昼食を食べたあともひとりさんとセッションを行い、ある程度演奏して休憩を入れ、再びセッションを行って休憩という繰り返しでした。
本当にずっと演奏しているという感じでしたが、ひとりさんは終始楽しそうであり、その姿を見ているだけで私も幸せな気持ちになれました。
「ひとりさん、そろそろ夕食にしましょうか?」
「あっ、そっ、そうですね。さっ、さすがにずっと演奏してたので、疲れちゃいましたね。でっ、でも、それ以上に楽しかったです」
「またやりましょうね」
「はい!」
さすがにひとりさんにも疲労が見えたので、時間的に夕食が近いということもあってセッションはここまでということにしました。これからの機会はいくらでもありますので、焦る必要はありませんしね。ひとりさんがこれだけ喜んでくれるなら、私としても嬉しいですし、またこうして一緒に演奏したいものです。
「ただ、夕食前に……入浴して汗を流しましょうか、タオルで拭いているとはいえ互いに汗もかなりかきましたしね。サッパリしてから夕食を食べましょう」
「あっ、そうですね。たっ、確かに、私も汗をかきすぎてシャツがすっかり張り付いてます」
「着替えも用意してあるので、その辺りは安心してください」
ひとりさんは途中からジャージの上着を脱いでおり、上は結束バンドのTシャツ姿となっています。黒い色なのでそこまで目立ちはしませんが、やはりかなり汗はかいているみたいでした。
同じく私も休憩を入れつつとはいえ、何時間も演奏していたので汗はある程度かいていますし、夕食の前に風呂というのは最善の選択ですね。
そんな風に考えつつ、片づけをしてからひとりさんと一緒に浴場に移動します。
「……まっ、前に来たときも思いましたけど、有紗ちゃんの家のお風呂って、滅茶苦茶大きいですよね。まっ、前に行った温泉にも引けを取らないぐらい」
「確かに広いですね……まぁ、ただ、実際の話をすると、この一番大きな浴槽は今回の様に来客があった際でもないと使いませんよ。大きすぎて無駄が多いですし、普段はもう少し小さい第二浴室を使っていますね」
「あっ、だっ、第二浴室とかもあるんですか?」
「はい。流石に少人数で使うにはこの浴槽は大きすぎますしね。ある程度、客相手に見せる見栄的な部分もあるんですよ」
「いっ、言われてみれば、普通に入る分には大きすぎてお湯を張るのも大変そうですね」
広々とした浴槽は開放感があっていいものではありますが、普段使いするには不便な部分も多いです。使用人が使う浴室は別にありますし、本当にこの第一浴室は来客用という意味合いが強いですね。
「まぁ、時々開放感のある大きな風呂を利用したい時などは、こちらを使う場合もありますね。そういう意味では気分で使い分けているかもしれません」
「あっ、なっ、なるほど……さすがセレブ」
「さて、せっかく一緒に入るのですし、背中を流しますよ」
「あっ、はい。ありがとうございます。じゃっ、じゃあ、前みたいに交代で、ですね」
私が促すとひとりさんは頷いて風呂椅子に座りました。その後ろで背中を流す用意をしていると、ふとひとりさんが思いだしたように口を開きます。
「……なっ、なんかこうしてると、箱根旅行を思い出しますね」
「そうですね。あの時も温泉でこうして、背中を流しましたね」
「あっ、はい。そっ、その時も私が先に流してもらってましたね」
「ふふ、そうですね」
年末に一緒に行った温泉旅行を思い出して微笑み合いながら、ひとりさんの背中を流します。なんというか、こうしてふたりで一緒に居るというだけで、幸せだと実感できるのは本当に素敵なことだと、そう感じました。
なんと表現するべきか、ひとりさんと一緒だと他愛のない話も本当に楽しくなるような、そんな気がしました。
「あっ、なっ、なんか、その……有紗ちゃんと一緒だと、本当にどうでもいいような会話も楽しくて……なっ、なんかこういうのって、幸せな気がしますね」
「……実はいま、ちょうど私も同じようなことを考えていました」
「あっ、そっ、そうなんですか……えへへ、一緒ですね」
「はい。そういうちょっとした部分で共通点があったりするのも、なんだか嬉しいですね」
「……はい!」
嬉しそうに返事をしてくれるひとりさんの声を聴き、まだ湯船に浸かっていないのに心も体も温かくなったような気がしました。
****
入浴を済ませたあとは、ひとりさんと共に食事です。昼食は私が作ったこともあってある程度簡素になりましたが、せっかくの誕生日ということで夜は豪華な食事を用意しています。
「……あっ、有紗ちゃん。いっ、いや、食堂が広いのはいまさらいいとして、なっ、なんかテーブルのセッティングが凄そうなんですが……」
「はい。夕食は豪華にと思って用意しています。とはいえ、コース料理などですとマナーも気にしてしまって楽しめないかと思って、その辺りはシンプルにしてありますので、マナーなどは気にしなくて大丈夫です」
「あっ、そっ、それは助かります」
「ひとりさんは肉がお好きでしたよね? なので、松坂牛のシャトーブリアンがメインですね」
「しゃっ、シャトーブリアン!? シャトーブリアンって……あの、伝説の……」
「伝説かどうかは分かりませんが、シャトーブリアンです」
そんな風に話していると、料理の皿が運ばれてきました。まだ肉は乗っておらず、合わせて簡易調理台も運ばれてきます。
「あっ、こっ、これ、目の前で焼いてくれるとかそういう……こっ、個人宅で? さっ、さすが過ぎます」
「好きなだけ食べてもらって大丈夫ですよ」
「あわわわ……」
アタフタとしているひとりさんの前でシェフが調理を開始して、鉄板の上でシャトーブリアンを焼いて一口サイズに切ったあとで皿の上に乗せてくれました。
チラリとひとりさんの方を見て見ると、若干高級な料理に気圧されているような雰囲気がありました。このままではせっかくの料理の味も楽しめないでしょう……。
「ひとりさん、あ~ん」
「はえ? あっ、あむっ……あっ、美味しい」
「口に合ったようならよかったです。変に固くなる必要はありませんよ。私と一緒に、美味しい料理を楽しみましょう」
「あっ、有紗ちゃんと一緒……あっ、はい」
私の言葉を聞いて、ひとりさんの肩からスッと力が抜けていくのを感じました。ある程度リラックスしてくれたみたいなので、これなら十分に料理を楽しめるでしょう。
そう考えていると、ひとりさんは自分の皿に乗っていた肉を一切れ取って、私の方に差し出してくれました。
「あっ、有紗ちゃんも、どうぞ」
「ありがとうございます。いただきますね」
ひとりさんが差し出してくれた肉を食べて、その味を堪能してから苦笑と共に口を開きます。
「……まぁ、お互い同じ肉なんですけどね」
「あっ、そっ、そうでしたね。つい、うっかり……なっ、なんとなく、有紗ちゃんに食べさせてもらったら返すのが癖みたいになってて」
「なるほど……つまり、私がもっとひとりさんに食べさせれば、同じようにひとりさんに食べさせてもらえると……」
「……あっ、えっと、有紗ちゃん?」
「お互い同じ肉ですし、交互に食べさせ合ってもいいわけですよね!」
「えぇぇぇ、いっ、いつの間にそんな話に……あっ、有紗ちゃん……あっ、駄目だこれ、話聞いてくれない時の顔してる……まっ、まぁ、いいか……」
素敵な話を聞いたので、このまま夕食は交互に食べさせ合う形でいきたいと、そう思いました。ひとりさんも、私の意図は正確に察してくれたみたいで、どこか諦めたような表情で口を開けてくれていました。
****
夕食を食べ終えたあとは私の部屋に戻って、他愛のない雑談をしながら過ごしました。途中でロインで結束バンドの皆さんからもひとりさんにお祝いのメッセージが届き、ひとりさんはとても嬉しそうにしていました。
そして、例によってひとりさんが客室に泊るのは嫌とのことだったので、就寝の際は私の部屋のベッドで一緒になることになりました。
以前に泊りに来た際と同じようにベッドに入って電気を消します。
「……あっ、有紗ちゃん。今日は本当にいっぱい、ありがとうございました。こっ、こんなに楽しい誕生日は、初めてでした」
「ひとりさんに喜んでもらえたのであれば、私も本当に嬉しいです」
「あっ、あの、なにかお礼にできることとか、無いですか?」
「それでしたらもうすでに、先にあった私の誕生日に素敵なものを頂いていますが……とはいえ、それも承知の上で、ですね?」
「あっ、はい。有紗ちゃんに、なにかしてあげたいって気持ちが強くて……」
ひとりさんの考えていることはなんとなくわかります。自分の方が貰い過ぎてしまっているようでなにかお返しがしたいが、私の誕生日はもう過ぎているため、具体的なことが思い浮かばずに漠然となにかをお返ししたいという感じになっているのでしょうね。
断るのは簡単ですが、ひとりさんとしてはなにかをしたいでしょうし……。
「なるほど……では、こんな感じで」
「うひゃん!? あっ、有紗ちゃん!? いっ、いい、いきなりなにを……」
とりあえず何かということだったので、ベッドの中で身を寄せてひとりさんを抱きしめました。普段のジャージと比べれば薄着といっていい寝間着、ひとりさんの体温をより感じるようでなんとも幸せな気持ちです。
「いえ、私はこうしていると幸せなので」
「そっ、それにしたって、いきなり過ぎて……もぅ、有紗ちゃんは本当に……こっ、こんなのでいいんですか?」
「はい」
「うっ、う~ん……はっ、恥ずかしいですけど……有紗ちゃんが、そういうなら……」
少しだけ戸惑うような声が聞こえ、ひとりさんの手が私の背中に回り体が抱きしめられる感触がしました。しかし、このひとりさんとのハグはなんというか、癖になりそうな心地よさですね。本当にずっとこうしていたいと思うほど、温かくて幸せです。
「……あっ、有紗ちゃん。改めて、今日はありがとうございました」
「どういたしまして……また来年も、こうしてふたりで過ごしたいですね」
「あっ……はい」
心の底から温まるような温もりと柔らかな感触に包まれながら、表現が難しいほどの幸せと共に私の意識はゆっくりまどろみに沈んでいきました。
時花有紗:いつも通り好意全開ではあるが、最近はぼっちちゃんが割と受け入れてくれることが多いので本当に幸せいっぱい。順調に愛は育っている様子である。
後藤ひとり:もう、ハグはほぼほぼ受け入れるようになってきたぼっちちゃん。ベッドの中で抱き合って眠るとか大変にえっちなのでは?