「ドーモ、BETAのみなさん。ニンジャスレイヤーです」

「オヌシらが踏みにじってきた人々(モータル)の怒り、いま思い知るがいい」

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「あんたの目的を言いなさい」「BETAを殺す!」「なんですって……?」「BETAを殺す! この星のBETAを殺す! この宇宙のBETAをすべて殺す!」「狂人のざれごとね」「はたしてざれごとかな?」

 

 

 

 撃って、という絶叫と拳銃の発砲音は、京都駅構内に空しく響いただけに終わった。

 

 崩れたまま動かない白い82式瑞鶴。

 

 集る戦車級。

 

 半死半生の状態の若き衛士。

 

 絶望に打ちひしがれる“黄”の少女。

 

 屋内にわだかまる闇が、すべてを閉ざそうとしていた。

 

 助けは来ない。

 

 この世界に神はいない。

 

 この世界にヒーローはいない。

 

 そんなことは、誰もが知っている。

 

 都合のよい救いなどない、故にこの世界では死は普遍なのだ。

 

 絶望の中、ひとりが生命を散らし、もうひとりが意識を手放そうとしたそのとき――。

 

 

 

 

 

 

 

「Wasshoi!」

 

「え」

 

 

 

 

 

 

 

 場違いにも思える気魄あふれる叫びが、両者の意識を引き戻す。

 

 崩壊した天井から煌めく刃が降り注ぎ、鋼鉄の上を這う戦車級たちを射殺した。

 

 遅れて築地市場のマグロをミンチにしてぶちまけたような光景のど真ん中に、何かが落ちてきた。

 

 

 

 

 

 

 

「ドーモ、はじめま――」

 

 

 

 

 

 

 

 何かを言いかけた“それ”に、戦車級が掴みかかろうと殺到する。

 

 対する“それ”は何の変哲もないヌンチャクをしめやかに構えた。

 

 挨拶は大事だ。古事記にもそう書いてある。

 

 が。

 

 

 

「状況判断だ」

 

 

 

 ヌンチャクが振るわれる。

 

 と同時に“それ”の瞳が眼光を曳いて、闇を引き裂いた。

 

 まず目前に迫った戦車級の下顎部を吹き飛ばし、続いて背後の戦車級の両腕を破壊した。

 

 それでも怯まずに向かってくる戦車級、戦車級、戦車級。

 

 が、赤い装束は決断的に常人の3倍以上の脚力で宙へ飛んだ。

 

 

 

「イヤーッ!」

 

 

 

 AL弾が撒き散らした微量の重金属粒子が、彼の掌の中で凝固した。

 

 BETAを殺すために製造され、炸裂し、その生命を終えた砲弾はいま再び結集し――怒りの刃、手裏剣(スリケン)となる。

 

 その手裏剣が、飛ぶ。飛ぶ。飛ぶ。

 

 戦車級の頭部が弾け、戦車級の脚が切断され、戦車級の腕が圧し折られる。

 

 

 

 8殺!

 

 16殺!

 

 32殺――おお、豪嵐雅(ゴウランガ)

 

 

 

 死骸の中心に、再び彼は着地した。

 

 掌を合わせ、腰から上体を折る。

 

 そして彼は、名乗りを上げた。

 

 

 

「ドーモ、ニンジャスレイヤーです。アイサツもできぬオバケども」

 

 

 

 言いながら戦闘態勢(ジュージツ)の構えに移行する。

 

 

 

「私はこれからオヌシらを1体のみ残して殺す。残した1体も拷問(インタビュー)したあとにむごたらしく殺す」

 

 

 

 血を連想させる赤黒の忍者装束。

 

「忍」「殺」と刻まれた面頬。

 

 そして鋭く光る瞳。

 

 その彼を見つめていたひとりの少女は、弱弱しく声を上げた。

 

 

 

「あ、あの……」

 

「む」

 

「もう全部、死、んでます」

 

 

 

 彼女が指摘したとおりであった。

 

 ニンジャスレイヤーと名乗った男の周囲に、もう動く影はない。

 

 

 

(((彼奴らについて知る機会を失うとは……バカ、ウカツ!)))

 

(((黙れナラク! ……オヌシはあのオバケについて何か知っているのか)))

 

(((いや知らぬ――フジキド、上を見よ!)))

 

(((言われるまでもない)))

 

 

 

 崩落した屋根、その大穴から巨大な影が覗きこむ。

 

 大型種、要撃級の白濁した肌――上がる悲鳴。

 

 それに反応したかのように、要撃級は大穴から構内に飛びこんでくる。

 

 

 

「オバケの次はカイジュウか」

 

 

 

 フジキドはサバンナの合成野豹(バイオ・ピューマ)めいて低姿勢で飛ぶと、黄の戦装束を纏った少女を拾い上げ、頭上から降ってきた要撃級の巨体を躱した。

 

 対する要撃級は戦車級の死骸を吹き飛ばしながら旋回し、フジキドに向き直る――そのときにはすでに少女を下ろした赤黒の影は虚空に飛んでいた!

 

 

 

「イヤーッ!」

 

 

 

 投擲した2枚の手裏剣(スリケン)は要撃級の尾部感覚器を無慈悲に破壊。

 

 そしてフジキドは空中で高速前転。

 

 ここに暗黒カラテ技が完成する。

 

 前転から弾き出される音速の踵落としが、要撃級の頭部を捉えた。

 

 そのままフジキドの踵は要撃級の頭部に沈みこみ、粉砕し、遅れて生じたカラテ衝撃波が体組織を熟した柘榴めいて破裂させる!

 

 

 

 翼龍(ドラゴン)

 

 これぞ暗黒カラテ技、ドラゴン・ヒノクルマ・アシである!

 

 ニンジャスレイヤーは生まれた反動を利用して空中後転し、再び地に立つ。

 

 が、構えは解かぬ。フジキドの瞳は頭上に現れたふたつの新しい“タコ頭”を射抜いていた。

 

 

 

「逃げて……」

 

 

 

 白い瑞鶴の胸部に身を預けたままの少女の弱弱しい声が響く。

 

 

 

「スゥーッ! ハァーッ!」

 

 

 

 フジキドはそれを無視してマサイ族の投槍じみたフォームをとった。

 

 振りかぶった右腕、肩、背中に縄めいた筋肉が浮き上がる。

 

 

 

「イヤーッ!」

 

 

 

 降ってきた2体の要撃級は、虚空でツヨイ・スリケンの直撃を受け、そのまま落下して床に臓物をぶちまけた。

 

 その死骸の上に3体目が着地し、フジキド目掛けて右腕を振るう。

 

 戦術機さえも一撃で破壊する打撃が迫る!

 

 それをニンジャスレイヤーは古代ローマ由来のブリッジ回避!

 

 達人(タツジン)

 

 さらに上体を起こしながら手裏剣(スリケン)投擲!

 

 感覚器を破壊!

 

 

 

 が、要撃級は怯むことなくフジキド目掛けて左腕を振るう。

 

 戦術機さえも一撃で破壊する打撃が迫る!

 

 それをニンジャスレイヤーは古代ローマ由来のブリッジ回避!

 

 達人(タツジン)

 

 さらに上体を起こしながら手裏剣(スリケン)連続投擲!

 

 左前脚を破壊!

 

 

 

 が、要撃級は怯むことなくフジキド目掛けて右腕を振るう。

 

 戦術機さえも一撃で破壊する打撃が迫る!

 

 それをニンジャスレイヤーは古代ローマ由来のブリッジ回避!

 

 達人(タツジン)

 

 さらに上体を起こしながら手裏剣(スリケン)連続投擲!

 

 右前脚を破壊!

 

 

 

 後ずさりする要撃級目掛け、さらに彼は助走をつけてジャンプ!

 

 ドラゴン・トビゲリである!

 

 要撃級の顔面を惨たらしく破壊!

 

 炎龍(ドラゴン)

 

 なんたる紀伊型戦艦主砲ほどの威力はないが120mm徹甲弾以上の貫徹力を秘めており突撃級の戦闘突撃さえも止めうる衝撃力を有する暗黒カラテ技か!

 

 

 

 空中を舞って着地したニンジャスレイヤーは再度、戦闘態勢(ジュージツ)の構えを取る。

 

 対空警戒。

 

 もしも天井に開いた大穴から再びカイジュウが現れることがあれば、そのときはニンジャスレイヤーの対空ポムポムパンチがカイジュウを打撃することだろう。

 

 しかし、続くカイジュウは現れなかった。

 

 

 

「山城さんっ!」

 

 

 

 訪れた静寂を切り裂いて、黄の戦装束に身を包んだ少女は血まみれの瑞鶴に向かって走り出していた。

 

 急ぐと死ぬ(急がば回れ)。

 

 とはミヤモト・マサシのコトワザだが、フジキドは止める気にはなれなかった。

 

 走り出しながら、彼女は声を絞り出す。

 

 

 

「ニンジャさん! 私は篁と申します、どうか手を貸してください!」

 

 

 

 ……。

 

 

 

 瑞鶴から引きずり出した少女を背負ったフジキドは、篁と名乗った少女とともに崩落が進む屋内から外へ出た。

 

 立ち上る黒煙、崩れた街並み、汚染された空気。

 

 カイジュウが大暴れしたとしか思えない光景に、彼の表情はわずかに歪んだ。

 

 

 

「あのオバケの仕業か」

 

 

 

 とつぶやいたフジキドに、篁唯依はBETAのことですか、と聞き返した。

 

 

 

「ベータとはあのオバケの名か。ベータ、覚えたぞ」

 

「……何もご存じないのですね」

 

 

 

 そう呟いたのはフジキドの背に身を預けている少女だった。

 

 フジキドは沈黙のまま、それを肯定する。

 

 アマクダリ・セクトが巣食うカスミガセキ・ジグラットへの襲撃計画を練っていたところ、気づけばここにいた。

 

 先程のオバケを殺してふたりを助けたのは状況判断の結果にすぎない。

 

 が、いまやフジキドの心中には単なる状況判断ではなく、ベータなるカイジュウと戦わなければならないのではないか、という思いがふつふつと湧いてきていた。

 

 

 

(フユコ、トチノキ――)

 

 

 

 感傷こそが人間を、人間たらしめる。

 

 それを失ったとき己は、弱者を蹂躙するニンジャとなるだろう。

 

 

 

(ベータ、殺すべし!)

 

 

 

 かくしてベータ殲滅を決意するフジキド。

 

 その行く手に何が待っているか、未だ誰も知らない。

 

 

 

 ただ、いまは走れ!

 

 

 

 ニンジャスレイヤー! 走れ!

 











◇◆◇






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