ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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閑話・誕生日プレゼントの相談

 

 

 時が遡ること12月の上旬の結束バンドの練習日。その日は有紗はおらず、結束バンドの4人でスタジオ練習を行っていた。

 有紗は高頻度で来るとはいえ、習い事などもあるので毎回居るわけでは無く、今日はたまたま居ない日だった。

 

 特に問題なく練習を行い、ある程度したところで休憩をすることになり各々スタジオ内で休憩をしていた。その際にペットボトルの水を飲もうとしたリョウだったが、その途中で大きく目を見開いて硬直した。

 

「うん? リョウ、どうしたの?」

「……あ、あれ……」

「うん? ――は?」

「先輩たち、なにを見て――え?」

 

 珍しく心の底から驚愕している様子のリョウを見て、虹夏が不思議そうに声をかけると、リョウは震える手である方向を指差し、それに従って視線を動かした虹夏も硬直した。

 そして同じ方向を見た喜多も、同様に目を見開いて硬直することになった。

 

 3人が見つめる視線の先では、ひとりが椅子に座って休憩しており、その手には一冊の雑誌……ファッション誌が握られていた。しかも女子高生が見るのにふさわしいような、流行を捉えた流行りのファッション誌である。

 少なくとも彼女たちの知るひとりは、流行りのファッション誌などを見るような存在ではない。年中ジャージ姿であり、お洒落などとは無縁の人物である。

 まだロック雑誌などであれば理解もできたが、明らかに異常事態と言える光景に3人とも言葉を失っていた。

 そんな3人の視線に気づいたひとりは、雑誌から顔を上げて不思議そうに首を傾げる。

 

「……え? あっ、皆さん、どっ、どうかしましたか?」

「い、いやいや、それはむしろこっちの台詞というか……」

「ぼっち!」

 

 不思議そうなひとりの問いかけに虹夏が言い淀むと、直後にリョウが慌てた様子でひとりに駆け寄った。

 

「体調が悪いなら無理したら駄目。うちの親、医者だから……れ、連絡してすぐに診てもらおう!」

「はえ? なっ、なんですか急に……わっ、私は別に体調が悪かったりはしませんよ?」

「嘘だ! ぼっちが、そんなお洒落雑誌を読むなんて、高熱でもない限りあり得ない!」

「……いや、リョウ先輩? それはそれで失礼では?」

 

 言葉は失礼であるが、リョウは本気でひとりを心配している様子で青ざめた顔で焦りが伝わって来た。その言葉を聞いてひとりはリョウと自分の手に持つ雑誌を交互に見たあとで、なにかを察したような表情を浮かべて口を開いた。

 

「……あっ、いや、違います。こっ、これは、有紗ちゃんの誕生日プレゼントの参考に見てただけです」

「え? 有紗ちゃんの?」

「あっ、はい。1月22日に有紗ちゃんの誕生日があるので、プレゼントを用意しようと思って……クラスの友達が参考になりそうな雑誌を教えてくれたので、学校帰りに買ってきました」

 

 虹夏の問いかけに有紗の誕生日が来月であり、そのプレゼントの参考のためにファッション誌を読んでいただけで、自分用ではないと告げた。

 すると、リョウはほっとしたような表情を浮かべ、虹夏と喜多も頷く。

 

「そうだったんだね。それなら納得だよ……けど、クラスの友達っていうと、前に一回ライブに来てた子たちだよね?」

「AちゃんとBちゃんね」

「あっ、はい」

「Aちゃん? Bちゃん?」

 

 喜多が口にした奇妙な名前に虹夏が首を傾げると、その反応は予想通りといった具合に喜多が説明を始める。

 

「あだ名です。本部英子(もとべえいこ)ちゃんと牧浦美子(まきうらみこ)ちゃんっていう、仲のいい幼馴染同士のふたりで、それぞれAちゃんとBちゃんってあだ名で呼ばれてますね。本人たちも気に入ってるみたいで、よくABコンビって名乗ってたりしますよ」

「あっ、はい。私もAちゃん、Bちゃんって呼んでます。ぶっ、文化祭の後からよく話すようになって、有紗ちゃんの誕生日プレゼントを考えてる話をしたら、この雑誌を勧めてくれました」

 

 英子と美子はひとりが文化祭以降仲良くなった貴重なクラスメイトの友達であり、結束バンドの演奏によってロックにも興味を持ってくれたみたいで、よく昼食などを一緒に食べながらロックの話をする間柄である。

 ひとりにとっては、憧れていたともいえる学校でロックの話ができる友達でもあり、たびたびライブにも来てくれていた。

 

「なるほど、面白いあだ名だね。それで……よさそうなのはあった?」

「うっ、う~ん。いっ、いや、普段あまりに目にしないものばかりで、どれがいいのか……そっ、相談に乗ってもらえると助かります」

 

 虹夏の問いかけにひとりは難しそうな表情を浮かべつつ助けを求める。お洒落な服やアクセサリーなどが雑誌には載っているのだが、ひとりにとっては本当に馴染みのない物ばかりでどれを選ぶべきか悩んでいた。

 ひとりの言葉を聞いて、3人はひとりと一緒に雑誌を覗き込みながら有紗の誕生日プレゼントについて話し合う。

 

「やっぱり、アクセサリーがいいと思うわ! 大きさも手頃なものが多いし、身に着けてもらえると嬉しいでしょ?」

「じゃあ、指輪だ。ぼっち、指輪がオススメ」

「なっ、なんで指輪なんですか!? ほっ、他のにしてください」

 

 アクセサリーと聞いて即指輪を勧めてくるリョウの言葉をひとりは赤い顔で却下する。するとそのタイミングで、虹夏がなにかに気付いたように手を叩いた。

 

「あ、そうだ。先に予算を聞いておかないと、選ぶにしても買えるものと買えないものがあるよね。ぼっちちゃん、予算はどれぐらいなの?」

「あっ、10万円ぐらいで考えています」

「……ああ、そうなんだ。それなら選べる範囲は広そうだね」

「ブランド品とかもいけそうですよね」

 

 ひとりから予算を聞いて、虹夏と喜多は笑顔で言葉を返し、リョウは気にした様子もなく雑誌のページを捲っていた。

 しかし、表面上はそんな風ににこやかで平常を保っていたが、虹夏は先ほどの発言にそれなりに動揺していた。

 

(え? 10万円って凄くない? 恋人の誕生日プレゼントだとしても躊躇しそうな金額なんだけど……ぼっちちゃん、もしかしてだいぶ本気(ガチ)なプレゼントを渡そうとしてる? だとしたら、むしろリョウが冗談で言った指輪が正解なんじゃ……い、いや、でも、相手は有紗ちゃんと考えると、10万円ぐらいの品じゃないとそもそも釣り合わないのかな? う、うん。そうだよね。喜多ちゃんもリョウも驚いてないし、私が思考を飛躍させ過ぎただけかな……)

 

 10万円という高校生の立場からするととてつもない大金に内心動揺したものの、喜多やリョウが平然としているので、虹夏は自分の反応がおかしいのだと結論付けた。

 もっとも、内心で動揺しているのは虹夏だけではなかったのだが……。

 

(……10万円? しかも、ひとりちゃんの口振り的に予算の限界が10万円ってわけじゃなくて、10万円前後の品を贈ろうとしている感じだよね? さ、さすがに、そんなに本気の本気のプレゼントのアドバイスは荷が重いというか……あっ、でも、相手は有紗ちゃんだって考えると、むしろ安物を贈る方が失礼かも。そう考えると、ひとりちゃんの言う10万は適正価格? 伊地知先輩やリョウ先輩も全然動揺してないし……わ、私も有紗ちゃんのプレゼントは最低でも1万円は超える品にしたほうがいいかしら? お、お年玉の額次第……)

 

 喜多もひとりがあまりに普通の顔で10万円というものだから、驚く機会を逃してしまって平静を装っていたが、内心ではかなり動揺していた。

 ただそれでも、有紗がハイソサエティということもあって、有紗に贈るのあればその金額も適正かもしれないと思い動揺を表に出すことは無かった。

 そして2人と同じく、リョウも雑誌のページを捲りながら思考を巡らせていた。

 

(まさか、ぼっちがそんなにお金を持っているとは……なんとか、上手くご飯でも奢ってもらえないものか……お金を借りると返さないといけないから、奢りがいい。有紗の誕生日プレゼントの買い物に付き合って、そのお礼って体なら……あっ、でも、もしそのせいでぼっちが有紗へ贈るプレゼントのランクが下がったら……ひぃ……こ、今回は止めておこう。まだ、有紗から貰ったビュッフェ食べ放題のカードがあるし、ご飯を奢ってもらわなくても大丈夫……うん)

 

 他ふたりとは違い、大金を持っているであろうひとりになんとかたかれないかと考えていたみたいだが、有紗に対する恐怖心からその考えは捨てるに至った。

 

「……というか、からかいとかは抜きにして、ぼっち指輪は駄目なの?」

「だっ、駄目というわけじゃないですけど……あっ、有紗ちゃんに渡すと、迷わず左手の薬指とかに付けそうな気が……」

「納得」

 

 高級感のあるアクセサリーとしては指輪も確かに選択肢に入りはするが、ひとりが懸念しているのは、ひとりが指輪を贈りでもすれば、有紗の脳内ではその指輪=婚約指輪という結論に至らないかということだった。

 そして、結構な確率でそうなりそうな予感を感じていたので、指輪のプレゼントは避けることにした。

 

「あ~それはあるね。というか、絶対つけるね」

「まぁ、そもそも有紗ちゃんの指のサイズも分かりませんしね。ネックレスとかブレスレットみたいなのがいい気がしますね」

 

 ひとりの言葉を聞いて、虹夏と喜多も苦笑しながら頷く。そのまま4人は雑誌を覗き込みながらアレコレと話し合い。最終的に虹夏や喜多が進めたそれなりのブランドのアクセサリーを贈ることに決めて、なんのアクセサリーにするかは店に行って決めることにした。

 

「……けど、ぼっちちゃん、ひとりで大丈夫?」

「だっ、大丈夫です……こっ、怖いですけど……有紗ちゃんの誕生日プレゼントのためなので、がっ、頑張ります」

「おぉ~アレだよね。なんだかんだで、ぼっちちゃんって有紗ちゃんのこと大好きだよね?」

「そっ、そそ、それは、大切な友達ですし……好きですよ……あっ、あくまで、友達としてですけど!」

「ほほぅ……リョウ、どう思う?」

「完全に恋する乙女の顔してる」

「してないです!!」

 

 この日の練習スタジオには、珍しくひとりの大声が響いたという。

 

 

 




後藤ひとり:有紗への好感度が高すぎて、10万円を使うことに特に躊躇はない。リョウ曰く恋する乙女の顔をしていたとか……その後なんとか勇気を振り絞って、ブランド店でアクセサリーを購入してきた。

本部英子(モブA子):ひとりの百合フレンズで、ひとりのひとつ前の席で最初にひとりに声をかけてきた子。低身長で巨乳な元気っ娘。Bちゃんとは幼馴染であり、昔からBちゃんのことが恋愛的な意味で好き。クールで大人っぽいBちゃんに憧れもある。ひとりとはかなり仲良くなっており、学校でもBちゃん含めて3人でいることが多い。ひとりにプレゼント探しにお勧めの雑誌を紹介した。ちなみにその雑誌をお勧めできたのは、Bちゃんにクリスマスプレゼンを買おうと参考にしていたから。

牧浦美子(モブB子):同じくひとりの百合フレンズで、高身長スレンダーなクールっ娘。「牧(も)浦(ぶ)」。Aちゃんとは幼馴染で、昔からAちゃんのことが恋愛的な意味で好き。明るく天真爛漫なAちゃんに憧れている。Aちゃんと同じくひとりとは仲良くなり3人で居ることが多い。今回ひとりの相談に乗るついでに、ちゃっかりAちゃんとクリスマスに遊ぶ約束を取り付けたとか……。
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