大人組がビアガーデンに向かった後、結束バンドのメンバーと有紗は遊園地内のアトラクションを周っていた。テンションの高い喜多と虹夏が先導し、仲良さげな有紗とひとりが続く。リョウは若干面倒臭そうな表情を浮かべてはいたものの、遊びたいという思いはあるのか大人しく付いて移動していた。
「よ~し、まずは定番のお化け屋敷に行きましょう!」
「遊園地って感じするね~」
最初のアトラクションはお化け屋敷に決め、5人で中に入る。人数制限などは無いみたいで、5人で入ることができた。
リョウを中心に虹夏と喜多がくっつき、有紗とひとりは手を繋いで歩く。そして進行方向の井戸から、さっそくお化けが登場した。
「お皿……一枚足りない。私のおさ――ひっ!?」
「……」
「有紗ちゃん、待って、なんかものすごく怖いオーラ出てる」
「あ、申し訳ありません。アトラクションとは分かっていても、ひとりさんが怯えていたので反射的に……」
そういうアトラクションだとは頭で理解してはいたのだが、愛しいひとりが怯えている様子を見て、有紗はつい反射的に怒りのオーラを放ってしまったらしく、バツの悪そうな顔で頭を下げた。
その有紗の様子に、虹夏は苦笑を浮かべる。
「あはは、相変わらずぼっちちゃんは愛されてるねぇ……って、リョウ? なにしてんの? お化け苦手だったっけ?」
「……い、いや、お化けより怖いものが……不意打ちだったから、心臓潰れるかと思った」
有紗の怒りにトラウマがあるリョウは、自分に向けられたものではないと分かっていても、反射的に頭を抱えて蹲っていた。
なんとも微妙な空気ではあったが、そのまま改めてお化け屋敷内を進んでいく。
「ひとりさん、大丈夫です。私も一緒ですからね」
「あっ、有紗ちゃん……そっ、傍に居てくださいね」
「……虹夏、キツネみたいな顔してる」
「そりゃそういう顔にもなるよ。二組に分かれるべきだったか……」
有紗の腕にしがみつくひとりに対し、有紗は安心させるように優しい声で話しかけ、それを聞いたひとりは少し安堵してか甘えた声を出す。なんというか、聞いているだけで信頼感の強さが伝わってくるというか……カップルのような雰囲気に、虹夏がなんとも言えない表情になるのも必然かもしれない。
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お化け屋敷を周り終えたあとは、続いて虹夏がアトラクションの希望を口にした。
「あ、次ジェットコースター乗りたい!」
「いいですね~!」
「いいね」
虹夏の言葉に喜多とリョウも賛同するが、ひとりは顔を青ざめさせていた。
(いっ、嫌だ! 怖い! でっ、でも、この空気を壊してまで反論する勇気が……日本陰キャ協会調べで、絶叫アトラクションを拒む奴は、こいつノリわりーなと思われる人ランキング第14位! でっ、でも、怖いよぉ)
ひとりは絶叫マシンの類は苦手であり、乗りたくないという気持ちが強いが、3人がノリノリの状態とあってはそこに割って入る勇気などあるはずもなく、青い表情で俯いていた。
尤も、そんなひとりの様子を有紗が見逃すわけもないのだが……。
「申し訳ありません、皆さん。実は私、絶叫マシンが苦手でして……」
「え? そうなの? 有紗ちゃんにも苦手なものがあるんだね」
「ええ、なので、私は下で待たせてもらいますね。ただ、ひとりで待つのも寂しいので……ワガママを言って申し訳ないですが、ひとりさんも一緒に居てくれませんか?」
「え? あっ、はい!」
「ありがとうございます」
有紗がそう告げたことで、ジェットコースターには喜多、虹夏、リョウの3人で向かうことになり、有紗とひとりは3人が戻ってくるまで待つことになった。
3人を見送ったあとで、有紗は優し気に微笑みながらひとりに声をかける。
「並ぶ時間などもあるでしょうし、戻ってくるまでに少々時間がかかるでしょうから、なにかドリンクでも飲みましょうか?」
「あっ、はい……あっ、あの、有紗ちゃん」
「はい?」
「……あっ、ありがとうございました」
「なんのことでしょう? むしろ、私のワガママを聞いてもらった形なので、むしろこちらがありがとうというべきですよ」
ひとりとて馬鹿ではない。有紗の性格はよく知っているし、先ほどの発言が嘘であるというのもすぐに分かった。間違いなく有紗は絶叫マシンが苦手というわけでは無い。ひとりがジェットコースターを嫌がっているが言い出せないのを察して、自分が苦手という形でひとりも乗らなくていいようにしてくれたのだ。
その優しさに申し訳なさを感じつつも……どうしようもなく嬉しさも湧き上がってきており、ひとりは有紗と手を繋いで歩きながら頬を染め、どこか幸せそうに笑みを浮かべていた。
出店でドリンクを購入して、ジェットコースターのアトラクション付近のベンチに並んで座りながら、3人の帰りを待つ。
「遊園地のドリンクは華やかですね」
「あっ、ですね。なんかお洒落な感じです」
「ひとりさん、よろしければこちらも一口飲んでみますか?」
「あっ、はい。じゃっ、じゃあ、一口ずつ交換しましょう」
互いのドリンクを交換して一口ずつ飲んでから、なんとなくふたりで顔を見合わせて笑い合う。些細なことでも一緒だと楽しく、自然と笑顔になるのを互いに実感していた。
「あっ、有紗ちゃんって柑橘系が好きなんですか?」
「香りが好きですね。なので、こうしたドリンクなどでも、柑橘系を選びがちですね」
「あっ、確かに、柑橘系って有紗ちゃんのイメージです。よく、香水も柑橘系ですし……わっ、私も好きです」
「ひとりさんと同じものが好きなのは、嬉しいですね」
「えへへ……」
ひとりが柑橘系の香りが好きなのは、有紗がよく好んでそういった香りの香水をつけているという要因が大きい。つまり、ひとりにとっては安心できる香りということでもあるのだろう。
少しだけ照れ臭そうに笑うひとりを、有紗は微笑まし気な表情で見つめていた。するとそのタイミングで、どこか呆れたような声が聞こえてきた。
「お~い、そこのバカップル……戻ったよ~」
「かっ、カップルとかそういうのじゃないですから!? って、あっ、あれ? リョウさん?」
「……リョウさんは、どうかしたんですか?」
虹夏の声にひとりが慌てて反論して振り返り、有紗も同時に振り向いてふたりで首を傾げた。視線の先にはジェットコースターから戻って来た3人が居たのだが、その内でリョウは虹夏に肩を借りており、どこか満身創痍に見えた。
「……腰が抜けたんだってさ。リョウって、こう見えて結構ビビりなんだよ」
「ふっ……ほら、私にもひとつぐらい欠点が無いと完璧すぎるから」
「よく今の情けない姿でそんなこと言えるよね……もう一回乗るか?」
「あ、止めて、死ぬ」
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ジェットコースターの後も遊園地内のアトラクションを周っていく、次に訪れたのはアシカショーだった。
「ここでアシカショーもやってるんですよ」
「へぇ、珍しいね。わ~凄い、あんなこともできるんだね」
芸をするアシカを見て、虹夏と喜多が楽しそうに声を上げひとりも感心したような表情を浮かべた。
「あっ、バランス感覚凄いですね」
「ボールを乗せたりと頭がよくて可愛らしいですね」
「……あっ、わっ、私もボール乗せるぐらい、でっ、できます」
「ふふ、ひとりさんはボールなんて乗せなくても、いつでも可愛いですよ」
褒められるアシカに若干の対抗意識を燃やしていたひとりだったが、すぐに有紗が微笑みながら頭を撫でたことで気恥ずかしさが勝ったのか、顔を赤くしていた。
もちろん、喜多や虹夏が「また始まったぞコイツら」という具合にチベットスナギツネのような顔をしていたのは言うまでもない。
アシカショーを堪能したあとで次のアトラクションに向けて移動していると、射的や輪投げのあるエリア通りがかった。
「あ、見てください。射的や輪投げがありますよ!」
「お~縁日みたいだね。せっかくだしちょっとやってく?」
「ふっ、ガキどもめ……私はダーツを」
せっかくなので立ち寄って遊んでいくことになり、ワイワイと射的や輪投げ、ダーツで遊ぶ。流れで射的をやることになったひとりは若干戸惑いの表情を浮かべていた。
「あっ、あれ? これ、どうすれば?」
「ああ、この射的は景品の手前にある目標についた印に光を当てると景品が獲得できるんですよ」
「あっ、なっ、なるほど……こんな感じで……ぜっ、全然当たらない」
「もう少し、こうして腕を真っ直ぐに……」
「あひゃっ!? あっ、有紗ちゃん、ちょっ、ちょっと待ってください……かか、顔が近くて……」
射的に苦戦していたひとりを有紗が補助する形になったが、構え方を指導する関係上どうしても密着することになる。
ある程度の密着は慣れているひとりでも、こうしてすぐ近くに有紗の極めて整った顔があると慌ててしまう。まぁ、例によって有紗は気にした様子もなく、むしろ役得とばかりにひとりの腰に手を添えて笑顔でサポートしていたのだが……。
「……なっ、なんか、景品は取れましたけど、変に疲れた気分です」
「私としてはもうちょっと密着していたい気もあるので、もう一度やりませんか?」
「やっ、やりません! あっ、いっ、いや、まぁ……有紗ちゃんがどうしてもというなら……ぜっ、絶対にダメとは言いませんけど……」
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ある程度遊んでお昼時となったことで、5人はパンフレットを見ながら昼食の相談をしていた。
「あ、ここにしよう。とんこつラーメン」
「駄目です! せっかく来たんですから、もっとお洒落なカフェにしましょうよ!」
「へ~バーベキューのお店とかもあるんだ。まぁ、どこで食べるかは喜多ちゃんが決めていいよ~」
こういった場面で一番こだわりを見せるのは喜多であり、リョウのラーメンという意見を即効却下してパンフレットと睨めっこしていた。
その様子を見て苦笑しつつ虹夏が喜多に選択権を与えたのだが……。
「……映えを考えるならここが……ああ、でも、このカフェはスイーツが可愛いし……あっ、こっちは近くに有名なクレープ店が……」
「……これ決まりそうにないパターンだ。やっぱ有紗ちゃんが決めて」
「無難にレストランにしましょう。喜多さん、クレープ店はあとで寄りましょう」
ああでもないこうでもないと悩みだした喜多を見て、決定まで非常に長い時間がかかると見越した虹夏は選択権を有紗に振った。
決断力も高い有紗によって昼食はレストランに決まって、全員で移動を開始した。
「あっ、有紗ちゃんはなにを食べますか?」
「メニューを見てからでないとなんとも言えませんが、パスタがあればそれを選ぶかもしれませんね」
「わっ、私はハンバーグとかあれば……あっ、べっ、別の頼んで味見とかしましょうね」
「はい。楽しみですね」
「えへへ、わっ、私もです」
「……僅かな隙でもあると、すぐにいちゃつくなこのふたり……」
手を繋いでにこやかに話す有紗とひとりを見て、虹夏がなんとも言えない表情で呟いた。
時花有紗:相変わらず気遣いもできる良妻。傍目にはひとりといちゃつきまくってるように見えるが、割とこのふたりにとってこの距離感はいつも通りだったりする。虹夏ちゃんは何度もチベスナ顔していた。
後藤ひとり:隙あらばいちゃつくのは相変わらず。有紗が居るおかげか、原作のように「来世はアシカになりたい」とか祈ることは無かった。ただ、ちょっと対抗心は燃やしていた。