結束バンドの12月のライブはメンバーの成長のかいもあって、なかなか本人たちも満足できる形となった。ハプニングとしてはSIDEROSの大槻ヨヨコが現れるということがあったが、結束バンドの演奏はヨヨコにとって及第点と言えるものだったらしく「いま以上に成長できるように、24日はせいぜい私たちの演奏から学びなさい」と、宣戦布告なのか応援なのかいまいち分からない言葉を残して去っていった。
そしてライブの後と言えば打ち上げが基本ではある。ただ、最近はライブを増やしバンド活動に力を入れていることもあって、メンバーたちにはあまりお金はない。それこそ、有紗にひと声頼めばいくらでも用意してくれるが、それも気が引けたので今回はどこかの店に行くのではなくSTARRYで打ち上げを行うこととなった。
コンビニ等で食べ物を購入して来れば安上りであり、ライブハウスにも簡単な調理ができる設備はある上、ライブハウスの上には虹夏と星歌の家もあるので料理しようと思えば可能だ。
問題は場所を使う許可が下りるかどうかだったが、星歌も今日のライブ……結束バンドの成長を内心では喜んでいるようで、閉店後の店内での打ち上げの許可と、多少の打ち上げ代の融資もしてくれた。
「……ピザ届いたよ~」
「待ってた」
「こういう雰囲気での打ち上げもいいですよね」
「ひとりさんは、なにを飲みますか?」
「あっ、こっ、コーラで」
虹夏、リョウ、喜多、有紗、ひとりといういつものメンバーでテーブルを囲み、離れたカウンターで星歌やPAが微笑まし気な表情を浮かべ……床できくりが飲んだくれる。ある意味では、非常にSTARRYらしい光景だった。
「それじゃあ、皆、今回は大盛況だったしお客さんの評価もよかった。でも、まだあくまでホームだからこそってのもあるからね、次のFOLTでのライブも気合入れて行こうね!」
「……前に有紗がリーダーと間違えられたから、リーダーっぽいこと言おうとしててウケる」
「……リョウ……あとで殴るからね。こほん、ともかく、今日はお疲れ様! 乾杯!」
「「「「乾杯!」」」」
虹夏の掛け声に合わせて打ち上げが開始される。思い思いに料理を食べつつ、会話を楽しむ。会話の内容はやはり今日のライブの内容が多い。
「有紗ちゃん、私のボーカルどうだったかな?」
「かなりよくなっていましたよ。以前より格段に声が通るようになっていましたし、少しずつですが確実に声の出し方が身についてきています。この調子で頑張りましょう」
「うん! ありがとう!」
ボイストレーニングの成果が出ていることは喜多自身も実感していたが、直接教わっている相手でもある有紗からそう評価されるのは嬉しかったみたいで、明るい笑顔を浮かべていた。
「ひとりちゃんの演奏も、回を重ねるごとに存在感が増しているっていうか、隣で聞いてて凄いなって感心するわ」
「う、うへへ……そっ、そうですかね。たっ、確かに、前よりは少し慣れてきたかもしれません。まっ、まだ、STARRYだけですけど……」
「ホームとはいえ、リラックスして演奏できているのはいいことですよ。確実に前進している証拠です」
「えへへ」
喜多と有紗に賞賛された、ひとりは照れつつも嬉しそうに頭をかく。ひとりも確実に成長しており、以前よりずっと本来の実力に近い演奏をできるようになっていた。
(……まぁ、ホームなのと……有紗ちゃんがいてくれるからってのも大きいんだけど……それを言うのは流石に恥ずかしいから、心の中でお礼だけ……いつもありがとう、有紗ちゃん)
有紗の存在が精神的な支えとなっていることはひとり自身自覚しているが、それを口にするのは流石に気恥ずかしさが勝るようだった。
「そういえばひとりちゃん、帰りは大丈夫?」
「あっ、はい。今日は有紗ちゃんが車で送ってくれるらしいので、大丈夫です」
「ええ、もし、あまりにも遅くなるようならまた私の家に泊まってもいいわけですしね」
「有紗ちゃんの家か~私も一度行ってみたいなぁ」
「いつでも歓迎しますよ」
3人がそんな風に話をしていると、有紗の家という言葉に反応した虹夏とリョウも会話に参加してくる。
「有紗ちゃんの家って、ぼっちちゃんの話聞くだけでも凄そうだよね」
「ピアノ以外にも凄い楽器とかあるの?」
「ベースは無いので、リョウさんの期待には沿えないと思いますが……」
「あっ、でもライブのBDはいっぱいありましたよ。ズラーって」
「……ほう。やっぱり有紗は結構語れるタイプっぽい」
明らかにハイソサエティの空間であろうことは、ひとりからある程度話を聞いて知っており、そういう空間に興味を持つのは人の常といえる。
「映画とか見れるシアタールームとかもありそうだね」
「ありますよ。映画もそれなりの数が揃っていますね」
「おぉ、あるんだ……やっぱり凄いね~」
当たり前の様にシアタールームがあるという有紗の言葉に、虹夏が感心した様子で頷くと、そのタイミングで喜多がなにかを思いついたように口を開いた。
「そういえば、映画と言えばクリスティーナ・フラワー主演の新作映画が来年公開ですね」
「あ~かなり期待されてるよね。リョウも見たがってなかったっけ?」
「うん。メジャーな映画はあまり好きじゃないけど、クリスティーナ・フラワーはサメ映画への造詣も深い女優だから好き」
喜多が話題に挙げたのは、世界的な有名女優の名前であり虹夏やリョウも興味深そうに話す。ひとりもピザを食べながら話を聞きつつ、思考を巡らせる。
(……映画……映画館の雰囲気はちょっと好きだけど、人気映画は混むし、ひとりで映画に行くような度胸も……あ、有紗ちゃんが一緒に行ってくれたら大丈夫かも……)
ひとりがそんな風に考えていると、喜多がスマホを取り出してなにかを確認しだす。
「まだ、詳しい情報は出てないんですよね。クリスティーナ・フラワーのイソスタにならなにか書いてるかもしれないですけど、全部英語なんで読めな………………え?」
「喜多ちゃん?」
スマホでイソスタを開き、話題の女優のページを見た喜多が目を見開いて硬直する。するとそのタイミングで、少し離れた場所、星歌たちが居る場所で酒を飲んでいたきくりが緩い笑顔で告げた。
「あ~そういえば、クリスティーナ・フラワーって有紗ちゃんにちょっと似てるよね。髪の色とか雰囲気とかさぁ~」
「……え? ええ、それはまぁ、血が繋がってますし似ていて当然かと」
「そっか~それならとうぜ――んん?」
キョトンとした表情で返された有紗の言葉に、きくりは思わず酔いが醒めたというような表情で硬直した。そして入れ替わるように硬直から復帰した喜多が、慌てた様子でスマホの画面を虹夏たちに見せた。
「……あ、あの、クリスティーナ・フラワーのイソスタに、有紗ちゃんとのツーショットが!?」
「えぇぇぇ!? あっ、ほ、本当だ……」
「……完全にプライベートっぽい写真」
「あっ、『My Angel』ってコメントも付いてます」
喜多が見せてきたイソスタの写真を見て、虹夏とリョウとひとりも驚愕し、きくりや星歌、PAも合わせて全員の視線が有紗に集中する。
どういうことか説明してほしいというその視線に有紗は苦笑を浮かべたあとで、口を開く。
「ええ、秋に一緒に旅行した時の写真ですね」
「な、なんで、クリスティーナ・フラワーと一緒に旅行!?」
「えっと、なんでと言われると……親子なのでとしか、返答しようがないですが……」
『親子!?』
「クリスティーナ・フラワーというのは芸名のようなものでして、本名は時花クリス……私のお母様です」
それはまさに驚愕の新事実だった。もちろん喜多たちも、有紗がハイソサエティであり両親も相当凄い相手であろうというのは想像していた。しかし、まさか世界的なモデル兼女優が母親とは思わなかった。
ただ、イソスタに写真を上げている様に別に隠しているようなことではなく、クリスティーナ・フラワーのイソスタを見たりフォローしているファンには、娘の存在は周知の事実ではあった。
「……やっぱ、有紗ちゃんってとんでもないね」
「ですね」
虹夏が唖然としながら呟き、喜多もそれに同意する。確かに衝撃的な事実ではあったが、元々有紗がとんでもない存在というのは知っていたので、少し経てばなるほどと納得することができた。
親子と言われてみれば、きくりの言う通り確かに髪の色や顔の雰囲気が似ており、血のつながりを感じた。
「秋の旅行……そうか、ぼっちがやけに寂しそうにしていた時か」
「なっ、なに言ってるんですかリョウさん!? そんなときなかったです!!」
ボソリと呟いたリョウの言葉に、顔を赤くしたひとりが慌てて反論する。ちなみに適当に言っただけであり、別にひとりが特別寂しそうにしていたということは無かった。
しかし、ひとりが過剰に反応してしまったせいで変にリアリティが出てしまった。そのひとりの反応を見て、虹夏もニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべ、芝居がかった様子で口を開く。
「あ~そっかぁ、あの時か~。ぼっちちゃんが、飼い主を待つチワワみたいな顔になってた時だね」
「にっ、虹夏ちゃんまでなにを言うんですか!? そ、そそ、そんな時なかったです!!」
「本当に? 絶対? 少しも寂しくなかったと、神に誓える?」
「うぐっ……そっ、そそ、それは……うぅぅぅ」
虹夏の言葉にも慌てて反論したひとりではあったが、追撃の様に放たれたリョウの言葉に思わず言葉に詰まってしまった。
有紗が9月頃に母親と旅行に行っていたのは、ひとりも知っていた。ロインなどではやり取りをしていたが、学校も合わさって、それなりに長い期間有紗の顔を見れていない時期があり……寂しくなかったかと言われれば、否定しきれない自分が居た。
「私は、ひとりさんと長く顔を合わせられなくて寂しかったですね。ひとりさんも同じ気持ちでいてくれたのでしたら、とても嬉しいです」
「あっ、有紗ちゃん……あっ、えと、わっ、私も少し寂しかったという気持ちは、その、ありました」
反論できずに唸っていたひとりをフォローしつつ、自分も寂しかったとつげる有紗の言葉に、ひとりはホッとしたような表情を浮かべ、少し照れ臭そうに寂しい気持ちはあったと自白した。
そして、互いに微笑み合いどこか温かい雰囲気を醸し出しつつ、ふたりで話しながら料理を食べ始めた。
「……またいちゃいちゃしてる。なんだろうこの、全部持っていかれた感というか、負けた感じは……」
「伊地知先輩たちが振ったんじゃないですか……私はもうちょっと、クリスティーナ・フラワーの話が聞きたかったのに……ふたりの世界に入っちゃいましたよ」
時花有紗:母親は世界的なスーパーモデル兼女優。容姿に関しては母親と父親のいいところ取りといった感じで、目の色なんかは父親譲りである。
後藤ひとり:隙あらばいちゃいちゃするぼっちちゃん。有紗のことになると、普段より大きな声を出したり、やはりかなり意識している感じがする。
世界のYAMADA:後に1週間虹夏に会えなかったのが寂しくて、ビビりで車の運転を怖がっているにもかかわらず同じ教習所に追いかけてきたり、虹夏の大学に毎日遊びに行くとか言い出すやつ……特大のブーメランがぶっ刺さる予定。
時花クリス:有紗の母親。モデル兼女優で世界的にも有名人。イギリス人とのハーフであり、有紗はクォーター。やっぱりほら、出番はほぼ無いので覚える必要はない。
ヨヨコパイセン:タイトルに名前があるのに、地の文数行出ただけ……。