若干話が脱線しつつもMV作成についての案出しは続いていく。虹夏が皆で踊るMVを提案したり、リョウが動物を利用する方法を提案したり、ひとりが動画投稿の際のテクニックを話したり……有り体に言えばまとまりのない話し合いが続いており、ホワイトボードに書き出している1号の表情も微妙なものに変わりつつあった。
いっそ内容は全て自分たちが決めてしまったほうがいいのではと思い始めていたが、幸いここにはそれぞれ好き勝手に話す結束バンドを纏められる人物がいた。
「皆さん落ち着いてください。かなり話が散らかっています。アイディアを出すのもいいですが、まず最初に大きな部分を決めましょう。すなわち、皆さんが楽器演奏するシーンをメインにするか、演者として演奏しつつも出演者として演技重視の形にするかという大きな部分から決めましょう」
「なるほど……イメージ的には前者はカッコよさ重視で、後者はストーリー性重視かな?」
「有紗が出るなら、私たちは演奏メインの方がよくない?」
「あっ、有紗ちゃんを観客……視聴者の目線にするってことですね。そっ、そういうMVもありますよね」
「リョウ先輩の言う通り、有紗ちゃんが出るなら私たちは演奏メインで、パフォーマンス面は有紗ちゃんに任せた方がいい気がしますね」
有紗が指揮を執ると、先ほどまでバラバラだった話がある程度方向性を持って進み始め、1号と2号も少しほっとした表情を浮かべる。
そして、2号が優し気な笑顔を浮かべながら口を開く。
「じゃあ、有紗ちゃんがストーリー、皆が演奏って考えると、どういう風に両者が関わるかも重要だね」
「ひとりさんが言ったように私を視聴者の目線とするなら、私が結束バンドのライブなどを見てファンになるような流れでもいい気がしますね」
「あっ、それいいね。例えば、私たちが路上ライブしてるところに有紗ちゃんが通りがかって~とか……」
有紗の言葉を聞いて、虹夏も明るい表情で賛成しつつ案を出していく。そのまま話はどんどん進んでいき、具体的な内容が決まっていく。
ある程度全体の流れが決まった後は、細かな部分についての話に移行し、そのタイミングで喜多が手を上げた。
「はい! 今回サビとか明るめで爽やかですし、恋愛要素とか欲しいです!」
「喜多ちゃん、恋愛好きだよねぇ」
「じゃあ、ぼっちと有紗でいいじゃん」
「はぁ!? ちょっ、ななな、なにを、だだ、だから私と有紗ちゃんはそういう関係じゃ……」
恋愛が大好きな喜多が恋愛要素を盛り込むことを提案し、リョウが当たり前のような表情でひとりと有紗の関わりを加えればいいと言い出す。すると当然ながらひとりは顔を赤くして反論するが、リョウは気にした様子もなく淡々と告げる。
「いや、別に現実の関係がどうあれ、MVの設定の話だから」
「あっ、いっ、いや、そそそ、それは……でっ、でも、ですね。有紗ちゃんが嫌がる可能性も……」
「「「絶対ない」」」
「先に言われてしまいましたが……絶対ないです」
「……でっ、ですよね」
有紗がひとりとの恋愛要素を嫌がるかと問われれば、嫌がるなどあり得ないということは、言い出したひとりも即座に理解した。
そしてそこを断言されてしまうと、ひとりに反論の手札が残っていなかった。
「ひとりさん、安心してください。とは言っても、MV内に入れられる恋愛要素などたかが知れてますよ。精々何か贈り物をしたり、練習するひとりさんに私が声をかけたり程度でしょう。ああ、ですが、もちろんひとりさんが嫌でしたら無理をさせる気はありませんよ」
「……そっ、その言い方は……とってもズルいです……」
「いいね! 恋愛要素、別にガッツリしたものじゃなくて匂わせる雰囲気でいいし、きっと素敵だよ!」
「落ち着け、2号……」
自称有後党の2号が興奮気味に賛成し、それを1号が窘める。そしてそういった空気になってしまうと、ひとりが断れるわけもなく……元々、有紗と一緒のシーンが増えること自体は嫌というわけでもないので、最終的に恋愛っぽい雰囲気を入れることを了承することになった。
その後の話し合いである程度話は纏まり、いよいよ撮影に移行しようということになったタイミングで虹夏がどこか遠い目で告げた。
「あっ、皆……予算は結構あるので、小物とか必要なら言ってね?」
「虹夏。パトロンはいくら出してくれたの?」
「……100万ポンとくれた」
「虹夏、私欲しい機材があって……MVにも必要だと……」
「有紗ちゃんに許可取ったらいいよ」
「……やめとく」
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学校帰りに街中をひとりの少女が歩く。銀色の髪をなびかせ、どこか楽し気に……帰り道に寄り道でもしようと考えているのか、その表情には笑顔が浮かんでいた。
通りを歩く少女はその途中でふと足を止め視線を動かす。視線の先には街角でひとりギターを演奏する桃色の髪の少女の姿があった。
観客などは無く音響設備もなく、ただひとりでギターを鳴らして行われる拙い演奏。しかし、それは酷く少女の心を惹き付け、少女は足を止めてその演奏に聞き入る。
しばし、ひとりの演者とひとりの観客にて奏でられる小さな演奏会が続き、途中で銀の少女に気付いた桃の少女は、はにかむようなぎこちない笑顔を浮かべた。
その笑顔を見た瞬間、銀の少女の心が大きく動いたような気がした。
それから、銀の少女は桃の少女の元へ通い続ける。そして幾日かの時が流れ、ふたりきりだった演奏会に変化が表れ始める。
桃の少女の演奏の腕が上達していくと共に演者が増え、桃の少女の他に赤い髪の少女、黄色い髪の少女、青い髪の少女が加わり、ソロだった桃の少女は4人組のバンドへと変わっていく。その過程でひとりだけだった観客も増え始め、演奏する舞台も路地裏からライブハウスへ、ライブハウスからステージへと変化していく。
夢を掴み羽ばたいていく桃の少女の姿をずっと見つめ続けていた銀の少女は、その成功を喜びつつもどこか表情に寂しさを感じさせていた。
脳裏によぎるのは街角での演者と観客ひとりずつの小さな演奏会。いまはもう無くなってしまった、幸せな時間……ステージ上で煌めくバンドを見つめながら、どこか遠くへ行ってしまったように感じられる桃の少女を見つめたあと、銀の少女は一筋の涙を零し、まるで別れを告げるかのように煌びやかなステージに背を向けた。
静かな街角で少女はひとりぼんやりと空を眺める。複雑な気持ちと寂しさを抱くような表情で……しかし、不意に誰かが横に来たことで、少女は視線を横に動かして目を見開いた。
そこにはギターを持った桃の少女が居て、あの頃と変わらないはにかむような少しぎこちない笑顔を浮かべ、なにも語ることなくギターの演奏を始めた。
バンドとして成功して立つ場所が変わっても、少女の想いは変わらぬまま、初めての……そして一番大切な観客に向けて、心を込めて演奏をする。私の演奏は貴女のためにあるのだと言いたげに……幸せそうに笑う銀の少女とふたりで肩を並べて、桃の少女の小さな演奏会はいつまでも続いていった。
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完成したMVを見て、結束バンドのメンバーたちは目を輝かせる。
「すっごくいいじゃないですか! なんかこう、ひとりちゃんのジャージ姿も、成功しても最初と心は変わってないって感じがエモくて、凄くよかったですね!!」
「有紗ちゃんの演技も凄いね。滅茶苦茶本格的っていうか……表情の表現がプロ並みだよ。流石女優の娘……」
「これ、相当再生数稼げるのでは? 広告収入とかももしかしたら……」
喜多が目を輝かせ、虹夏もMVの出来に満足気であり、リョウに至っては収入を期待して目をお金のマークに代えていた。
「なかなか楽しかったですね、ひとりさん」
「あっ、はっ、はい。確かに楽しかったですけど……かっ、完成したのを見ると、なんか恥ずかしいですね。いっ、いや、思ったよりは恋愛恋愛してなくて安心しましたけど……」
ほとんどのシーンが有紗と一緒だったこともあって、ひとりにしてはかなり表情豊かなシーンが撮影できていたが、改めて見る分には気恥ずかしさもあった。
ただ、有紗と並んでギターを演奏しているところなどは、ひとり個人としてもかなり好きなシーンなので、全体的にMVに関しては気に入っていた。
そして、MVを作った1号と2号もどこか満足気に話していた。
「ステージのシーン、上手く合成できたね」
「合成が必要な部分は少なかったけど、いい仕事できたって感じがするね」
「うんうん。それにMVの完成度も大満足だよ。有後党の同志たちにも早く見せてあげたいよ」
「……厄介ファンにはならないようにね」
ふたりとしてもMVの完成度には満足しており、特に有紗とひとりのカップリングを推している2号は、大満足と言いたげな表情だった。
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新宿FOLT内の控室、ライブを終えたSIDEROSのメンバー。これから反省会と打ち上げというタイミングで、スマホを見ていたあくびが感動したような表情で口を開く。
「見てください、結束バンドの皆さんが新曲のMV上げてますよ。滅茶苦茶いい曲ですし、MVもすげぇっすよ」
あくびの言葉に他のメンバーたちもスマホを覗き込み、結束バンドのMVを見て感嘆したような表情を浮かべる。
ヨヨコも驚愕した様子で目を見開いて食い入るようにMVを見つめ、見終わった後で体を震わせる。
「時花有紗を使うのは反則じゃないかしら!?」
「いや、まぁ、有紗ちゃん実質結束バンドメンバーみたいなもんですしね」
「でも演技凄いですし、相変わらず羨ましいぐらいの美貌ですよね」
「本当、キラキラしてるぅ」
全員の評価として一貫しているのは結束バンドのMVは凄かったというものであり、曲や演奏以外でも、有紗の演技が凄まじく非常に華のあるMVに仕上がっていた。
「……けど、MVの出来もそうだけど、演奏にボーカル……クリスマスからまだ一月ちょっとしか経ってないのに、ここまでレベルを上げてるのね」
「いや、本当成長速度すげぇっすよね。なんか、ボーカルの存在感もグンと上がってますね」
「……ふっ、素直に賞賛しておきましょう。私たちと競おうってんだから、このぐらいはやってもらわないと張り合いがないわ。私たちも負けてはいられないわね!」
「……いや、自分たちってか、ヨヨコ先輩が勝手に張り合って行っただけで、向こうが張り合ってきたわけじゃないっすけどね」
結束バンドの想像以上の成長ぶりを評価しつつ、後のライバルと見定めた相手が成長していることに、ヨヨコは思わず笑みを浮かべて闘争心を滾らせていた。
なお、あくびのツッコミに関しては聞こえなかった振りをした。
時花有紗:容姿も演技力も凄まじい。MVではひとりとのシーンがかなり多く、有紗的のも大満足のMVになった。
後藤ひとり:原作では映えないという理由で演奏以外のシーンはほぼカットされたが、カットどころかほぼメインの扱い。有紗が傍に居ると表情が自然と柔らかくなるため、持ち前の容姿もあってかなりいい感じに撮影できた。ジャージ姿やぎこちない笑みも、シチュエーションにマッチしており、むしろよかった。
大槻ヨヨコ:結束バンドの成長を賞賛しつつ、手強く成長していくライバルを見てどこか嬉しそう。
2号さん:……有後成分たっぷりのMVに満足して、満面の笑顔を浮かべていた。