ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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四十手救援のスランプ~sideB~

 

 

 結束バンドの作曲を担当しているリョウは、現在行き詰っていた。何度も作曲を繰り返しては没にしており、来たる未確認ライオットに向けての新曲作成に苦戦していた。

 デモ審査の締め切りを考えれば、いい加減完成させなければ間に合わなくなると思いつつも、この曲が未確認ライオットに結束バンドが出場できるか否かを決める重要な曲だと思えば思うほど「本当にこれでいいのか?」という思いが消えず、作り上げた曲を何度も没にしていた。

 

 行き詰っている……己がスランプに陥っているという自覚はリョウ自身にもあった。当然どうすればスランプを抜け出せるのかということも考えた。

 そして、旅に出て刺激を得ることで道を開こうと、テントや寝袋を用意したまではよかったが……生粋のインドア派であるリョウは、結局旅に出るのは面倒になり、さりとてせっかくテントなどを用意したのだからと、庭で組み立てることにした。

 

「なにをしているんですか?」

「テントを組み立ててる」

「……ひとりでテント張りは大変ではないですか? よろしければ手伝いますよ」

「んっ、助かる………………え?」

 

 テントを組み立てている際にあまりにも自然に声をかけられて返事をしてしまったが、ここはリョウの家の庭であり両親以外の声……ましてやリョウもよく知る相手の声が聞こえてくるはずがなかった。

 驚きつつ振り返るリョウの前で、テントの骨組みを手に取りつつ有紗が微笑みを浮かべる。

 

「こちらを抑えておけばいいですか?」

「あ、うん。固定するから、少しそのままで……」

「分かりました」

 

 とりあえず流されるように有紗の補助を受けつつテントの組み立てを再開し、作業を行いながらリョウは心底不思議そうな表情で問いかけた。

 

「……なんで有紗がここに?」

「ああ、住所は虹夏さんに聞きました。訪ねるとリョウさんのお母様が出てくださいまして、庭に居ると教えてもらったのでこちらに」

「なにか私に用事?」

「そうですね。用事といえば用事です。私は結束バンドのサポートスタッフですからね……一番サポートが必要そうな方のところに訪ねてきたわけです」

「……っ」

 

 そう言って微笑む有紗の顔は、まるで全てを見通しているかのようで、思わずリョウは少し気圧された。そのまま、両者の間には沈黙が流れ、しばし黙々とテントを組み立てる。

 そして、組み立てがひと段落したタイミングで、頭を整理したのかリョウは改めて口を開いた。

 

「……有紗は全部お見通し?」

「全部かどうかは分かりませんが、リョウさんが悩んでいるであろう内容は、なんとなく理解しているつもりですよ」

「そっか……組み立て、手伝ってくれてありがとう。外は冷えるし、部屋で話そう」

「分かりました。お邪魔しますね」

 

 有紗の返答を聞き、リョウはどこか諦めたような表情で有紗を家に迎え入れた。先ほどのやり取りでハッキリと伝わって来た。有紗がリョウのスランプに気付いており、その用件で訪ねてきたと……。

 リョウも有紗とは半年以上の付き合いであり、その聡明さと……他者の感情の機微や物事の本質を鋭く見抜く力を持っていることは知っており、誤魔化しは無意味だと理解したからだった。

 

 リョウの部屋に通された有紗は、チラリとテーブルの上や床に散らばったバツ印の付いた楽譜に視線を動かしたあとで、リョウが用意した座布団に座る。

 そしてリョウが対面に座るのを見たあとで、真剣な表情で口を開いた。

 

「……怖いんですね。結束バンドの皆さんが本気で頑張って目標にしている未確認ライオット……自分の作った曲がその明暗を分けることが……」

「……本当に、有紗は鋭すぎ。そう、皆フェスにかけてるから……結果が駄目だったら、皆がバンドやめるんじゃないかって……そう思うと、どんな曲を作ってもクオリティが足りないような気がして、上手く行かない」

 

 有紗は全て見抜いているという前提があるからこそだろうか、リョウは比較的素直に自らが抱える不安を吐露した。

 リョウは過去に一度所属していたバンドが意見がすれ違い最終的に解散するという経験を経ており、それがネガティブな想像を掻き立てる要因にもなっていた。

 そんなリョウの不安を聞き終えたあとで、有紗は優しく微笑みながら軽く頷く。

 

「リョウさんの不安は分かりますし、解決策となるアドバイスをすることもできますが……その前に一言、自惚れないでください」

「……え?」

「確かに、未確認ライオットは結束バンドの皆さんにとって大切なフェスではあるのでしょう。ですが、仮に失敗したとしてもそれで壊れてしまうほど、結束バンドは弱いバンドではありませんよ。仮に駄目でも、その失敗を次に生かして前を向けるバンドです。だから、大丈夫です。リョウさんが恐れているような事態にはなりません」

「………………そっか……大丈夫なんだ」

 

 これが見ず知らずの誰かが言った言葉であれば、簡単に受け入れることはできなかっただろう。だが、リョウにとっても有紗は5人目のメンバーといっていい存在であり、信頼している相手だった。

 その相手が確信をもって大丈夫だというのであれば、きっと大丈夫なのだろうと少しだけ、リョウの表情が和らいだ。

 そのタイミングで、有紗は真っ直ぐにリョウを見つめながら言葉を続ける。

 

「その上で、いまのリョウさんのスランプを解決するためのアドバイスです。いまのリョウさんに必要なのは、時間でも気分転換でもないです。必要なのは、結束バンドの初めてオリジナル曲を作った際……ひとりさんが、貴女に見せた勇気です」

「……」

 

 有紗の言葉を聞いてリョウの頭に思い浮かんだのは、作詞に苦戦する中でリョウにアドバイスが欲しいと頼ってきたひとりの姿だった。

 同じ立場になってこそ分かるものがある。あの時にひとりが振り絞った勇気も……。

 

「……詳細の説明が必要ですか?」

「ううん。大丈夫……ありがとう、有紗」

「その様子ですと、大丈夫そうですね。頼るべき相手も分かったみたいですし……ちなみに、その頼るべき相手も自分の言葉が重荷になったのではと、少し気にしている様子でしたよ」

 

 そう言って苦笑したあとで有紗は話すべきことは話し終えたと言いたげに立ち上がり、リョウの部屋を後にしようとする。

 

「……また今度、仮の曲を持ってぼっちや郁代にも聞いてもらうつもりだから、その時は有紗の意見も聞きたい」

「ええ、もちろん。可能な限り協力しますよ。それでは、また」

「うん」

 

 一礼して部屋から出ていく有紗を見送ったあとで、リョウはしばらくぼんやりと天井を見上げたあとで小さく微笑んだ。

 

「……本当に、頼りになり過ぎるサポートだ」

 

 そう呟いたあとで、いくつかの楽譜とノートパソコンを持って、ロインで虹夏に連絡した……「いまから訪ねてもいいか?」と……。

 

 

****

 

 

 元々リョウは虹夏の家には頻繁に遊びに行っており、連絡してから到着するまでも早かった。インターホンを押すと、事前に連絡していたおかげもあり虹夏が出迎えてくれた。

 

「おっ、来たね」

「うん。邪魔する」

「よし、じゃあ……こいっ!」

「……うん?」

 

 軽く言葉を交わしたあとで、虹夏は両手を広げたが、その動きの意図が分からないリョウは心底不思議そうに首を傾げる。

 

「有紗ちゃんから、ロイン貰ってたからね。リョウが訪ねて来たら、なにも聞かずに受け止めてあげて欲しいって……というわけで、いつでもこ~い」

「……いや、それ、物理的にじゃなくて、相談に乗ってやれって意味だと思う」

「………………」

 

 その言葉に両手を広げたままで硬直し、なんとも言えない気まずそうな表情を浮かべる虹夏……その姿を見て、リョウは吹き出すように笑みを溢した。

 

「ぷっ、なんか変なことしてる」

「うわ、そ、そうだったんだ……ああ、もぉ、恥ずかしいなぁ……」

「まぁ、でもせっかくだし物理的にも受け止めてもらおう」

「いや、なにがせっかくなんだよ」

「苦しゅうない」

「……はぁ、まったく」

 

 勘違いで顔を赤くする虹夏を見て笑いつつ、リョウはせっかくだからと荷物を置いて虹夏の胸に身を寄せた。恥ずかしさと呆れが混ざったような表情を浮かべつつも、虹夏はリョウを軽く抱きしめる。

 

「……う~ん。胸が小さいから柔らかさはイマイチ」

「え? なに? 相談じゃなくて、喧嘩しに来たの? ぶん殴るよ?」

「ごめん冗談……虹夏、ちょっと、作曲で苦戦してるから……相談に乗って欲しい」

「……うん。もちろん。いくらでも力になるよ」

 

 明るく眩しい笑顔で力になると告げる虹夏を見て、リョウは心の底から安堵したような表情で微笑んだ。

 

 

****

 

 

 冬休みが明け始業式となる日、有紗とひとりは一緒に通学を行っていた。月に一度程度ある恒例行事ともいえる通学、電車で隣同士の席に座りながら雑談をしていた。

 

「あっ、今日は新曲の打ち合わせですね」

「ですね。新曲が完成したわけでは無いみたいですが、一度メンバーの皆さんの意見を聞いてみたいらしいですね」

「あっ、はい。虹夏ちゃんがリョウさんに勧めたみたいです」

 

 今日は始業式が終わった後でSTARRYに集合して、未確認ライオットに向けての新曲の打ち合わせを行う予定になっていた。

 リョウは虹夏と話し合ったことで、スランプから脱することができたのだが、せっかくだからいい曲にしたいとひとりや有紗、喜多の意見も聞きたいと話した結果、虹夏によって今回の打ち合わせが企画された。

 

 そのまま少し話をしていたのだが、ふと途中でひとりが言葉を止めて沈黙してから、どこか確信を持った口調で告げた。

 

「……あっ、有紗ちゃんのおかげ、ですよね?」

「どうしてですか?」

「なっ、なんとなく……有紗ちゃんは、前にリョウさんの精神を心配してたので……あっ、えっと、有紗ちゃんのことはよく知ってるから、動いてくれたんだって……分かります。あっ、有紗ちゃんは凄く頼りになりますから」

「ふふふ、そんな風に評価してもらえると嬉しいですね。確かに、一言二言アドバイスはしましたが、リョウさんが立ち直れたのはリョウさん自身の力と、結束バンドの皆さんといままで築いてきた絆のおかげですよ」

 

 深い信頼の籠った目を向けてくるひとりに、有紗は微笑み返す。ひとりも微笑み返し、どこか穏やかな空気の中でどちらからというわけでもなく自然と手を繋ぎ、楽し気に雑談を続けた。

 

 

 




時花有紗:リョウのスランプをいち早く察して行動、さりげなく虹リョウをアシストする様は百合の鑑。

後藤ひとり:隙あらばいちゃつく。

世界のYAMADA:有紗のアドバイスを受けて虹夏を頼ったことで無事スランプを脱した。虹夏の勘違いにはすぐに気付いたが、とりあえずハグはしてもらった。

喜多郁代:待ってほしい。有ぼ、虹リョウが成立したとしたら、私の立場が無さすぎる。有ぼの方には隙がないから、虹喜リョウのトライアングル百合の方向で進めて欲しい。
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