ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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三十一手逢瀬の温泉旅行①~sideA~

 

 

 12月26日、今日は待ちに待ったひとりさんとの温泉旅行の日です。箱根までの経路に関しては少々悩みました。ひとりさんの家の位置から考えると藤沢などを経由していくのが一番近いのですが、乗り換えが多くなるのでなかなかに大変です。

 なのでひとりさんと相談した結果、一度新宿まで出て特急列車に乗って向かうことになりました。ひとりさんはかなり遠回りになってしまうのですが、毎日の通学と大して変わらないので問題ないということだったので、新宿駅で昼前に合流して特急列車で向かうことに決まりました。

 

「……えっと、ひとりさん……大丈夫ですか?」

「だっ、大丈夫です。ちょっと、新宿駅の人の多さを忘れてただけで……有紗ちゃんと合流出来たら、ホッとしました」

 

 移動時間は問題なかった様子ですが、新宿駅の人の多さには気圧された感じでした。これなら新宿駅ではなく途中の駅から私も電車に乗って合流した方がよかったかもしれませんね。いまさら言っても仕方ないことですが……。

 

「とりあえず、列車の時間までは時間がありますし、車内で食べる予定の弁当を買いに行きましょうか」

「あっ、そうですね。駅弁……ちょっと楽しみです」

「旅の楽しみのひとつですしね。新宿駅の駅弁屋は大きいですし、種類も豊富だと思いますよ」

 

 ひとりさんの精神的疲れも回復してきたみたいなので、一緒に駅弁屋に移動して駅弁を選びます。本当に沢山の種類があって、見た目にも華やかです。

 あんまりこういった弁当を食べる機会は少ないので、実は私もかなり楽しみだったりします。

 

「ひとりさんは、決めましたか?」

「なっ、悩みますね。唐揚げが入ってるチキン弁当も美味しそうですが、とりめしも捨てがたくて……有紗ちゃんは決めましたか?」

「私はシンプルに幕の内弁当にしようかと思ってます。あ、ひとりさん、チキン弁当の唐揚げだけも売ってるみたいですよ」

「あっ、本当ですね。じゃあ、とりめしと唐揚げにします」

 

 ひとりさんは鶏肉が好きで、唐揚げなどが好みです。あとはハンバーグなども好きなようなので、肉系が好みなのかもしれません。ただ、これが嫌いという食べ物も特になさそうではあります。

 強いていうなら、イソスタ映えしそうなお洒落なものは避ける傾向にあるぐらいですかね。

 

 ともかく無事に駅弁も購入できたので、喫茶店などで軽く時間を潰してから移動して箱根に向かう特急列車に乗ります。

 やはりこのタイミングは穴場なのか、比較的乗客は少なめの印象を受けますね。年末年始が間近なので、このタイミングで旅行というのは少ないのかもしれません。

 いや、まぁ、それでもそれなりの人数が乗車しているようなので、たまたまこの列車が空き気味だっただけかもしれませんが……。

 

 席に座ってほどなくすると列車が発車して、ひとりさんと共に駅弁を食べる準備をしつつ雑談をします。

 

「1時間半ほどで着くみたいですね」

「あっ、意外と早いんですね」

「ですね。ああ、それと予定の確認ですが、今日は観光などは控えめで箱根に着いたら宿に向かってチェックインする形で、そのあとで近場の温泉街などを見て回るぐらいで考えています。そして、明日に芦ノ湖の方に向かって観光をしようかと」

「なっ、なるほど……移動が多いと疲れちゃいますし、そのぐらいの方が私としてもいいです」

「今回はのんびり疲れを癒すのが目的ですし、あまりあちこちは回らずふたりでゆっくり楽しみましょうね」

「あっ、はい! 私も、有紗ちゃんとゆっくり過ごせるほうがいいですし、文句なしです」

 

 そもそもひとりさんはあまり人の多い有名観光地などは好まないでしょうし、今回の旅行はのんびりふたりきり……そう、ふたりきりの時間を楽しむプランで考えています。

 宿に着いたら部屋でのんびり過ごすのがいいですね。近場の温泉街か、宿内の売店で菓子などを買って綺麗な景色を眺めながらひとりさんとゆっくり過ごしたいです。

 う~ん、本当にいろいろと考えるだけで本当に楽しみです。少なくともここからほぼ丸3日ひとりさんとふたりきりと思うと、幸せで胸がいっぱいですね。

 

 そんな風に話をしつつ、さっそくお昼時ということで買ってきた駅弁を食べることにしました。ひとりさんは言っていた通り、とりめしと唐揚げ、私は銀鱈幕ノ内弁当にしました。

 テーブルに買ってきた駅弁とペットボトルのお茶を置きます。少し手狭になりますが、こういうのも旅行の楽しみかもしれませんね。

 

「あっ、有紗ちゃん。よかったら、唐揚げ何個か食べてください。4個はちょっと、多いので……」

「ありがとうございます。それでは、少しいただきますね」

 

 たしかにとりめしの弁当に4個入りの唐揚げは重いかもしれませんね。唐揚げもなかなかボリュームがあるサイズですし……。

 ひとりさんが買った唐揚げを少し分けてもらいつつ、駅弁を食べていると……ふと、あることを思いつきました。

 

「ひとりさん」

「あっ、はい? どうしました?」

「どうぞ」

「はぇ?」

 

 私は銀鱈の身を箸で取り、手を添えながらひとりさんに差し出しました。そう、江の島でもやった「あ~ん」というものですね。あの時は手でしたが、今回は箸という違いはありますね。

 ひとりさんは一瞬意味が分からず硬直しましたが、直後に私の意図を理解したのか顔を赤くしました。

 

「あっ、ああ、有紗ちゃん!? いきなりなにを……あっ、唐揚げのお返しとかそういう……」

「いえ、単純に私がやりたかっただけです」

「……凄いよ。一切誤魔化したり理由をこじつけたりしないで正面突破……さっ、流石有紗ちゃん……あっ、えっと……」

 

 ひとりさんは赤い顔で箸と私の顔を数度見たあとで、どこか諦めた様子で口を開けてくれました。

 

「どうですか、美味しいですか?」

「あっ、味なんてわかんないです……あっ、有紗ちゃんは本当に唐突にビックリするような行動を……はぁ、まぁ、そういうところも有紗ちゃんらしいです」

「ふふ、申し訳ありません。どうも、ひとりさんとふたりで旅行と思うと、ついついはしゃいでしまっているみたいです」

「あっ、有紗ちゃんが喜んでくれているなら、私も嬉しいですけど……」

 

 ひとりさんはそう呟いたあとで、少し迷う様な表情を浮かべて周囲をキョロキョロと見てから、自分の鳥めしと一口分箸で取って、手を添えながら差し出してきました。

 

「……あっ、あの……お返し……です」

「ありがとうございます。いただきますね」

「うぅ……やっぱ有紗ちゃんは、全然平気そう」

「単純に恥ずかしさより、嬉しさの方が強いだけですよ」

「……そっ、そう言われると、文句も言えなくなっちゃいます」

 

 そう言って苦笑するひとりさんの表情はとても優しく、なんというか私とこうしたやりとりをする時間を楽しんでくれているのが伝わってきて、こちらも幸せな気持ちになりました。

 微笑み返すと、ひとりさんは少し気恥ずかしそうに視線を窓の外に向けながら呟きます。

 

「……ふっ、富士山とか見えますかね」

「小田原が近づいてきたら見えると思いますよ。今日は天気もいいですし……まぁ、心配しなくても富士山はあとでたっぷり見れますよ」

「え? どっ、どういうことですか?」

「私たちが宿泊する宿は、富士山が見えるのが売りのひとつなので、天候にもよりますが部屋から富士山を見ることができますよ。今日の天気であれば大丈夫です」

「あっ、そうなんですね。富士山が見える宿……そっ、そういえば、まだ結局どんな宿か詳しく聞いてないんですけど……いっ、いや、宿よりどんな部屋なのかが気になります」

 

 宿から富士山も見えますし、それどころから温泉からも富士山が見える造りになっており絶景を堪能できる宿です。

 

「ふむ、出来ればサプライズ感は大切にしたいんですが……」

「なっ、なら、せめてひとつ教えてください。前に行ったホテルのスイートルームと……どっ、どっちが凄いですか?」

「今回の方ですね。お恥ずかしながら私のコネや伝手だけでは確保が難しくて、お父様に力を貸してもらいました」

「……あっ、有紗ちゃんでも簡単に取れないような場所なんですか!?」

 

 心底驚愕した様子のひとりさんですが、若干返答に困る部分はあります。

 

「う、う~ん。なかなか、返答が難しいですね。単に私が箱根の宿の方面に効く伝手を持ってなかっただけでもありますし……例えば軽井沢の辺りですと、いくつか出資している会社があるので今回の部屋に近いランクのものでも押さえられる可能性は高いです」

「なっ、なるほど……有紗ちゃんのお父さんは、箱根の方に顔が利くって感じですか?」

「お父様に関して言えば、むしろ顔が利かない場所があるのか疑問に思うレベルですね。私とは人脈も資産も格が違い過ぎるので……」

「そっ、そそ、そんなに凄いんですか……」

 

 実際、お父様にとっては私の総資産の額も大した金額ではないでしょう。お父様が動かせる金額は、私とは文字通り桁が違いますし、資金力も人脈も私など足元にも及びません。

 

「お父様は時花グループのトップ……通常であるとグループ会社といってもなかなか馴染みがないかもしれませんが、いくつもの巨大な企業が集まるグループの頂点……日本でトップは難しいでしょうが5指には確実に入るであろう資産と権力を持つ存在……ですかね?」

「あわわわ……」

「私にとっては普通の優しいお父様ですけどね」

 

 実際のところ、お父様は日本でも頂点に近い所に君臨する存在ではあります。元々お爺様やそれ以前の代から受け継がれてきた大きな土台はありましたが、それでもお父様がトップに立ってからの躍進は凄まじいです。

 経営や投資に関してはまるで未来でも見えるのではないかというほど天才的な采配ですし、私も心から尊敬しています。

 ただ、やはり私にとっては、優しく……趣味の車の良さを私やお母様が分かってくれないとへこんだり、私とお母様がふたりで旅行に行ったことを羨ましがったりする普通のお父様です。

 

「……まぁ、あまり気にしなくても大丈夫ですよ。いずれひとりさんの義父になるわけですし、顔を合わせる機会も多くなるでしょう」

「あっ、有紗ちゃん……あのっ、確認なんですが……その、そそ、そういう、将来結婚がどうとか……えっと……恋愛関連の話とか、お父さんとかにしてたりは……?」

「え? ひとりさんと知り合った2日後には報告しましたが……」

「…………安定の有紗ちゃんだった……終わった」

 

 

 




時花有紗:さすがの猛将。こざかしい言い回しや搦手など使わないで正面突破。初期から変わらぬ行動力……尤も、初期と違ってぼっちちゃん側の好感度が上がりまくってるので、大抵の行動は受け入れてもらえる。

後藤ひとり:有紗が父親に対して包み隠さず恋愛事情も報告しているのを知って頭を抱えた。有紗パパに会ったらとてつもないお叱りを受けるのでは? とかそんな風に考えているが、有紗パパは百合に理解のあるパパなので問題はない。

温泉旅行:終始有紗とぼっちちゃんが百合百合いちゃいちゃしているお話である。
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