ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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五十三手慰安の遊園地~sideA~

 

 

 STARRYでのスタジオ練習の日。今日は4月20日であり、喜多さんの誕生日の前日です。私は喜多さんとは学校も違うので、このタイミングを逃すと次に会えるのは誕生日を過ぎてからなので、1日早いですがプレゼントを持って来ました。

 私が付いたタイミングでは丁度練習中だったみたいで、皆さん演奏をされていたので邪魔にならないようにスタジオに入り、演奏を聞きつつ物販の整理をして待ち、休憩に入ったタイミングで喜多さんに声を掛けました。

 

「喜多さん、1日早いですが、誕生日おめでとうございます。こちらは、誕生日プレゼントです」

「ありがとう、有紗ちゃん! とっても嬉しいわ!」

 

 私がプレゼントの入った紙袋を渡すと、喜多さんは弾けるような明るい笑顔を浮かべてお礼を言ってくれました。するとそのタイミングで、プレゼントが気になったのか他の方たちも喜多さんの元に集まってきました。

 

「正直、有紗のプレゼントは気になる」

「ぼっちちゃん相手に全力なのは分かってたけど、リョウの時も凄かったもんね。ぼっちちゃんは、知ってる?」

「あっ、私は前に教えてもらいましたので……きっ、聞くだけで凄かったです」

 

 リョウさん、虹夏さん、ひとりさんの言葉を聞き、喜多さんはチラリとこちらを見たあとで紙袋を開けて小さな箱を取り出しました。

 

「……軽い。リョウ先輩の時の箱と似てる気がする」

「中身はカードだね。喜多ちゃんの名前が入ってるってことは、リョウの時と同じパターンかな?」

「ええ、そちらは評判のいいエステの年間パスです。エステの場所や、パスの説明は紙袋の中に入ってます」

 

 私が喜多さんのプレゼントに用意したのは、エステの年間パスでした。喜多さんはかなり美容などにも気を使っている様子ですし、自撮りをすることも多いみたいなのでそういったプレゼントがいいだろうと考えた結果です。

 

「ね、年間? え? 有紗ちゃん、これ、1年使えるの?」

「はい。ただ、月に使用できる回数制限はありますので、毎日使ったりということはできません。あと、中の冊子に記載がありますが、基本メニューは全てそのパスで無料で受けられますが、特別メニューの一部は追加料金が必要になるので注意してください」

「あっ、ちなみに喜多ちゃん。そっ、そのエステ……ネットで調べたら出てくるんですけど、滅茶苦茶高いところです」

「ええぇぇ……す、凄すぎる」

 

 私も数回利用したことがあるエステで、かなり質も高い場所なのでオススメができます。喜多さんも気に入ってくれるといいのですが……。

 

「……虹夏の誕生日はなんになるんだろう?」

「なんか、ちょっと怖いような、楽しみなような……」

 

 

****

 

 

 未確認ライオットのデモ審査の結果発表となる日、私を含めた結束バンドのメンバーと星歌さんやPAさんを含めたSTARRYメンバーで、よみ瓜ランドという遊園地に遊びに来ていました。

 

「ついた~よみ瓜ランド!」

「下北からすぐでしたね!」

「今日はライブの打ち上げあーんど」

「STARRYスタッフ一同の慰安旅行です!」

 

 元気よく虹夏さんと喜多さんが宣言するのを、ひとりさんの手を握りながら眺めていました。天気は快晴でおふたりも楽しそうですが、ひとりさんは久々に青春コンプレックスを刺激されているようです。

 

「ひとりさん、大丈夫ですか?」

「うぅ……カップル、子連れ、学生集団……こっ、ここは私の心を抉るものが多すぎます」

「……いや、ぼっちもカップルの枠じゃん」

 

 そして、ひとりさん以上にテンションが低いのが、星歌さん、PAさん、きくりさんの3人でした。というか、きくりさんに至っては前回のライブの関係者でも、STARRYスタッフでもないのですが……。

 ともかく3人は来て早々ベンチに座り、なんとも暗い表情を浮かべていました。

 

「ほ、ほら、周り見て! 癒されるでしょ?」

「この歳になってこういうところに来ると、なんか辛くなってくるんだよ。自分の道が間違ってたとは思わないけど……幸せそうにしている同世代の子連れとかみると、胸が締め付けられるんだ」

「毎日家に帰ってもひとり、お帰りと言ってくれる人もいない、料理しても誰も食べてくれない。添加物満載のコンビニ弁当を貪る日々、壊れていく身体、壊れていく心……」

「借金まみれで築52年の風呂無し事故物件アパート住まいも、全部バンドのせいだ~」

「負のオーラが凄すぎるんだけど!? あと、廣井さんのそれはお酒のせい……そもそも廣井さんに至っては、今日呼んでないんですけど!?」

 

 どこか絶望したような表情を浮かべる星歌さんと、目に涙を浮かべて虚空を見ているPAさん、そして酔っぱらって泣き上戸に移行気味のきくりさんと、なかなかの地獄絵図です。

 虹夏さんがなんとか元気付けようとしているようでしたが、あまり効果はなさそうな感じでした。

 

「……有紗ちゃん! ちょっと、このやさぐれ三銃士をどうにかして!?」

 

 必死に助けを求めてくる虹夏さんを無視することもできなかったので、私は遊園地のパンフレットを手に星歌さんたちに近付きます。

 とりあえずいまは思考がマイナスに傾いてしまっているので、少し強引にでも別の方向に思考を向けることができれば……。

 

「星歌さん、このランドはキャラクター関連の設定も充実してるみたいですよ」

「いや、有紗ちゃん、今はそんな気分じゃ……可愛いな、この猫……」

「PAさん、ゲームとコラボしているアトラクションがあるみたいなのですが、この作品はご存知ですか?」

「え? ああ、懐かしいですね。前にプレイし……え? あ、あの、わっ、私ゲームがどうとか、話したこと……ありましたっけ?」

 

 星歌さんにキャラクターの載ったパンフレットを渡しつつ、PAさんには小声で話しかけます。すると、PAさんは明らかに動揺した様子でこちらを見ました。

 

「ああ、いえ、PAさんから直接聞いたことはないんですが、SIDEROSのあくびさんが……えっと、PAさんが以前に付けていたアクセサリーがゲームのコラボの品だと教えてくれたので、ゲームがお好きなのかと思いました」

「あ、そ、そうなんですね。ま、まぁ、本当に少し齧る程度ですけど……」

「なるほど、もし面白いものがあれば教えてくださいね」

 

 いま、嘘をつきました。本当はあくびさんがオススメのゲーム実況といって教えてくれた「音戯アルト」という方の動画を見た際に、声が細かな癖や音程も含めてPAさんと一緒だったというのが理由ですが……どうも先ほどの反応を見る限り、あまり知られたくない様子だったので、私の胸の内だけに秘めておくことにしましょう。

 

 まぁ、とりあえず強引ではありますが星歌さんもPAさんも思考の切り替えはできたでしょう。きくりさんに関しては、酔っているだけでほぼ平常運転なので問題はありません。

 

「皆さんもいろいろと思うところはあると思いますが、他人の幸福を羨ましいと思えるのは素敵なことだと思いますよ。それは言い換えてみれば、現状に満足せずに前を見ている証拠でもありますからね。機会などというものはいつ訪れるか分かりません。明日には環境が劇的に変わるということだってあるのですから、あまり深刻に考えすぎずにいきましょう」

「「「あ、はい」」」

「とはいっても、私たちと一緒にアトラクションを周るのも気が引けるかもしれませんね。丁度よみ瓜ランドに隣接したビアガーデンの食事券があるので、よろしかったら大人3人で行ってきてはどうでしょうか?」

「おぉ! ビアガーデン! いいねぇ~……あれ? 有紗ちゃんは、なんでそんなもの持ってるの?」

「ビアガーデンを運営している会社の株をある程度持っていまして、株主特典として贈られてきたものです。私は未成年なので使うことなく置いていたのですが、今回の話を聞いてきくりさんたちに差し上げようかと思って持って来ました。株主以外も使えるチケットなので、皆さんで楽しんできてください」

 

 そう言いつつ差し出した食事券を、3人はなんとも言えない表情で受け取りました。

 

「……お、おぅ……ありがとう……女子高生に諭されて食事と飲み代渡されてる状況……どう受け止めていいか分からねぇ」

「なんですかね、この圧倒的な敗北感。私たちの方が、大人……ですよね?」

「なんか、自分たちの駄目さをこれでもかってぐらい思い知らされましたね……やけ酒行きましょう」

 

 おかしいですね。なぜか、先ほどよりも哀愁漂う表情で立ち上がって3人は歩いて行きました。これは、失敗してしまったでしょうか……背中があまりにも寂しい雰囲気です。

 

「申し訳ありません、虹夏さん。上手くいかなかったかもしれません」

「ううん。むしろ、有紗ちゃんが優しすぎて勝手にダメージ負ってるだけだから大丈夫。大人って面倒だよね……まぁ、あっちは放っておいて、私たちはアトラクションを周ろうよ」

 

 虹夏さんのその宣言で、私たちはアトラクションを周ることになったのですが……その前に不安そうにしているひとりさんの元に近付いて、再び手を握りながら微笑みます。

 

「あっ、有紗ちゃん?」

「ひとりさん、大丈夫ですよ。いろいろ不安に感じる部分もあるとは思いますが、私も一緒ですからね」

「あっ、有紗ちゃんも一緒……たっ、確かにそれなら……」

 

 少し強めに手を握りつつ微笑みかけると、ひとりさんは俯いていた顔を上げて、はにかむ様に微笑んでくれました。私と一緒に居ることで、ひとりさんが少しでも精神的に楽になってくれているのなら、とても嬉しいです。

 

「せっかくの機会ですから、遊園地を楽しみましょうね」

「あっ、はい。そっ、その、実は……有紗ちゃんと遊園地に行けたらいいなぁって思ったこともありまして、緊張もありますけど、嬉しいって気持ちも大きいです」

「そうなんですね。実は私も、以前一緒にショッピングモールに行った際に横浜の話になった時に、観覧車を思い出しまして、ひとりさんと一緒に乗りたいなぁと思っていました」

「あっ、いっ、一緒ですね……えへへ、この遊園地にも観覧車がありましたし、後で一緒に乗りましょう」

「はい。楽しみですね」

 

 話をしているうちにひとりさんの気持ちも前向きになったのか、楽し気な笑顔を見せてくれ、私も釣られて笑顔になり笑い合いました。

 

「……そっかぁ、私たち、今日はこのバカップルと一緒に周るんだよね」

「……伊地知先輩、リョウ先輩、もうこのふたりは別行動にしませんか? 私、正直胸焼けに耐えられる自信がないです」

「……賛成……あと、このチュロス砂糖付け過ぎじゃない?」

 

 

 

 




時花有紗:大人組より大人な女子高生。光属性のせいか闇属性に効果が抜群過ぎた模様。なお、当然の権利のようにぼっちちゃんといちゃつく。

後藤ひとり:傍目に見てても有紗好きすぎだろと思うぐらいには、有紗への高い好感度が分かりやすい。前はメンバーの前で手を繋ぐのは恥ずかしがってたのに、最近は普通に繋ぐようになってるっぽい。

音戯アルト:PAさんの仮の姿? 本名? 漫画の描写を見る限りVtuber的なやつだと思われる。あとこの時のコマで部屋着が上下スウェットなのも判明したPAさんは可愛い。
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