ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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四十九手春情の花見~sideA~

 

 

 3月も後半となり、季節は春の陽気に変わり始めてきました。新生活や進学に就職と生活の変化も多い時期ではありますが、高校1年生にとっては進級のみで大きなイベントはありません。ひとりさんは、進級に伴い宿題の出ない春休みがあることに喜んでいたり、進級でのクラス替えを不安に感じている様子でした。

 

「あっ、有紗ちゃんの学校は進級ってどうなんですか?」

「それなんですが、私の高校は進級によるクラス替えは無いんですよ」

「え? そっ、そうなんですか?」

「正しくは、一部のクラスには無いという感じですね。中高大の一貫のクラスでは文理の選択も中学の頃に終わってます」

「あっ、そっ、そういえば、有紗ちゃんの学校は大学まで一貫なんですね」

「ええ、まぁ、他の大学を受験するのも構わないので大学への進学率は90%ほどとも言われていますけどね」

 

 今日はSTARRYに向かう途中で運がいいことに偶然ひとりさんとタイミングが合い一緒に向かうことになりました。本当に幸先がいいというか、いいことが起こりそうな予感ですね。

 そんな風に感じつつ、ひとりさんと雑談をしながらSTARRYに辿り着き、店内に入ると……。

 

「ぴぃっ!?」

 

 ひとりさんが小さく悲鳴を上げて私にしがみつきました。予想とは違いましたが、ひとりさんに抱き着かれるというシチュエーションはいいことで間違いないですね。

 ただ、その原因となった相手に関しては、心配です。

 

「きっ、きき、喜多ちゃん?」

「どうしたんですか、喜多さん?」

 

 そう、ひとりさんが驚いたのは俗にいう体育座りの形で座って、虚空を見つめている喜多さんが原因でした。なんというか、虚無という言葉がよく似合う様な哀愁漂う表情です。

 サッパリ状況が分からなかったので、声をかけてみると虚無の表情を浮かべた喜多さんは淡々とした声で呟くように言葉を返してきました。

 

「……キラキラが足りません。キラキラを投入してください」

「「うん?」」

 

 言葉を聞いてもやはり意味が分からず、ひとりさんと共に首を傾げると、少し慌てた様子で虹夏さんが私たちの元に駆け寄ってきました。

 

「大変だよ、ふたりとも! 喜多ちゃんが『キラキラ欠乏症』になっちゃったんだ!?」

「きっ、キラキラ欠乏症?」

「欠乏ということは……必要な成分が足りてない……ということですか?」

「そう。ほら、喜多ちゃん最近すっごく頑張ってたでしょ? ギターにボーカルの練習、公式トゥイッターの更新にバイトに期末テスト……結果として忙しくて、最近自分のイソスタを更新できてなかったみたいで……」

 

 説明してくれる虹夏さんの話を聞くと、どうやらSTARRYに来た時点では普通の様子だったらしいですが、自身のイソスタに「最近更新無いですね」的なメッセージがあり、それを見て慌てて更新しようとしたものの更新に適した写真などが画像フォルダに無いことで、最近の自身のキラキラ欠乏に気付いてショックを受けてあの状態になってしまったみたいです。

 

「……なるほど? 分かったような、分からないような」

「あっ、なっ、なんと言うか、喜多ちゃんらしいと言えば喜多ちゃんらしいような……SNS依存の怖さを感じますね。あっ、ちなみに、何日更新してなかったんですか?」

「7日だって」

「いっ、一週間でこの状態になるんですか!?」

 

 ひとりさんの驚きも共感できますが、たった7日であっても喜多さんにとっては大事件なのでしょう。事実、基本は毎日なにかしらの更新をしていたみたいですし……。

 

「まぁ、でも確かに最近は路上ライブも本格的に始めて根詰めてた感じだし、喜多ちゃんを元気付けるのと私たちの息抜きも兼ねて近々どっか行こうか~って話をしてたところなんだよ」

「幸い投げ銭で得た資金がある」

「こら、それはバンドのお金でしょ!」

 

 たしかに練習ばかりではなく息抜きをするのも重要です。特にいまは春休みですし、遠出する計画なども立てやすいですしね。

 

「いいですね。いまの時期ですと、花見とかがいいかもしれませんね」

「……花見……キラキラ……」

「あっ、きっ、喜多ちゃんが反応してます。こっ、好感触みたいですよ」

 

 私の言葉に喜多さんがピクリと反応しました。微かに先ほどより目に光が宿っているように見えます。

 

「お花見、いいね~楽しそう。ほら、喜多ちゃん、桜が綺麗で映えるよ~」

「…………いいですね! 花見!!」

「あ、復活した」

「舞い散る桜の花びら、可愛いお弁当……映えますね!」

 

 どうやら花見という提案は喜多さんの興味を惹く内容だったみたいで、早々に復活して目をキラキラと輝かせ始めました。

 とりあえず喜多さんの元気が出たのはよかったです。そのまま具体的な花見の計画について話し合う流れになりました。

 

「花見って言うとどこだろ? やっぱ、上野公園かな?」

「やっぱり上野ですよね! でも、場所取れますかね? 相当早起きしないといいとこは無理ですよね」

「……あっ、ひっ、人多そうですね」

「早起きは嫌……」

 

 虹夏さんの言葉に元気になった喜多さんが悩むような表情を浮かべ、ひとりさんとリョウさんは顔を青ざめさせます。

 たしかに東京の花見というと上野は定番中の定番ですが、極めて混み合いますし場所取りも難しく、また長時間の利用は禁止されていたはずです。

 

「それでしたら、お父様が所有している山のひとつに花見ができる場所がありますので、そちらで行いませんか? 私有地なので出店などが無いという欠点はありますが、場所取りの必要もありませんし知り合いだけで楽しめます」

「……場所の問題、一瞬で解決したね」

「ですね。というか、日常会話で所有してる山って単語が出てきたのなんて初めてです」

 

 私が提案した場所はお父様が花見などに使うために整備している山の桜で、ここからはある程度距離があるので車で移動する必要はありますが、問題なく日帰りできる距離ですし人見知りのひとりさんでも安心して楽しめるので、いいと思います。

 お父様に日程の確認を行う必要はありますが、毎日花見をしているわけもないので、問題なく使用できると思います。

 

「あっ、知らない人が居ないのは、本当にありがたいです」

「さすが、ぼっちのパトロンは半端ない」

 

 普通の花見の場所ではひとりさんは畏縮する可能性が高いのですし、私としてもひとりさんと一緒にのんびり桜を楽しみたいという気持ちがあります。

 とりあえず、皆さんも多少驚きつつも乗り気な様子でそのまま話はスムーズに進んでいきました。

 

「あ、そうだ。お姉ちゃんも行く?」

「いや、私はいいからお前らで楽しんでこい。どこから聞きつけるか分からない腐れ酔っ払いはこっちで見といてやるから」

「……お姉ちゃん、ありがとう。本当にあの人来ると台無しだから、頑張って抑えてね」

 

 腐れ酔っ払いという単語で誰のことを指しているか分かってしまうのは、なんとも悲しい話ではありますね。

 

 

****

 

 

 花見の日程は無事に決まり、お父様の許可も頂いたので問題なく開催できることになりました。そして、その前日結束バンドの皆さんと私で集合して、翌日の花見で食べるお弁当を作ることになりました。

 虹夏さんと星歌さんの家にお邪魔して、台所を借りて調理する形になります。

 

「さて、皆でお弁当を作るわけだけど……皆料理経験は?」

「あっ、えっ、えっと……目玉焼きとかぐらいなら……多少は……」

「簡単な物であれば、なんとか……」

 

 ひとりさんは目玉焼きなどの簡単な料理は作れますが……焼く以外の調理方法は苦手と本人から聞きました。喜多さんは不安げな表情を見る限り、あまり得意ではなさそうです。

 

「逆に聞くけど、私ができると思うの?」

「私は難しい料理でなければ大丈夫だと思います」

「ふむふむ……ぼっちちゃんと喜多ちゃんはあまり得意じゃない。リョウは最初から戦力とは考えてない。となるとやっぱり、メインは私と有紗ちゃんだね」

 

 リョウさんは自信を持って告げるほど料理はできない様子です。虹夏さんは普段から家事を行っていることもあって、腕前はこの中では一番上でしょう。私もある程度は出来ますが、やはり手際の良さなどは普段から行っている虹夏さんに敵うとは思いません。

 

「まぁ、ウチの台所もそんなに広くないし、料理は私と有紗ちゃんでやって、3人には盛り付けとか必要に応じで材料の買い出しとかしてもらおうかな。それで、作るおかずなんだけど……これを入れたいってのはあるかな?」

「そうですね。唐揚げとミニハンバーグは絶対に入れたいところですね」

 

 虹夏さんの質問に真っ先に私が答えると、少し意外そうな表情を浮かべた喜多さんが口を開きました。

 

「有紗ちゃんって、唐揚げとハンバーグが好きなの?」

「……あっ、いえ……たっ、たぶん……わっ、私の好きな食べ物だからかと……」

「愛されてるねぇ、ぼっちちゃん」

 

 ひとりさんの言う通り、私が唐揚げとミニハンバーグを入れたいといったのは、もちろんひとりさんの好物だからです。あとはオムライスやエビフライもひとりさんの好物ではありますが、お弁当に入れるには適さないので除外ですね。

 その後も皆さんの希望を聞いてメニューを決めて、必要な材料などを話し合って考えてメモをしました。

 

「じゃあ、材料があるものは作り始めて、追加の買い出しは……完全戦力外のリョウ、よろしく」

「嫌だ。メンドイ」

「リョウさん、お金はこちらを使ってください。おつりは結構です」

「任せて、すぐに買ってくる。料理ができない私でも協力できることがあるのは嬉しい」

「……コイツ」

 

 追加の材料の買い出しはリョウさんが担当することになり、お金を渡すと輝かしい笑顔でサムズアップを返してくれました。

 

「喜多ちゃんとぼっちちゃんには、おにぎりを担当してもらって、それ以外のメニューは私と有紗ちゃんで分担して作っていこう」

「分かりました。ある程度時間のかかるものから作った方がいいですね」

「そうだね~じゃあ、最初は……」

 

 こうして花見に向けてのお弁当作りはワイワイとした楽し気な雰囲気で進行していきました。しかし、ふと考えてみれば、おにぎりをひとりさんが作るということは、ひとりさんの手料理を食べられる貴重な機会とも言えるので、非常に楽しみです。

 

 

 




時花有紗:料理はかなり上手いし、花嫁修業はバッチリ。ぼっちちゃんの好物もしっかり把握している。今回珍しくぼっちちゃんの手料理(おにぎり)を食べられる可能性に気付いて嬉しそう。

後藤ひとり:唐揚げとハンバーグ好きは公式設定。ただ作者様自身が設定に書いたことを忘れてたらしい。原作で喜多ちゃんが泊まりに来た際の会話から、目玉焼きぐらいは作れるっぽい。

喜多郁代:原作に比べてボイストレーニングしたりもしているので、忙しくキラキラが足りなかったことで割と早めにキラキラ欠乏症を発症した。料理は一通りできるが特別得意というわけでもないイメージ。

伊地知虹夏:伊地知家の食卓を預かるだけあって料理は上手い。リョウとかがよく食べに来てそうな気がする。

山田リョウ:原作にそういう描写があるわけでは無いが、料理ができるとは思えない。たぶん食べ専だと思う。

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