新宿FOLTにて行われたSICK HACKのワンマンライブへのゲスト出演。結束バンドの演奏はそれなりの評価を得ることができた。
もちろん初めてのライブハウスで客層も違うため大盛り上がりとはいかなかったが、いい雰囲気でSIDEROSやSICK HACKに繋ぐことができた。
そして今日はクリスマスイブということもあって、ライブ後はSIDEROSの面々も交えてSTARRYに移動して、打ち上げ兼パーティを開くことになった。
メリークリスマスという掛け声でパーティがスタートすると、マイクを持った虹夏と喜多が並ぶ。
「今日はSTARRYクリスマスパーティ兼打ち上げ兼うちのお姉ちゃんの誕生日会に集まっていただき、ありがとうございます。司会進行は伊地知と喜多が務めさせていただきます!」
「本当は有紗ちゃんにも協力して貰おうかと思ったんですけど……ついさっき、半泣きのひとりちゃんに連れていかれましたので、私たちふたりです」
「……まぁ、あのテーブルは有紗ちゃん以外に間を取り持つのは無理だから、仕方ないよね」
喜多の言葉に虹夏がチラリと視線を動かすと、そこのテーブルにはひとり、リョウ、ヨヨコと……見事に陰キャといえる面々が集結していた。リョウだけであればともかくヨヨコも居るとなっては、ひとりが空気に耐えられるわけもなく、準備を手伝っていた有紗に助けを求めた結果、そのテーブルには有紗も加わることになった。
有紗がテーブルに参加したタイミングでは、なかなかに空気は死んでおり、話題が無かったヨヨコが少し前に買ってきたトゥイッチを取り出して、3人でゲームをしないかと提案してリョウに一蹴されたタイミングだった。
そんな状況で席に加わった有紗は、持って来たポテトの乗った皿をリョウの前に置きながら口を開く。
「ヨヨコさん、今日のライブはお疲れさまでした。SIDEROSの演奏は見事でしたね。ひとりさんも、そう思いませんか?」
「あっ、は、はい。凄かったです。ねっ、熱が籠っているというか、会場もかなり盛り上がってましたし……」
「当然ね……と言いたいところだけど、今回は会心の演奏だったわ。結束バンドが思った以上にいい演奏をしたからね。私たちも負けられないって熱が入ったわ……追いかけてくる相手が居るってのも、悪くはないわね」
基本的にマイペースで興味のある話題にしか加わってこないリョウには食べ物を与えつつ、ヨヨコとひとりが話しやすいライブの話題を振る。
「ひとりさんの演奏はどうでしたか?」
「……そうね。貴女、人と合わせて演奏するのが苦手でしょ? 技術はあるのにところどころぎこちなさが目立ってたわ」
「あっ、うっ、は、はい」
どこか不機嫌そうな雰囲気で告げるヨヨコにひとりは思わず畏縮してしまうが、そこに有紗が微笑みを浮かべながら口を開く。
「すぐに気付くということは、もしかしてヨヨコさんも、そういった経験があるんですか?」
「……ええ、私も昔は周りと合わせるのに苦戦したわ。ひとりで練習ばっかしてたせいでね」
「あっ、そ、そうなんですか……私と一緒……」
「まぁ、結局私は周りに合わせるんじゃなくて、周りを私に合わせさせるようにしたけどね」
有紗のフォローで、ヨヨコにも似たような経験があることを知って、ひとりはシンパシーのような感情を抱きヨヨコへの警戒が若干薄れる。
ヨヨコも有紗のフォローで変にひとりにビクビクされなかったことで、場の空気が比較的話しやすいものになったため、そのまま言葉を続ける。
「……悪くはなかった。ぎこちなさはあったけど、存在感というか人を惹きつける魅力みたいなものがあったわ」
「なるほど、それは大事ですね。技術が優れていても人を惹きつけられない演奏もあれば、拙くとも人を魅了する演奏もある。そこが、音楽の面白いところですね」
「そうね。そういう意味では……今後手強くなりそうね。姐さんが期待するのもわかる」
「たしかに、ぼっちの演奏には魅力がある」
「う、うへへ、そそ、そうですかね……えへへ」
思わぬ賞賛の言葉に、ひとりは明らかに嬉しそうな顔に変わって頭をかく。
「た、だ、し、いまはまだ全然よ。その欠点を克服しない内は、私たちSIDEROSに並べるとは思わないことね」
「あっ、は、はは、はい。いっ、イキってすみません」
「ひとりさん、ヨヨコさんは期待してくれてるんですよ。結束バンドがいま以上に成長すれば、自分たちのライバルになり得ると思ってくださってるんです。期待にこたえられるように、頑張りましょう」
「あっ、はい……頑張ります」
「……まっ、少しだけ期待しとくわ」
有紗が間を取り持つことでほぼ死んでいたテーブルの空気は回復してきており、ある程度空気が出来上がったところで、有紗はクリスマスや食べ物の話題を的確に振り、いつの間にかテーブルはクリスマスパーティらしい空気に変わっていった。
「……いや、マジですげーっすね。ヨヨコ先輩があんまり慣れて無い相手とあそこまで会話が弾んでいるとか、ビックリですよ」
「何気に時々リョウにも参加しやすい話題を振ったりしてて、本当に的確なんだよねぇ」
テーブルの雰囲気が明らかに良くなっているのは傍目にも分かり、あくびと虹夏が心底感心した様子で話していた。
そして、同じタイミングでカウンター付近には大人組が集まり話をしていた。
「すみません。私までお邪魔して」
「ああ、気にしなくていい」
「そうだよ~自分の家だと思ってくつろげばいいからねぇ」
「お前は帰れ」
「……先輩が冷たい」
SICK HACKのメンバーではイライザは同人誌の締め切りがあるため帰ったが、志麻は交流がある有紗の誘いを受けてきくりと共に打ち上げに参加していた。
きくりのことで謝罪する志麻に、星歌はどこかシンパシーを感じていた。主に、同じ相手に迷惑をかけられている者同士……。
「うちの廣井がいつも本当にすみません」
「いや、お前も大変だな。本当にふざけたやつだからな、この馬鹿は」
「……分かってくれますか?」
「ああ、私もさんざん迷惑をかけられてるからな……ほら、飲もう。この腐れ酔いどれの愚痴でも話そう」
「無限に話せる自信があります」
「……あの、ちょっと、ここなんか空気悪いよ……あのこっちにも空気浄化のプロ回してもらえないかなぁ……誰も聞いてねぇし……」
明らかにきくりに関する愚痴を言い合う展開になっており、当人であるきくりとしては若干の居づらさを感じているが、他は他で盛り上がっているため混ざりにくく、なんとも言えない表情を浮かべていた。
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パーティは楽しく進み、時間的にそろそろ終了が近づいてきたころに虹夏がマイクを持って笑顔を浮かべる。
「え~では、そろそろ店長への誕生日プレゼントお渡しタイムに移ります!」
「別にそこまでしてくれなくても……いや、ていうか、ひとつだけ明らかにサイズ感おかしいのがあるんだけど!?」
それぞれが用意しておいた星歌への誕生日プレゼントを持って来たのだが、明らかに有紗の背後に人より大きな包みがあった。
一瞬なんの冗談かと目を疑った星歌ではあったが、まぁ、有紗であればそんなサイズのものを用意してもおかしくは無いかと、最終的には納得した。
「確かに凄く目立つね。じゃあ、その目立つ有紗ちゃんのプレゼントから!」
「私のプレゼントは、ひとりさんとセットになっていましてテディベア……クマのぬいぐるみで統一しました。私のが大型のもので、ひとりさんのが中型のものですね」
「あっ、えっと、デザインも似たような感じにしてあるので……あっ、一緒に置いてても違和感は無いかと」
「すっごいサイズだよね。テレビとかで見たことがあるやつだよね……ちなみに、事前にうちの家の間取りとかは伝えてあるから、玄関とかを通らない心配も無しだって~」
有紗とひとりからプレゼントを渡され、星歌はじーんと感動したような表情を浮かべていた。以前ひとりに虹夏越しになにか欲しいものはと聞かれた時から、内心楽しみにしていたので喜びもひとしおだ。
似たデザインということで、ひとりのプレゼントの中型テディベアを見れば、有紗の方のデザインもある程度想像ができる。非常に可愛らしいデザインで、大きなテディベアにもたれ掛かりながら中型のテディベアを抱きしめるという光景を想像するだけで頬が緩む思いだった。
「……ふたりとも、ありがとうな」
「あ~先輩目が潤んでる。可愛い――あっ、ちょっ、志麻!?」
「……邪魔すんじゃない馬鹿」
茶々を入れようとしたきくりは志麻に制され、その後も比較的平和にプレゼントお渡しタイムは進んでいった。尤も、有紗とひとり以外でまともなプレゼントを用意していたのは喜多ぐらいであり、リョウはなにも用意しておらず外で作って来た雪だるまをプレゼントし、きくりは期間切れのポイントシールを渡して破り捨てられていた。
そして一通りプレゼントを渡し終えたことでクリスマスパーティはお開きとなった。店の入り口に移動して星歌と一緒に皆を見送る虹夏に、ヨヨコが決意に満ちた表情で告げる。
打ち上げの席で聞いた結束バンドの未確認ライオットへの出場を聞いて、自分たちSIDEROSも未確認ライオットへの出場を決めたと……。
「……同世代のバンドと競う機会なんて少ないしね。今日のゲストライブで確信したわ、貴女たち結束バンドと競えば私たちもいま以上に成長できるってね。だからまぁ、せいぜい貴女たちも頑張りなさい」
「大槻さん……うん、私たちだって負けないよ!」
「ふっ……」
ある意味ライバル宣言とも取れる言葉に、虹夏もどこか嬉しそうな表情で頷く。それを見て満足気に微笑んで去っていこうとしたヨヨコだったが、直後に他のSIDEROSメンバーに相談せずに勝手に決めたということであくびや楓子に叱られており、最後に締まらない状態になっていた。
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STARRYで皆と分かれ、有紗とひとりは並んで駅までの道を歩いていた。他愛のない会話をしつつ、傘を差して雪の降る中を歩く。
「ホワイトクリスマスですね」
「あっ、そうですね。結構積もりそうな感じですね……」
「電車は大丈夫でしょうか?」
「さっ、流石にすぐに止まるほどでは、無い気がします」
そんな会話をしつつも、実はひとりは内心落ち着かないというか少し慌てていた。
(……有紗ちゃんへのクリスマスプレゼント、ど、どのタイミングで渡せば……STARRYじゃ皆が居たから渡しにくかったし、い、いまかな? このタイミングなら……よ、よし、いくぞ!)
事前に用意しておいた有紗へのクリスマスプレゼントが鞄の中に入っていることを確認して、ひとりは意を決したように有紗の方を向く。
「あっ、あの――」
「そうだ、提案なんですが……」
「――あぇ!?」
「っと、申し訳ありません。どうしましたか?」
「あっ、い、いえ、なな、なんでもないです!? あっ、有紗ちゃんの方こそどうしたんですか?」
ほぼ同時に有紗も話し出したことで、出鼻をくじかれてしまった。そんなひとりの様子に不思議そうに首を傾げたあと、有紗は微笑みを浮かべて口を開く。
「よろしければ、今日も車で送っていきますよ。その、ひとりさんともう少し話していたいのですが……どうでしょうか?」
「あっ、私も、その、もう少し一緒に居たかったですし……あっ、有紗ちゃんさえよければ」
「では、決まりですね」
有紗の提案はひとりにとっても渡りに船であり、タイミングを見て上手くクリスマスプレゼントを渡そうと決意を新たにした。
時花有紗:空気浄化のプロ。陰キャテーブルに置いておくだけで、上手く仲を取り持ってくれるのはさすがのコミュ力。どのみち、遅かれ早かれひとりの居る場所に行っていた。
後藤ひとり:陰キャテーブルの空気に耐えられず、半泣きで有紗を召喚した。有紗さえ近くに居ればひとりの精神は安定しているので、その後は比較的会話も盛り上がって打ち上げを楽しめた。有紗と一緒にプレゼントを買っていたので、原作の様に歌プレをすることは無かった。
大槻ヨヨコ:有紗が居ると普通にいい先輩に見える不思議。結束バンドの実力が原作同時期より高いこともあって、変な敵視の仕方ではなく、追ってくるライバルとして爽やかな対抗心を抱いている。最後にポンコツするのはいつも通り。
岩下志麻:原作ではドラムバーサーカーモードに突入して不参加だったが、有紗に誘われたことでSTARRYのパーティに参加、きくりに迷惑をかけられている者同士星歌とかなり仲良くなった。