ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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四十七手影響の新動画~sideA~

 

 

 もちろん期待していなかったと言えば嘘になります。眠るときに抱き着いていたのだから、起きた際もこの腕の中に最愛の人が居ることを期待するのは必然でしょう。

 かくして目覚めた私の腕の中には、愛しいひとりさんの姿がありました。むしろ寝る前より密着しているような気さえします。いえ、というか、確実に密着していますね。

 正しく表現するなら私の体を抱き枕にしたひとりさんが、体を摺り寄せるように密着しているとでも言うべきでしょうか、起きていた時は照れていて少し控え目だったのが、眠って無意識化のため遠慮なく密着しているのでしょう。実に素晴らしい状態です。

 

 いままでも数度こうしてひとりさんと共に朝を迎えることはありました。ひとりさんが私に抱き着いている時もあれば、起きた上で私がひとりさんを抱きしめたこともありました。

 その中でも今回の密着度は一番高いと言ってもいいでしょう。ひとりさんは顔を私の胸に埋めるような……摺り寄せるような形で眠っており、どこか甘えている風にも見えました。

 安心しきったような寝顔はあどけなくも美しく、本当に写真を撮って待ち受けにしたいぐらいです。まぁ、そのような盗撮じみたことは行いませんが……。

 

 ともかく例によって私に不利益は一切ありません。むしろ益しかありません。可愛く愛らしいひとりさんの寝顔と温もりを堪能できる朝……最高ですね。とりあえず、ひとりさんを抱きしめなおして頭を撫でておきましょう。

 そのまま例によって朝の至福の一時を満喫していると、しばらく経ってひとりさんが身じろぎしてゆっくりと目を開きました。

 

「……んんっ……有紗……ちゃん?」

「はい。おはようございます、ひとりさん」

「おはようご――ッ!?」

「なんというか、ある意味でひとりさんのその反応は毎回な感じですね」

「なっ、ななな、なんっ……あっ、いや、またこの状態ですか!?」

「もちろんです。このシチュエーションで、私がひとりさんを抱きしめないなどあり得ない話です」

「えぇ……なっ、なんて真っ直ぐで迷いのない目……」

 

 例によって顔を赤くして慌てているひとりさんにハッキリと告げます。なにを迷う必要があるでしょうか、なにを躊躇う必要があるでしょうか、最愛の存在を前に手を伸ばさぬなどという方が愚かな行為なのです。

 そんなことを考えつつ、私はひとりさんを抱きしめる力を少し強くして、ひとりさんの目を真っ直ぐに見つめながら続けます。

 

「……というわけで、ひとりさん……あと30分お願いします」

「ごっ、5分じゃないんですね!?」

「どのみち5分では満足できずに延長しようとするのは過去の経験から分かり切っているので、最初からまとめてお願いしておきます」

「いっ、潔すぎます……はぁ、もうっ、なんというか、恥ずかしい状態なのに、素直に恥ずかしがるタイミングを逃した気分です。ほっ、ほんとうにもぅ、こういう時の有紗ちゃんは……」

 

 そう言って呆れつつも駄目とは言わず、ひとりさんは体の力を抜いて身を任せてくれました。そのおかげで私はまたしばし至福の時間を堪能することができました。

 

 

****

 

 

 大きなイベントだったひとりさんの誕生日も終わりました。また来年の誕生日に向けていろいろ考えておくことにしましょう。

 それはそれとして、結束バンドの活動も未確認ライオットに向けていっそう熱が入っています。今日もSTARRYでのライブの日なので、早めに来て音合わせなどを行っています。

 私はそれを見学しつつ、物販などの準備や整理を行っていました。

 

「……それにしても、結束バンドのMVの伸びは素晴らしいですね。そろそろ他のオリジナル曲のMVを作成してもいいかもしれませんね」

「そうだね……いや、でも、伸びといえばぼっちちゃんの動画だよ! 爆速で再生数伸びてるじゃん!!」

「あっ、えへへ……かっ、過去最速です」

 

 私とひとりさんが行ったセッションの動画はかなりのスピードで伸びているようでしたが、それも頷けます。あの動画のひとりさんは、明らかに絶好調で普段以上の力を発揮できていたので、過去最高の伸びを見せるのも納得です。

 

「PRSのプライベートストックとか……羨ましい」

「リョウ先輩、PRSのプライベートストックって?」

「説明しよう! プライベートストックはいわゆる特注オーダーメイドで、特にPRSのそれは最高級の素材と技術を用いて作られる。そもそもPRS自体最高峰のテクニカルギターと呼ばれるぐらいに技術力があって、その職人たちが最高レベルのカスタマイズを施して作るワンオフギターは家宝レベルのクオリティ。ミュージシャンにとっては憧れの世界でたったひとつの自分だけの楽器を手に入れられる。もちろん最高のクオリティだからこそ値段も最高峰だけど、それ以上にフルオーダーで作る以上自分の演奏の癖や好みを完璧に把握していないと難しくて……」

「あ、えっと……は、はぁ……なるほど?」

「喜多ちゃん、そのロックオタクに迂闊に質問したら、早口で捲し立てられるよ……って、もう遅いか」

 

 喜多さんの質問にリョウさんが嬉々として説明を始め、質問した側の喜多さんはあまり理解できていないのか困惑したような表情を浮かべていました。

 リョウさんは好きなものはとことん語りたいタイプなので、ある意味では予想された結果とも言えますね。そんなことを考えていると、ひとりさんがふと私の手元を見ながら口を開きました。

 

「あっ、有紗ちゃんは、なにをしてるんですか? すっ、少し悩んでるみたいでしたけど……」

「え? 有紗ちゃん悩んでたの? 全然分からなかったんだけど……ぼっちちゃん、愛の力かなぁ?」

「なぁ!? ちっ、違います! たっ、確かに、有紗ちゃんはそういうのは顔に出ないですけど、ふっ、雰囲気で分かりますし、全然普通です!」

「……い、いや……普通?」

 

 相変わらずひとりさんの鋭い洞察力には驚かされます。実際私は悩んでいました……いえ、あまり大した問題ではないのですが、少し考え事をしていました。

 それを表情には出していなかったのですが、ひとりさんにかかればお見通しだったようです。

 

「ひとりさんの言う通り、物販のことで少し悩んでいました」

「うん? なにか問題があったの?」

 

 私の言葉を聞き、喜多さんとリョウさんもこちらに来て、私の手元にある商品リストを見ながら首を傾げました。

 

「いえ、問題というか喜多さんに協力して貰って公式トゥイッターで物販についての要望を募ってもらったのですが……」

「えっと、なになに……『有紗ちゃんカラーのリストバンドも欲しいです』?」

 

 虹夏さんが読み上げたコメント……書いた人のアカウント名が「2号」だったので、高確率で2号さんではないかと思うのですが、ともかくそういった要望があったわけです。

 

「え? 別に追加すればいいんじゃないの? もう前回のMVで有紗ちゃんのことはサポートメンバーって紹介したから、ファンの間でも結束バンドの関係者って認知されてるわけだし、問題はなさそうだけど?」

「あ、いえ、そうなのですが……リストバンドに関して、私のカラーというと白色になるのですが……それは完全に普通の結束バンドだなぁと……」

『あぁ、なるほど……』

 

 別に私のカラーの結束バンドを追加すること自体は困難ではありません。それこそ、ホームセンターなりに行けば簡単に見つかるでしょう。

 ただ、私が銀髪である関係上どうしても色というと白になってしまうので、本当によく見る結束バンドをそのまま売ってるような形になってしまうので、どうしたものかと悩んでいました。

 

「……まぁ、演奏メンバーではない私のものがそんなに売れるとも思えませんし、とりあえず要望に沿ってリストバンドは追加しておきましょう」

「う~ん、私は売れそうな気がするけど……」

「物販の売り上げが増えるのは大歓迎。むしろ、ブロマイドとかも有紗のやつを出そう。絶対売れる」

 

 おそらく一番物販を購入してくれているであろう2号さんからの要望でもあるので、とりあえずリストバンドの色は追加しておきましょう。

 そう結論付けたタイミングで、喜多さんが何か思いついたような表情を浮かべて口を開きました。

 

「そういえば、興味本位で聞くんだけど……一番売れてる物販って?」

「追加した時期などで差はあるのですが、数で言えば……ひとりさんのブロマイドですね」

「あぇ? わっ、わわ、私ですか?」

「ええ、それほど大きな差があるわけでは無いですが、複数枚同時に購入する方も多いようで、その影響もあって一番数が売れていますね。やはりリードギターであるひとりさんは花形ですし、愛らしい容姿も相まってブロマイドを欲しがる方も多いのでしょう」

「うへへ、いっ、いや、そんなことは……うん? あっ、あれ? わっ、私のブロマイド……ということは……」

「ぼっちちゃんのブロマイドが一番売れてる? それって……」

「ひとりちゃんのブロマイドって確か……」

「原因は他にある気がする」

 

 やはりひとりさんの美しさと愛らしさは万人に受け入れられるものであり、極めて人気が高いのでしょう。もちろん結束バンド自体がまだ知名度はさほど高くないので、そもそも物販自体全体の販売数はそこまでではありませんが、ひとりさんのブロマイドがトップなのは揺ぎ無い事実です。

 なぜか皆さんが微妙そうな表情を浮かべていたので、それを聞こうとすると、そのタイミングで申し訳なさそうな表情を浮かべた星歌さんが近付いて来ました。

 

「……有紗ちゃん、悪い。電気代の計算なんだけど、これでよかったっけ?」

「えっと、星歌さんの場合はライブハウスと自宅が同じ建物なので、面積当たりの割合で計算して……ええ、この計算方法で間違いないですよ」

「……お姉ちゃん、なにしてるの?」

「確定申告の準備だよ。税理士に出す前に、ある程度纏めとかなくちゃいけないんだ」

「……女子高生に教わってるの?」

「……うるさい。お前もやるようになったら分かるけど、マジで大変だから覚悟しとけよ」

 

 ちょうど確定申告の時期だということもあって、星歌さんはなかなか大変そうです。なのである程度慣れている私が度々相談に乗っています。

 星歌さんの様子を見て、虹夏さんは軽くため息を吐いて皆さんと一緒に練習に戻ってしまったので、先ほどの微妙な表情の理由を尋ねる機会を逃してしまいましたが……まぁ、深刻な感じではなかったので大丈夫でしょう。

 

 

 




時花有紗:例によって朝の至福の時間を堪能した。過去の反省を生かして、最初から30分の延長を申請する様はまさに猛将メンタル。

後藤ひとり:ぼっちちゃん。有紗相手の場合だけかなり洞察力が高く、些細な感情の変化も見逃さない……いや、君有紗のことめっちゃ好きでは? なお、グッズの売り上げがトップらしい。

売り上げトップのブロマイド:ひとりと有紗のツーショットのブロマイドであり、唯一物販の中で有紗の姿が確認できる一品。有後党がいっぱい買ってる。
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