ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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五十一手挑戦のブッキングライブ~sideB~

 

 

 迎えた池袋のライブハウスでのブッキングライブ。結束バンドのメンバーと有紗は目的のライブハウスにやってきていた。

 予想通りというべきか、適当に出演依頼をしたであろうブッキングマネージャーは結束バンドの名前自体もしっかりと覚えてはいないようだった。

 ただ、星歌からの事前情報もありそういった評判の悪いブッキングマネージャーであることは分かっていたので、特に動揺することは無かった。

 

 ライブハウスの中には同じく出演するであろう、他のバンドたちの姿もあった。

 

「あ~おはようございます! 地下アイドルの天使のキューティクルです。私はミカエルです。今日はよろしくお願いします」

「ええ、こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 笑顔で話しかけてきた天使のキューティクルのメンバーに、話しかけられた有紗は笑顔で挨拶を返す。こういった場で、一番目立つ有紗が声を掛けられるのはいつも通りであり、他の結束バンドのメンバーも慣れた様子である。

 そのまま他のメンバーも挨拶をという流れのはずだったのだが、天使のキューティクルのメンバーのひとりが突然目を輝かせて声を上げた。

 

「あぁぁぁ! か、顔が良い! 眩しいぐらいに可愛い、推せる!! あ、ぜ、是非名前を! あとサインとチェキと握手を!!」

「……ミカエルさん、ラファエルちゃんの発作が……」

「……頑張って抑えておいてね。うちのメンバーがすみません」

「ああ、いえ、お気になさらず……」

 

 圧倒的とすら言えるほどに美少女である有紗を見て、メンバーのひとりのラファエルが非常に興奮した様子で騒いでおり、もうひとりのメンバーのウリエルが必死に抑えていた。

 その様子に苦笑しつつも、有紗を含めた結束バンドのメンバーは他のバンドにも挨拶をしていく。デスメタルバンドの屍人のカーニバル、弾き語りの初老男性など、例によってジャンルがバラバラのメンバーではあった。

 

 いつものように有紗がリーダーと勘違いされることもあったが、結束バンドのメンバーは慣れたもので、こういった場では有紗をマネージャー兼サポートと紹介することにしており、結果スムーズに話は進んだ。

 そしてリハーサルを終えたあとは、控室で準備をしつつ他のバンドのライブを見学する。

 

「なっ、なんか、本当に独特ですけど……じっ、事前に知ってたぶんだけ緊張は少ないですね」

「そうですね。やはり事前にこういったジャンル違いの客が多いことも分かった上で練習をしてこれたのは大きいですね」

 

 そう、結束バンドの面々はジャンル違いの客をどう引き込み、自分たちの演奏に注目してもらうかということに関して、事前にしっかり打ち合わせと練習をしてきた。

 演奏開始前に、それぞれのメンバーの紹介と軽いソロ演奏を入れることでバンド自体に興味を持ってもらい、聞く姿勢になってもらう。

 そういった準備をしてきたので、メンバーたちの精神状態はいい感じだった。ひとりと並んでライブを見ていた有紗は、穏やかに微笑みながらひとりに声をかける。

 

「……ですが、ひとりさんは少し緊張しているみたいですね」

「うっ、まっ、まぁ、それはその……初めてのライブハウスですし、普段とは全然違う客層なので緊張はしてます」

「なるほど、ではライブが成功するおまじないを……」

「へ? おまじない?」

「はい。ちょっと失礼しますね」

「わっ、わわっ!?」

 

 少し悪戯っぽく微笑んだあとで、有紗はそっと手を伸ばしてひとりの前髪を上げる。前髪をどかされるというのは、ひとりにとってはとてつもなく緊張する行為であり、相手が有紗以外だと即気絶してもおかしくないが……有紗が相手であれば問題ないようで、慌てつつも抵抗らしい抵抗はしていなかった。

 そんなひとりに対し、有紗は顔を近づけ、ひとりの額に自分額をくっつけるようにした。

 

「は? なっ、ななな、あっ、ああ、有紗ちゃん!? なっ、なななにを……」

「ひとりさん。大丈夫です……ひとりさんも、皆さんも以前と比べずっとずっとレベルを上げています。近くで聞いていた私が言うのですから、間違いないです。なので、大丈夫……貴女たちの演奏は、ここに居る人たちを魅了できるだけの力が十分にありますよ」

「……有紗ちゃん」

「だから、頑張って……最高の演奏を聞かせてください」

「……はい! 頑張ります!」

 

 額が触れ合うほどに近くで目を見つめ合いながら告げられた応援の言葉は、ひとりの心に大きな勇気を宿らせてくれた。先ほどまでの緊張は消え、目に強い光を宿したひとりはしっかりと有紗の言葉に返事をする。

 それを確認して微笑んだあとで、有紗は額を離した。

 

「……こっ、こんなおまじないもあるんですね」

「いえ、今考えました」

「あっ、なるほど今考え……えぇぇぇ!?」

「でもほら、結果的に緊張は解けたようですし、私もひとりさんと密着できて嬉しかったので、双方利点しかないですね」

「ふぐっ……も、もぅ、有紗ちゃんは本当に……でっ、でも、ありがとうございます。勇気いっぱい貰えました」

 

 そう言って笑顔を浮かべるひとりに対し、有紗も笑顔を返し互いに笑い合う。そして、そんな光景を見ていたある人物は膝から頽れた。

 

「……百合ップル……尊い。もぅ、マジ無理ぃ、尊死すりゅぅ……カップル推し余裕。しゅきしゅきしゅきしゅきめろりー……」

「ミカエルさん! ラファエルちゃんが!」

「ちょっ、ラファエルちゃん起きて! もうすぐ私たちの出番だから!!」

 

 どこか安らかな表情でサムズアップをしながら床に倒れるラファエルを、ミカエルとウリエルが大慌てて抱え起こしていた。

 

 

****

 

 

 時を同じくして、ライブハウスのホールでライブを見ていた喜多だったが、不意に肩を叩かれた。

 

「やほ~来たよ~」

「は? さっつー!? な、なんでここに?」

「前にライブ見に来いとか言ってからさ~。いや~ライブ代って高いわ」

「いや、なんでよりによってこんな特殊なブッキングライブを……」

 

 現れたのは喜多のよく知る次子であり、いつも通りの緩い表情でライブを見に来たと告げていた。確かにライブを見に来いとは言った。そして、今日池袋でブッキングライブをすることもロインでの会話の中で話していた。

 しかし、ホームであるSTARRYのライブではなく、明らかにジャンル違いのブッキングライブであると事前に分かってるものを見に来た次子に対し、喜多はどこか呆れたような表情を浮かべていた。

 

「いや、別に問題ないっしょ。うちそもそもヒップホップ以外には興味ねぇし、今回も喜多のライブ見に来ただけだから、他がどうとかは気にしないよ」

「相変わらずというか、なんと言うか……」

「まぁ、そんなわけでうちのチケット代分……カフェランチ分ぐらいの演奏よろしく~」

「それは期待してるんだかしてないんだか、なんとも分かりにくいわね」

 

 のほほんとしている次子を見て、喜多は苦笑を浮かべる。

 

「まっ、後悔させないだけの歌を聞かせてあげるわよ。さっつーが、ロックファンになるぐらいね」

「あ、それは無理。私ヒップホップ一筋だから、ロックファンにはならんよ……ま~そんなわけだから、ロックファンじゃなくて、結束バンドファンにさせてみなってね」

「あはは……結束バンドはヒップホップじゃないわよ?」

「知ってるし、うちのキャパ的にヒップホップ以外にファン活するなら、ひとつが限界ってだけ……だからまぁ、期待してる」

「うん。楽しみにしてて」

 

 イタズラっぽく笑いながら激励する次子に、喜多も明るい笑顔を浮かべて頷いた。

 

 

****

 

 

 天使のキューティクルのライブを並んで見ている虹夏とリョウ。自分たちの番が近づいているからか、やや表情を硬くしていた虹夏の頬を唐突にリョウが突いた。

 

「……いきなりなにすんのさ?」

「なんか不細工な顔してた。ウケる」

「ぶん殴っていい?」

「駄目。私の顔に傷が付いたら、日本の損失だと思う」

「ホント、その自信はどこから来るんだろうね」

 

 いつも通りのリョウを見て虹夏は苦笑を浮かべつつ、ステージに視線を向けたまま呟く。虹夏もリョウがなぜちょっかいをかけてきたのか分かっている。悪ふざけなどではなく、自分を気遣ってくれていることも含めて……。

 

「やっぱ表情硬くなってたか……分かってる。大丈夫だって、しっかり練習してきたし客層がバラバラなのも想定して考えてきた」

「……でも、もし、上手く行かなかったら、よく考えずに返事した自分の責任……とか、馬鹿なこと考えてんの?」

「うっ……」

「虹夏って変なところで真面目過ぎて馬鹿だよね。ありもしない未来なんて心配する必要ない。できるよ、私たちなら……ここに居る客を全員ファンにするライブがね」

 

 そう告げて不敵な笑みを浮かべるリョウの表情は自信に満ちており、本当に大丈夫と思わせるだけの力強さもあった。

 その顔を見て、虹夏はフッと自分の中から緊張が抜けていくのを感じ……小さく笑みを浮かべた。

 

「……そっか、大丈夫なんだね」

「うん。絶対に大丈夫」

「ありがと、元気出た。リョウもたまには頼りになるね」

「いつもの間違いでしょ?」

「あ~なんか、年明けぐらいにスランプになってた奴が居たなぁ~」

「それを言うならつい最近姉と喧嘩してふてくされてた奴が居たなぁ~」

「「ぷっ……あはは」」

 

 顔を見合わせて笑い合う。どことなく温かな空気が流れているように感じて、互いに不思議な温もりを感じながら笑い合い、少し経ってから虹夏はニッと笑みを浮かべて口を開く。

 

「よしっ、じゃあ、そろそろ控室にいって準備しようか……そんで、見せつけてやろう。結束バンドのライブを」

「だね。未確認ライオットの前哨戦には丁度いいよ」

「おっ、言うね~」

 

 そんな風に話しながら虹夏とリョウが控室に移動すると、そこにはひとりと喜多と有紗が居た。直接ライブに出ない有紗はともかく、ひとりも喜多もいい表情をしておりその顔を見るだけで、今日のライブの大成功を確信できるようだった。

 

 そしてその確信は違うことなく現実となり、今日このライブハウスを訪れた観客たちや共演したバンドたちの心に、結束バンドというロックバンドの名が強く刻みつけられることとなった。

 

 

 

 




時花有紗:例によってリーダーと間違われるが、もう慣れた。ひとりにおまじないとしておでこコツンを実行。これで、同じおまじないをすると見せかけてデコチューに行く準備は整ったとみていい。

後藤ひとり:相変わらず有紗に対する好感度は激高で、だいたい近くに居る。今度の距離感バグりはおでこコツンになりそう。

ラファエル:5巻で登場する日向恵恋奈。リョウがドン引きするぐらいには個性的。百合にも理解があるようで、有紗とひとりのカップル推しを始めたらしい。有後党の党首がアルカイックスマイルで手招きをしている気がする。

池袋のライブ:原作よりさらに大成功だったが、まぁ、百合とはあんまり関係がないですし、原作と大きな違いもないのでサラッと流します。
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