ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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四十一手祝福の誕生日・有紗編~sideB~

 

 

 有紗の誕生日にアクセサリーを贈ると決めたひとりは、12月にネットで調べたブランド店に買い物に来ていた。

 

「ひぇ……」

 

 店の外観から既に高級感とお洒落感が伝わってきて、かなり気圧され気味でなかなか店内に入ることができない。

 

(オ、オーラが……というか、ジャージで来るとこじゃないよね? でっ、出直そうかなぁ……いっ、いや、駄目だ。有紗ちゃんの誕生日プレゼントを買うんだ!)

 

 有紗のことを考え、くじけそうになる心を奮い立たせたひとりは、まるで戦場に赴くかのような表情で店内に入る。

 明らかに初めて来る様子でキョロキョロと不安げに周囲を見ているひとりの様子はすぐに店員の目に留まり、当然ながら店員がひとりに近付いて声をかけてくる。

 

「いらっしゃいませ、なにをお探しでしょうか?」

「ぴぃ!? あっ、ああ、あの、えっと……ほっ、本日はいい買い物をありがとうございました」

「まだ来店したばかりですが!?」

「あぅ、ええ、えっ、えっと……」

 

 店員とはいえ見知らぬ相手に話しかけられるというのは、生粋の陰キャであるひとりにはなかなかキツイものがあり、かなり及び腰になっていた。

 ただそれでも、有紗に誕生日プレゼンを渡して喜んでもらいたいというその願いの元、ひとりは必死に勇気を振り絞った。

 

「あっ、あの……とっ、友達へのプレゼントを買いに来たんですが……」

「なるほど、お相手は男性でしょうか? 女性でしょうか?」

「あっ、じょっ、女性です」

「ご予算はどれぐらいを想定されていますか?」

「あっ、10万円ぐらいで……」

「かしこまりました。それでしたら、こちらのコーナーなどは10万円前後のアクセサリーが主体のラインナップですよ」

「あっ、ありがとうございます」

 

 店員も不慣れな相手の接客も数々こなしてきており、緊張しまくったひとりの言葉からも正確に希望を聞いて、適したコーナーを案内する。

 簡単にショーケースに並んだ商品を説明してくれるが、普段ブランドものなど買うことがないひとりにはサッパリだった。

 

(わ、分からない。アクセサリーだけでも、こんなに種類が……う、う~ん。せっかくプレゼントするんだし、使ってほしいなぁ……だったら、あんまり大きくなくて邪魔にならないものの方が……うわっ、宝石とかついてキラキラしてる)

 

 キラキラと輝く高級アクセサリー類を若干挙動不審に見ていたひとりだったが、その視線があるひとつの商品で止まった。

 

「……あっ、こっ、これ……」

 

 見つけたその商品は、ひとりの興味を強く惹き付けるものであり、最終的にそれをプレゼントに決めて購入することにした。

 

 

****

 

 

 そして迎えた1月22日、有紗の誕生日当日。STARRYにて開かれた有紗の誕生日パーティ。最初に行われたプレゼントタイムの大トリを務めることになったひとりは、緊張しながら有紗と向かい合っていた。

 有紗の方は相変わらず穏やかに微笑んではいるが……内心は相当ソワソワしているのか、彼女にしては珍しく視線が揺れていた。

 

「あっ、あの、有紗ちゃん……たっ、誕生日おめでとうございます! あっ、こっ、これ、誕生日プレゼントです」

「ありがとうございます。本当に嬉しいです。開けてみてもいいですか?」

「はっ、はい!」

 

 ひとりがガチガチに緊張しながら差し出してきた高級感のある細長い箱。おそらくネックレスが入っているであろうその箱を、有紗は嬉しそうに受け取る。

 そして、ひとりに許可を取ってから開けてみると……中には予想通りネックレスが入っていた。

 

「素敵なデザインですね。これは、ピンクサファイアと……ムーンストーンでしょうか?」

「あっ、はい。店員さんはそんなこと言ってました……あっ、でっ、でも、私は宝石のこととかはよく分からなくて、なっ、なんとなく有紗ちゃんに似合いそうだなぁって……」

 

 箱の中にはピンクサファイアとムーンストーン……ふたつの小さな宝石が寄り添うようなデザインで作られたネックレスが入っていた。

 色合い的にどこかひとりと有紗を思わせるものであり、一目見て気に入ったためにひとりはそれを購入した。

 余談ではあるが、ピンクサファイアは愛を象徴する宝石であり、ムーンストーンは恋を象徴する宝石、そのネックレスは完全に恋人向けのプレゼントではあるのだが、ひとりがそれを知る由はない。

 さらに言えば、女性に対しネックレスをプレゼントする行為には「貴女とずっと一緒に居たい」という意味もあるのだが、もちろんひとりがそんなことを知っているわけもない。

 

 ひとりからプレゼントを受け取った有紗は感動した様子で目を潤ませ、箱からネックレスを取り出して身に着けてからひとりが見惚れてしまうような幸せそうな笑顔を浮かべる。

 

「……どうですか? 似合いますか?」

「あっ、はっ、はい! すごく、似合ってます」

「ありがとうございます、ひとりさん。本当に、大切にしますね」

「あっ、はい。よっ、喜んでもらえたなら、私も嬉しいです」

 

 有紗が心から喜んでくれているのは、表情を見ればこれでもかというほど伝わってきており、ひとりも胸が温かくなる思いだった。

 

(有紗ちゃん……凄く喜んでくれてる。えへへ、嬉しいな。ブランド店とか行くのは怖かったけど、勇気出してよかったぁ……)

 

 望んでいた有紗の喜びの表情を見れて、ひとりも本当に嬉しそうな笑顔を浮かべる。するとそのタイミングで、それを見ていた虹夏やリョウからの声が飛ぶ。

 

「ぼっちちゃん、ハグは~?」

「いけ、ぼっち。キスだ、キスするんだ」

「なんでですか!? しませんよ! とっ、というか、リョウさんに至ってはなに言ってるんですか!!」

 

 飛んでくる茶々に、ひとりは真っ赤な顔で反論する。その様子を微笑まし気に見つつ、有紗はひとりに声をかけた。

 

「……ですが、ひとりさん。本当にありがとうございます。心から嬉しいです」

「あっ、え、えへへ……有紗ちゃんに喜んでもらえたならよかったです。お洒落な店に行って正解でしたね」

「品ももちろん嬉しいのですが、それ以上にひとりさんが私のためにいろいろ考えて、行動してくれたことが何より嬉しいです。買いに行く際には勇気も必要だったでしょうに、私のために頑張ってくれて……ありがとうございます」

「そっ、そんな、ほめ過ぎですよ……有紗ちゃんにはいつもいっぱいお世話になってますし……あっ、あと、なにより、私が有紗ちゃんの喜んだ顔が見たかったので……なっ、なんて、えへへ」

「ひとりさん……」

 

 そう言って笑い合うふたりの間には温かく、どこか甘い雰囲気が流れており、先ほどまで囃し立てていた虹夏やリョウもなんとも言えない表情を浮かべていた。

 

「……ふたりの世界に突入しちゃったんだけど……長くなるかな?」

「料理食べたい。もう、食べていい?」

 

 

****

 

 

 STARRYでの賑やかなパーティが終わり、有紗とひとりはふたりで並んで駅に向かって歩いていた。有紗は電車ではないので、ひとりを駅まで送る形だ。

 いや、送るというのは建前でもう少しひとりと一緒に居たいという思いで一緒に駅まで歩いていた。ふたりのては自然と繋がれており雑談をする表情も楽しげだった。

 

「この宝石の色合いはいいですね。まるで、私とひとりさんみたいというのは……ちょっと言い過ぎですかね?」

「あっ、でも、私もちょっとそう思いました。ピンクの方が私で、白いのが有紗ちゃん……仲良く並んでていいなぁって……ただ、なっ、なんか、これを買う時に店員さんから微笑まし気な顔で見られましたけど……」

「……まぁ、ムーンストーンとピンクサファイアですしね」

「え? なっ、なにか、意味が?」

 

 博識の有紗は当然宝石に関しても詳しく、ネックレスの宝石の意味もよく分かっている。もちろん、ひとりが意識したわけでは無く知らずに買ったであろうことも含めて……。

 

「う~ん……ふふ、内緒です」

「えぇぇ、きっ、気になるじゃないですか……」

「ふふ、後でスマートフォンで調べてみると、意味が分かるかもしれませんよ」

「なっ、なんか、楽しそう……もっ、もしかして変な意味なんじゃ……」

「私にとっては嬉しい意味ですけどね」

「やっぱりそういう恋愛的なやつじゃないですか……うぅ、まっ、まさかそんな意味が……はっ、恥ずかしい」

 

 詳細な意味は不明のままだが、それでも有紗の反応からなんらかの恋愛的な意味があることを察したひとりは顔を赤くする。

 しかし、その恥ずかしさも有紗の本当に嬉しそうな顔を見ていると和らいでしまう。なんというか、珍しく傍目に見ても分かるほどウキウキと嬉しそうな有紗を見ていると、ひとりまで幸せな気持ちになるようだった。

 

「……ああ、ひとりさんの誕生日も期待しておいてくださいね」

「あっ、そっ、そういえばもう来月……」

「半年以上前から準備を進めてきたので、バッチリです」

「えぇぇぇ、そっ、そそ、そんなに前から?」

「出来れば私としては、ひとりさんの誕生日に私の家でふたりで過ごしたいのですが……どうでしょう?」

「はえ? そっ、そんな真剣な表情で……あっ、いや、別に駄目というわけじゃないですけど、いっ、いったい何が待ち受けているのかという恐怖が……」

 

 どうも相当ひとりの誕生日に力を入れている様子の有紗に、ひとりは若干不安げな表情を浮かべる。ただそれでも、有紗がひとりが嫌がるような事はしないという確信があるためか、ある程度は安心していた。

 少なくとも豪華絢爛なパーティを開催したりということは無いだろう。その証拠に、ふたりで過ごしたいと言っているので、前に家に遊びに行った時の様にいろいろ配慮してくれる可能性が高い。ひとり自身、有紗とふたりで過ごす時間は好きなので、不安はあれども期待もまたあるといった感じだった。

 

 そんな風に話しながら歩いていると駅に到着した。

 

「それでは、ひとりさん。改めて、今日は本当にありがとうございました」

「あっ、いえ、有紗ちゃんが喜んでくれたなら……あっ、えっと……」

「……ひとりさん?」

 

 ひとりを見送ろうとしていた有紗だったが、途中で言葉を止めたひとりに首を傾げる、ひとりはそのまま少し悩むような表情を浮かべて、周囲をキョロキョロと見たあとで意を決した表情を浮かべ……唐突に有紗を強く抱きしめた。

 

「え? えぇ!? ひ、ひとりさん?」

「たっ、誕生日おめでとうございました!! のっ、濃厚かどうかは知りませんど、これで……しっ、失礼します!!」

 

 捲し立てるように告げたあとで、逃げるように去っていくひとりの後ろ姿を有紗はポカンとした表情で見送っていたが……少しして、ひとりが虹夏が言った「濃厚なハグ」に関して、有紗が内心ではしてもらいたいと思っていたことを察しており、それを実行してくれたのだと気が付き、少し頬を赤くしながらもひとりの去っていった方向を見つめて微笑んだ。

 

 

 




時花有紗:ぼっちちゃんのプレゼントは本当に泣きそうになるほど嬉しく、貰ったあとはずっとウキウキとしていた。最後のぼっちちゃんのハグには驚いたし照れたし、ドキドキした。珍しくアプローチでぼっちちゃんが有紗に勝ったと言っていい。

後藤ひとり:今回は本当に頑張ったぼっちちゃん。プレゼントしたし、ハグもちゃんとした……もちろんあとで滅茶苦茶恥ずかしそうにしていたし、家に帰って宝石の意味を調べてのたうち回った。

百合に理解のある店員:……そのネックレスを選ぶということは、つまり「そういうこと」ですね? 大丈夫です。私、そういうのに理解はありますし、むしろ微笑ましいです。
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