やみさんの一件の後、結束バンドの皆さんはその評価を覆すことを目標に未確認ライオットという、10代アーティスト限定のロックフェスへの参加を決めました。
これは非常にいい傾向です。いままでの結束バンドの目標であったメジャーデビューは、ある意味では抽象的であり漠然とした目標でした。
ロックフェスという明確に時期の定まった目標ができたことは、努力の方向性も定まりやすくさらなる成長も見込めます。
未確認ライオットはデモ審査、ウェブ投票、ライブ審査の三つの工程を経てグランプリを決めるフェスで、その最初のデモ審査までに路上ライブなども含めて努力しつつ、フェス用の新曲を作り上げようという形で纏まりました。
「あっ、それで今度、動画サイトにアップする映像を撮影って話になりました」
「いいですね。動画サイトの宣伝効果は非常に高いですし、MVまでとはいかずともオリジナル曲を演奏している動画を公開するのは、結束バンドの宣伝に大きく繋がりますね」
「あっ、はい、み、皆やる気に溢れていて……私も、頑張ります」
「ふふ、ええ、やる気があるのは素晴らしいです。私もできるだけ協力をしますので、頑張りましょう」
「はい!」
生憎と未確認ライオットの話をしていた際には、私は習い事がありSTARRYには行けていなかったのですが、ひとりさんから話を聞く限り、前向きな方向に進んでいるようで安心しました。
しかし、注意すべきことがあるのも事実です。
「……ひとまず、注意すべきなのはリョウさんの様子ですね」
「え? あっ、リョウさんの? どっ、どうしてですか?」
「今回の件でプレッシャーにより大きく精神状態に影響を受けるとすれば、まずリョウさんでしょうからね」
「……そっ、そうなんですか?」
ハッキリ言ってしまえば、私の印象として結束バンド内で最も精神的な脆さがあるのはリョウさんです。プレッシャー等による影響が現れるなら、まずリョウさんでしょうね。
「リョウさんは一見すると飄々としていてマイペース。精神的に強そうに見えますが……実際は脆さもあるタイプだと思います。なんと表現すればいいのか……リョウさんは些細な悩みはいくらでも周囲に話したり頼ったりするのですが、本当に深刻に悩んだ時はひとりで抱え込んでしまうタイプですね」
「なっ、なるほど……」
「とはいえ、現時点では影響が出ると決まったわけでもありませんしね。今後の様子に注意する形ですかね。ちなみに、結束バンド内で一番安心なのはひとりさんです」
「あっ、え? わっ、私ですか?」
私が告げた言葉に、ひとりさんは明らかに戸惑ったような表情を浮かべました。まさか自分がそう言われるとは思っていなかった様子です。ですが、これは適当に言ったわけでは無く、明確な根拠があります。
「理由は単純です。ひとりさんには私が居ますからね」
「……ふっ、ふふ、あはは……凄く納得しました。そうですね。私には有紗ちゃんが居るので、安心ですね」
暗い雰囲気ではいけないと思って軽く冗談を入れたつもりでしたが、効果は高かったようで、ひとりさんは楽し気な笑顔を浮かべてくれました。
結束バンドの皆さんがやる気に溢れているのは素晴らしいことですが、それが空回りしてしまわないように私は第三者的な立場から注意しておくことにしましょう。
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練習やライブなどをこなしつつ、あっという間に12月に入りました。目標が定まって、それに向かって努力していることで結束バンドの方々は忙しくも充実している様子です。
私も喜多さんのボイストレーニングなどで協力する機会も多いのですが、喜多さんもかなりボーカルとして伸びてきており、このペースで成長すればデモ審査の締め切りの4月までにはかなりの歌唱力になっていそうです。
そして今日は、珍しく練習もアルバイトも休みの日であり、私が誘う形でひとりさんと買い物にやってきました……デートですね!
「あっ、有紗ちゃん。今日はどこに行くんですか?」
「ショッピングモールがいいかと……普通の買い物もそうですが、星歌さんの誕生日も近いので……」
「あっ、そ、そうでした。24日ですね。わっ、私も買わないと……その、有紗ちゃん……協力してください」
「もちろんです。虹夏さんに事前に星歌さんの好きなものに関して聞いてきたので、任せてください」
今日の目的のひとつは星歌さんの誕生日プレゼント選びもあります。なんとなく、ひとりさんは忘れてしまいそうな気もしたので……。
ちなみに星歌さんは可愛らしいものが好きということで、ファンシーショップで小物や、あるいはぬいぐるみなどを買うのもいいかもしれません。
そんな風に考えつつ、ひとりさんと一緒にショッピングモールに行き、事前に目を付けておいたファンシーショップに向かいます。
「……あっ、ああ、有紗ちゃん? こ、ここに入るんですか?」
「ええ、星歌さんは可愛いものが好きという話なので……」
「こっ、ここ、こんなキラキラMAXのスーパー女子力空間に私が? 場違いすぎて処刑されませんか?」
「大丈夫ですよ。さっ、行きましょう」
「……あっ、あの、手を繋いでもいいですか」
「ええ、もちろん」
ひとりさんは不安になるとこうして手を繋ぎたがります。私と手を繋いでいると安心するらしく、私としても非常に喜ばしいことではあります。
他の結束バンドのメンバーの方が居ると気恥ずかしくて控えるようなのですが、それ以外の目線はあまり気にならない様子です。まぁ、私としてはひとりさんと手を繋いで行動できるのは、幸せ以外のなにものでもないので問題ありませんし、ひとりさんも精神的に安心できるのであれば互いに利点ばかりです。
「なっ、なんか、凄くファンシーですね。まっ、まぁ、ファンシーショップなので当然と言えば当然ですが……個人的には好みじゃないデザインなので、あまりどれがいいとか分からないです」
「ひとりさんはもう少しダーク系というか、ワイルドなデザインが好きですよね」
「あっ、はい。ろっ、ロッカーなので」
「ふふ、なるほど……どれがいいですかね。普段使いするなら筆記用具などもいいですが、自宅で使うならある程度大きな雑貨でも大丈夫そうですね」
ぐるりとファンシーショップの中を見て回りましたが、これといったものは見つかりませんでした。この店は小物が中心ということもあって、誕生日プレゼントに適したものは少ない気がします。
というわけで、一度ファンシーショップから出て、次はぬいぐるみを扱っている店に移動しました。
「……この辺りは可愛らしくてよさそうですね」
「あっ、あの、有紗ちゃん? 本当に店長さんにこういうの贈っていいんですかね? イメージと違い過ぎる気も……」
「いちおう虹夏さんに、星歌さんが持っているぬいぐるみなどの写真……というか部屋の写真を送ってもらいました」
「……すっ、凄い女子力の部屋……虹夏ちゃんじゃなくて、店長さんの部屋なんですね」
星歌さんの部屋は、確かに非常に可愛らしい雰囲気です。まぁ、ひとりさんの言うイメージと合わないというのも理解はできますが、趣味は人それぞれなのでおかしいことは無いです。
「……あっ、この辺りとか、どうですかね?」
「可愛らしいですし、サイズも中型でよさそうですね。そういえば、巨大なテディベアもありますよね。この店には置いてないようですが……」
「あっ、ありますね。2mぐらいの凄く大きいの……そっ、それも喜びそうですね」
「でしたら、せっかくですしひとりさんと私で、クマのぬいぐるみで合わせませんか? 私は大きなテディベアを買うので、ひとりさんはこの店で抱えられるサイズのものを買うというのは?」
「いっ、いいですね。それなら、この辺りとか……」
たまたま思いついた巨大テディベア、抱き枕の様に使ったりもたれ掛かったりもできるイメージなので、家に置く分にはよさそうではあります。
念のためあとで虹夏さんにサイズが問題ないかの確認は取っておく必要がありますが、いいプレゼントが思いつけた気がします。
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星歌さんへのプレゼントも決まり、ひとりさんは店でぬいぐるみを購入しました。包装も綺麗にしてもらいこれでメインの目的は終了ですが、このまま帰るのは勿体ないのでひとりさんとショッピングモールを見て回っていました。
するとなにやら独特の雰囲気の店を見つけて、視線を向けると……占いの店でした。
「……本格的といいますか、店舗式の占いなんですね」
「うっ、占い……女子高生には定番ですよね。私はやったことないですが……」
「実は私もほとんど経験はないので、せっかくですし入ってみましょうか」
「あっ、そっ、そうですね。ちょっと、興味はあります……暗くて狭そうだし、雰囲気的には好きですし……」
たまたま見つけて、ひとりさんも比較的乗り気だったということもあって占い店に入りました。神秘的な雰囲気の店内に入ると、受付のカウンターがあり、そこで申し込みをして各部屋で占いを受けるような形式のようでした。
「いらっしゃいませ、本日はどのような占いをご希望ですか?」
「ふたりで一緒に受けたいので、相性占いでお願いします」
「かしこまりました」
個別の占いとなると、別々の部屋に通される可能性があり、それはひとりさんも不安でしょうからふたり一緒に受けられる相性占いに決めました。
いえ、あくまでひとりさんを思ってのことです。決して私が、ひとりさんとの恋愛運を占ってほしいとか、そういうわけではありません。
係の人の案内を受けて部屋に通されると、そこに占い師らしき方が居て、その方に促されて正面の席にひとりさんと並んで座ります。
「今回は相性占いということですが、なんの相性を占いましょうか?」
「恋愛で!」
「ふぁっ!?」
「……え? あ、えっと……おふたりの恋愛の相性……ですか?」
「はい!」
「あっ、あの、有紗ちゃん? あっ、駄目な雰囲気だ……これ止まってくれないやつ」
もちろん占いがすべてとは言いません。一口に占いと言っても様々な種類があり、同じ内容でも占いの方式が変われば結果も変わります。
ただまぁ、せっかくの機会なので今後の参考にという意味でも占ってもらいたいと思いました。ひとりさんは若干戸惑ったような表情を浮かべていましたが、途中で諦めたような顔に変わりました。
「わ、分かりました。それでは、恋愛の相性ということで……」
占い師の方はそう言って頷いたあとで、私とひとりさんが受付で書いた氏名や誕生日などが記載された紙を見つつ、何枚かのカードを並べて占いを始めました。
カードを使う占いというと、タロットやオラクルが有名ですが……そのどちらでもなさそうな感じですね。となると、実際は星座などに用いて結果を出し、カードはあくまで雰囲気作りの小道具という可能性もあります。
そんなことを考えつつ、結果を待っていると……しばらくして、占い師の方が手を止めて口を開きました。
「素晴らしい相性ですね。まずこちらの銀髪の方は、強い光といいますか、存在自体が太陽のように明るく周囲を導き支える性質を持つ方です。対してこちらの桃髪の方は暗闇の中で瞬く光、一見すると弱そうに見えますが正しく導くことで暗闇を照らすほど強く輝ける資質があります。性質的には逆のようですが相性が極めてよく……」
そう言いながら長々と説明をしてくださいましたが、要約すると私とひとりさんの相性は友人としても恋人としても最高であり、互いの性格や性質が上手く噛み合っているとのことでした。
大変素晴らしい結果で大満足といいますか、ひとりさんと相性が最高と言われて嬉しくないはずがありません。
気持ちよく料金を支払って店を出ると、ひとりさんは少し考えるような表情を浮かべていました。
「……ひとりさん? もしかして、他に占ってほしい内容がありましたか?」
「あっ、いえ、そうじゃなくて……占いって、結構なる程って思うことが多いなぁって……れっ、恋愛とかはよく分からなかったですけど、有紗ちゃんと性格の相性がいいってのは……なっ、なんとなく、私もそう思うなぁって」
「そう言ってもらえると嬉しいですね。私もひとりさんと過ごす時間は、いつも本当に楽しいので……やはり私たちの相性はいいのかもしれませんね」
「あっ、は、はい」
嬉しい言葉を受けて繋いだ手に少し力を込めると、ひとりさんも同じように握り返してくれて、なんとも幸せな気持ちを感じつつ、改めてひとりさんとのデートを楽しみました。
時花有紗:ひとりとの相性が抜群でウッキウキ。結束バンドに対しても持ち前の鋭さでサポート体制に入っているので、かなり安心である。
後藤ひとり:有紗と手を繋ぐ癖が付いており、不安になるとよく手を繋ぎたがる……それはもう恋では? 占い師に言われた相性のいいという言葉には、いろいろ思い当たるふしがあるみたいで納得している様子。
未確認ライオット:重要なイベントだ。結束バンドにとって非常に大きな躍進の時だ……まぁ、この作品は有紗とぼっちちゃんの百合百合に全振りしているので、原作と大して変わらない部分は容赦なくカットしていく。