ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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三十二手逢瀬の温泉旅行②~sideA~

 

 

 宿で一休みしたあとは、荷物を置いて温泉街に向かいます。この宿から温泉街は少々距離がありますので徒歩では遠いですが、送迎があるので問題ありません。

 浴衣で歩けるような温泉街のある温泉地もよかったのですが、距離などを考えるとやはり箱根や熱海がいいですね。もう少し長く日程を取れるなら、城崎温泉や草津温泉などもいいですが、そういったのはまたの機会ですね。

 

「あっ、温泉街って基本的になにをするんでしょう? お土産を買うとか?」

「お土産は最終日で大丈夫だと思いますよ。基本的には食べ歩きですかね。温泉饅頭などもそうですが、箱根ですとスイーツや揚げ物も有名らしいですよ。ある程度は調べましたが、揚げたてのかまぼこを食べられる人気店などもあるみたいです」

「なっ、なるほど、ちょうど少し小腹も空いてますし、夕食まではまだ時間があるので食べ歩きもいいですね」

「面白いものだと、干物を店の前で七輪で焼いて試食できる店もあるみたいですよ」

「へぇ~」

 

 趣を感じる建物の並ぶ温泉街をひとりさんと一緒に歩きながら話をします。流石に観光地だけあって人はそれなりに居るので、はぐれない様に手を繋いでいます。そう、あくまではぐれないようにです。

 まぁ、こうしているとなんだか恋人同士で観光しているみたいで幸せという気持ちは否定しません。

 

「あっ、確かに甘い匂いとかしますね」

「饅頭なども出来立てのものが多いですしね。ひとりさん、あそこが先ほど話した干物の店ですよ」

「あっ、本当ですね。いい匂いが……」

「寄ってみましょうか」

 

 ひとりさんと共に干物屋の前にある七輪の置かれた試食コーナーに移動します。事前の情報通りにそこでは干物を焼いて試食できるようで、アジやかますの干物がありました。

 少しではありますが七輪の順番待ちをして、さっそく試食をしてみます。梅昆布茶も飲むことができるみたいです。

 

「あっ、猫も……並んでいるんですかね?」

「ふふ、行儀のいい猫ですね。っと、さっそく焼きましょう」

「あっ、はい。かなり身が厚いですね。いい匂い……」

「気に入れば買って帰って、宿で焼いて食べるのもいいかもしれませんね。あの宿も七輪の貸し出しはしていたはずなので……」

 

 話しつつ軽く焦げ目がつく程度に干物を焼いて食べてみますと、香ばしく口の中に味が広がって非常に美味しいです。

 

「あっ、おっ、美味しいですね」

「ええ、味がしっかりしていて素晴らしいですね」

 

 干物の味はかなりのもので、買って帰りたいと思えるような品ではあったのですが……いますぐ買うのは難しいです。干物を持ったまま温泉街を歩くわけにも行きませんし、帰りにもう一度寄って宿で食べる用の干物を買って帰ろうとひとりさんと話してから次の場所に移動します。

 

「……やっ、やっぱり、スイーツ系が多いんですね」

「そうですね。ソフトクリームなどもおおいですね」

「あっ、あの店……はちみつ入りソフトクリーム?」

「……写真を見る限り、本物の蜂の巣を乗せているみたいですね」

「きっ、喜多ちゃんが好きそうですね。イソスタ映えとかしそう」

「ああ、確かに写真映えしそうな見た目ですね」

 

 ひとりさんの言う通り、カップに入ったソフトクリームに蜂の巣が乗っている光景は綺麗で、カップのデザインなども可愛らしいので喜多さんはかなり好きそうなデザインです。

 

「食べてみますか?」

「あっ、いや、流石にこの時期にソフトクリームは……あっ、あと、ソフトクリームには江の島で若干のトラウマが……」

「またトンビが現れても、ひとりさんのことは私が守りますよ」

「あっ、あぅ……そそ、そっ、そうですか……えと、たっ、頼りになります」

 

 たしかにいまは冬場ですし、今日もそれなりに気温は低いのでソフトクリームはあまり食べようという気分にはなりにくいというのはあります。

 ひとりさんのトラウマというのは間違いなく、江の島での一件でしょう。あの時は突然のことでやや初動が遅れてしまいましたが、今後同じようなことがあればきっともっと早くひとりさんを守って見せます。

 そんな風に決意していると、私の手を握るひとりさんの力が少しだけ強くなったような気がしました。

 

「……あっ、アレが、有紗ちゃんの言ってたかまぼこのお店じゃないですか?」

「恐らくそうですね。かなり行列ができてますね」

「にっ、人気店って話ですもんね。なっ、並びます?」

「せっかくですし、並びましょうか。店内に入るわけでもないので列が消化されるスピードも早そうですし……しかし、続け様に魚ですね」

「あはは、たっ、確かに干物に続いて魚ですね」

 

 狙っていたわけでは無いですが、魚続きの偶然にひとりさんと顔を見合わせて笑い合います。こういった他愛のないことでも楽しい気分になれるというのは、なんというか本当に幸せなものです。

 そんな風に楽しく話をしていると、順番が近くなって店先のメニューが見えるようになりました。

 

「種類が豊富ですね」

「たっ、確かに、種類が……ベーコンポテト?」

「刻んで練り込んでいるということでは?」

「あっ、なるほど……棒ってついてるのが細長くて、籠てまりが丸い形のやつですかね?」

「そのようですね。ひとりさんはどれにしますか?」

「うっ、う~ん……季節限定のカニ棒が美味しそうですね」

「確かに美味しそうですね。私はたまねぎ棒にします」

 

 相談していると順番が回ってきたので、それぞれ注文をしました。注文をするとカウンターの中の揚げたてのかまぼこにさっと串を刺して、専用の包み紙に入れて渡してくれました。

 それを受け取って、列から離れたところでひとりさんと一緒に食べます。

 

「あっ、思った以上にカニの風味があって美味しいです」

「こちらもたまねぎの甘みと食感がとてもマッチしていておいしいです……というわけで、ひとりさん、一口味見してみませんか?」

「うぇっ!? あっ、えと……じゃっ、じゃあ、有紗ちゃんも一口どうぞ」

「ありがとうございます」

 

 もちろんこのためにひとりさんとは別の商品を選びました。ひとりさんは一瞬変な声を出しましたが、おそらく私がこう言い出すことは予想していたのだと思います。少し顔を赤くしながらもすぐに応じてくれて、互いの串を交換して一口ずつ食べました。

 こうして好きな相手と美味しい気持ちを共感し合えるというのは、本当に心から幸せなことですね。

 

 

****

 

 

 いくつもの店を回り、ある程度時間が経過したところでメインとなる通りから外れて、自動販売機で飲み物を買ってひとりさんと休憩しながら話します。

 

「だっ、だいぶ回りましたね」

「確かにあちこち見て回りましたね。それに食べ歩きもかなり……」

「でっ、ですね。これ以上食べると、夕食が食べられなくなりますね」

「そろそろ、戻りましょうか?」

 

 あちこち食べ歩きをして回ったので、ひとりさんと相談の上で宿に戻ることにしました。宿で食べる様にいくつか菓子などを購入しつつ、迎えの手配をして送迎車で宿に戻りました。

 宿の部屋に戻り、座椅子に腰かけながらひとりさんとこれからについてを話します。

 

「夕食前に温泉に入りますか?」

「あっ、そうですね。結構歩いて疲れましたし、さっぱりしたいです」

 

 夕食まである程度時間もあるので、先に温泉を楽しむのがいいでしょう。夕方なので夕日に照らされる富士山も見えて景色もいいでしょう。

 また夜に入りたくなったら再度入ることも可能なので、気楽に楽しむことができます。

 

「ああ、でも、その前にせっかくですし写真を撮りませんか?」

「あっ、写真、ですか?」

「ええ、結束バンドの皆さんに送りませんか?」

「いっ、いいですね。たぶん皆もこの宿は見たいと思いますし……にっ、庭が入る写真がいいですかね?」

 

 場所を相談して、縁側付きの庭のある部屋に移動して、そちらでひとりさんと並んで写真を撮ります。ひとりさんが以前に使った自撮り棒を持っていてくれたおかげで、スムーズに写真が撮れました。

 そして撮影した写真と共に箱根旅行中であることを、グループロインに送るとすぐに反応がありました。

 

『いいなぁ、温泉旅行。私も行きたいな~』

『え? そこが部屋? 庭が……さ、流石凄い所に……物凄く映えそう!』

『お土産は食べ物でよろしく』

 

 虹夏さん、喜多さん、リョウさんそれぞれのらしい反応を見て、ひとりさんと一緒にスマートフォンを見ながら苦笑しました。

 

「やはりこういう反応にも個性が出ますね」

「あっ、リョウさんは相変わらずというか、ある意味一番安定してますね」

 

 たしかに、こういう場面でも真っ先にお土産の催促になるあたりさすがリョウさんといった感じではあります。ただ……最近少し思い詰めているような様子もあるので、少し心配ですね。

 予想に過ぎませんが、新曲の製作が上手く行ってないのかもしれません。特に次に作る曲は未確認ライオットの審査に応募する曲なので、プレッシャーも大きいでしょう。

 そんなことを考えていると、リョウさんがロインにあるコメントを書き込みました。

 

『……ぼっちが女の顔してる』

『しっ、してないです!!』

『そっか~ぼっちちゃんも、ついに大人の階段を昇っちゃうんだね』

『虹夏ちゃんもなんてこと言うんですか!?』

『ごめんごめん。いや~有紗ちゃん絡みだと、ぼっちちゃん期待通りの可愛い反応してくれるから、なんか楽しくてね。まぁ、せっかくの機会だからふたりでゆっくり楽しんできてよ』

『ありがとうございます。虹夏さんたちもよいお年を』

 

 ロインでの会話を終えて、ひとりさんの方を向くと、ひとりさんは赤い顔でスマートフォンを睨みつけていましたが、もちろん相手に見えるわけもないので無意味ではあります。

 

「ひとりさん、それでは温泉に行きましょうか?」

「あっ、まま、待ってください。もっ、もう少しだけ……ちょっと、いま変な感じになってるので、落ち着く時間をください」

「うん? 分かりました。では、落ち着いたら声をかけてください」

 

 私はさほど気にしませんが、リョウさんや虹夏さんの言葉を意識している様子なので、その話題に触れることはなくひとりさんが落ち着くのを待つことにします。

 

 

 




時花有紗:からかいには動じないし、進展を焦ることも無い。有紗にとって将来ひとりと結婚するのは確定事項なので、じっくり待ちの姿勢。

後藤ひとり:距離感は完全にバグっており、有紗と手を繋ぐことに羞恥心はほぼ無い様子で、今回もずっと手を繋いでいた。有紗関連だと、虹夏の言う通り分かりやすく可愛い反応をする。

温泉旅行:やはり、入浴には1話使いたいのでここで区切る。
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