ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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四十九手春情の花見~sideB~

 

 

 以前移動の際に利用したのと同じリムジンにて有紗の父が所有する山に辿り着いた結束バンドメンバーは、車から降りてすぐに見えた景色に圧倒されていた。

 

「うわっ、すごっ、桜がドーンって感じだね」

「ここに来るまで門をいくつか越えましたよね? かなり厳重ですし、偉い人とかが使うんでしょうね」

「物凄く贅沢」

 

 ずらりと並ぶ大きな桜の木。景観も考えて植えられているのか、その光景はかなり美しかった。圧倒されたような表情を浮かべてる虹夏と同じく、喜多とリョウもあまりのセレブっぷりに驚愕していた。

 ただその中でひとりだけはある程度慣れているのか、少し落ち着いた様子で有紗に話しかける。

 

「あっ、たっ、建物もいくつかありますね」

「ええ、お父様の知り合いは多いので大人数でも対応できるように、設備はそれなりに整っています。カラオケなどの設備もありますし、大抵のことは出来るかと思いますよ」

 

 近くには日本家屋のような建物が複数あり、寝泊りもできるだけの設備が用意されている。説明を聞いてひとりが頷くのを確認したあと、有紗はリムジンの運転手の元に移動して声をかける。

 

「それでは、予定通り迎えは夕方の4時ごろでお願いします」

「畏まりました」

「時間までは自由にしていただいて大丈夫です。街に行ってもいいですし、向こうの第3家屋の鍵を渡しておきますので、休憩する場合はそちらを使ってください。テレビや仮眠室もあるので、自由に使ってもらって構いません。あと、よろしければこれも」

「これは?」

「私たちの物と同じ内容の弁当です。よければお昼にでも召し上がってください」

「お嬢様っ……ありがとうございます」

 

 感極まったような表情でお礼を言う運転手に微笑んで一礼した後、有紗はひとりたちの元に戻って一緒に桜の並ぶエリアへ移動していった。

 

 

****

 

 

 桜のよく見える場所にレジャーシートを敷いて、花見の準備は完了した。

 

「いや、本当に絶景を貸し切りって感じでいいね~。これは、喜多ちゃんも元気出るんじゃない?」

「あっ、もう、さっきからそこで桜バックに自撮りしまくってます」

「……水を得た魚のような動き」

「ま、まぁ、元気が出たようでいいことですね」

 

 そもそもの発端はキラキラ不足で落ち込んでいた喜多を元気付けることと息抜きである。喜多は絶景にすっかりテンションを上げた様子で、イソスタにアップするための自撮り写真を何度も角度やポーズを変えて撮影しており、輝くような充実した笑顔を浮かべていた。

 それを呆れつつも微笑まし気に見ながら、虹夏は持って来た弁当を並べつつ喜多に声をかける。

 

「ほら、喜多ちゃん! お弁当食べるよ~写真撮らなくていいの?」

「ああ、待ってください! 撮ります!」

 

 可愛らしいレジャーシートに並べられた美味しそうな弁当。もちろん喜多が撮影したがらないわけがなく、「早く食べよう」と催促するリョウを尻目に、ここでもかなりの枚数の写真を撮影していた。

 そして、喜多が満足してから改めて花見はスタートした。

 

「ひとりさん、どうぞ」

「へ? あっ、あむっ……おっ、美味しい」

「口に合ったようでよかったです。この唐揚げは私が作りましたので、最初に食べてもらいたかったんです」

「そっ、そうなんですね。すっ、すごく美味しいです。あっ、そっ、そうだ……えと、こっ、このおにぎりは私が作った……作った? えっ、えっと、握ったやつなので、よかったらどうぞ」

 

 食事がスタートするなり早々に唐揚げを箸で取り、手を添えてひとりに差し出す有紗。突然の行動ではあったが、比較的慣れているせいかひとりは反射的に口を開けて唐揚げを食べて目を輝かせた。有紗は、たびたびひとりの家で美智代に料理を教わっており、ひとりの好みの味もほぼ完璧に把握している。

 そんな有紗が作った唐揚げはひとりの好みの味で非常に美味しかった。そして今回は、ひとりも料理に参加していることもあって、自分の握ったおにぎりを取って有紗に勧めた。

 

「ありがとうございます。ひとりさんの手料理が食べられるなんて、嬉しいです」

「……え? あっ、あの、有紗ちゃん? おにぎりですよ? なんで口を開けて……あっ、えっと……どうぞ」

 

 おにぎりを勧められた有紗は、当然の権利と言いたげに小さく口を開き、それを見たひとりは一瞬動揺したものの、どこか諦めた様子でおにぎりを有紗の口に運んだ。

 

「あっ、えっ、えっと……どうですか?」

「とても美味しいです。ひとりさんが作ってくれたと思うと、より美味しく感じますね」

「あっ、えへへ……そっ、そんなに喜ばれると恥ずかしいですけど、有紗ちゃんが喜んでくれてよかったです」

 

 そう言って微笑み合うふたり……目の前で繰り広げられるなんとも甘い空気のやり取りを見て、虹夏と喜多はまるでチベットスナギツネのような表情で見ていた。

 

「……秒でいちゃつき始めたよ、このふたり」

「いま、即座にふたりの意識から私たち3人の存在は消えましたね。い、いえ、まぁ、有紗ちゃんとひとりちゃんのコレはいまに始まった話じゃないですし、こっちはこっちで楽しみましょう……あっ、リョウ先輩! これ、私が作ったおにぎりです」

 

 傍目に見れば恋人同士のやり取りの様にしか見えない有紗とひとりの空気だが、この感じはいままでも何度も経験しているため喜多の切り替えは早く、我関せずと言いたげに黙々と食べているリョウに自分の作ったおにぎりを差し出した。

 

「あっ、けっ、けど、本当に凄い景色ですね。桜をこうしてゆっくり見るのは凄く久しぶりですけど、綺麗ですね」

「春の中でも短い期間だけと思うと、とても貴重で贅沢に感じられますね。そんな景色をひとりさんと一緒に見れて、幸せです」

「あっ、あぅ……そっ、その、私も有紗ちゃんと一緒に花見に来れて嬉しいです。ほっ、本来は人が多くて苦手で、行くこととかなかったですけど……なっ、なんか、いいですね」

「はい。時間はまだまだありますし、ゆっくり楽しみましょう」

「あっ、はい」

 

 相変わらずふたりの世界とでも言うべきか、甘い空気を作り出している有紗とひとりを見て、虹夏はどこか諦めたような表情を浮かべて、喜多と同じく気にしないことにして料理を食べ始めた。

 

「……って、こらっ、リョウ。卵焼きばっか食べるんじゃない!」

「私の目の前に卵焼きがあるのが悪い」

 

 黙々と食べつつ、明らかに卵焼きを多く食べている……それこそひとりで食べ尽くしそうなリョウにツッコミを入れる。

 余談ではあるが、卵焼きを作ったのは虹夏であり、味付けはリョウの好むものだった。

 

 

****

 

 

 弁当を食べ終え、しばらく雑談をしたタイミングで楽し気な喜多が笑顔で提案した。

 

「バドミントン持って来たんで、皆でやりましょう!」

「お~いいね。バドミントンとか久しぶりだよ。せっかくだし、対戦形式でやろうか。別に罰ゲームとかあるわけじゃなくて、軽く3ポイント先取ぐらいで、組み合わせはくじで決めよう」

 

 喜多の提案に虹夏も賛成し、ノリノリでくじを作り始める。ひとりとリョウは若干不満そうな表情を浮かべていたが、とりあえず文句を言うこともなく話は進行する。

 紙に5人の名前を書いて混ぜて、そこから虹夏が無造作に2枚を選ぶ……。

 

「最初の対戦は、まず……リョウ!」

「……ぼっち来い、ぼっち来い……他は厳しい。ぼっち相手なら、勝てる可能性はある」

「えぇぇ……」

 

 ハッキリ言ってリョウはあまり運動が得意ではない。5人の中で考えるなら、ひとりと最下位争いをするぐらいではある。有紗と喜多、運動神経抜群のふたりには当然敵わないし、虹夏相手も勝ち目が薄い。ひとり相手なら、運動神経に差はほぼない。むしろ高身長である分、バドミントンではリョウの方が有利といえる。

 祈るように手を合わせるリョウの前で、もう1枚の紙が開かれ……。

 

「対戦相手は……有紗ちゃん!」

「無理無理無理! たぶん、一番勝ち目のない相手」

「それは有紗ちゃんの経験次第じゃないですか? 有紗ちゃん、バドミントンの経験は?」

「多少ある程度ですね。授業で数度やったくらいで、あまり経験はないです」

 

 おそらくというか、間違いなく5人の中で1番運動神経がいいであろう有紗が対戦相手に決まり、リョウは青ざめた顔で首を横に振っていた。どうあがいてもボロボロに負ける未来しか見えなかったからだ。

 そんなリョウに苦笑しつつ喜多が有紗にバドミントンの経験の有無を尋ねると、ほぼ経験なしという返答が返ってきた。

 

 それならば多少勝機があると見たのか、リョウはホッとした表情を浮かべ……ひとりだけは、心の底から哀れむような表情を浮かべていた。そう、ひとりは有紗の運動神経とセンスの凄まじさを知っている。卓球経験ゼロの状態でスタートでもなおあの凄さだったのだ。ある程度経験がある競技ならどうなるかは、想像に難しくない。

 

「まぁ、ハンデとしてサーブとレシーブはリョウが自由に選んでいいってことで……有紗ちゃん、いいかな?」

「ええ、大丈夫ですよ。よろしくお願いします」

「……なら、私はサーブを選ぶ。ここにネットはない。本来ならネットに当たる角度でも許されるはず」

「……まぁ、よほど酷いの以外はね」

「なら、一撃で決めてしまえばいい。下北沢の弾丸と呼ばれた私のサーブで仕留める」

「……有紗ちゃん、本気でぶちのめしていいからね」

「は、はぁ……」

 

 もちろん自称であり、そんな風に呼ばれたことは一度もない。ともあれ、リョウも乗り気になったことで、有紗とそれぞれラケットを持って一定の距離を取る。

 そしてリョウは先手必勝と言わんばかりに上からのサーブを放つ。本来のバドミントンのルールであれば、サーブは下から打たなければならないのだが、あくまでこれは遊びなのでスマッシュのフォームで打ったとしても問題はない。

 

 この一撃で決めるとばかりに全力でサーブを放った直後、有紗がサーブをスマッシュで打ち返し、シャトルはリョウの体の横を凄まじいスピードで通過して地面に落ちた。

 

「…………」

「……ごめん有紗ちゃん、やっぱりちょっと手加減してあげて」

「あ、はい。分かりました」

 

 なんとも言えない悲痛な表情を浮かべて無言で訴えるリョウを見て、虹夏は流石に実力差があり過ぎると感じて有紗に手加減をお願いした。

 有紗がそれを了承し、再びリョウが放ったサーブはゆるく山なりにレシーブされる。

 

「よし、これなら余裕……ふっ!」

「……」

「ふっ!」

「……」

「……はぁ……ふっ!」

「……」

「……はぁ……はぁ……ふっ……」

「…‥」

「……あひっ……はひっ……」

 

 リョウが力強く打ち返すと、ゆるく山なりにシャトルが返ってくる。当然絶好球なのでスマッシュを放つ。すると、ゆるく山なりにシャトルが返ってくる。

 それを幾度となく繰り返して、疲労して肩で大きく息をするリョウの横にシャトルが落ちた。

 

「……はぁ……はぁ……クソゲーじゃないか……ずっと死ねない拷問を受けてる気分」

「さすがに相手が悪すぎたね、これ」

「有紗ちゃん、ほぼ動いてませんでしたね」

「あっ、なっ、何度も言いますけど、有紗ちゃんの多少は……私たちにとっての熟練と思ったほうがいいです」

 

 組み合わせが悪すぎてリョウの惨敗に終わったが、その後のバドミントンはそれなりに盛り上がった。有紗が圧倒的なのは変わらずだったが、それでも運動神経のいい喜多であれば勝負にはなるのでレベルの高いふたりの戦いで盛り上がったり、リョウとひとりのある意味で実力が拮抗した勝負で盛り上がったり、ペアを組んでダブルスを行ったりと様々な方法で時間を忘れて仲良く遊んでいた。

 

 

 

 




時花有紗:運動S。可愛くて優しいため使用人にも人気があり、有紗の専属運転手もかなりの倍率を勝ち抜いた者たちである(3人でローテーション。全員女性)。本当に一瞬でも隙があればひとりといちゃつく。

後藤ひとり:運動E。例によって隙あらば有紗といちゃつくぼっちちゃん。なんだかんだで自分の作った料理を褒めてもらえて嬉しかった模様。

喜多郁代:運動A。女子高生らしい遊びに綺麗な桜と、キラキラを補充したおかげですっかり元気になった。

伊地知虹夏:運動C。運動神経は悪くもないが特別良くもないといったレベル。チベスナ顔していた。

山田リョウ:運動D。有紗にボコボコにされた自称下北沢の弾丸。それでもスランプを経て結束バンドメンバーとの友情度が上がっている影響か、バドミントンにも普通に付き合う。虹夏の作った卵焼きをいっぱい食べてた。

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