ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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二十七手共演のゲスト依頼~sideB~

 

 

 それは12月に入ってすぐのことだった。新宿FOLTを拠点として活動し、結束バンドとも関わりの深いSICK HACKのきくりより、結束バンドにゲスト出演の話が来た。

 前座で出る予定だったバンドが出れなくなったという理由での誘いではあったが、他のライブハウスで演奏して経験を積む機会ということもあって結束バンドの面々は二つ返事で了承した。

 

 ただ、ゲスト出演は結束バンドだけではなくSICK HACKと同じくFOLTと拠点とするメタルバンドSIDEROSも出演することになっていた。

 

「SIDEROSと結束バンドがゲスト出演?」

「元々前座で出る予定だったバンドが出れなくなってね~」

「……なるほど、分かりました。姐さんの依頼なら喜んで」

「ありがと~それじゃ、当日よろしくね、大槻ちゃん」

「はい」

 

 ゲスト出演依頼をきくりを姐さんと慕うSIDEROSのリーダー大槻ヨヨコは快く了承し、その返事にきくりも笑顔で手を振って去っていった。

 それを見送ったタイミングでドラムの長谷川あくびが少し意外そうな表情で口を開いた。

 

「意外と乗り気っすね~。ヨヨコ先輩のことだから、そんな無名バンドなんか出してもメリット無い~とか言いそうっすのに……いや、私は前にローチューブで動画見て、結束バンドは結構好きっすけど」

「はーちゃん、結束バンドの曲気に入ってましたもんね~けど、私もヨヨコ先輩の反応はちょっと意外でしたねぇ」

 

 あくびの発言に同じくメンバーでギター担当の本城楓子も同意するように頷く。彼女たちの知るヨヨコはかなり苛烈な性格であり、攻撃的な発言が多いので今回文句もなく納得したのが少し意外だった。

 そんなふたりの反応に、ヨヨコは軽く腕を組みながら告げる。

 

「無駄口叩いてる暇があるなら、練習した方がいいわよ。ホームで他所のゲストバンドに負けるなんて醜態を晒さないようにね」

「おぉ、そこまでっすか? 滅茶苦茶高評価じゃないっすか……ヨヨコ先輩結束バンドのこと知ってるすか?」

「前に姐さんがFOLTに連れてきてたでしょ……正直戦慄したわ。姐さんが最近、後藤ひとり、時花有紗、結束バンドってのをよく話題に出してたけど……姐さんが高く評価するのも頷ける」

 

 そこまで語った後、ヨヨコは以前にきくりが結束バンドの面々を連れてきた時のことを思い返すように言葉を続ける。

 

「……後藤ひとり、時花有紗……どっちかは分からないけど、あの先頭に立ってた銀髪……桁外れの美貌に、立ち振る舞いから感じる凄まじいオーラ……なんであのレベルの存在が、これまで無名だったのか分からないぐらいだわ」

「……え? いや、あの……」

「分かっているわ。バンドなんだからビジュアルじゃなく音楽で勝負すべきって言うんでしょ? でもそれは三流の理論よ。ビジュアルだってバンドにおいては重要な要素。どれだけ素晴らしい演奏ができたとしてもまず注目を集められなきゃ話にもならないわ。そういう意味では、あのビジュアルはとてつもない武器よ……あのビジュアルに相応しいレベルの演奏をされたら、勝てないかもしれない。それほどに強敵……」

「いや、その人結束バンドのメンバーじゃねぇっすけど?」

「………………え?」

 

 深刻な表情で語っていたヨヨコは、あくびの一言で硬直した。そして楓子がスマホを取り出して、結束バンドの動画をヨヨコに見せる。

 

「メンバーはこの4人ですよぉ?」

「……」

「うわ、ヨヨコ先輩ださ……あんな決め顔で、全然関係ない人ライバル視してたとかマジっすか?」

「……え? じゃあ、アレ誰!?」

 

 警戒していた相手は結束バンドのメンバーではなかったことを知り、慌てた表情に変わるヨヨコに対し、あくびがのんびりとした様子で動画の投稿者コメントを見ながら呟く。

 

「う~ん。メンバー紹介に名前がない時花有紗って人じゃないんすか?」

「……時花有紗……あの子は凄いね~」

「おっ、幽々ちゃんも高評価っすか?」

「うん~凄かった~。神様の祝福をありったけ受けてるみたいに輝いてて~幽々のお友達もビックリしてたよ~」

「お嬢様って雰囲気の人だったねぇ。髪の色ははーちゃんと似てたかな?」

「いや、でもキューティクルとかえぐかったっすよ。使ってるシャンプーとか聞いてみたいっすね」

 

 有紗の話題にここまで黙っていたベースの内田幽々も反応し、会話が盛り上がりを見せるが……ひとりヨヨコだけはなんとも恥ずかしそうな表情でプルプルと震えていた。

 

 

****

 

 

 ヨヨコが勘違いで自爆していた頃、ひとりの家では、ひとりと有紗がゲスト出演についての話をしていた。

 

「はっ、初めて他のライブハウスでの演奏……FOLTって客数もかなり多かったですよね。だっ、大丈夫ですかね?」

「基本的にはSICK HACKのワンマンライブなので、以前に訪れた時クラスの客は確実に入るでしょう。さらにクリスマスイブということを考えると、もっと客足は伸びそうですね」

「あわわわ……」

「大丈夫ですよ。客の多くはSICK HACKを目的に来ていますから、ゲスト出演のバンドに対してはある程度寛容に評価してくれるはずです。気に入ってくれれば新しいファンの獲得になりますし、仮に失敗しても最終的にはきくりさんたちが上手く盛り上げてくれます。もちろん、成功するのが一番ですけどね」

 

 ホームではないハコでのライブに緊張気味のひとりに、有紗は穏やかに微笑みつつ告げる。ちなみに今日は、冬休み前にある期末テストに向けての勉強であり、現在は休憩中だった。

 指導が上手い有紗のおかげで、少なくとも赤点はほぼ確実に回避できそうな手ごたえを得ており、補習の心配はなさそうでひとりもホッとしていた。

 

「……あっ、そういえば、話は変わりますけど、有紗ちゃんと約束していた旅行……いつ行きますか?」

「そうですね。24日のライブまでは練習に集中する形で、なおかつ年末年始は避けて、26~28日で行こうと思うのですが、いかがですか?」

「あっ、だ、大丈夫です。箱根でしたよね?」

「ええ、新宿から特急一本で行けますし、観光場所も多いのと……伝手があって宿を確保しやすかったというのもありますね」

 

 以前に約束した冬休みの旅行は、箱根の温泉街に行こうという話で纏まっており、宿などは有紗が押さえるということだったので任せていた。

 ただやはり、ひとりには気にかかることもある。それは、宿がいったいどの程度のレベルなのかという点だ。有紗が押さえる以上、高級宿であることは覚悟しているが、果たして己の想像の範囲内に収まるレベルなのかと……。

 

(伝手があって宿を確保しやすかったってことは……伝手が無いと予約できないような宿ってこと? へ、部屋に温泉湧いてたりするのかな?)

 

 それなりに近場とはいえ、箱根となるとひとりにとっては過去そうそう経験がないような遠出ではある。ただ、有紗と一緒と思えば、それほど抵抗感などは無く純粋に楽しみにする余裕もあった。

 有紗のことなので、人混みが苦手なひとり配慮した観光プランを考えてくれているだろうし、その辺りも含めて心配していない。

 

「……どっ、どんな宿かは、まだ内緒なんですか?」

「ええ、ビックリさせたいので」

「……わっ、私の心臓が無事な程度のビックリで、お願いします」

 

 旅行の話で盛り上がっていると、ふとひとりがあることに気付いて尋ねる。

 

「そっ、そういえば、有紗ちゃんはクリスマスとかどうするんですか? ライブのあとにSTARRYで打ち上げと店長さんの誕生日会兼クリスマスパーティをするらしいですけど?」

「私も参加するつもりですよ。今年はお父様とお母様の仕事の都合で、クリスマスのパーティは23日に行う予定なので、24日は予定が空いてましたので……」

「なっ、なるほど、有紗ちゃんのうちのパーティは凄そうですね」

「そこまでは……ああでも、お父様やお母様の知人が来るのでかなり華々しくはなりますね。今年はたまたまお父様とお母様の予定が合ったので」

 

 有紗の両親は基本的に仕事で忙しくしており、両方揃って休みが重なることは少ない。しかし今回はたまたまふたりとも12月23日に予定が空いており、有紗の家ではパーティが開かれることになった。

 有紗は謙遜していたが、著名人なども非常に多く集まるパーティになるのは間違いなかった。

 

「……実はお父様とお母様は、ひとりさんに会いたがってまして連れてきてほしいと言っていましたが……」

「むっ、むむ、無理です! そそ、そんなパーティなんて……」

「ええ、そうだろうと思って断っておきました」

「ほっ……」

 

 まだ有紗と両親2人でパーティをする場であれば、ギリギリなんとかなったかもしれない。それでも、人見知りのひとりにはあまりにもハードルの高い場である。なので、あの大きな家で行われるパーティに出席などというのは、即無理だと言えるレベルだった。

 

(……クリスマスか……1月の有紗ちゃんの誕生日用のお金以外にも、余裕はあるし……せっかくだから、有紗ちゃんにクリスマスプレゼントとか買ってみようかな)

 

 ふとした思い付きではあったが、悪くない案だった。広告収入で直樹から貰った30万円のうち、ギターとエフェクターを購入し、有紗の誕生日用のお金を除いても、まだそれなりの金額が残っていた。

 結局バイトを止められずに続けていて、ノルマ代がバイト代から出ているのも大きい。ともかく、クリスマスプレゼントを用意するだけのお金はある。

 せっかくなのでこっそり用意してサプライズで渡すのもいいかもしれないと、ひとりはそんな風に考えていた。

 

(……まぁ、有紗ちゃん鋭いからバレそうだけど、喜んでくれる気がするし……なにか考えてみよう)

 

 考えをまとめたひとりは、有紗と会話しながらぼんやりとクリスマスプレゼントについて考えていた。

 

「そろそろ、勉強を再開しましょうか」

「あっ、はい。やっ、やっぱり期末は範囲が多くて大変です」

「そうですね。ですが、テストの時間や答案用紙の関係ですべてを問えるわけではありませんし、重視すべきところを絞って学べばそれほどでもありませんよ。例えば数学ですと、今回大きく問題数を使ってきそうなのはこの公式を使うもので……」

 

 2学期の期末テスト、24日のFOLTでのライブ……いろいろと大変と思える部分はあるが、それでもひとりの心はある程度安定していた。

 やはり有紗が居てくれるという安心感が非常に強いのか、初めてのホーム以外のハコでのライブにもいい緊張で臨めそうな気がしていた。

 

 

 




時花有紗:ひとりとの温泉旅行がいまからとても楽しみ、その前の両親とのクリスマスパーティも楽しみなので、年末に向けて楽しみなイベントが多い。

後藤ひとり:2泊3日の温泉旅行ですか、やりますね。やはり有紗が居ることで精神的にかなり安定しており、FOLTでの初ライブへもそこまで緊張したりプレッシャーを感じていたりはしない。

ヨヨコパイセン:大恥晒した。14歳(仮)と同じように有紗が結束バンドのリーダーだと思い込んでいたため、「さすが姐さんが目を付けるだけあって強敵」という認識であり、ゲスト出演に出てきたことで決着をつけるいいチャンスとまで思っていた。結果有紗が居なかったので肩透かしを食らいつつ、動画を見て見ると……想像よりよかったので、原作と比べて結束バンドへの初期印象は高め。
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