3月に入り、未確認ライオットのデモ審査に投稿するデモテープも完成して今回はSTARRYにて今後についての打ち合わせを行っています。
「さぁ、皆、いよいよ審査用のデモテープも完成して、未確認ライオットに臨む準備は整ったね。今日は、投函したあとの路上ライブとかも含めて話し合っていこう。というわけで……有紗ちゃんよろしく!」
「え? 私ですか?」
「……ついに、進行を乗っ取られる前に指名して任すって方法でリーダーとしての威厳を守り始めた……ふっ、滑稽」
「……」
唐突にこちらに進行を託したあと、虹夏さんは揶揄うような発言をしたリョウさんの元に向かい、流れるような動きでバックドロップを叩き込みました。
その様子をなんとも言えない表情で見つつ、まぁ、任されたのですから進行しようと口を開きます。
「では、まず未確認ライオットに関してですが、現在の結束バンドの実力やデモテープの完成度を含めると、贔屓目を抜きにしてもデモ審査の通過はほぼ確実だと思います」
「あっ、そっ、そうなんですね。有紗ちゃんが、そう言ってくれるなら、あっ、安心です」
「もちろんなにごとも絶対というのはあり得ませんが、デモ審査に関してはいまさら私たちがなにかをできるというわけでもありませんので、意識し過ぎる必要はありません。なので今後はその後に行われるネット投票についての対策を本格化していく形ですね」
「はい、質問。具体的には、どういうことをすればいいのかしら?」
喜多さんが手を上げて質問をしてくれました。喜多さんは場の空気を読むのがとても上手いので、私が話しやすいように質問という形で進行を手伝ってくれている様子でした。
「ネット投票の形式としては、未確認ライオット特設サイトで、デモ審査通過者の音源と映像を公開し、期間内に投票を受け付ける形ですね。ここで必要になってくるのは、やはり知名度です。デモ通過者の数はそれなりになりますし、よほど熱心な方でもない限り全てのバンドの音源を聞いて投票などということはしませんからね」
「知名度か……有紗ちゃんはよく、結束バンドの課題は知名度って言ってたよね?」
「ええ、虹夏さんの言う通り現状の結束バンドの最大の課題はやはり知名度です。どうしても知名度は、活動期間が長いバンドの方が有利ですからね。MVなどの再生も好調で以前と比べればかなり知名度も上がっていますが、新たなファン層の獲得も重要です……というわけで、近く行う路上ライブも知名度のアップが目的ですね」
本戦まで進めば、曲を聞いて判断してくれる人が多くなって実力で勝負できるようになってきますが、ネット投票の段階では実力よりやはり知名度です。
本戦出場を確実にするなら、できれば中間発表の時点でTOP10には入っておきたいところですが、そのためにはいま以上に多くのファンを獲得する必要があります。
上位層と勝負するには、最低限夏までにワンマンライブが可能なぐらいの知名度と集客力は得ておきたいところです。
「路上ライブに関しては、既に道路使用許可申請の手続きも完了していますので問題なく行えます。物販の販売やデモCDの配布に関しても申請して許可を得ています」
「おぉ、準備完璧。伊地知先輩がやってくれたんですか?」
「ふっ…………ありがとう、有紗ちゃん! 本当に、いつも頼りになります!」
「あっ、なっ、なんとなくそんな気はしてましたけど、有紗ちゃんがやってくれたんですね」
「いえ、虹夏さんから相談を受けてある程度お手伝いはしましたが、基本的に計画などは虹夏さんが立てていますよ」
道路使用許可申請の手続きなどは私が行いましたが、立案や場所の選定などは虹夏さんですし、私は少しアドバイスした程度です。
「合わせて、残りのオリジナル曲のMV作成や、従来のライブハウスでのライブなども並行して行います。年度の切り替わりでもあり、少々忙しくなりますが頑張りましょう」
「了解。サンキュー、リーダー」
「いえ、ですからリーダーは……えっと、虹夏さん。こんな感じでいいですか?」
「うん。バッチリだよ、ありがとう!」
ある程度今後の方針については話し終えたので、虹夏さんに進行を戻します。虹夏さんは皆から見える位置で立ち上がり、グッと拳を握りながら口を開きます。
「それじゃあ、そういうわけで、未確認ライオットのグランプリ目指して、皆で頑張っていこう!!」
「あっ、はっ、はい!」
「頑張りましょう!」
「最後に出てきてリーダー面してるのウケる」
「私も可能な限り協力します」
皆で意識を確認し合った後、続けてより細かい詳細を話し合っていく流れとなりました……余談ですが、リョウさんはもう一度バックドロップをされていました。
****
デモ審査用のテープの投函を終え、公式トゥイッターなどで路上ライブの告知をして迎えた路上ライブの当日。事前に道路使用許可をとった場所で準備を行います。
「有紗ちゃん、それがサンプルCD?」
「ええ、結束バンドのオリジナル曲のサビ部分を纏めたもので、宣伝用に無料配布します。ジャケットの裏には、動画サイトと公式トゥイッターのURLとQRコードを乗せているので、興味を持った方がファンになってくれることも期待できますね」
「物販も少し持って来てるから、販売は有紗ちゃんに任せる形になるね」
「……有紗、コレもよろしく」
喜多さんの質問に答えていると、虹夏さんがキャリーバックの中から持って来た物販の商品を渡してくれました。ライブハウスと比べると品揃えは少ないですが、デモCDなども含めていくつかの商品を用意しています。こちらの販売は路上ライブを行わない私が担当することになります。
それはそれとして、リョウさんが「投げ銭してね」と書かれた箱を手渡してきました……まぁ、路上ライブをするとなると投げ銭を期待するのも必然かもしれませんね。
リョウさんから投げ銭用の箱を受け取り、物販スペースと立て看板の横に置いて準備をしていると、聞き覚えのある声が聞こえてきました。
「うえぇぇぇ~い……みんなぁ、やってるかなぁぁぁぁ、応援に来たよぉぉぉ」
「今日のライブ終わった!? 廣井さんが、なんでここに!? Gみたいにどこにでも湧きますね!」
「妹ちゃん、君どんどん辛辣になってない? ……いや~、皆が路上ライブするって先輩から聞いて応援に来たんだよぉ~あ~有紗ちゃんもやっほ~」
「こんにちは、きくりさん。応援に来てくださってありがとうございます」
路上ライブを見に来てくれたらしいきくりさんに笑顔で挨拶をすると、きくりさんはどこか感極まったような表情を浮かべました。
「有紗ちゃんだけは、私のこと邪険にしないから嬉しいなぁ……うん……いま、いっそ美しさすら感じる動きで没収したおにころの瓶を返してくれたら……もっと嬉しいかなぁ」
「路上ライブが終わればお返ししますよ。他の観客の迷惑になってしまうので、路上ライブが終わるまではお酒は我慢してください……ね?」
「……はい」
きくりさんが応援に来てくれたのは嬉しいですが、酒瓶を持って真正面に陣取られては他の客が寄り付きにくくなるので、心苦しいですがライブが終わるまでは酒瓶は預かる形としました。
虹夏さんが弾けるような笑顔でサムズアップしていたのがとても印象的でした。きっと、普段からいろいろ苦労しているのでしょうね。
そして、ある程度準備が整っていよいよ路上ライブというタイミングで、喜多さんに若干の緊張が見て取れました。喜多さんは路上ライブの経験がないので緊張しているのでしょう。
喜多さんの緊張を解すために声をかけようとすると、そのタイミングで私より早くひとりさんが喜多さんに声を掛けました。
「……あっ、きっ、喜多ちゃん……大丈夫です」
「ひとりちゃん?」
「わっ、私も前に有紗ちゃんとお姉さんと路上ライブをやったので、喜多さんの緊張する気持ちもわかります。でっ、でも、こんな私でもなんとかちゃんとできたので……喜多ちゃんなら、絶対に大丈夫ですよ! そっ、それにひとりじゃなくて、私たちも居ますから! 安心してください!」
ひとりさんも喜多さんの緊張には気づいていた様子でした。こうして、周囲を気遣って緊張を解そうとしてあげられる……かつてのひとりさんでは無理だったはずです。ひとりさんも精神的に以前よりずっと大きく成長しているということでしょうね。
「……ひとりちゃん、ありがとう」
「ぼっちちゃんいいこと言うねぇ……うん。本当に……有紗ちゃんの背中に隠れてさえなければ、カッコよかったんだけどなぁ……本当に、正面からだと全然分からないぐらい綺麗に隠れるから、途中で居なくなったのかと少し探したよ」
「あっ……有紗ちゃんが居なければ、キャリーバックの中とかに隠れてました」
「有紗ちゃんが居てくれてよかったよ、本当に!」
ひとりさんは路上ライブの場所に到着した時点で私の背中に隠れていました。まぁ、駅に近い人通りの多い道ですし、ひとりさんがこの状態になるのも理解できます。
ですが、さすがにこの状態のまま路上ライブを行うわけにもいきません。
「ひとりさん、そろそろ準備をしたほうがいいのでは?」
「あぅ……」
「不安な気持ちも理解できますが、今回は私も物販で近くに居ますし、安心してください」
「あっ、有紗ちゃんが近くに……」
「はい。普段のライブハウスより近いので、ある意味特等席ですね。素敵な演奏を期待してます……頑張ってください」
「あっ、はっ、はい! えへへ、なっ、なんだか、有紗ちゃんに応援してもらえると、頑張るぞ~って気持ちが湧いてくるから不思議です。こっ、怖いですけど、頑張ります!」
「はい。頑張ってるひとりさんは、とてもカッコいいですよ」
「あっ、えへへ、そそ、そんなことないですよ。ふへへ……」
私の言葉を聞いたひとりさんは、少し照れたようなそれでいて嬉しそうな表情を浮かべ、私の背中から出てギターの準備を始めました。
「……信じられる? あのふたり、あの空気感で友達だとか言い張ってるんだよ」
「ま、まぁ……ある意味ではいつも通りなので……」
「あのふたりが度々いちゃつくのは平常運転だと思ってる」
時花有紗:物販担当として、アレコレサポート……虹夏にもかなり頼られており、路上ライブの計画などはふたりで話し合って決めた。隙あらばひとりといちゃつく。
後藤ひとり:取り合えず人が多いと有紗の背後に隠れるのが定番。有紗が居ると有紗の背後に隠れるのを優先するので、この作品のぼっちちゃんはあまりゴミ箱とかに隠れたりはしていない。例によってちょっと目を離すと、すぐに有紗といちゃつく。
世界のYAMADA:原作もそうだけど、虹夏をアレコレ揶揄うのは、構ってほしいからだと思われる。
廣井きくり:有紗ちゃんは優しい。邪険にしないし、いつも笑顔で対応してくれる……でも、すぐに酒を没収される。