ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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四十五手祝福の誕生日・ひとり編~sideB~

 

 

 有紗の家に招かれての誕生日。プレゼントである特注ギターには度肝を抜かれたひとりだったが、いまはそれ以上に大きな喜びが心の中に満ちていた。

 

(有紗ちゃんとセッション……ピアノとじゃなくて、キーボードと……な、なに演奏しようかな? アレもいいし、あの曲も……)

 

 ひとりはそもそもギターの演奏をするのが好きだ。そうでなければ、毎日6時間の練習を何年も続けることなど出来はしないだろう。

 ひとりにとってギターを演奏している時間は楽しい時間であるというのは間違いない。そんなひとりだが、ずっと望んでいた演奏があった。

 

 せいぜい半年ほど前のはずだが、もうずいぶん前の様に感じられる路上ライブ。最初は突然の始まりに困惑したし、観客に対する恐怖もあった。だが、途中でそれを克服してからは本当に楽しい時間だったと胸を張って言える思い出となっている。

 ひとりにとって本当に心許せる相手である有紗と一緒に行う演奏は、ひとりにとって純粋に演奏を楽しめる時間とでも言うべきものであり、あれからずっとまた再び有紗とセッションをしたいと感じていた。

 

 以前に有紗の家に泊った際にも有紗の演奏するピアノとセッションをしたが、その時もついつい時間を忘れてしまうほどに楽しかった。しかし、あの時は夜であまり時間もなく、楽しい時間はあっという間に終わってしまった。

 

(ま、まだ午前だし、時間はいっぱいある……いっぱい、有紗ちゃんと一緒に演奏できる。ああ、どうしよ、嬉しくて顔が緩む)

 

 本当に楽しみで仕方がないという表情で待っていたひとりに、有紗が準備ができたと声をかけてきたので、ふたりはさっそくセッションをスタートさせた。

 最初はお試しという意味も込めて、以前きくりも含めた3人で路上ライブを行った際と同じ曲を演奏する。

 

(……凄い! 有紗ちゃん、あの時とは全然演奏が違う。あの時は、ピアノ的な弾き方だったけど、いまは完全にキーボードの演奏をものにしてる。元々ピアノの演奏技術は物凄いレベルだったし、キーボードを使いこなせるようになったら音の幅が凄く広がってる)

 

 以前の路上ライブではあくまでひとりのサポートに徹して、コード弾きを行っていた有紗だったが、今回は半年の練習期間を経たことでキーボードの演奏をものにしており、ひとりをサポートするだけではなくひとりと一緒に音楽を作る演奏が行えていた。

 音を変化させて、ドラムやベースが不在のメロディラインを彩りつつ、ひとりのギターの音がより美しく聞こえるようなサポートも欠かさない。

 

(……楽しい。自分でもわかる。いま、凄く音がノッてる。手も指も軽くて、思い描いた通りに動いてくれる……もっと行ける。もっと、凄い演奏ができるって分かる……ペース上げても、いいかな?)

 

 己の演奏が絶好調であることを自覚しつつ、チラリと有紗に視線を向けると目が合った有紗は軽く微笑む。それだけで、全てが伝わったような感覚があった。ひとりがもっと演奏ペースを上げたいと思ったのを有紗がアイコンタクトだけで瞬時に理解でしてくれた。

 それを確信してひとりが演奏のペースを上げると、完璧なタイミングで有紗も演奏のペースを上げてピタッと音が合うのが分かった。

 

(凄い! 凄い!! なんだろうこれ、凄く楽しい。息が合うってこういうことなのかな? 目を合わせるだけで、なにをしたいか全部伝わるし応えてくれる……ああ……本当に、楽しいな……)

 

 全身が痺れるような……最高の演奏ができているという感覚に思わず頬を緩めながら、ひとりは有紗と共に演奏を続けていった。

 

 

****

 

 

 しばらく演奏を続けたあと、一区切りしたタイミングでひとりは楽しそうに口を開いた。

 

「あっ、えっと、次は、なにを演奏しましょうか?」

「ふふ、ひとりさん。楽しそうなのは私も嬉しいですが、少し休憩しましょう……汗だくですよ?」

「はえ? あっ、ほっ、本当ですね。こんなに汗出てた……熱中し過ぎましたね」

「それだけ楽しんでもらえているのは嬉しいですね。丁度お昼時ですし、休憩も兼ねて昼食にしましょう」

「あっ、はい」

 

 有紗とのセッションがあまりにも楽しく、本当に時間を忘れてぶっ続けで演奏していたこともあって、ひとりはかなりの汗をかいていた。

 有紗から手渡されたタオルで顔の汗などを拭きつつ、一度ギターを置いて、隣の部屋に移動して、昼食を待つ間に水分補給などをしつつ、有紗と言葉を交わす。

 

「あっ、有紗ちゃん、凄く上手かったです!」

「ありがとうございます。そう言ってもらえると、練習したかいがありましたね。ひとりさんもいつも以上にいい演奏でしたね」

「えへへ、なっ、なんか、自分でも絶好調な感じでした。もっともっと凄い演奏ができるぞって感覚で……う~ん、惜しいです。でっ、出来れば、動画撮影とかもしたかったですね」

「そういうと思って、実は撮影用の道具もいくつか用意してますよ」

「あえ? そっ、そうなんですか……さっ、さすが、有紗ちゃん」

 

 ひとりは現在己が絶好調であり、最高の演奏ができている自信があった。だからこそ、その最高の演奏を動画に残したいと思っていたのだが……そんな考えもお見通しで、有紗は撮影機材も用意していたみたいだった。

 しかも、この場合の撮影機材とはギターヒーローのアカウントであげたりするためのもので、データを持ち帰る用意もバッチリとのことだった。

 

「昼食を食べたあとは、撮影しながら演奏しましょうか?」

「あっ、はい! いっぱい演奏したい曲があって……」

「ふふ、時間はたくさんありますから、ひとりさんが満足するまで付き合いますよ」

「有紗ちゃん……はっ、はい。嬉しいです!」

 

 心の底から幸せそうに笑うひとりを見て、有紗も嬉しそうな笑顔を浮かべた。そうしていると、使用人たちによって料理が運ばれてきた。

 

「あっ、ケーキ……」

「夜にとも考えていたのですが、ちょうど盛り上がっている時ですし昼に持って来てもらうことにしました。料理も含めて、それなりに上手くはできたと思うのですが……口に合うと嬉しいです」

「え? こっ、これ全部、有紗ちゃんが作ったんですか?」

「はい。流石に夜はシェフに作ってもらいますが、昼食とケーキは私が作りました」

「……」

 

 ふたりの前に並ぶ料理は非常に豪華なものであり、詳しくないひとりでも有紗がかなり手間暇をかけて作ってくれたことが伝わって来た。

 それは本当に嬉しく、ひとりは感極まったような表情を浮かべたあとで少し沈黙する。

 

「あっ、有紗ちゃん……」

「はい?」

「あっ、あの、ちょっとだけ、ごめんなさい」

「え? あっ……ひとりさん?」

 

 有紗に一言断りと入れたあと、ひとりは有紗に抱き着いた。どうしようもなく嬉しい気持ちを表現する方法が他に思い浮かばなかったのだ。

 有紗は一瞬驚いたような表情を浮かべたものの、すぐに微笑みを浮かべてひとりの背中に手を回して抱きしめ返す。

 

「すっ、すみません。なっ、なんか、嬉しくて幸せで……」

「ひとりさんが喜んでくれて、私も本当に嬉しいですね」

「有紗ちゃん……本当に、ありがとうございます」

 

 目に少し涙を浮かべつつギュッと一度強く有紗に抱き着いたあとで、ひとりは体を離して微笑みを浮かべた。

 

「……さて、それでは冷めないうちに食べましょうか」

「あっ、はい。いっ、いただきます」

 

 有紗の言葉に頷き、ひとりはニコニコと柔らかな笑顔を浮かべつつ料理に手を伸ばした。その日の昼食は、いままで食べた中でも一番と思えるほどに美味しい気がした。

 

 

****

 

 

 昼食を食べたあとで少し食休みを挟んでから、ふたりは再びセッションを行った。相変わらずひとりの演奏は絶好調であり、本人が心の底から楽しく演奏できていることもあって己でも分かるほどにいい演奏ができていた。

 そして今回は動画を撮影して演奏を行ったので、何曲かのセッションが終わった後でふたりで録音した動画を確認する。

 

「あっ、やっ、やっぱりいい感じですね。音が凄くノッてて……」

「そうですね。なんというか、音からも楽しんでいるのが伝わってきて、聞いているだけでも楽しくなりますね」

「えへへ、はっ、はい。私も、そう思ってました」

 

 肩を寄せ合って動画を見つつ言葉を交わすひとりと有紗。録画した動画をノートパソコンで確認しているという関係上、肩が触れ合うほどに身を寄せて確認しており、かなり近い距離ではあったが、ふたりとも楽しさが勝っているのかあまり気にしてはいない様子だった。

 

 しかし、ふと唐突にひとりは隣を向いて有紗を見て、その美しい横顔に思わず顔を赤くした。

 

(有紗ちゃん、やっぱ綺麗だなぁ。それにいい匂い……有紗ちゃんの近くって、なんか不思議と安心する)

 

 そんなことを考えていると、有紗もひとりの方を見て少し沈黙したあとで、どこか楽し気な微笑みを浮かべて、自然な動作でひとりの体を抱きしめた。

 

「にゃっ!? あっ、ああ、有紗ちゃん!? いっ、いい、いきなりなにを!?」

「説明するのは難しいですね。強いていうのであれば、楽しい気分でテンションが上がっていてひとりさんを抱きしめたくなったから……つまり、なんとなくです!」

「えぇぇぇ……そっ、そんな、全力でなんとなくって宣言するって……もっ、もぅ、有紗ちゃんは本当にいきなり心臓に悪いことするんで困ります」

「嫌でしたか?」

「……そっ、その質問はズルいです。本当に、ズルいです」

 

 特に理由などなく、なんとなく抱きしめたかったからというある意味有紗らしいド直球な言葉に、ひとりは呆れたような表情を浮かべる。

 しかし、かといって離れたりしようとするわけでもなく……おずおずと有紗の背に手を回して抱きしめ返しつつ、有紗の肩に顔を当てて目を閉じた。

 互いに演奏をしていて体温が上がっているからか、少し熱いような気もしたが、不快感などは無くむしろ心の奥まで温まる思いだった。

 

「……あっ、有紗ちゃんって、いい匂いがしますよね。こっ、香水ですか?」

「少しだけ香水は付けていますね。何種類か持っていますが、柑橘系の物が好きです」

「あっ、たっ、確かに、有紗ちゃんって言うと柑橘系の香りのイメージかもしれないです。なっ、なんとなく、安心できる感じで……」

「ひとりさんが気に入ってくれているなら、私も嬉しいですよ。安心できるなら、もう少しこのまま休憩していましょうか……私も少し演奏を続けて疲れてしまったので……」

「あっ、うっ……はぃ」

 

 しばらく抱き合ったままでいようと提案する有紗に対し、ひとりは顔をさらに赤くしたものの、心地よい香りと言いようのない安心感には抗えずに頷いた。

 

 

 




時花有紗:ひとりが非常に楽しそうなので、嬉しいし楽しい。ひとりとのハグは至高の時間なので、たぶんまた止めようとすると「あと5分」が発動すると思われる。

後藤ひとり:もう友達と言い張るのは難しい距離感なのでは? 大丈夫? このまま、「あ~ん」と同じくハグに関しても距離感バグって抵抗無くなってこない?

撮影した動画:後にギターヒーローのアカウントにて「大好きな友達とセッション」というタイトルで投稿され、珍しくほとんどタグ付けしていなかったにも拘らず爆速で再生数が伸びたという。普段以上の120%ぼっちちゃんの演奏に、百合感あふれる楽し気な空気とあっては、伸びない理由もない。
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