ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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二十八手偵察のヨヨコ来訪~sideA~

 

 

 12月のライブの日、私もいつも通り観客として結束バンドのライブを見に来ました。未確認ライオットという明確な目標ができたことで、最近の結束バンドの伸びは非常によく、既に一月前とは演奏の完成度が大きく違ってきていると言ってもいいでしょう。

 まだ新曲は完成していませんが、FOLTでのゲスト出演に向けての準備は着々と整っていますね。

 

「あっ、有紗ちゃん。こんな感じでいいですか?」

「ええ、ありがとうございます。やはりブロマイドにはサインが入っていた方がいいですしね」

「そっ、それにしても有紗ちゃんの作るポップは綺麗ですね。目を引くというか、売り上げが増えてリョウさんが嬉しそうでした」

「一助になれているのなら嬉しいですが、売り上げ増加に関しては結束バンド自体の人気が上がってきたこともあると思いますよ」

 

 ライブ前のひとりさんと会話をしつつ、物販コーナーに商品とポップを用意していきます。物販コーナーのレイアウトやラインナップは私が担当することが多いです。虹夏さんも動画サイト用の動画編集や練習も忙しいので、こういった作業は出来るだけ手伝うようにしています。

 最近では帳簿計算も私がしているのですが……いちおう部外者という扱いの私に、金銭の計算まで任せていいものかと首を傾げますが、それだけ忙しくて手が回らないのでしょうね。

 

「あっ、あれ? 有紗ちゃん、この結束バンドは?」

「ああ、それはリョウさんが新色リストバンドとして売りたいと言ってきたので、却下したものですね。新色を出すなら、他のメンバーカラーも合わせて出すべきですし……あと、そもそも色も変わっていませんので……」

「……たっ、確かに、前のと同じ色のような? あっ、でも、新色って言われてみれば少しだけ違う気も……う、う~ん」

 

 リョウさんは物販にかなり意欲的であり、よく新商品を提案してきます。まぁ、あまりにも利益重視の品が多いので却下することが多いですが……。

 

「そういえば、リョウさんから私とひとりさんのツーショットでブロマイドを出さないかという提案もありましたね」

「……そっ、それ、ただ私が公開処刑されるだけでは? 有紗ちゃんのブロマイドとかすごく売れそうなので、リョウさんが食い付くのも分かりますけど……わっ、私としては反対です。個人的には、ちょっとほしいですけど……」

「ふふ、じゃあ、今度ひとりさんだけのために撮影しましょうかね」

「え? あっ、えと、あぅ……はい」

 

 そんな風に楽しく雑談をしていると、ライブ開始の時間が近づきひとりさんは控室に移動していきました。私も物販の設置は完了したので、後はSTARRYのスタッフさんに任せて観客としてライブを見るために移動しようとしましたが、そのタイミングで声を掛けられました。

 

「あ、有紗ちゃんだ!」

「こんにちは、今日も来てくださったんですね」

「私たちは結束バンドのファンだからね~」

 

 現れたのはひとりさんときくりさんと行った路上ライブでチケットを買ってくれて、その後も毎回ライブに足を運んでくれている大学生のお姉さん方でした。

 私もすっかり顔なじみであり、会った際にはこうして挨拶をしたり一緒にライブを見たりします。ただ、今回はもうひとりいらっしゃるようでした。

 

「そうそう、この子さっき入り口近くで知り合った結束バンドのファンの子で、つっきーちゃんだよ!」

「えっ、あっ……その……」

「……SIDEROSの大槻ヨヨコさんでは?」

「ッ!? あっ、えと、なな、なんで分かったの……」

「いえ、前にFOLTに行った際やネットの紹介で見まして……私は、一度見た方の顔は忘れませんので」

 

 お姉さん方が連れてきたのは髪型を変えて眼鏡をかけてはいましたが、SIDEROSのギターボーカルである大槻ヨヨコさんでした。

 なぜここにという思いはありますが、共にゲスト出演することになった相手を見に来たと考えれば納得できますね。

 

「か、勘違いしないでよ。私は結束バンドのファンなんかじゃなくて……」

「今度一緒にゲスト出演する相手の力量を確かめに来た感じでしょうか?」

「そう! それっ! 姐さんと私のライブに一緒に出る以上、台無しにしない程度の実力はなくちゃ困るから、直々に確かめに来たのよ……いや、正直動画サイトの演奏は、思ったよりよかったけど……まだまだ、私たちの足元にも及ばないわ」

 

 なんとなくではありますが、ヨヨコさんは誤解を受けやすいタイプのような気がしました。ひとりさんとは違う意味で人と接するのが苦手で、つい強い言葉を投げかけてしまうタイプでしょうか?

 こういった方の言葉は、むしろ好意的に受け取るぐらいがちょうどいいです。いまの発言も、結束バンドの実力自体は評価してくれている様子ですしね。

 

「なるほど……ああ、お姉さん方。この方は私の知り合いでして、少しふたりで話をさせていただいてもよろしいですか? あと、物販コーナーに新商品なども用意しているのでよろしければ見ていってください」

「うん。分かったよ。じゃあ、つっきーちゃんまたあとでね~」

「あっ、うん」

 

 笑顔で手を振ってお姉さん方が物販コーナーに向かったのを見送ってから、改めてヨヨコさんに向き直ります。

 

「……改めて自己紹介を、時花有紗と申します」

「大槻ヨヨコよ」

「ヨヨコさんとお呼びしても?」

「構わないわ。貴女のことも姐さんからよく聞いてるわ」

「姐さんというのは……きくりさんのことですかね? 今回のゲスト出演の件も含めて、きくりさんにはお世話になっています」

 

 鋭い目と刺々しい雰囲気は、一見すると威圧的に映りますが、若干目が不安げに揺れている辺り緊張しているような印象を受けます。

 

「さて、話は戻りますが……確かにまだ結束バンドはSIDEROSには及びません。だからこそ、きくりさんも今回のゲスト出演を提案してくれたんでしょうね」

「……うん? どういうこと?」

「結束バンドはまだ結成一年未満の若いバンドで、経験不足が大きいです。なので比較的結成期間が近く、明確に結束バンドより先を行っているSIDEROSと一緒のステージに立つことで、学べることは非常に多いでしょうし、大きな成長につながる可能性が高いです」

「……ま、まぁ、そうね。私たちの方が経験は豊富だし、得られることも多いでしょうね」

「ええ、それにSIDEROSの側から見ても、後ろから追いかけてくる相手を意識することでいま以上に成長できる。きくりさんは、双方にとって利益があると考えたのではないでしょうか?」

「な、なるほど……結束バンドだけじゃなくて私たちのことも考えて……さすが、姐さん」

 

 どうやらヨヨコさんはきくりさんを慕っている様子で、明らかに嬉しそうな表情を浮かべていました。なんとなくですが、本質的にはひとりさんやきくりさんに似たタイプという感じがします。意外とひとりさんとも気が合って仲良くなれそうな気がしますね。

 

「そういうわけで、私が直接参加するわけではありませんが、結束バンドのサポートをする身をして言わせてください。24日はよろしくお願いします」

「ええ、こちらこそ。私たちが最高の演奏を見せてあげるから、しっかり学んで糧としなさい」

「ありがとうございます。楽しみにさせていただきますね。ああ、引き留めて申し訳ありません。今日はライブを楽しんでいってくださいね」

「そうするわ……まぁ、私たちには及ばないまでも結束バンドもいいバンドだから……それなりに期待してるわ」

 

 そう言って満足気に微笑んだあとで、ヨヨコさんはお姉さん方と合流して移動していきました。それを見送ってから、私も改めていい場所でライブを見るために移動しました。

 

 

****

 

 

 今回のライブも無事終わりました。皆さん練習の成果が出ているらしく、かなりいい演奏を見せてくれました。ヨヨコさんもどこか満足気な様子で「まぁ、最低限ゲストをやるレベルには達してるみたいね」と呟いており、結束バンドのデモCDも購入してくださるぐらいには高評価だった様子です。

 ステージを終えてフロアに出てきた結束バンドのメンバーの元に向かおうと思ったタイミングで、聞き覚えのある声が聞こえてきます。

 

「みんらぁ~今日のライブもよかったよぉ。あ~あの、アレだよ4番目の曲とかエモの塊!」

「……3曲しかやってないです。まぁ、それはそれとして、ゲストで呼んでくれてありがとうございます。丁度たくさんライブしたかったので、助かります!」

「いーのいーの気にしないで~」

 

 いつも通りに泥酔しているきくりさんに呆れつつも、ゲストとして呼んでくれたことにお礼を言う虹夏さんにきくりさんはフラフラと体を動かしながら答えます。

 ちょっと危なっかしかったので、軽く背中に手を当てて支えると、きくりさんはこちらに気付いて笑顔を浮かべます。

 

「あ~有紗ちゃんだ~今日も可愛いねぇ」

「ありがとうございます。きくりさんは、今日も飲み過ぎですよ」

「あははは……って、あれ? そこに居るのは大槻ちゃん?」

「ど、どうも……」

 

 私にしなだれかかってきていたきくりさんでしたが、直後にヨヨコさんに気付いたのか不思議そうに首を傾げました。

 

「なんで大槻ちゃんがここに?」

「結束バンドを見に来たんです……それより、姐さん。そういうことだったんですね!」

「え? なにが?」

「才能はあれど未熟な結束バンドをSIDEROSと一緒にゲスト出演させることで、結束バンドは経験と目指すべき目標を、SIDEROSには後ろから追ってくる相手に気付かせることで奮起を促す。双方の成長にも繋がると考えてのゲスト依頼だったんですね!!」

「……………………ソウダヨ」

「やっぱり! さすが姐さんです!」

 

 興奮気味にかたるヨヨコさんの言葉に、きくりさんは先ほどまでの酔いはどこに消えたといいような顔でキョトンとした表情を浮かべたあとで頷きました。そして、私の方とチラリとみて「これ、どういうこと?」みたいな視線を投げかけてきたので、曖昧に微笑み返しておきました。

 

「やっぱり、姐さんは私たちのことをしっかり考えててくれたんですね」

「モ、モチロンダヨ……あの、有紗ちゃん、これどういう状況?」

「……あとはよろしくお願いします。ああ、ひとりさん、今日もいい演奏でしたよ」

「あっ、ありがとうございます」

「あっ、ちょっと、有紗ちゃん!? こっちわけわかんないことになってるんだけど……いちゃついてないで、こっちに説明を、お~い……」

 

 

 




時花有紗:大体の相手にはパーフェクトコミュニケーション叩き出す子なので、ヨヨコの相手も問題なく行う。虹夏から結束バンドの物販関連を任されており、その理由はリョウが強引に押し切れない相手なので、変な品をこっそり並べられる心配がないから……。

後藤ひとり:隙あらばいちゃいちゃする。ライブ前でも、少しでも時間が空いてると有紗の近くに寄ってくる。可愛い。

大槻ヨヨコ:ぼっちちゃんとは違うタイプの攻撃型コミュ症。だが、有紗は誤解することなく本心を聞いてくれるし、適度に持ち上げてくれるので相性がいい。きくりが己たちを思ってセッティングしてくれたことに感激した。

廣井きくり:きくり姉さん、そこまで考えてない。
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