ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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三十二手逢瀬の温泉旅行②~sideB~

 

 

 ロインでの揶揄いによって妙に意識してしまって顔に血が上っていたひとりが落ち着いたあとは、改めて温泉に入ることにした。

 別邸より少し離れた場所にある温泉に向けて、備え付けの草履を履いて移動する。

 

「緩やかですが、少し段差があるので注意してくださいね」

「あっ、はい。少し高い位置にあるのは……景色のためですかね?」

「そうですね。やはり温泉からの景色を考えての調整だと思いますよ」

 

 別邸の温泉へは緩やかな石造りの階段を上って向かう。中に入ると木造りの上品な脱衣所があり、そこで服を脱いで温泉に入る形になる。

 服を脱ぎつつ、ふとひとりはなんの気なく有紗に視線を向けて……目を奪われた。

 

 透き通るように白く、それでいて病的ではなく健康的な美しさと艶のある肌。その肌に映える輝くような銀髪に、見事という他ないプロポーション。その美しさは凄まじく、同性であるひとりでも見惚れてしまうほどだった。

 胸の大きさはひとりの方が上ではあるが、有紗も十分に大きくひとりより高い身長も相まって抜群のプロポーションという言葉がしっくりくる。

 

(ほ、本当に神様に依怙贔屓されてるってぐらい……やっぱり、有紗ちゃんは綺麗だなぁ。なんか、見てると変にドキドキしちゃう)

 

 服を脱ぎかけたままボーっと有紗を見ていたひとりの視線に気付き、有紗が振り向いて首を傾げる。

 

「ひとりさん?」

「あっ、い、いえ、なんでもないです!?」

 

 その言葉で我に返り、ひとりは慌てたように服を脱いでタオルを体に巻いた。妙な胸の高鳴りが何なのかはよく分からないままだった。

 有紗は不思議そうな表情を浮かべつつの特にそれ以上なにかを言うことはなく、ひとりと同じようにタオルを体に巻いて、髪の毛を纏めてから声をかける。

 

「ひとりさんも、入浴用のヘアゴム使いますか? 備え付けのものがありますよ」

「あっ、はい。ありがとうございます」

 

 温泉宿が用意してくれている入浴用のヘアゴムを受け取り、ひとりも軽く髪を纏める。その様子を見ていた有紗は、ひとりが髪を纏め終わると目を輝かせる。

 

「ひとりさんは、その形で纏めるんですね」

「え? あっ、はい。私は大体、左右に丸めるような感じです」

「いつもとは違った雰囲気で、とても可愛らしいですね!」

「はえ? あっ、ああ、ありがとうございます。あっ、有紗ちゃんも、綺麗ですよ」

「ふふ、ありがとうございます」

 

 セミロングヘアの有紗とロングヘアのひとりでは髪のまとめ方も違ってくる。有紗はポニーテールのような形で纏めるが、ひとりの髪の長さでは同じように纏めては髪が湯につかってしまうので、両サイドに団子のような形で纏めて入浴する。

 もちろんひとりのことが大好きな有紗が、普段とは違うその髪型に反応しないわけもなく、興奮気味に絶賛していた。

 その勢いに気圧されつつも有紗に褒められたこと自体は嬉しいのか、ひとりは微かに頬を赤く染めていた。

 

 準備を終えていよいよ露天風呂のある場所に移動したひとりの目に飛び込んできたのは、夕日に照らされ茜色に染まる富士山だった。

 

「……すっ、すごい」

 

 露天風呂の真正面という絶妙の位置に見える富士山と箱根の山々は、まさに絶景と呼ぶに相応しい景色でありひとりは感動したように目を輝かせた。

 

「絶景ですね。私も話に聞いていただけで実際に来たのは初めてですが、人気があるのも納得できる景色です」

「そっ、そうですね。すごく綺麗で、贅沢な景色ですね」

「ええ、ただ、このまま眺めていては風邪をひいてしまいますので、温泉に入りましょうか?」

「あっ、そっ、そうですね」

「ですがその前に、あちらの内湯がある部屋で体を洗いましょう」

 

 季節は12月末であり、気温は中々に低い露天風呂のおかげである程度の温かさはあるが、それでも裸で長居していては風邪をひいてしまうだろう。

 有紗の提案で内風呂やシャワーのある部屋に移動する。そしてひとりが体を洗う準備をしようとしたタイミングで、有紗が明るい様子で声をかけてきた。

 

「ひとりさん、背中を流しますよ」

「ふぇ? あっ、え? えっ、えっと……あっ、有紗ちゃんが、私の背中を……ですか?」

「はい。本の知識ではありますが、こういったシチュエーションで互いの背中を流し合うというのは定番ではないでしょうか?」

「たっ、確かに、言われてみれば……そうですね」

「ええ、というわけでこちらの椅子にどうぞ」

「あっ、はっ、はは、はい!」

 

 有紗の言葉はひとりにも納得のできるものではあったが、しかし、ひとりは妙な緊張と共に椅子に座った。本人にもよく分かっていないが、やけに心臓が五月蠅く脈打っているような気がした。

 

(え? あれ? な、なんで私こんなにドキドキしてるんだろ? だ、だって、有紗ちゃんと私は同性だよ? なにもおかしいことはないはず。そ、そうだよ。友達とお風呂に入って背中を流し合うとか、ごくごく普通のことのはず……普通のはず……)

 

 巻いていたタオルを外して体の前で抱える様に持つ。後ろでは有紗が桶などを持って来て用意をしている音が聞こえ、ひとりは言いようのない気恥ずかしさに顔を赤くしていた。

 

(う、うぅ、な、なんでこんなに恥ずかしいの? ぜ、絶対、リョウさんや虹夏ちゃんが変なロインしてきたせいだ!?)

 

 少し前のロインで、妙に有紗のことを意識してしまっているからか、とにかく恥ずかしいという気持ちが強かった。

 

「それじゃあ、洗いますね」

「……」

 

 有紗が声をかけてくるが、ひとりは混乱の只中にありその声を聞き逃してしまった。それ自体は問題ない。有紗も別に返答を求めたわけでは無く、これから行うという宣言のようなものであり、気にせずひとりの背中を洗おうとお湯とボディソープを沁み込ませたスポンジをひとりの背中に当てた。

 

「ひゃんっ!?」

「……ひゃん?」

「……あっ、ああ、ここ、こっ、これはその……つっ、つつ、ついビックリして……あぅぅぅ、はっ、恥ずかしい」

 

 考え事をしていたせいで完全に不意打ちで濡れたスポンジを背中に当てられたため、つい反射的に変な声が出てしまった。ひとりは一瞬で顔を茹蛸の様に赤く染める。

 

「申し訳ありません。驚かせてしまいましたか?」

「いっ、いえ、有紗ちゃんのせいじゃないです……もっ、もう大丈夫ですから」

「そうですか? では、再開しますね」

「あっ、はい」

 

 気恥ずかしさは感じつつも、それでもやはり有紗の声を聴くと安心できるのかひとりは少しだけ落ち着いた様子で頷き、有紗は再びスポンジを動かす。

 優しく、それでいて要所要所で絶妙な力加減で背中を擦られるのは心地よく、ひとりの肩からも自然と力が抜けていった。

 

「痒くはありませんか?」

「あっ、はい。気持ちいいです」

「それならよかったです……では、流しますね」

「はい。なっ、流したら、交代ですね」

 

 背中を洗い終わり、シャワーでボディソープを流す。そして有紗と場所を交代して今度はひとりが、有紗の背中を流す形になった。

 後ろから見ても芸術的ほどに白く美しい肌に、思わず見とれつつもスポンジを動かして背中を擦る。

 

「あっ、えと……痒くは無いですか?」

「はい。とても気持ちいいです。ひとりさんの力加減は絶妙ですね」

「え、えへへ……それなら、よっ、よかったです」

 

 気恥ずかしさはもちろんあるが、有紗と一緒であれば最終的に安心感という気持ちの方が強くなるのは、それだけひとりが有紗のことを信頼しているからかもしれない。

 いつの間にか顔に浮かんでいた自然な笑顔と共に、ひとりは有紗の背中を綺麗に洗おうと手を動かした。

 

 

****

 

 

 背中を流し終えたあとで髪も洗ってから、ふたりは改めて露天風呂にやってきて並んで湯に浸かる。箱根の温泉は十七湯と呼ばれるほど多彩ではあるが、今回ふたりが入っている温泉はその中でも癖が少なく老若男女が楽しめると言われる単純泉である。

 

「……ふぅ、気持ちいですね」

「あっ、はい。温泉なんていつ以来か……気持ちいいです」

 

 並んで温泉に浸かり、正面に見える夕富士を眺める。絶景をふたりだけで貸し切っているかのようなその光景は、なんとも贅沢な気持ちにさせた。

 

「そういえば、この温泉は美肌効果もあるみたいですよ」

「あっ、そっ、そうなんですね。じゃあ、この温泉にいっぱい浸かってたら、有紗ちゃんみたいな綺麗な肌になりますかね?」

「どうでしょう? ひとりさんの肌は、いまの時点で十分すぎるぐらい綺麗ですよ」

 

 有紗の言葉通り、ひとりもかなり肌は綺麗だった。というのもひとりは年中ジャージ姿であり、素肌がほぼ直射日光に触れることがないため、肌が白く綺麗だった。

 ただいまこの場に居る比較対象が絶世の美女といえる有紗であるため、あまり実感は湧かないようだった。

 

「美肌といえば、鎖骨周りのマッサージが効果的と聞きますね」

「さっ、鎖骨ですか?」

「はい。えっと、この辺りですね。この辺りを指で軽くマッサージするといいんですよ」

「ひゃっ!? あっ、有紗ちゃん、くっ、くすぐったいですよ」

「ふふ、申し訳ありません」

 

 ひとりの鎖骨辺りに触れて軽くマッサージをしてみせる有紗に、ひとりはくすぐったそうに苦笑し、それを見た有紗も微笑む。

 有紗に触れられることに対して、ひとりは不快感などは一切無い。普段から頻繁に手を繋いでいるし、そもそもいまも肩が触れ合うほどの距離で並んで温泉に浸かっている。

 

「……あっ、有紗ちゃん」

「はい?」

「えっ、えっと……特に理由はないんですけど……その、手を繋いでもいいですか?」

「はい。もちろん」

「あっ、ありがとうございます」

 

 自分で言った通りそう言い出した理由は特になかった。強いて挙げるなら、ただ単に有紗と手を繋ぎたかったとそれだけの理由ではある。

 

(うん。最初はいろいろ戸惑ったけど……やっぱり、有紗ちゃんと一緒だと落ち着くなぁ。なんか、温泉も温かくて、疲れも取れて……幸せだなぁ)

 

 温泉の湯の中で手を繋ぎ、肩を寄せ合うようにして景色を眺める。多くの言葉を交わさずとも共に居るだけで安心して、幸せな気持ちでいられるというのはそれだけふたりの相性がいい証拠でもあった。

 

 

 




時花有紗:プロポーションも抜群で肌も滅茶苦茶綺麗。全体的に反則級の美貌。本人はお団子ヘアのぼっちちゃんを見れてニコニコである。ちなみに、髪の長さはセミロングとセミショートの間ぐらいであり、喜多ちゃんと同じぐらいの長さ。

後藤ひとり:好感度激高なぼっちちゃん。有紗に肌に触れられることに対する忌避感とかはまったく無い模様。普通に温泉に入っても、ぼっちちゃんの方から近くに寄ってくる感じである。お団子ヘア可愛い。

富士山:百合は尊い。こちらこそ美しい景色をありがとう。
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