ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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五十二手鷹揚のショッピングモール~sideB~

 

 

 気絶から目覚め、顔を赤くしつつそれでも手は繋いだままのひとりと有紗は休日のショッピングモールを歩きながら話をする。

 少し前にベンチで休憩中に起こった出来事に対し、ひとりは黒歴史がひとつ増えたと言いたげな表情を浮かべているが、有紗はいつも通り穏やかな微笑みを浮かべていた。

 

「……なっ、なんで有紗ちゃんは平気そうなんですか……ほっ、本当にそのメンタルの強さが羨ましいです」

「ひとりさん、誰しも失敗や恥をかくということはしてしまうものです。ですが、残念ながら時間を巻き戻す術はありません。後ろを向くより前を向いた方が有意義です。もちろん忘れてしまえばいいというわけではありません。今回のことから学び、次に生かすのが重要です」

「なっ、なるほど? あっ、えっと……ちなみに、有紗ちゃん的には今回の出来事を次回にどう生かすんですか?」

「ひとりさんに甘えてもらうという素敵なシチュエーションを堪能するには、やはりふたりきりが望ましいですね。あと、もたれ掛かった状態で肩を抱くより、肩を抱いて抱き寄せる形にしたほうが姿勢的を維持しやすい気がします」

「あっ、めっ、メンタル強っ……ふっ、ふふ……なっ、なんか、有紗ちゃんがあんまりにもいつも通りで、変ですけどちょっと安心しました」

 

 ある意味で非常に安定しているというか、相変わらずひとりへの好意をまったく隠さない有紗を見て、ひとりは思わず笑みを浮かべた。

 前々から分かっていることではあるが、有紗の愛情表現はストレートであり、こうして話しているだけでも自分が有紗に好かれているというのを実感することができて……正直に言えば、嬉しかった。

 

「ひとりさん、時間もまだありますしデートの次の目的地ですが、このモールには映画館があるので、映画でも見ませんか?」

「あっ、はい……あっ、あれ? いつの間にデートに? まぁ、有紗ちゃんだし……映画は久しぶりです」

「そうなんですね。そういえば、ひとりさんの家の近くには映画館はあるんですか?」

「うっ、う~ん。どうでしょう? あっ、あるかもしれないですけど、私は知りませんね。知ってるのは、横浜の近くとかの映画館ですね」

「なるほど、横浜だと近場に無いと中々行きにくいというのはありますね」

「でっ、ですね……まっ、まぁ、横浜まで電車で20分なので遠くはないですけど……ひっ、人が多いのでひとりでは行きたくないです。えっ、映画館自体の雰囲気は好きですが……」

 

 上映中は暗くなる映画館は、雰囲気的にはひとりが好むものではあるが、そこに至るまでが大変なのであまりひとり映画に行こうと考えることはない。

 もっとも、有紗と一緒であれば行きたいという気持ちもあるので、有紗の提案に関しては断る理由もなく頷いた。

 そのままふたりは映画館に移動して、上映中の作品リストを眺める。

 

「ひとりさんは、どれが見たいですか?」

「あっ、え~と……」

 

 有紗に尋ねられたひとりは、作品のリストを見ながら考える。有紗の性格上、ここでひとりが見たいといったものを選ぶはずなので、実質的にこの質問はひとりがなにを見るかを決めていいというパスに等しい。

 

(お涙ちょうだいの感動系は、あんまり好きじゃない。恋愛系は青春コンプレックスが刺激されるし、単純に有紗ちゃんと一緒に見るのは……恥ずかしい。アニメは、う~ん、知らない作品だからよく分からない。となると、アクション映画とかがいいかな?)

 

 少し悩んだひとりだったが、最終的に最近話題の人気アクション映画を見ることに決め、有紗もそれを了承したのでふたりでチケットを購入する。

 上映時間まではまだ時間があったので、近場で時間を潰せる場所ということで映画館の近くにあったゲームコーナーに移動した。

 

「……なっ、なんか、こういうモールの映画館の近くにゲームコーナーがあるのは、定番な気がしますね」

「いまの私たちのように上映時間待ちに立ち寄ることが期待できますからね。その性質上、クレーンゲームなどが中心ですが……」

「でっ、ですね。あっ、近くにコインロッカーがあるので景品をとってもそっちに置けるって感じですね。クレーンゲームとかもあんまりやったことは……あっ」

「うん? どうしました、ひとりさん?」

 

 ひとりが不意に足を止めたことで、有紗もそちらを向くと、視線の先にはプリクラの機械があった。

 

「プリクラですか?」

「えっ、ええ、まさか、こんなところで巡り合うとは……あっ、あれは、ゲームセンターで陰キャが恐れる機械第2位の……プリクラ」

「……どこのランキングですか?」

「あっ、信頼と実績の日本陰キャ協会調べです」

「なるほど……せっかくですし、一緒に撮りますか?」

「……あっ、えっと……そっ、そうですね。ちょっと、有紗ちゃんと一緒に撮りたいって思ってたので……さっ、賛成です」

 

 ひとりにとっては完全に初めての挑戦となるプリクラではあったが、有紗と一緒に撮影してみたいという思いがあったのか、有紗の提案にどこか乗り気で返事をしていた。

 中に操作パネルがあるタイプだったため中に入ってお金を入れ、人数や撮影枚数を選んだあとで、フレームを選択する。

 

「映画館に隣接しているだけあって、映画とのコラボのようなフレームもありますね」

「あっ、種類が凄いですね。えっ、どっ、どれを選べば……」

「ひとりさんは、なにか希望がありますか? ないなら私が選びますが?」

「あっ、有紗ちゃんに任せます」

「分かりました。では、私が選びますね」

 

 プリクラを初体験のひとりは、どうしていいか分からないという感覚が強く、有紗に任せることにした。そして、選択権を得た有紗はほぼ躊躇なくハートの多く描かれたフレームを選択し、その際にさっと素早い動きで「カップルコース」というモードを選択していたが、幸か不幸かキョロキョロと視線を動かしていたひとりはその操作を見落とした。

 

「……あっ、あの、有紗ちゃん? なんかその、妙にハートの多い感じのフレームじゃないですか?」

「さて、撮影が始まりますよ」

「あっ、スルーした……えっ、えっと、こっちを見ればいいんですよね?」

「はい。画面にポーズの指示などが映るのでそれで、そのポーズで撮影する形です」

「あっ、なるほど、指示が出るんですね。それなら、分かりやすいです」

「はい。7枚撮影なのでポーズも7つですね。もちろん、指示とは違うポーズをしても大丈夫です。あくまで指示は、アドバイスのようなものですよ」

 

 有紗がひとりに簡単に説明をすると、タイミングよく撮影が始まり画面に最初のポーズ指示が表示された。最初は「顎掴み」という指示であり、画面にはサンプル写真が現れる。

 

「あえ? なっ、なんですかこのポーズ、あっ、顎?」

「こうして、画面通りに人差し指と親指で相手の顎を挟んで顔を寄せるんですよ」

「え? えぇ、はっ、恥ずかしくないですか!?」

「ひとりさん、急がないと時間がありませんよ」

「あわわ、こっ、ここ、こうですか?」

 

 戸惑いつつも撮影までの猶予時間がそれほど長くなかったこともあり、ひとりは有紗の指示に従う形で顎掴みを実行して撮影を行う。そして、混乱を回復させる間もなく画面には次の指示が表示された……「後ろからハグ」と……。

 

「後ろからハグですね。では、失礼して……」

「あっ、有紗ちゃん!? なんか、これおかしくないですか? こっ、こういうものなんですか?」

「カメラの方を向いてくださいね」

「あっ、はっ、はい」

 

 嬉しそうに後ろからひとりを抱きしめる有紗とは対照的に、ひとりは顔を赤くして慌てていた。しかし、撮影時間は待ってくれず進行していく。

 次に表示されたのは「肩を抱く」というものだった。

 

「……あっ、あの、有紗ちゃん? なんか、やたら密着するような指示が多くないですか?」

「カップルコースなので、当然だと思います」

「カップルコース!? なっ、なな、なんで!? いっ、いつの間に……」

「おっと、撮影が始まりますよ。肩を失礼しますね」

「うひゃぁ!?」

 

 有紗に抱き寄せられ、ひとりは顔を真っ赤にしながらもそれでもいちおうカメラの方は向いて撮影を行う。まるでジェットコースターのように目まぐるしく指示が出され、困惑しながらも流されるように指定のポーズを決めて行く。

 最初に有紗が言った「あくまで指示はアドバイスで、指示とは違うポーズでもいい」という言葉はすっかり忘却の彼方であり、指示通りに「腕組み」「正面からハグ」「互いの頬に手を当てて見つめ合う」「頭くっ付け」と、全ての指示を恥ずかしがりながらも実行した。

 

「お疲れ様です。これで撮影は完了ですね」

「……もぅっ! 有紗ちゃんは、もうっ! もっ、もの凄く恥ずかしかったじゃないですか!?」

「ふふ、申し訳ありません。カップルコースという選択肢を見つけたので、気付いた時には押してました」

「こっ、行動力……」

「まぁ、気を取り直して落書きやスタンプを入れましょう」

「あっ、そういえば落書きもできるんですね」

 

 撮影した写真が画面に表示され、落書きやスタンプが可能になる。まず、表示された写真を見て、ひとりは思わず再び赤面した。

 

(はわわ、なっ、なんか、凄いポーズばっかり……うぅぅ、はっ、恥ずかしい。しっ、しかも、なんか……ちょっと嬉しそうだし私……うぅぅ)

 

 実際画面に表示された写真に写るひとりは、恥ずかしそうに顔を赤くしてはいたが、口元に笑みが浮かんでいるものも多く……なんというか、楽しんでいるのが実感できた。

 事実恥ずかしくはあったが、嫌だったかと言われればそうでもないし、なんだかんだでワタワタしながらも楽しかったという思いもあった。

 

 顔が熱くなるのを実感しつつ、いくつかの書き込みやスタンプを付けてプリクラを完成させる。

 

「これで少しすると印刷されますが、ここのQRを読み取るとスマートフォンにも写真を送れますよ」

「あっ、そっ、そうなんですね。じゃあせっかくだし……」

「はい。私もホーム画面にしておきますね」

「まっ、ホーム画面は勘弁してください……恥ずかしすぎます」

 

 本当にラブラブカップルのような写真であるため、ホームの壁紙にされるのは恥ずかしすぎた。ひとりの訴えを聞き、有紗は了承した様子で頷いた。

 そして、その写真がホームの壁紙ではなく、有紗のスマートフォンのロック画面に使用されているとひとりが気付くのは、もうしばらく経ってからのことだった。

 

 

 




時花有紗:カップルコースという文字を見つけた瞬間には、もうすでに選択しており考える前に体は動いていた。さすがの猛将。ひとりと撮った写真はスマホのロック画面に登録した。あと、印刷して額縁に入れて飾った。

後藤ひとり:休日に一緒にショッピングモールに来て、買い物して映画見て、カップルコースでプリクラ撮影……もうすでに付き合ってると言っていいのでは?
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