ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

79 / 211
四十三手打開のアドバイス

 

 

 結束バンドは無事に新曲のMVが完成し、それを動画サイトに公開しました。反響はかなりよく、1週間ほどで15万再生を越えるほどになりました。

 ライブの再生数が5000ほどだったのを考えると、快挙といっていい躍進でしょう。もちろんMVがライブ映像より再生されやすいことや、ひとりさんのアドバイスによりタグを多めにして検索に出やすくしたりの工夫もありますが、なによりも結束バンド自体のレベルが上がっているのが大きいと思います。

 

 この調子で他のオリジナル曲のMVも作成したいところですが、時間的な問題もあります。最優先は未確認ライオットのデモ審査……そして新曲の練習に、知名度を広げるためのライブなどやるべきことは多いので、ひとまず他のMV作成は後回しとなりました。

 そして今日はスタジオ練習の日であり、新曲を練習する皆さんの様子を見ていましたが……このレベルであれば、デモ審査で躓くことはあり得ないでしょう。ネット投票に関しても、知名度が低いいまの段階でも、通過の可能性はかなり高いと言えるほどです。

 もちろんグランプリや、上位に食い込むことを考えると課題が多いのは事実ですが……確かな成長を感じられるのは、本当に素晴らしいと思います。

 

「……郁代、ボーカルかなりよくなった」

「やっぱそう思うよね。最近喜多ちゃんのボーカルがどんどん存在感を増してるっていうか、いい感じだよね」

「あっ、たっ、確かに声量もかなり上がってるような……」

 

 通しで演奏をしたあと、リョウさんが告げた賞賛に虹夏さんやひとりさんも同意します。その言葉を聞いた喜多さんは嬉しそうな笑顔を浮かべました。

 

「ありがとうございます! 最近、自分でも有紗ちゃんにしてもらってるボイストレーニングの成果が出てきたって感じてて、歌うのが凄く楽しいんですよね。本当に、有紗ちゃんのおかげ!」

「そんなことは無いですよ。喜多さんがしっかり頑張ったからです。特に、私が言った練習量をしっかり守っているのが素晴らしいです。どうしても、成果が出てくるともっと練習したいと思ってしまうものですが……それは喉を酷使する結果になりますからね」

「あはは、有紗ちゃんにさんざん口を酸っぱくして過度な練習はしないようにって言われたからね」

 

 喜多さんはボイストレーニングを積むことで声の出し方が変わってきており、それがよく通る歌声に繋がっています。元々歌のレベルは高かったので、声の出し方を覚え声量が上がったことで、喜多さんのボーカルはここに来て急成長を見せており、本人としても成長が実感できて楽しいのでしょう。

 

「あ、でも、私もそうだけど、ひとりちゃんも最近凄いわよね? 今回のサビの部分とかすごくカッコよかったわ」

「ええ、ひとりさんもかなり本来の実力に近い演奏ができるようになりましたし、その本来の実力自体も日々レベルアップしていますね」

「え、えへへ、そそ、そんな大したことは無いですよ……」

 

 ひとりさんも明確に未確認ライオットという目標を持って打ち込んでいるおかげか、以前よりもかなり周囲と息の合った演奏ができるようになっていました。

 ひとりさんは元々プロ級の腕前なので、その実力が発揮できるようになれば、結束バンドのリードギターの存在感はさらに増してくるでしょうね。

 

 そんな風に話をしていると、虹夏さんがなにやら真剣な表情で私を見て口を開きました。

 

「……あ、有紗ちゃん! 私にはその、なんか……ないかな?」

「……えっと、なにかといいますと?」

「い、いや、その……演奏の課題とか、そういうやつ……ほ、ほら、最近喜多ちゃん凄くレベルアップしてるし、ぼっちちゃんもどんどんよくなってる。リョウもスランプ抜けて絶好調だし……ほ、ほら、なんかさ、私だけ……しょぼくない?」

「いつも通りじゃん」

「ふんっ!」

「……暴力反対」

 

 喜多さんやひとりさんの成長を見て、自身の成長を心配してアドバイスを求めてきた様子ですが……困りましたね。喜多さんに関してはボーカルトレーニングは私も経験があったのでアドバイス出来ましたが、ドラムに関してはほぼ基礎的な知識しかありません。

 茶化したリョウさんに拳骨をしてから縋るような目を向けてくる虹夏さんに対し、私は少し考えます。

 

「……う~ん。私はドラムに詳しいわけでは無いのですが、強いて挙げるなら、虹夏さんの演奏は堅実に纏まり過ぎているかもしれません」

「ふむふむ、具体的には?」

「虹夏さんは演奏の際に、他の皆さんの指針になることを意識しているのではないでしょうか? 例えば、メトロノームのような役割をとか……」

「う、うん……だ、駄目かな?」

「いえ、むしろこれまでであればそれが最善だったと思います。ドラムの虹夏さんがしっかり土台を作らないと、メロディラインが崩れていた可能性も高いです」

 

 ドラムの音というのはバンド内でも存在感がありますし、メロディの指針になり得る存在です。実際これまでは経験の浅い喜多さんや、他人と合わせることに慣れていないひとりさんが居てもしっかりメロディが成立していたのは、虹夏さんが土台としてしっかり支えていたからです。

 

「ただ、以前と違い喜多さんの技術も上がり、ひとりさんも苦手な部分をかなり克服してきたので、いまなら虹夏さんがもっと強い演奏をしても、崩れることはないのではないでしょうか? いままで、『ここでもっと強く叩きたい』とか、そういった場面があったと思います。今後はそういうところを我慢せずに行ってしまっても大丈夫だと思います」

「……なるほど、強い演奏か……」

「といってもバランスが大事なので、その辺りは練習しながらどの程度強く演奏するかなどは探っていく方がいいでしょう……申し訳ありません。私にはこのぐらいしか思いつくことが……」

「ううん。すっごく参考になったよ! ありがとう、有紗ちゃん!」

 

 ドラムに詳しくないこともあって曖昧なアドバイスになってしまいましたが、虹夏さんには思い当たる部分があったのかもしれません。どこか吹っ切れたような笑顔で告げたあとで、楽譜を見ながらブツブツとなにかを呟いていました。

 おそらくどこで強く前に出るかなどを考えているのでしょうね。

 

「……あっ、とっ、ところで、有紗ちゃんはさっきからなにを描いてるんですか?」

「ああ、路上ライブなどで配る予定のサビを集めたデモCDですが、仮でもジャケットなどがあった方がいいと思って、簡単ですがジャケットの案を……」

 

 ひとりさんが私が持っていたタブレット端末を見て不思議そうに尋ねてきたので、説明と共に皆さんに見えるようにダブレットの画面を向けます。

 

「うわっ、可愛い!! クレヨンっぽい色合いがまた素敵ね!」

「木造りのテーブルの上に4色の結束バンドがあって、窓から日が差し込んでる……え? 滅茶苦茶いいじゃん!」

 

 デモCDのジャケットにと私が描いていた絵は、メンバー4人をイメージした桃、赤、黄、青の四色の結束バンドが重なるように置かれたテーブルに、窓から差し込んだ日の光が当たっている絵です。

 喜多さんの言う通りクレヨンっぽい柔らかい色合いを意識して塗ってみましたが、好評なようですのでこのまま採用でよさそうですね。

 裏面に動画サイトのURL、あるいは未確定ライオット出場予定などという文字を書けば、ネット投票にも役立ちますし、用途は多いです。

 

「配布用のCDジャケットなのでシンプルにしましたが、好評なのでこれを採用でいいですかね?」

「あっ……えっと……」

「ひとりさん?」

 

 私の言葉にひとりさんがなにやら悩むような表情を浮かべていました。もしかしてデザインが気に入らなかったのでしょうか? そう思ってひとりさんを見ますが、そういった感じではなさそうです。ただ、なにかを言い淀んでいるような……。

 

「たぶん、ひとりちゃんが考えてるのは私たちと一緒……ですかね?」

「間違いない」

「だね! 有紗ちゃんのデザインは凄くいいけど、一ヶ所だけ直して欲しい所があるんだよ」

「直して欲しいところですか?」

「うん。というわけで、代表してぼっちちゃんから、どうぞ~」

 

 喜多さん、リョウさん、虹夏さんの3人にはひとりさんが言いたいことが分かっているみたいでした。というより、3人もひとりさんと同じ場所の修正を望んでいる様子です。

 いったいどこを? と、そんな風に考えているとひとりさんが意を決したように、私に向けて口を開きました。

 

「……あっ、あの……しっ、白色の……有紗ちゃんカラーの結束バンドも足してください。あっ、有紗ちゃんも、私たちの仲間なので……」

「ひとりさん……」

 

 ひとりさんの言葉に少し驚きつつ、他の3人の方を見て見ると、どうやらひとりさんと同意見の様子でどこか楽し気に頷いていました。

 

「そうそう、今回のMVでもう有紗ちゃんもサポートスタッフとして、メンバーのところに記入したわけだしね。そんなわけで、白いバンドの追加だけ、よろしくね」

「……皆さん。はい。ありがとうございます。では、その形で修正しますね」

 

 当たり前のように私のことを仲間だと言ってくださる皆さんに胸が温かくなるのを感じつつ、私はその修正を喜んで了承しました。

 

 

****

 

 

 STARRYから家に帰ってくると、じいやが出迎えてくれました。

 

「お帰りなさいませ。お嬢様、ご注文の品は全て届いております」

「ありがとうございます。器具などは?」

「全てご用意しております」

「助かります」

 

 じいやにお礼を言った後、私は自室で着替えを済ませてキッチンに向けて移動します。結束バンドのMV撮影、未確認ライオット……なるほどそれらも大変に重要な事柄です。ですが、この2月には他にも大切なイベントが控えています。

 ひとりさんの誕生日はもはや言うまでもありませんし、そちらに関してはもっとずっと前から準備を行ってきたので万全です。

 

 しかし、2月にあるのはひとりさんの誕生日だけではありません……そう、バレンタインです!

 

 本来の意味である司祭ウァレンティヌスを祭る日だとか、チョコレート会社の戦略だとか、そういうのはこの際どうでもいいのです。

 重要なのは日本において、愛しい人にチョコレートを贈る日ということが広く認識されているということです。

 

 この日はクリスマスと並ぶほど、恋する身にとっては重要な行事です。もちろん私も、愛しいひとりさんに本命チョコを贈るつもりですが、それ以外にもお世話になっている方や友人に渡す分などで相当の数を用意する必要があります。

 なかなか大変ですが、ひとりさんの顔を思い浮かべつつ頑張るとしましょう。

 

 

 




時花有紗:結束バンドのメンバーには非常に頼りにされており、信頼もされている。近く控えるバレンタインに向けて準備中。もちろんぼっちちゃんに本命を渡す予定。

後藤ひとり:さぁ来たぞ、次のイチャラブイベントだ。チョコレートの用意は十分か?

バレンタ院:やはり、イチャラブイベントか……いつ始める? 私も同行する。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。