ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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五十一手挑戦のブッキングライブ~sideA~

 

 

 結束バンドが行う路上ライブも3月初めから何度もこなしてきたこともあって、かなりスムーズになってきました。

 客の入りも毎回それなりに多く、新規の客やファンも着実に獲得できているでしょう。ただやはり、下北沢を中心に活動しているので、そろそろ新宿や池袋といった別の地域にあるライブハウスでも演奏したいものです。

 

「皆路上ライブにも慣れてきたね~。ぼっちちゃんも人前でもかなり本来の実力に近い演奏ができるようになったし……」

「終わったあとに、有紗ちゃんの背中に隠れるのは相変わらずですけどね」

「今日も結構投げ銭ある……やはり、有紗効果は大きい」

「路上ライブからライブハウスに足を運んでくれる方も増えてきて、STARRYでのライブの観客数も着実に増えていますので、いい成果ですね」

 

 とはいえ焦り過ぎてもいい状況にはなりません。特に他のライブハウスでの演奏には失敗のリスクも付き纏うので、勢いだけでは難しい部分もあります。

 ただ着実に成果は出てきているので、そこまで焦る必要も無さそうではありますね。

 

「最近は虹夏さんのドラムの存在感も増してきましたね」

「え? そ、そうかな? たしかに、意識して強めに叩くことも多くなったけど……結構目立ってた?」

「ええ、観客の中には虹夏さんに注目している様子の人もそれなりに居ましたし、位置が最後部であったとしても強い演奏はやはり人を惹き付けるんですよ」

「あはは、そっか~いや、ちょっと褒めすぎな気もするけど、ありがとうね」

「滅茶苦茶嬉しそう」

 

 実際虹夏さんは意識して演奏を変えたことで、以前よりずっと存在感のあるドラマーになってきています。そして虹夏さんが成長することで、影響を受けた他の皆さんもさらに成長しておりバンドとして非常にいい状況といえるでしょう。

 そんな風に話しながら歩いていると、虹夏さんのスマートフォンにメールが届きました。どうやら結束バンドの公式の問い合わせ先に届いたメールのようです。

 

「……えっと、なになに結束バンド様、初めまして音源聞かせていただきました……」

「え? ライブの誘いですか! 路上ライブとMVの効果ですかね!」

 

 どうやら池袋のライブハウスのブッキングマネージャーからのライブ出演依頼でした。ブッキングライブは方向性の近いバンド同士を組み合わせて相乗効果を狙うライブであり、場所も池袋とあれば結束バンドの音楽ジャンルが好きな新たなファン層を獲得できるチャンスではありますが……。

 

「また廣井さんじゃないの?」

「違う! 全然知らない箱!!」

「結束バンドの名前がどんどん広まってるってことですよね!」

 

 虹夏さんと喜多さんは嬉しそうにしている様子ですが、先ほど見たメールの文面……気になりますね。

 

「あっ、えと、有紗ちゃん? なっ、なにか気になるんですか?」

「少し気になる部分はありますが、確証があるわけでもないので喜んでいる空気に水を差すのも……少し調べてみることにします」

 

 私の様子に気付いたひとりさんに問いかけられたので、少し曖昧に返答しました。実際私の考えが杞憂であるという可能性も十分にありますが、どうにも気になる文面でした。

 ライブハウスとブッキングマネージャーに関して、少し調べてみた方がよさそうです。

 

 

****

 

 

 そんなことがあった翌日に、STARRYでのスタジオ練習の際に虹夏さんの様子がどうにも変でした。なんというか拗ねているというか、気に入らないことがあったような……。

 

「虹夏さん、表情がすぐれないようですが、昨日なにかあったんですか?」

「あ、有紗ちゃん……い、いや、別になんでもない。お姉ちゃんが意地悪でひねくれ者なだけだよ」

「星歌さんが? ……少し詳しく話を聞いてもいいですか?」

 

 話を聞いてみると、昨日ライブ出演依頼のことを虹夏さんは星歌さんに話したらしいです。喜んで応援してくれると思っていたみたいですが、星歌さんは微妙な表情で客足が伸びないから止めておいた方がいいと口にして、結果虹夏さんと喧嘩するような形になったらしいです。

 

「……店長さんは、ライブに反対ってことなんですかね?」

「あっ、えと、なっ、何か理由があるのでは?」

「お姉ちゃんが意地悪なだけだよ。お姉ちゃんのことなんて気にせずに、最高のライブにしよう!」

 

 喜多さんとひとりさんも少し不安げな表情を浮かべており、それを見た虹夏さんは無理やりに明るい笑顔を作って前向きな発言をしました。

 それに対して、怪訝そうな表情を浮かべていたリョウさんが私に小声で話しかけてきます。

 

「……有紗、正直、今回の話ちょっと変だと思う」

「ええ、私もそう思っていましたし、なんとなく星歌さんの反応で理由も分かってきました」

 

 どうやらリョウさんも今回の出演依頼に疑問を持っていたようです。確かに、昨日もはしゃぐ虹夏さんに「ちゃんと確認した方がいいんじゃない?」と苦言を呈していました。

 とりあえず、虹夏さんが現在のままでは演奏にもいい影響はないでしょうし、まず星歌さんとの件を早期に解決する必要があるでしょう。

 

「……皆さん、ちょっと聞いてもらえますか? 提案があるのですが……」

 

 そうして私は4人にある提案をして、虹夏さんが頷いてくれたのを確認してから軽く打ち合わせをして練習スタジオの外に出ました。

 

 

****

 

 

 練習スタジオからライブハウスのカウンターに移動すると、いつも通りパソコンで作業をしている星歌さんの姿があったので、その背に向けて声を掛けます。

 

「……評判の悪いライブハウスなんですか?」

「……有紗ちゃん? 他の連中は?」

「まだ練習中ですね。そこで少し、昨日の虹夏さんとのやり取りを聞いて疑問に思いましたので……」

「……有紗ちゃんは、あのライブハウスのこと知ってんのか?」

 

 振り返って他の人たちがいないことを確認した星歌さんは、私に今回の件の池袋のライブハウスに付いて知っているのかと聞いてきたので、私は首を横に振りました。

 

「いいえ、ですがメールを見た時点で疑問は抱いていました。音源を聞きました、音楽性に感じるものが……なんの音源を聞いたとも、具体的になにがよかったとも記載がなく、バンド名を変えれば他のバンド相手にでも送れそうな文面でしたからね」

「……そっか、流石だな」

 

 そう言って少し微笑んだあと、星歌さんは私に背を向けパソコンに視線を戻しながら呟くように話し始めました。

 

「普通ブッキングライブってのはバンド同士の相性を考えて組むもんだ。当たり前だがポップスとメタルじゃ客層は大きく変わる。ただ、ブッキングマネージャーの中にはスケジュール埋め優先で、バンドの相性なんて考えずに適当にブッキングしまくる奴もいる」

「……それが、このライブハウスのブッキングマネージャーというわけですね」

「ああ、場所も下北沢じゃなくて池袋、客層は確実に普段とは違う。ジャンル違いでアウェーなんてこともあり得るわけだ。ジャンル違いの観客にウケるには、相当レベルの高い演奏をしなくちゃならない」

 

 やはりというべきか、依頼を出してきたライブハウスはあまり評判がよくなく、虹夏さんを心配したことで星歌さんは反対するようなことを言ったのでしょう。

 口にこそ出しませんが、星歌さんは普段から虹夏さんや結束バンドの皆さんを気にかけてくださっているので、納得できる理由です。

 

「それで、どうしますか? 私の口から出演を断るように提案しましょうか?」

「……いや、大丈夫だ。もっと前の虹夏たちだったらともかく、いまのアイツらなら大丈夫だろう。昨日はつい衝動的に反対しちまったが、いまのアイツらならジャンル違いの客も惹き付ける演奏だって余裕で出来るさ。本当に、上手くなったよ」

「そうですか……星歌さんは虹夏さんのことを信じているんですね」

「虹夏には言うなよ。アイツもいつの間にか、いいドラマーになったよ。バンドを引っ張っていけるような……もう、十分一人前のバンドマンだ」

 

 優しい声で呟く星歌さんからは、本当に虹夏さんのことを大切に思っているという気持ちが伝わってくるようでした。

 そんな星歌さんに対して、私は少し申し訳ない気持ちを抱きつつ声を掛けます。

 

「……申し訳ありませんが、虹夏さんに伝えないのは無理です。だって……ずっと聞いてましたからね」

「………………は?」

 

 私の言葉を聞いて唖然とした表情で振り返る星歌さんに、私は通話中になっているスマートフォンを見せました。

 そう、私と星歌さんの会話は最初っから最後までスタジオに居る結束バンドのメンバーに筒抜けだったというわけです。それに気付いた星歌さんは、顔を赤くしてワナワナと震える指を私の方に向けました。

 

「あ、有紗ちゃん……図ったな!?」

「ふふ、申し訳ありません。ですが、たぶん虹夏さんの前では素直に話してくれないと思いましたので……」

 

 そう私が伝えると共にスタジオに繋がるドアが開き、少し目元を赤くした虹夏さんが姿を現しました。星歌さんは先ほどまでの会話を聞かれていたと知って、なんともバツの悪そうに視線を逸らします。

 

「……お姉ちゃんの馬鹿。そうならそうと、言ってくれればよかったのに」

「あ~……悪かったよ。どうも喜んでたから言い出しにくくてな」

「ううん。私の方こそ、変に不貞腐れちゃって……ごめんなさい」

 

 虹夏さんは星歌さんに近付いて甘えるように抱き着きながら謝罪し、その言葉を聞いた星歌さんは軽く苦笑を浮かべて、虹夏さんの頭を撫でました。

 

「……アウェーのライブは大変だぞ、半端な演奏じゃ興味は引けないぞ?」

「うん。でも、頑張ってみるよ。皆と一緒なら、きっと大丈夫」

「そうか……なら見に行ってやるから、別ジャンルの客層も根こそぎファンにするぐらいの演奏をして見せろよ」

「……うん!」

 

 明るい笑顔で笑う虹夏さんと、微笑まし気な表情を浮かべる星歌さん。姉妹の時間を邪魔するのも野暮なので、私はそっとその場を離れて練習スタジオに移動しました。

 

「あっ、有紗ちゃん。お帰りなさい。うっ、上手く行きましたね」

「ええ、これできっと虹夏さんも大丈夫……あとは最高のライブをするだけですね」

「あっ、はい。頑張ります!」

「ふふ、はい。応援していますよ」

 

 

 




時花有紗:最初からメールは怪しく感じており、なんとなく予想もしていた。今回は虹夏の代わりに星歌から本心を聞きだすことに成功。

後藤ひとり:有紗に関してだけは滅茶苦茶鋭いので、有紗がメールを訝し気に思っていることにもすぐに気付いた。

伊地知虹夏:有紗が居たおかげで、星歌との仲違いが長引くこともなく解決し、最初からジャンル違いのアウェーと分かった上で挑戦を決めた。姉に関しては、ムキになったり拗ねたりしつつも、結局最終的にはシスコンを発動させて甘える虹夏ちゃんからしか摂取出来ない栄養もある。

山田リョウ:なんだかんだで原作でも訝し気にしており、出演依頼に疑問を抱いている感じだった。虹夏の様子にもすぐに気付いており、有紗に意見を求める有能っぷりを発揮。
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