季節は2月に入り、ついに結束バンドのオリジナル曲4曲目にして、未確認ライオットに挑む曲でもある「グルーミーグッドバイ」が完成しました。
今回の曲はいままでの結束バンドの曲に比べると明るめで爽やかですが、それでも結束バンドらしさは失われていないかなり完成度の高い曲です。これならより多くの人を惹き付けることも期待できるでしょう。
「じゃあ、曲も完成したことだしMVを取りたいと思います!」
「やっとですね~。やっぱりMVあるとないとじゃだいぶ変わるんですか?」
「……有紗、解説よろしく」
「え? ああ、はい」
虹夏さんの宣言を受けて喜多さんが質問し、なぜかリョウさんが私に話を振ってきたので、そのまま引き継ぐ形で話をします。
「昨今の音楽活動において動画サイトやサブスクリプションは切っても切れない関係です。ライブの映像はファンなら好みますが、まずその前段階。結束バンドを知らない人が結束バンドに興味を持ってくれるための導線としてMVは非常に重要でしょう」
「確かに、ライブ映像とMVがあるなら知らないバンドにだったらMVの方をまずは見るわよね」
「ええ、結束バンドの課題としては知名度の低さがあります。SIDEROSを始めとするワンマンライブをこなせるバンドに比べると、まだまだ無名といっていい段階。これはネット投票の際の票数に直結するので、知名度を上げるのは重要です」
「……あのぅ、有紗ちゃん……その辺で……私が言うことなくなっちゃうから……」
やはり結束バンドの課題は知名度……そこを解決しない限り、未確認ライオットの本戦出場は困難でしょう。デモ審査に関しては、現状の結束バンドの実力であればほぼ確実に通過するでしょうし、力を入れるべきは宣伝活動ですね。
「あっ、有紗ちゃん。やっ、やっぱりサブスクとかも大事なんですかね?」
「かなり重要ですね。いまはCDはファングッズとして購入して、曲自体はサブスクでという人も多いです。曲やバンドのレベルが高くとも聞いてもらえなければ意味がありませんからね。できるだけ申請した方がいいです。あと、副次的なものではありますが音楽の再生数に応じて印税も入ります。まぁ、サブスクの収益率は低いのですが、MV撮影などでお金が必要なことを考えると、収入の幅はあったほうがいいでしょう」
ひとりさんの質問にも答えていると、虹夏さんがチラチラと不安げな様子でこちらを見ているので、そろそろバトンタッチしようと思っていたのですが、タイミング悪くリョウさんが軽く手を上げて質問をしてきます。
「有紗、デモCDとかも配った方がいい?」
「そうですね。新曲はもちろんですが、結束バンドそのものに興味を持ってもらうことが重要なので、オリジナル曲のサビ部分のみを纏めたCDを配布したりするのも効果的です。ただ、その場合STARRYで配るよりは、計画している路上ライブで配る方が効果的です。どうしてもライブハウスというのは客層が固定化されやすい傾向にありますしね」
「なるほど、サンキューリーダー」
「……いえ、リーダーは虹夏さんですよ?」
「どうせ……どうせ、私はリーダー感ないよ……有紗ちゃんの方がリーダーっぽいよ……」
「に、虹夏さん? あの、大丈夫ですか?」
リョウさんが余計な一言を言ったせいか、虹夏さんが哀愁漂う表情で落ち込んでいたので、少し慌ててフォローします。
幸い少しすると、虹夏さんは復活してグッと拳を握りながら明るい表情で口を開きます。
「……と、とにかくそういうわけだから、知名度アップを頑張っていこう! あ、そういえば前にアップした動画とかはどうなったかな?」
「昨日確認しましたが、概ね5000再生でしたね」
「5000か~う~ん微妙だよね?」
「いえ、ほぼ無名といっていいインディーズバンドで5000を越えているようなら、曲を気に入ってリピート再生してくれている人もそれなりに居ると思うので、MVはさらに伸びることが期待できると思います」
虹夏さんの言葉に答えつつ考えます。確かに2ヶ月で5000再生と聞くと少なく感じるかもしれませんが、知名度的には10分の1以下でもおかしくないので、想像より興味を持ってもらえていると判断していいでしょう。
以前の動画投稿の際より結束バンド自体のレベルも上がっていますし、いっそオリジナル曲は全てMVを作ってみるのもいいかもしれませんね。
「ところで、虹夏。MV撮影に使うお金とかあるの?」
「出来ればMVにお金かけたいんだけどねぇ、ノルマ代とか貯められてないから自分たちで撮る形かなぁ? 毎回ライブに来てくれる結束バンドのファンのおふたりが美大の映像学科生みたいで、そういうのに強いらしいから手伝ってもらう予定」
虹夏さんが言っているファンというのは、よく来てくれるお姉さんたちですね。以前一緒にお茶をする機会があって、その際に見せていただきましたがかなりの撮影技術をお持ちですし、心強い味方ですね。
「しかし、それでもある程度予算はあったほうがいいでしょう。できれば1曲だけでなく複数曲のMVが欲しいところですし……私がいくらか出しますよ。私はノルマ代も払ってはいませんし」
「うっ、そりゃありがたいけど……あっ、でも、無理はしないでね。本当に少しでいいから」
お金をかけることが最善というわけではありませんが、それでも予算があると無いでは選べる選択肢も変わってきます。
しかし、逆にお金をかけて本格的にし過ぎてしまうと、学生バンドらしい魅力が無くなってしまうので、あまり過度にお金を使い過ぎるのも問題ですね……機材は別として、小物や撮影費用として200~300万ほど用意しておけば十分でしょう。
「……あっ、有紗ちゃん……なんとなく考えてることが分かるんですが……その半分でも十分すぎます」
「そうですか? ひとりさんがそういうのでしたら……」
では、キリがいいので100万ほど用意して虹夏さんに渡すことにしましょう。お姉さん方にも撮影に協力して貰うわけですし、報酬は別で用意しておいた方がいいですね。
****
MV撮影に関して話し合うことになり、結束バンドファンのお姉さんふたりも来てくださいました。
「じゃあ、皆知ってると思うけど、結束バンドファンのおふたりです!」
「ども~1号です」
「2号です~」
「そんなわけで、今回は1号さんと2号さんに手伝ってもらうからね」
ファン1号、ファン2号ということでしょうか? お姉さん方はその呼び方でいいのでしょうか……見た感じ不満は無さそうなので、問題はなさそうです。
撮影用の機材などは星歌さんがライブハウスで使っているものを貸してくれるようなので、企画会議を始めることにしました。
ホワイトボードの前に1号さんが立ち、私たちに向けて口を開きます。
「なにかイメージはありますか?」
「リョウ、結構バンドのMVとかチェックしてるでしょ? なにか定番のやつとかないの?」
「特に関係のない女が出てきて、泣くか踊るか走ってる」
「あ~見るわ」
リョウさんが定番のMVについて語った後、なにやら真剣な表情をしてチラリと私の方を見たあとで口を開きました。
「……それでひとつ案がある。有紗を出そう。この最強ビジュアルを使わない手はない」
「いや、まぁ、MVなら確かに有紗ちゃんが出ても問題はないと思うけど……有紗ちゃん的にはどう?」
「構いませんよ。素人ではありますが、ある程度お母様に教わっているので演技もできます」
「たっ、たぶん、有紗ちゃんの素人は、私たちにとっての玄人だと思います」
たしかにMVであれば正式なメンバーではない私が出演しても問題はないでしょうし、いろいろお母様に演技やカメラ映りなども教わったことがあるので、演技に関しても大丈夫だと思います。
そのやりとりを聞いた1号さんが軽く頷き、ホワイトボードに「有紗参加」と記載しました……その記載は必要なんでしょうか?
「有紗ちゃんが使えるとなると、映像の幅が広がりますね」
「あ、は~い。私、有紗ちゃんとひとりちゃんにセットで出て欲しい!」
「こら2号、『有後党』の欲望を出してこない」
「あっ、え? オリゴ糖? なっ、なんですかそれ?」
「「あ、え~と……」」
2号さんにツッコミを入れた1号さんの言葉を聞いてひとりさんが不思議そうに首を傾げます。私も同じように意味が分からなかったので首を傾げると、おふたりはなにか若干気まずそうな表情を浮かべます。
そしてしばし葛藤するような表情を浮かべたあとで、遠慮気味に説明してくれました。
「……オリゴ糖ではなく、有紗ちゃんの有にひとりちゃんの苗字の後で、有後党って言いまして、なんていうか結束バンドファンの中での、推し活動の用語みたいな……感じです」
「ひとりさんはともかくとして、私もですか?」
1号さんの言う推しというのはいわゆる好きなメンバーを指す言葉だったような覚えがありますが、正式なメンバーであるひとりさんはともかくなぜ私も含まれているのか不思議ではあります。
すると今度は2号さんが、視線を左右に動かし若干焦ったような表情で説明を引き継ぎました。
「有紗ちゃんは結束バンドファンの間では結構有名だから、私もひとりちゃんだけじゃなくて有紗ちゃんのファンでもあるし……そ、それでね。えっと、有後党ってのは、つまり……有紗ちゃんとひとりちゃんふたりのファンっていうか、ふたりが仲良くしているのを見るのが好きな人たちのこと……かな? ほ、ほら! ふたり一緒に写ってるブロマイドとかあるし!」
「ああ、そういえば、ふたりで撮影したブロマイドがありましたね。なるほど、それで私もファンの方たちに知られたんですね」
「……割り込むみたいで悪いが、いちおう言っとくと、有紗ちゃんは結束バンドと仲のいい超美少女って感じで、結束バンドファン以外にも有名だぞ。というか、たびたび『あの子は誰? どこのバンド?』みたいな質問されるからな」
「星歌さん……確かに、比較的私の容姿は整っているかもしれませんが、超美少女というのは大袈裟すぎると思うのですが……」
「いや、大袈裟じゃないから、己の顔面戦闘力を自覚してくれ」
離れた場所で話を聞いていた星歌さんがどこか呆れたように呟く言葉に、私は再び首を傾げることとなりました。
時花有紗:美少女揃いの結束バンドメンバーと並んでも、なお明らかに存在感の違う美少女。仮にAPPで表現するならすれば19~20という怪物。ちなみに普段化粧をしていないのは母親に「有紗ちゃんが化粧をすると傾国の美女になるから」という理由で控えるように言われているから……本人は自身の容姿はある程度整っているとは思いつつも、母親などの評価は大袈裟だと感じている。なお有紗にとっての究極の美少女はひとりである。
後藤ひとり:結束バンドファンには基本的に有紗とセットで覚えられていることが多く、2号を含む有後党というふたりのカップリングを推す人たちもいるとか……理由は単純で、STARRY内で見かける時には大体ぼっちちゃんが有紗の隣に居るし、いちゃいちゃしてるから……。