ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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四十四手甘味のバレンタイン~sideB~

 

 

 新曲のMVが完成し結束バンドの活動は順調といっていい状況。MVの再生数の伸びも非常によく、知名度も上がってきていると感じられる状態に気持ちが上向きになるのを感じつつ、ひとりは学校に登校していた。

 陰キャかつコミュ症のひとりは基本的に学校は好きではなく、虚無の時間が多く孤独感の強い時間帯だった……というのもかつての話である。

 

 登校して教室に入り、自分の席まで近づくとすぐにひとりに声をかけてくるふたりがいた。

 

「あ、ひとりちゃん、おはよ~」

「おはよう」

「あっ、おっ、おはようございます、Aちゃん、Bちゃん」

 

 数少ない……もとい、喜多を除けば学校でふたりしか存在しない友達である英子と美子の幼馴染コンビ。文化祭の一件を切っ掛けに友達となり、性格の相性もよかったのか仲良くなることができた。

 ひとりの影響で英子も美子もロックやライブに興味を持ってくれたので、いまとなってはひとりが夢見ていたロックの話ができる学友となっている。

 

「新曲のMV見たよ! 凄かったね! 演奏もそうだけど、MVもすっごくエモかった! 私何度もリピート再生しちゃったよ」

「プロのMVみたいだったね。あと、あの有紗さんだっけ? あの人の演技も凄かった」

「あっ、えへへ、ありがとうございます。わっ、私たちとしてもかなり手応えのあるMVが撮れました」

 

 惜しみない賞賛の言葉に、ひとりは照れた様子で頭をかきつつ言葉を返す。

 

「なんか、フェスを目指してるんだっけ?」

「あっ、はい。未確認ライオットって10代アーティスト限定のフェスです」

「凄いよね! なんか、青春って感じでいいなぁ~!」

 

 落ち着いた様子で話す美子と、コロコロと表情を変えながら明るく話す英子、対照的でありながらどこかしっくりくるコンビのふたりと共に、ひとりはしばし未確認ライオットの話で盛り上がった。

 

 

****

 

 

 学校が終わった放課後、今日はバイトも練習も無い日で真っ直ぐに家に帰ろうと思っていたひとりだったが、英子に買い物に付き合ってほしいと言われて、ふたりで駅近くのデパートを目指して歩いていた。

 美子は別の用事があるのかすでに帰った後であり、比較的珍しいと言っていい状況にひとりは少し首を傾げながら英子に尋ねる。

 

「あっ、Aちゃん。なっ、なにを買いに行くんですか?」

「バレンタインのチョコレートだよ!」

「あっ、ああ、そっ、そういえば、もうすぐバレンタインでしたね」

「うんうん。ちなみに、Bちゃんは料理上手だから手作り派だね。私は料理はまったくダメダメだから、毎年店で買ってるね~。ひとりちゃんは、料理とかできる?」

「あっ、いっ、いえ、まったくできません」

 

 英子の言葉に返事をしつつ、ひとりは先ほどまで感じていた疑問に心の中で納得していた。

 

(ああ、だから珍しくBちゃんが一緒じゃないんだ。バレンタインなんて、陰キャの私には縁遠いもの過ぎて完全に忘れてた。ま、まぁ、実際バレンタインなんて青春溢れる陽キャ……陽キャじゃないとしても、リア充たちにだけ許されたイベントだし関係は無いか。リア充爆発……)

 

 心の中でリア充に対して悪態を突こうとしたひとりだったが、直後に頭に思い浮かんだのは満面の笑顔を浮かべる有紗の顔だった。

 バレンタインはたしかにいままでのひとりにとっては縁遠いものではあった。しかし、現在はどうだろうか? ひとりとて馬鹿ではない。他はともかく有紗がひとりにチョコレートを用意しないなどという事態が起こるとは思えなかった。

 

(……あれ、でも、有紗ちゃんはたぶん……ていうか、絶対チョコレートくれると思う。な、なら、私も用意した方がいいのかな? と、友チョコってあるわけだし……せっかくこれからチョコレート売ってる場所にいくんだから……う、うん。丁度いいし、買おうかなぁ。有紗ちゃんが、喜んでくれたら……嬉しいし)

 

 有紗のことを思い浮かべ心の中が温かくなるような、少しくすぐったい感覚を覚えつつひとりは小さく笑みを浮かべた。

 

「ひとりちゃん?」

「あっ、えっと……Aちゃん、私ってリア充……ですかね?」

「うん? 普通にリア充なんじゃない? 夢に向かってバンド活動頑張ってるのも凄いし、有紗さんとかバンドのメンバーとか仲のいい人もいっぱいだし、ひとりちゃんいつも楽しそうだしね! むしろ羨ましいぐらいだよ!」

「あっ、そっ、そうですか……そっ、そうですね。確かに、私は……恵まれてますね」

 

 明るい笑顔で告げる英子の言葉にひとりは、納得した様子で頷いた。確かに自分は幸せものだと実感できることは多い。

 

「そういえば、話は戻るけどひとりちゃんは料理はできないとして、有紗さんは?」

「あっ、有紗ちゃんは、料理も上手です。というか、本当に苦手なことがあるのかってレベルでなんでもできます」

「へぇ、凄いんだね。けど、ひとりちゃんって有紗さんの話をする時は、いつもより凄く楽しそうだよね」

「そっ、そうですかね?」

「うんうん! 仲の良さが伝わってくる感じだよ!」

「あっ、えっ、えへへ……」

 

 有紗と恋仲の様に揶揄われるのはともかく、仲が良いと言われるのは嬉しいらしく、ひとりは少し照れたように微笑みを浮かべていた。実際、有紗の話題を話している際のひとりの表情は普段よりも柔らかく、有紗に対する深い信頼と好意が伝わってくるようだった。

 

「あっ、でっ、でも、AちゃんとBちゃんも凄く仲良しですよね」

「ま、まぁ、ほら、幼馴染だし親友だしね。やっぱり、ひとりちゃんから見ても仲良さそうに見える?」

「あっ、はい。凄くいいコンビだなぁって……」

「そそ、そっかな~えへへ、そんな、お似合いのベストコンビなんてのは褒め過ぎだけど……」

「あっ、いや、そこまでは言ってな……」

「けど、そう言ってもらえると嬉しいよ! ひとりちゃん、お互い大事なバレンタインだし、頑張ろうね!」

「はえ? あっ、はっ、はい」

 

 英子の言葉の意味が「お互い同性に恋をする者同士頑張ろう」という意味合いだとは分からないまま、ひとりは勢いに押されるように頷いた。

 そしてそのまま、上機嫌になった英子と一緒にデパートで有紗に渡すためのチョコレートを購入した。

 

 

****

 

 

 有紗と結束バンドのメンバーと共に訪れたレストランで食事をしつつ、ひとりは少々困っていた。というのも、せっかく用意したチョコレートを渡すタイミングを逃してしまったのだ。

 有紗から受け取った際にひとりも渡せればよかったのだが、あまりに本命を強調する有紗の言葉に照れてしまってすぐに出すことができなかった。

 

(う、う~ん。チョコレート、いつ渡そう? い、いまここで出すのは、恥ずかしい……い、いや、友チョコなんだし、渡しても大丈夫なんだけど、虹夏ちゃんたちが絶対反応してくるから……出来れば有紗ちゃんとふたりの時に渡したいな)

 

 そんなことを考えつつ、タイミングを伺うようにチラチラと有紗を見ていると、不意に有紗が振り向いたことでバッチリ目が合ってしまった。

 

「ひとりさん? どうかしましたか?」

「あっ、いっ、いえ、別に大したことじゃなくて、有紗ちゃんとふたりっきりになりたいなぁって……」

 

 それはほとんど無意識での発言だった。あくまで、他の人が居ない場面でチョコレートを渡したいという意味合いでの言葉だった。

 しかし、それを聞いたリョウと虹夏は目をキラリと輝かせる。無論、ふたりもひとりがそういう恋愛的な意味で言ったのではないのは百も承知で、単純に面白そうだったので口を開いて茶々を入れることにした。

 

「……ぼっちがとんでもないこと言い出した」

「ぼっちちゃん……情熱的だね。やっぱり、バレンタインだからかな」

「は? え? あっ、ち、ちがっ!? そそ、そういう意味じゃなくて……」

 

 ふたりの発言で、ひとりもようやく己の失言に気付き顔を真っ赤にしながら反論しようとするが、もちろん咄嗟に上手い返しができるわけもなくワタワタとしていた。

 しかし、得てしてそういう時にいつも援護してくれる頼れる相手はすぐそばに居た。

 

「それは奇遇ですね。丁度私もひとりさんとふたりきりになりたいと思っていたところなんですよ。もっと言えば、ふたりきりでデートをしたいところですね!」

「あ、有紗ちゃんは相変わらず堂々としてるねぇ……」

「もちろんです。私のひとりさんへの愛に恥ずべきところは一切ありません。そしてなんなら、最近は新曲の練習に力を入れていたので我慢していたぐらいですよ」

「おぉ、流石有紗情熱的」

「ふふ、お褒めに預かり光栄です」

 

 いっそ清々しいほどにひとりとふたりきりになりたいと宣言しつつ、虹夏とリョウの興味を己の方に向けさせる。おかげでひとりは一息つくことができて、ホッと胸を撫で下ろした。

 しかし、すぐにふたりの矛先がひとりに再び向くのは時間の問題……のはずだったが、次の有紗の一言で大きく流れが変わった。

 

「……ところで、リョウさんも今日は鞄の中を少し気にしているように見えるのですが?」

「待った有紗……私が悪かった。もうこれ以上ぼっちを揶揄わないから、その話は……」

「うん? リョウ先輩、鞄になにか……」

「ああ、向こうにおいしそうな食べ物が! 虹夏、郁代、いくぞ!」

「え? あっ、ちょっ、リョウ!?」

「そんなに急に手を引いたら……ああ、でも、強引な先輩も素敵……」

 

 有紗が告げた言葉に明らかに顔色を悪くしたリョウは、虹夏と喜多の手を強引に引っ張って、離れた場所にある料理に向かって去っていった。

 その様子をポカンとした表情で見送っていたひとりは、微笑む有紗に問いかける。

 

「……あっ、有紗ちゃん。リョウさんは、なんであんな反応を?」

「あくまで推測ですが、鞄と虹夏さんを気にしているみたいだったので、虹夏さんにチョコレートを用意しているのではないでしょうか? おそらく、スランプの際に相談に乗ってもらったお礼として用意したのはいいものの、いざ渡す段階になって気恥ずかしくなって鞄に入れたまま……という感じでしょうね」

「なっ、なるほど……わっ、私と一緒……」

「一緒、ですか?」

「あっ、えっと……」

 

 首を傾げる有紗を見たあとで、ひとりは慌てて周囲を見渡す。3人はかなり離れた場所に居て声が聞こえることは無いだろうし、レストラン内の内装の一部が仕切りの様になっているためこちらも見えない上に、周りに店員たちも居ない。

 絶好の機会だと判断したひとりは、鞄の中からチョコレートの入った箱を取り出して、緊張した様子で有紗に差し出した。

 

「あっ、えっ、えと、有紗ちゃんにはいっつもいっぱいお世話になってるので……こっ、これ、どうぞ!」

「ひとりさん……ありがとうございます。とても嬉しいです」

「あっ、はい。わっ、渡せてよかったです」

「なるほど、これを渡すためにふたりになりたいと……ふふ、けど、本当に嬉しいです。これでまた、ホワイトデーもふたりで贈り合えますね」

「あっ、そっ、そういえば……たっ、確かに、それは……嬉しい……です」

 

 どちらかが一方的に渡すのではなく、贈り合えるのが嬉しい……その機会がまた来月にもあると思うと、不思議とひとりの胸の中は温かな気持ちに包まれるようだった。

 

 

 




時花有紗:ひとりとふたりきりになりたいのもデートしたいのも本音だが、なによりもひとりが最優先なので、今回の様にひとりが困っていると助けてくれる。そしてその度にひとりの好感度も際限なく上がっていく。

後藤ひとり:完全に行動が恋する乙女……よくこれで友チョコだと言えたものである(心の中で思っていただけで、渡す際には友チョコとは言っていない)。学校にはロックの話ができる百合フレンドが居て、私生活では超お金持ちの美少女に愛されていて、バンド活動も充実していて……完全にリア充であり、最近割と自覚してきた。

世界のYAMADA:有紗の読み通り、スランプの際に相談に乗ってくれたお礼のつもりに虹夏にチョコレートを買ってきていた。適当なところで何気なく渡すつもりだったが、いざとなると恥ずかしくてなかなか渡せない状況でタイミングを見ていた。

モブA子:小さいけど大きい方。Bちゃんとは毎年贈り合っている。料理は苦手……こっちは明確に恋心を自覚しているタイプ。有紗とひとりの恋を応援することで同時に自分たちの恋も意識し、AちゃんとBちゃんの恋愛模様を近くで見ることで、ひとりの恋愛感にもいい影響が出る可能性が高い。これが百合の相乗効果。
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