移籍したりする気はあるかと尋ねる愛子に、虹夏が不安そうに声を上げる。すると愛子は鋭さを感じる目を虹夏に向けて言葉を続ける。

 

「……このまま結束バンドに所属していてギターヒーローさんの才能が腐っちゃわないか、心配なんですよ。メジャーデビューが目標って言ってましたけど、それってどの程度に本気(ガチ)なんですか? デビューさえすれば満足ですか、それともプロとしての実力を身につけた上でのデビューですか?」

「えっ……」

「そもそも、本当にちゃんとギターヒーローさんとの実力差が分かってます? ギターヒーローさんの演奏が安定しないのは、言ってみれば経験不足、場数を踏めば自然と解消されていきます。正直言って私には、ギターヒーローさんが場数を踏んでも、他の3人が足を引っ張って本来の演奏ができなくなるようにしか思えません」

「……そ、それは……」

 

 愛子の告げる言葉に、虹夏は咄嗟に言い返すことができなかった。愛子が指摘した内容は、大なり小なり虹夏たちも感じていたものだったから……。

 ひとりの演奏は回を重ねるごとに存在感を増している。特に楽器屋で見た演奏は圧巻だった……果たしてひとりがライブであの演奏を行った際に、己たちでは付いていけないのではないかという思いは燻り続けていた。

 

「別に貴女たちに才能がないって言ってるわけじゃないですよ。結束バンドはインディーズとしてレベルは高めでしょう。けど、あくまでインディーズとしては……貴女たちレベルであれば、あちこちのライブハウスに掃いて捨てるほど居ます」

「……あっ、ああ……あのっ!」

「……え?」

 

 キツめの言葉を続けようとしていた愛子だが、そこに青ざめてガタガタを震えながらひとりが割って入った。相当勇気を振り絞っている様子で、顔は青ざめており片手で有紗の手を握ってはいたが、ひとりは愛子の目を真っ直ぐに見て口を開く。

 

「……わっ、私は、他に移ったりソロをする気は無いです。にっ、虹夏ちゃんたちは、凄いんです。きっ、きっと、私が本当に心の底から全力を出せるのは、結束バンドでだけだと思うから……だっ、だから……」

「ぼっちちゃん……」

「そう……ですか……」

 

 震えながらもハッキリと他に移る気は無いと告げたひとりを見て、愛子はメモ代わりに使っていたスマホをしまいながら、周りに見えない程度に小さく苦笑した。

 

 

****

 

 

 あの後、閉店時間を理由に星歌とPAによって取材は強制的に打ち切られ、愛子はしぶしぶといった感じでSTARRYから出て歩いていた。

 すると、後方から足音が聞こえ振り返るとそこには有紗が立っていた。

 

「……えっと、貴女は確か……」

「自己紹介はまだでしたね。時花有紗と申します。やみさんとお呼びしてもよろしいでしょうか?」

「いいですよ。それで、なにか御用ですか?」

 

 わざわざ追いかけて文句でも言いに来たのだろうかと愛子が首を傾げながら聞き返すと、有紗は上品な仕草で軽く頭を下げた。

 

「ありがとうございました」

「……えっと……私、結構キツイこと言ったはずですけど? なんでお礼?」

「あえて言ってくださったように感じましたので」

「……」

「ひとりさんと他の3人の実力差については、遅かれ早かれどこかで結束バンドがぶつかる問題でした。今回第三者から指摘されたことは、いい成長の切っ掛けになると思います」

「……変に足掻いた結果、潰れるかもしれませんよ?」

「いいえ、そうはなりません。絶対に……」

「……そうですか」

 

 真っ直ぐに告げる有紗の言葉を聞き、愛子は少し沈黙したあとでフッと笑みを溢した。

 

「……正直言って、よかったですよ。粗削りでしたけど、光るものがいっぱいあって、久しぶりにいいバンドに巡り合ったって気分でした。まぁ、だからこそ漠然とした目標しか持ってないのは勿体ないと思いました……私のことを見返してやろうって、まだまだこれから伸びてくれるって、そう思っていい?」

「ええ、きっと……」

「なら、伝えといてください。今回の取材はまだ記事にしません。またしばらく経ったら改めて見に来るって、そこで私の今日の評価が間違ってると思ったら頭を下げて謝罪してあげますよ」

「分かりました。伝えておきます」

「それでは~」

 

 そう言ったあとでヒラヒラと手を振って愛子は去っていき、それを見送ってから有紗はSTARRYに戻っていった。

 

 

****

 

 

 STARRYからの帰り道、ひとりと一緒に道を歩いていた有紗は、考え込んでいるような様子のひとりに声をかける。

 

「……ひとりさん」

「え? あっ、はい」

「……悔しいですか? あのライターさんを、見返してやりたいですか?」

「……はい」

「そう思えるのなら、きっと大丈夫ですよ」

 

 ひとりの返答を聞いて、有紗は優しく微笑みつつひとりの手を取る。驚いた様子で顔を上げるひとりの目を見つめながら、有紗は優しい声で言葉を続ける。

 

「その気持ちがあれば結束バンドは大きく成長出来ます……あとは、どうやって見返すか、ですね?」

「有紗ちゃん……はっ、はい! そうですね。私ももっと、本来の実力を発揮するだけじゃなくて、成長できるように頑張ります」

「ふふ、ええ、頑張りましょう」

「はい!」

 

 有紗の言葉に力強く頷くひとりの目には確かな意思が宿っており、彼女が精神的にも大きく成長していることを感じさせた。

 そのまま、なんとなく互いに手を離す気にはならなかったので、有紗とひとりは手を繋いだままで再び道を歩き始める。

 

「……あっ、有紗ちゃん。もっ、もし有紗ちゃんさえ大丈夫なら、相談に乗ってくれませんか? その、どうやって見返せばいいかとか……」

「構いませんよ。ですが、電車の時間は大丈夫ですか?」

「え? あっ……そっか、終電が……」

 

 基本的にライブハウスというのは夕方から夜の時間帯に営業するものなので、ライブが終わってからの帰宅というのはどうしても遅い時間になる。

 そして、ひとりの家までは電車で2時間……今日は星歌が気を使って片付けなどを買って出てくれたことで比較的早めではあるが、どこかに寄って話をするような時間は無かった。

 その事に少し落ち込むひとりを見て、有紗は微笑んだあとでスマホを取り出して操作する。

 

「ひとりさんの家まで、車で送ります。そうすれば、移動時間の間はたっぷり相談に乗れますからね」

「え? あっ、そ、そそ、それは嬉しいですけど、有紗ちゃんに迷惑が……」

「残念ながら、もう連絡してしまいました」

「あっ、うっ……行動が早すぎます」

「私がすぐに行動するのは、ひとりさんもよくご存じでは?」

「……知ってます。有紗ちゃんがすぐ動くのも、時々ちょっとズルいのも……物凄く優しいのも……いっぱい知ってます。だからその……あっ、ありがとうございます」

「……ふふ、はい。どういたしまして」

 

 ひとりは有紗の手を握る力を少しだけ強くして、嬉しそうに微笑んだ。先のことに対していろいろ考えるべきことはあるが、それでも有紗が一緒に居てくれれば、どんな困難も打ち破れるとそんな確信があったから……。

 

 

 

 




時花有紗:相変わらず極めて鋭いので、14歳(仮)の思惑にもすぐ気付いて口を挟んだりすることは無かった。

後藤ひとり:ともかく原作と比べて精神面の成長が早いため、あまり親しくない相手にも、ある程度自分の意思を言葉で伝えたりできるようにもなっている(有紗が傍に居てくれる場合に限る)。

14歳(仮):結束バンドが原作より早い段階で成長し始めていることもあって、評価は良かった。ただ、やはりひとりとの本来の実力差は感じたので、成長を願う意味でも厳しめの発言……なお、今回は記事にしないとか言ってしまったおかげで、この後慌てて新しいネタを探して駆け回ることになった。
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