ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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五十二手鷹揚のショッピングモール~sideA~

 

 

 池袋でのブッキングライブは大成功といっていい結果に終わりました。会場はかなり盛り上がりましたし、いままでとは違う層の客をファンとして取り込めたのはかなり大きいです。

 天使のキューティクルを始めとする他ジャンルの演者とも知り合えましたし、得るものはかなり大きかった印象です。

 ライブハウスに見に来ていた星歌さんの目から見ても、今回の結束バンドの演奏は素晴らしかったようで、珍しく素直に褒められた虹夏さんが照れながらも嬉しそうにしていたのが印象的でした。

 

 ただ、演奏の途中で星歌さんの近くにやみさんの姿も見えたのですが、こちらに声をかけてくることはありませんでした。ただ、後ほど私の元にロインで「今度STARRYに取材に行く」と連絡がありました。取材ということは結束バンドの皆さんと会う形になるので……それを行おうとするということは、やみさんの中で結束バンドは十分にプロを目指せるバンドと認識を改めてくれたのではないかと思いますので、取材に来てくれる日が楽しみです。

 

 さて、そんな大成功の池袋のブッキングライブから数日後、私とひとりさんは一緒にショッピングモールにやってきていました。

 目的は4月21日……もうすぐ誕生日である喜多さんへのプレゼントを買いに来ました。私は既に用意しているので、ひとりさんのプレゼント選びの付き添い……つまりデートです!

 

「それで、ひとりさん。プレゼントの候補は考えていたりしますか?」

「あっ、はい。こっ、今回はちゃんと考えてきました。喜多ちゃんといえば、映え……とっ、とと、というわけで、さっ、最新のトレンド品をプレゼントするつもりです」

「……最新のトレンド品、ですか?」

 

 たしかに喜多さんは映えを意識しており、映える品を喜んでくれるというのは納得できる理由ですが……なにを贈るつもりなのでしょうか? その、こういう言い方は失礼だとは思うのですが、残念ながらあまりひとりさんが流行に鋭いという印象はないので、若干不安ではあります。

 まぁ、その辺りは私が一緒なので、ひとりさんのやる気を削がないようにそれとなく誘導するのがいいかもしれません。

 ああ、いえ、決めつけるのは良くないですね。きっとひとりさんも、しっかり下調べして最新のトレンド品を……。

 

「まっ、まだ、どれにするかまでは決めてませんが……ちっ、地球グミとか……」

「……ありましたね、地球グミ」

 

 その名称が出た時懐かしいと思ってしまいました。確か流行したのは私が中学生の時だったので、2年ほど前の印象ですね。

 古すぎるというわけではありませんが、最近はあまり見かけなくなったものではありますね。

 

「あっ、あとは、ちょっとレベルが高すぎるかもしれませんが……まっ、マリトッツォ……とか?」

「なるほど……」

 

 い、いえ、決して悪いわけでは無いのですが、マリトッツォもまた微妙にブームを過ぎているような気がしますね。流行というのは移り変わりが激しいものですし、仕方がないと言えば仕方がないのですが……。

 

「えっと、ひとりさん。最近であれば半熟カヌレなども、流行ですよね」

「あっ、え? 半熟カヌ……えと?」

「……ひとりさん、提案なのですが、食べ物は止めておいた方がいいのではないでしょうか? 特にマリトッツォなどは日持ちもしませんし、ひとりさんの家から持っていく形になると常温で2時間ほど運ぶようになってしまいます」

 

 実際誕生日プレゼントとしては適さないですね。学校に持っていくのも難しい品ですし、渡しやすさや運びを考えるなら小物系がいいと思います。

 

「あっ、いっ、言われてみれば、確かに……でっ、でも、それ以外で映えるって……たっ、タピオカ畑とか?」

「一度食品から離れて考えてみましょう。大丈夫です。時間はありますし、私が相談に乗ります」

 

 タピオカもとい……キャッサバ畑も現実的ではないです。とりあえず移動しつつ無難な案を出していくことにします。

 

「お洒落な贈り物をというのでは、コスメ系も選択肢としてありだとは思います」

「こっ、ここ、コスメ!?」

「はい。肌に使うものなどは相性もあるので難しいですが、リップなどであれば小型で持ち運びやすいですし、華やかさや高級感もあるのでいいかもしれませんよ」

「あっ、リップ……リップクリームですか?」

「ああいえ、この場合のリップというのはルージュやグロス、クリームを総称した意味で、唇に使用するコスメの全般のことですね」

 

 喜多さんの雰囲気を考えると、あまり濃いルージュなどよりも、つやを出すリップグロス系のコスメが喜ばれそうな気がしますね。

 

「……あっ、有紗ちゃんって、化粧品にも詳しいんですか?」

「人並み程度の知識はありますよ。メイクなどはお母様から教わっていますしね」

「でっ、でも、有紗ちゃんが化粧しているところは見たことがないような?」

「ああ、それは、お母様に止められているんですよ」

「え? とっ、止められている?」

「ええ、なんでも『有紗ちゃんがお化粧をすると、傾国の美女になっちゃって目立ちすぎるから、普段は控えておきなさい』と……まぁ、お母様は少々大袈裟なところがあるので、仰々しく言っているだけだとは思いますが」

「……有紗ちゃんが、化粧……みっ、見てみたいような、恐ろしいような……」

 

 特にいままで化粧が必要な場面というのもありませんでしたので、自宅でお母様に教わってメイクの練習をするぐらいでしたが……こうして、恋する相手に巡り合ったわけですし、ひとりさん相手に使うのなら正しい使用方法ではないでしょうか?

 

「ひとりさんが見たいなら、いつでも見せますよ」

「あっ、うっ、えっ、えと……」

「私としては、ひとりさんの化粧した姿も見てみたいですが……ただでさえ、愛らしさの化身であるひとりさんが化粧をしてしまえば、その美しさは人の限界を越えてしまうかもしれませんし、迂闊に行うのも危険かもしれませんね。主に私の理性的な意味で……」

「おっ、大袈裟過ぎです」

 

 私の言葉を聞いて、ひとりさんは少し恥ずかしそうに頬を赤くしながら言葉を返してきましたが、個人的にあまり大袈裟とは思えませんでした。

 もしひとりさんが化粧をして、可愛らしさと美しさと同時に発揮したとしたら……私は冷静でいられる自信がありません。衝動的にウエディングドレスの準備まで終わらせてしまう可能性すらあります。

 

「ま、まぁ、とりあえずコスメに限定する必要はありませんので、雑貨なども含めていろいろ見てみましょう」

「あっ、はい」

 

 話を喜多さんの誕生日に戻して微笑みつつ、ひとりさんの手を取ります。逸れてはいけないという思いもありますが、それ以上になんとなくこうして不意に手を取っても受け入れてくれるのではないかという、期待もありました。

 その期待通り、ひとりさんは特に気にした様子もなく頷いて私の手を握り返してくれました。互いの心の距離が順調に縮まっているようで、嬉しい限りです。

 

 

****

 

 

 いくつかの店を回って、無事に喜多さんへの誕生日プレゼントを決めることができたのは良かったのですが、ひとりさんはかなり疲れてしまったみたいで、ふたりでショッピングモールのベンチに座って休憩することになりました。

 

「ひとりさん、大丈夫ですか?」

「あっ、はい。あっ、あまりにあちこちお洒落オーラが凄くて、キラキラに当てられて疲労が……」

「ふふ、お疲れ様です。ですが、無事に喜多さんへのプレゼントも買えましたし、目的は達成ですね」

「あっ、有紗ちゃんのおかげです。例によって、私ひとりじゃ店に入るのも難しかったですし……」

「ひとりさんの力になれたなら、嬉しいですよ。時間はありますし、しばらくのんびり休憩しましょう」

「あっ、はい」

 

 ベンチに並んで座って手を繋ぎ、のんびりとショッピングモールを歩く人たちを見る。休日でそれなりに人の多いショッピングモールの中にあっても、いまこの空間だけは少し時間がゆっくりと流れているかのような、そんな雰囲気がなんとも心地いいです。

 

「なっ、なんというか、のんびりですね」

「そうですね。ですが、私はこういう雰囲気は好きですよ」

「あっ、わっ、私もです。というか、有紗ちゃんとこうやって、のんびりしてるのが、なんか好きです」

 

 ひとりさんの言葉には心から共感出来ました。特別なにかをしているというわけでもないのですが、不思議と心地よい空気と表現するべきでしょうか、幸せとはこういうことなのだなぁと実感できるような温かな空気が好きです。

 

「なんだかんだで、最近は路上ライブやブッキングライブで忙しかったですし、ひとりさんも目に見えないところに疲れがたまっているかもしれませんよ」

「あっ、そっ、そうですかね? たっ、確かに、未だに路上ライブは緊張しますけど……」

「というわけで、ひとりさん。疲れを癒す意味でも、もっと私にもたれ掛かったりしてくれても大丈夫ですよ?」

「……そっ、それ、有紗ちゃんがそうして欲しいだけのような……」

「その理由が10割ですね」

「全部!?」

 

 半分ほどは冗談ではありましたが、実際にそうなったら幸せだなぁという思いもあります。まぁ、場所が場所だけに、流石に難しい要求ですね。

 そう思っていたのですが、ひとりさんは少し逡巡するような表情を見せたあとで、小さくため息を吐いてから私に少しもたれ掛かってきました。

 

「……ひとりさん」

「あっ、有紗ちゃんがそうして欲しいなら……あっ、えっと、仕方ないので……」

「とても嬉しいです。人目の多い場所なので難しいと思っていましたが……」

「……………………人目が、多い?」

「あ、はい。休日のショッピングモールですからね」

「……あっ」

 

 どうやらリラックスしていたこともあって、ショッピングモールのベンチであるということを忘れていたみたいです。ひとりさんは私の言葉にハッとした表情になって、みるみる顔を赤くしていったので……ひとりさんの肩に手を回して抱き寄せることで、逃亡を阻止しました。

 

「あっ、わっ、私すっかり忘れて――有紗ちゃん!? なんで、肩をガッチリ掴んでるんですか!?」

「ひとりさん、あまり大きな声を出すと注目を集めてしまいますよ」

「~~~!?!?」

「あっ、ちょっ、ひとりさん?」

 

 肩を掴んだのはあくまでひとりさんが慌てて逃げ出さないようにという理由でしたが、赤い顔で大きな声を出したひとりさんは結果的に周囲の注目を集めてしまい……気を失ってしまいました。

 

 困りましたね。これでは移動するのも難しいです……まぁ、こうなってしまったものは仕方ないので、気にせずしばらくはひとりさんの肩を抱いて温もりを堪能しておくことにしましょう。

 

 

 




時花有紗:例によって鬼つよメンタルなので、注目を集めてもさほど気にしておらず穏やかに微笑みながらひとりの肩を抱いていた。

後藤ひとり:とにかく「有紗の望み」というのに弱く、有紗ちゃんがそうして欲しいなら……と、普段では恥ずかしくて実行できないようなことも実行しがち。ただ、今回は周りが見えていなかったこともあって、気付いた直後にキャパ越えをして気を失った。結果として公衆の面前でいちゃつくことに……さすが伝説のラブダイバーだ、面構えが違う。

ショッピングモールの客たち:てえてぇ……
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