ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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五十四手進出のデモ審査結果発表

 

 

 よみ瓜ランドのレストランで食事をしたあとは、再び様々なアトラクションを皆さんと回りました。定番のコーヒーカップやメリーゴーランドなどもあれば、インスタント食品とコラボしたアトラクションといった少し変わったものもあり、時間を忘れて楽しむことができました。

 そうして、気付けば空は茜色に染まってきており、そろそろ夕方といっていい時間になっていました。

 

「そろそろ暗くなってくるね~」

「あっ、じゃあ、そろそろ観覧車に乗りませんか? 夕日が綺麗ですよ」

 

 虹夏さんの言葉に喜多さんが笑顔で提案し、私たちも特に異論は無かったので観覧車の場所へ移動しました。しかし、ここで問題がひとつ……観覧車はひとつのゴンドラの制限人数が4人までとなっており、私たち5人が全員同じゴンドラに乗ることはできません。

 人数を分ける必要があったのですが、ほぼ即決で虹夏さん、喜多さん、リョウさんの3人と、私とひとりさんという形で別れてゴンドラに乗ることになりました。

 

「……私としては嬉しいので異論はありませんが、かなりの即決でしたね」

「……有紗ちゃん、私たちはもう結構胸焼け気味なんだよ。冗談じゃなく、本当にこの割り振りで別行動するべきだったとすら思ってるからね」

「……本当に、隙あらばって感じでしたよねぇ」

 

 虹夏さんと喜多さんの言葉に、リョウさんも同意するように頷いていましたが、いまいちピンとこない私とひとりさんは顔を見合わせて首を傾げました。

 まぁ、なんであれひとりさんとふたりで観覧車に乗れるというのはとても素敵ですし、深くは考えないことにしましょう。

 

 そして、決めた通りのメンバーでゴンドラに乗り込み、私はひとりさんの隣に座りました。

 

「……え? あっ、あれ? こっ、このタイプのゴンドラで2人で乗るなら、向かい合わせの形になるのでは?」

「特に決まりがあるわけではありませんよ。あと、私がひとりさんの横に座りたかったので!」

「なっ、なるほど? あっ、でっ、でも、私も有紗ちゃんと観覧車に乗れて嬉しいです」

 

 そう言ってはにかむ様に笑うひとりさんに私も笑みを返し、ふたりでゴンドラから見える美しい景色を堪能します。

 

「夕日に照らされた園内は綺麗ですね」

「あっ、遠くにスカイツリーも見えますね。けっ、けど、少し物寂しさもありますね。なっ、なんというか楽しかった時間が終わっちゃう感じで……」

「その気持ちはとてもよく分かります。でも、そう思えるのはきっと幸せなことですよね。名残惜しいと思うほど、今日という一日が楽しかった証拠ですし」

「あっ、そっ、そうですね……確かに凄く楽しかったです」

 

 本当にあっという間に過ぎたという感覚でしたし、また来たいという思いもあります。機会があればまたひとりさんと遊園地に行きたいものですね。千葉の有名なテーマパークなどにも行ってみたいですし、たくさんやりたいと思えることがあるのは本当に幸せです。

 

「まっ、また、有紗ちゃんとこうして遊園地に来たいです」

「私も丁度そう思っていたところです。千葉の有名なテーマパークなどにも行ってみたいですね」

「あっ、あの、伝説の陽キャの聖地に……あっ、でっ、でも、有紗ちゃんと一緒なら……楽しそう」

「是非、一緒に行きましょう」

「あっ、はい」

 

 ひとりさんと手と繋いで夕日に照らされる光景を眺め、時々顔を見合わせて微笑み合うというのは、本当に素晴らしく幸福な時間です。

 惜しむらくは観覧車が一回りするまでという時間の制限があることでしょう。

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎるもので、気付いた時にはもうゴンドラは一周して元の場所に戻ろうとしていました。少し名残惜しさを感じつつもひとりさんと一緒に居り、先に降りていた虹夏さんたちと合流します。

 

「これで一通りアトラクションは回ったね~」

「ですね……あ? そういえば、伊地知先輩、連絡来ました? もう1日が終わっちゃいますけど……」

「いや、まだ……」

「あ、そうですか……」

 

 そういえば今日は未確認ライオットのデモ審査の結果発表がある日です。まだ連絡が届いていないという事実に、皆さんの表情が曇ります。

 デモの出来に自信はあるのでしょうが、それでも不安がぬぐい切れないというのは致し方ないことですね。

 

「……おそらくですが、メール形式での結果発表なので落選の場合でも連絡は来るはずなので、メールが届かないから落選というわけではありませんよ。デモ審査の対象もそれなりでしょうし、単純に遅れているだけでしょう」

「そっ、そうです。きっ、きっと大丈夫ですよ!」

 

 私と同じく皆さんを励まそうとひとりさんが声を上げたタイミングで、虹夏さんのスマートフォンから音が聞こえてきました。

 

「あっ、メール来た!?」

 

 どうやら噂をすればというべきか、選考結果のメールが届いたみたいでした。私も含めて全員が虹夏さんのスマートフォンを覗き込むような位置に移動して、結果を確認します。

 

「……厳正なる審査の結果。デモ審査を……通過となりました!」

 

 そう、それは紛うことなきデモ審査通過の連絡であり、これでネット投票に進むことができます。本当によかったです。9割方大丈夫だろうとは思っていましたが、それでももしかしたらという思いは私にもありましたし、こうして結果が分かった際の安堵はとても大きいです。

 そう思っていると、隣に居たひとりさんが感極まった様子で私に抱き着いて来ました。

 

「あっ、有紗ちゃん! 私たち……」

「ええ、本当におめでとうございます」

「……」

「ひとりさん?」

 

 嬉しそうなひとりさんに祝福の言葉を告げると、ひとりさんは少し考えるような表情を浮かべて沈黙し、私の目を真っ直ぐに見つめながら口を開きました。

 

「……おめでとうじゃ、ないです。楽器を持ってステージに立たなくても、有紗ちゃんも仲間で、だから……」

「……そうですね。申し訳ありません。少し他人行儀でした……やりましたね。これで、第一関門は突破です」

「はい!」

 

 ひとりさんの言う通り、おめでとうというのは他人行儀でした。私も結束バンドの一員として、当事者なのですから、一緒に喜ぶ権利もありますね。

 ひとりさんも私が考えを改めたことはすぐに察したのか、嬉しそうな笑顔を浮かべて強く抱き着いてきたので、抱き返しつつ私も笑顔を浮かべます。

 

 もちろんまだデモ審査を通過しただけなので本番はこれからですか、今日はひとまず第一関門を突破した喜びを満喫することにしましょう。

 

 

****

 

 

 一夜明けて翌日。私たちはSTARRYに集合して次のネット審査に関しての話し合いを行っていました。この手の話し合いで進行を私が行うのはもう定番なので、ホワイトボードに書き込みながら話をします。

 

「念のために確認しますが、ネット審査はデモ通過100組を対象として行われ、公式のHPにて音源と映像を公開し、期間内の投票によって上位30組が本戦であるライブステージに進むことができるという形式ですね」

「出来るだけいろんな人にお願いして、投票してもらって……目指せ1位通過だね!」

 

 私の言葉を聞いて、虹夏さんが明るい笑顔で告げます。現在は昨日のデモ審査通過の喜びのままで非常に前向きになっているのはいいことですが、思い通りの結果にならなかった際の落差も大きいのでここで釘を刺しておくことにします。

 

「……いえ、厳しい言い方ですが、最初にハッキリ言っておきますと……結束バンドがネット投票を1位通過するのは、ほぼ不可能です」

「……あっ、え? そっ、そうなんですか?」

「ええ、発表された100組の知名度を一通り確認したのですが、SIDEROSを含めた上位5組は頭ひとつ抜けています。もうすでに日頃からワンマンライブをこなしているレベルなので、実際に演奏して優劣を決めるライブステージはともかく、人気勝負のネット審査ではこの5組を越えるのは現実的ではありません。他は似たり寄ったりという感じなので、結束バンドのネット審査の最高順位は6位と思っておいてください」

「たしかに、知名度は着実に上がってるけど活動歴が長いバンドには知名度では及ばないか……」

 

 私の説明を聞き、リョウさんも納得した様子で頷いてくれました。もちろん、決して結束バンドが他のバンドに劣っているかと言われればそうではありません。仮にもう1年後なら、ネット審査でもトップ通過を狙えるだけの知名度は獲得していた可能性は十分あります。

 しかし、残念ながら現時点ではまだ上位層には届きません。

 

「ここで重要なのが中間発表です。ネット投票は5月中旬開始で、期間は2週間……1週間経過時点で、中間順位が発表されます……ここで10位以内に入れば、ネット審査通過はほぼ確実と思っていいでしょう」

「有紗ちゃん、10位ってのは、なにか根拠があるの?」

「中間結果は一般にも公表されます。その際にトップ10に入っているバンドに関しては、音源を聞いてくれる方も多く、更なる票数の増加が見込めますね。全100組の音源を全て聞くのは、よっぽど熱心なロックファンぐらいでしょうし、大多数を占めるリスナーは全てを聞くことはしません。ではどこで区切るのかというと、トップ10で区切る可能性が高いですね」

 

 どれほどいい曲を作っていたとしても、そもそも聞いてもらえなければ勝負の土俵には立てません。1曲の時間を平均で4分前後と考えても、上位10組を聞くのは1時間以内に聞くことができますが、これを20組や30組になると1時間以上の時間がかかり、精神的に手を出し辛くなってきます。

 逆にトップ10入りをしていながら知らないバンドがあれば、興味を持って聞いてくれる方は多いでしょう。私の予想では上位10組は中間からさらに票数を伸ばし、11位~30位はそれほど大きな差がつかない接戦になると予想しています。

 

「……とはいえ、やることが変わるわけではありません。知り合いなどに声をかけ、出来るだけ投票を呼び掛けるという方針で大丈夫です。いちおうサンプルとして無料配布できるデモCDも用意したので、宣伝などに利用してください……全員で、ネット審査通過を目指して頑張りましょう」

「お~! ……このリーダー感よ。虹夏、どう思う?」

「ふっ……もうね、その辺は諦めた。よし、頑張ろ~!」

 

 こうして、デモ審査を突破した結束バンドは新たにネット審査に向けてスタートしました。とはいえ、ネット審査の開始まではまだ時間があるので、しばらくは準備期間でしょうが……。

 

 

 

 




時花有紗:例によってぼちっちゃんといちゃつくのはもちろん、結束バンドのマネージャーみたいな立ち位置。最近は作戦会議などで取り仕切るのにも慣れた模様。

後藤ひとり:やはり要所要所で原作より精神面で安定しているところが出ており、今回も不安がる皆に声をかけれるぐらいにはなっていた。

未確認ライオット:たぶん元ネタは閃光ライオット+未確認フェスティバルだと思うので、ネット投票5月中旬、ライブ審査7月中旬、ファイナルステージ8月末ぐらいでイメージ。原作ではネット審査はギリギリ通過ではあったが、いまは有紗の見立てでトップ10を狙える位置にはいるっぽい。
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