ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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二十九手共奏のゲストライブ~sideA~

 

 

 12月24日新宿FOLTでのワンマンライブへのゲスト出演の当日となった日。結束バンドの皆さんは早い時間にライブハウスにやってきました。リハーサルなどがある関係ですね。

 

「……いまさらですが、私もリハーサルから来ていてよかったんでしょうか?」

「いいというか、絶対居て。ぼっちちゃんの精神安定のためにも……有紗ちゃんはもう、5人目のメンバーとして認識してるから、今後もそのつもりでお願い」

「分かりました。ひとりさん、もう少しで音のチェックですから、ギターを持って準備しましょう」

「あっ、はは、はい」

「少なくとも、いまの時点では観客が居るわけでもありませんから、リラックスしてください。私も付いてますから、ね?」

「……はい」

 

 本来は正式なバンドメンバーではない私ですが、ひとりさんと虹夏さんの強い要望によりリハーサルから参加しています。

 これから結束バンドがステージで音の確認とリハーサルを行うので、ひとりさんを微笑みつつ送り出します。ひとりさんもそうですが、喜多さんも初めての別のライブハウスでの演奏ということもあって緊張している様子ですね。

 リョウさんや虹夏さんは中学時代に別のバンドに所属していた経験もあるので、その辺りはある程度安定しているように見えます。

 

 そんなことを考えながらステージを見ていると、ヨヨコさんがこちらに近付いて来ました。

 

「こんにちは、ヨヨコさん。今日はよろしくお願いします」

「ええ……あげるわ、間違えて2本買っちゃったから」

 

 そういってヨヨコさんは手に持っていた缶ジュースを差し出してくれたので、軽く微笑みながら受け取ります。

 

「ありがとうございます。ヨヨコさんは優しいですね」

「……うちのアルバムもあげるわ。精々勉強しなさい」

「ありがとうございます。SIDEROSのCDは是非購入したいと考えていたので嬉しいです」

「…………サ、サインもしてあげるわ」

 

 ひとりでリハを眺める形になっている私を気遣って声をかけてきてくれたのでしょう。言動で誤解を受けやすい部分はありそうですが、ヨヨコさんは優しい方だと思います。

 

「緊張してるみたいね」

「初めてのライブハウスですからね。やはり緊張はゼロにはならないでしょう。本番までにはもう少しリラックスできると思います」

「そう……まぁ、別に結束バンドが失敗しても私たちが場は盛り上げるから」

「気負わず頑張れと言ってくださるんですね。ありがとうございます、皆さんにも伝えておきます」

「……そう」

 

 なんだかんだで初めて他のライブハウスで演奏することになる結束バンドを心配してくれているみたいです。SIDEROSはリハーサルをすでに終えているのに、こうして近くまで見に来てくれているのがその証拠でしょう。

 

「ただ、ヨヨコさん? あまり寝ていないように見えますが、体調は大丈夫ですか?」

「別に、これぐらいいつものことよ、問題ないわ」

「そうですか、もし可能なら少し仮眠をとるだけでも違いますので、無理はしないようにしてくださいね」

「ええ……ありがと」

 

 ヨヨコさんとそんな話をしていると、結束バンドのリハーサルが始まりました。やはり緊張でやや演奏が走っている印象はありますが、それでも悪くはありません。

 喜多さんも最近ボーカルのレベルが上がっていることで自分の歌に自信を持ててますし、ひとりさんも場数を踏んである程度精神的に安定感が現れ始めています。

 

「……少し走ってはいるけど、前よりさらによくなってるわね。これなら、本番で姐さんのライブが台無しになることはなさそうね。それじゃ、私はメンバーのところに戻るわ」

「はい。お話できて楽しかったです」

「……あっ、わ、私も楽しかったわ……じゃあ、またあとで」

 

 結束バンドのリハーサルは、ヨヨコさんから見て及第点といえるレベルだった様子で、どこか満足気な様子でSIDEROSのメンバーの元に移動していきました。

 

 

****

 

 

 リハーサルが終わり、楽屋に移動しましたが……私も普通に楽屋に居ます。まぁ、虹夏さん曰く実質5人目のメンバーとして扱ってくださるらしいので、おかしくは無いのかもしれません。

 見たところやはり喜多さんとひとりさんがやや緊張気味で、それにつられて虹夏さんも若干緊張している様子ですね。リョウさんも平気そうにしていますが、リハーサルでは演奏がやや走っていたので緊張はしているのでしょう。

 

「……皆さん、少しいいですか?」

「あっ、有紗ちゃん?」

「まずはっきりしておきましょう。今回の出演バンドの中で結束バンドは一番格下です。ホーム云々を抜きにしてもそれは事実でしょう。だからこそ、いい演奏をしなければと自惚れる必要はありません。この経験を糧にしてやる、格上に食らいついて学んでやる。そんな気持ちでいいんです。ひとまず今日のところはいい演奏はSIDEROSとSICK HACKに任せて、私たちは思い切った演奏をしていきましょう」

 

 そう告げると皆さんはキョトンとした後で、少し苦笑を浮かべました。僅かにですが、全員の肩の力が抜けたのを感じつつ、私はチラリと虹夏さんに視線を向けます。すると、虹夏さんは私の意図を察したのか頷いて口を開きました。

 

「有紗ちゃんの言う通り、ライブ全体としては確実に成功するって言えるような状況で気楽に演奏できる機会なんてそうそうないからね。私たちは私たちらしく、思いっきり演奏して、ひとりでも多くの人に結束バンドの名前を覚えてもらおう!」

「……はい」

「がっ、頑張ります」

「任せろ」

 

 いい雰囲気ですね。この感じながら、本番でも期待できそうです。

 

「今日はクリスマスだし、カップルとかもいっぱい来るからね。私たちがサンタさんってことで、素敵なライブをプレゼントしよう!」

「……やる気を削ぐような発言はやめて。私たちの音楽がカップルを盛り上げるBGMになるかと思うと、気が滅入るから」

「いや、結束バンドの曲でそんな雰囲気にはならないと思う」

 

 虹夏さんの言葉に露骨に嫌そうな顔をしたリョウさんとひとりさん。これも一種の青春コンプレックスでしょうか?

 

「あっ、そうですね。心が病みますよね」

「……ぼっち、先に言っとくけどお前はカップル側」

「なっ、なんでですか!? だから、有紗ちゃんとはそういう関係じゃなくて……」

「別に一言も有紗とは言ってない」

「~~~!?!?」

「こらっ、リョウもあんまりぼっちちゃんを揶揄わない。本番前に溶けちゃったりしたらどうするの……」

 

 どうやらある程度緊張はほぐれたみたいで、皆さんもいつもの調子を取り戻している感じでした。そんなやりとりを眺めつつ、私は同じ楽屋にいたSIDEROSの皆さんに声をかけました。

 

「ヨヨコさんにはご挨拶をさせていただきましたが、他のメンバーの方にはまだでしたね。時花有紗と申します。今日はよろしくお願いします」

「そういえばちゃんと挨拶してなかったですね。自分、長谷川あくびです」

「私は本城楓子です」

「内田幽々です」

 

 私が声をかけたのを切っ掛けにSIDEROSのメンバーの方と、結束バンドの皆さんの挨拶が行われ、デモCDの交換なども行いました。

 あくびさんなどは動画サイトでMVを見て曲を好きだと言ってくださり、皆さんいい人だというのが伝わってきます。

 

「なんか、皆いい人だね。メンバーの入れ替わりが激しいって聞いたから、もっと殺伐としてるのかと……」

「あ~それは……」

「……結束バンド」

 

 虹夏さんの言葉にあくびさんが答えようとしたタイミングで、楽屋の端で腕を組んで佇んでいたヨヨコさんが会話に入ってきました。

 たぶんですが、ひとり除け者になっているみたいなのが嫌だったのでしょう。

 

「気合を入れたみたいだけど、生憎と貴女たちのライブの出来なんて今日の正否には関係ないわ。貴女たちがどれだけ下手で駄目な演奏をしようと、私たちSIDEROSさえ居れば会場は盛り上がるのよ。姐さんたちのライブのために場を温めるのは私たちだけで十分よ」

「突然会話に入ってこき下ろしてきた!?」

 

 鋭く睨むような目で告げるヨヨコさんの言葉に、虹夏さんがショックを受けたような顔をしていましたが……たぶんヨヨコさんはそういう意味で言ったのではないでしょう。なので、虹夏さんの誤解を解くために口を開きます。

 

「虹夏さん、違いますよ。ヨヨコさんは、仮に結束バンドが失敗したとしても自分たちがフォローするから、ライブの正否を気にせず肩の力を抜いて演奏するように言ってくれてるんですよ」

「……え? そうなの!?」

「ええたぶん正解ですね。ヨヨコ先輩、コミュニケーションが凄く下手なので……うちの入れ替わりが激しかったのも、それが原因っす」

「な、なるほど……」

 

 たしかにヨヨコさんは少々口下手なきらいがありますが、それでも責任感が強く優しい方だと思います。あと、本質的にやはりひとりさんに似ていますね。ひとりさんの言葉を借りるならコミュ症と言えるのかもしれません。ひとりさんとはまたタイプが違う感じではありますが……。

 

「ヨヨコさんは、先ほどのリハーサルも結束バンドの演奏を評価してくれていましたよ。ですよね?」

「……ええ、動画サイトのMV、前回見たライブ、そして今回のリハ……確実に成長していたわ。短期間でこれだけ伸びるってことは、それだけ貴女たちが努力してきたって証拠でもある。変に気負わず演奏すれば、その努力に見合っただけの結果は返ってくるわ」

 

 そう告げるヨヨコさんの言葉に、結束バンドの皆さんもヨヨコさんへの認識を改めたのか少し嬉しそうにお礼を言っていました。

 お礼を言われるとヨヨコさんは照れた様子でそっぽを向いてしまいましたが……。

 

「ところでヨヨコさん。やはりかなり眠そうに見えますし、15分程度であっても仮眠した方がいいのではないですか?」

「……睨んでたんじゃなくて目がキマッてただけなんだね!? なんか、どんどん印象が変わってくるよ!!」

 

 数日ロクに寝ていない様子のヨヨコさんはやはりかなり辛そうな印象だったので、仮眠を進めてみますが……集中力を保つためにこのまま起きていそうな気がしますね。

 

「……このままで問題ないわ、余計な気を回さなくていいのよ」

「そうですか、確かに集中力を維持するのは大事ですよね。ヨヨコさんは責任感が強いんですね。けど、無理だけはなさらないでくださいね」

「わ、分かってるわ……その、ありがとう」

「いえ、こちらこそいろいろ気遣ってくださって、ありがとうございます」

 

 やはり集中力を維持するために起きたままでいる様子でした。この感じであれば大丈夫でしょうが、無理だけはしないでほしいものです。

 

「……すげーっすね。まったくヨヨコ先輩のコミュ下手発言を誤解してないです」

「有紗ちゃんは、コミュ症相手の会話が得意だから、経験値が違うんだよ……ね? ぼっちちゃん」

「えっ、あっ、はい」

 

 

 




時花有紗:コミュ力おばけかつ、察しが滅茶苦茶いいのでコミュ症特効持ち。

後藤ひとり:とりあえず有紗が居ると精神面はある程度安定するので、段ボールに隠れようとしたりはせずにリハでも安定して演奏できていた。少しでも時間が空くと、有紗のところに寄っていくのもいつも通り。

ヨヨコパイセン:そもそも原作程ひとりや結束バンドを敵視していないのでマウントを取りにきたりしなかった。さらに有紗フィルターも添えると、不思議、ぶっきらぼうながら後輩を気遣う優しい先輩バンドマンみたいになってしまっている。
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