彼氏の
昨夜、私は街でナンパされた男とセックスをした。本命の彼氏はいるけれど、浮気されて自暴自棄になった。浮気相手はあたしの友だち。しかも、あたしは親友だと思っている子。拒否らなかった親友も親友だ。あたしと付き合っているのを知ってて浮気したわけだから。
彼氏の
あたしの名前は
今、あたしの部屋で友だちに話を聞いてもらっている。
「来てくれてありがとね」
礼を言うと、
「いやあ、僕と里佳子の仲じゃないか。そんな他人行儀なこと言うなよ」
彼の発言に救われた。
「そう言ってもらえて凄く嬉しい!」
心底そう思った。
「それなら良かった」
あたしは話しを続けた。
「それでね、あたしの彼氏も親友だと思っていた麻美ももう信用できないと思ってLINEをブロックしたの」
琢磨はうんうんと頷きながら聞いてくれている。優しい男子だ。彼なら信用できるけれど、恋愛感情はない。今のところ。
「ブロックして良かったと思うよ。そんな裏切り者、こっちから願い下げだよ。僕はそう思う」
「だよね! 琢磨のこと信じたいな」
彼は笑みを浮かべた。
「信用してくれるのは嬉しいよ。でも、どうするかは里佳子の自由だよ」
「まあ、そうだけどさ」
「麻美ちゃんのことも許す気になったらLINEのブロックを解除しても良いだろうし。それまでは今のままでいいんじゃない?」
琢磨は真剣な表情でそう言っていた。その顔を見てあたしは(かっこいい!)と思った。
「ところで彼氏とは別れ話はしたの?」
「顔も見たくないからしてない」
琢磨は黙っていた。そして、おもむろに、
「はっきりさせた方がいいんじゃないの?」
「はっきりさせる?」
「うん、別れるのか、これからも付き合うのかを」
あたしはそういう話は苦手。だから、放っておこうと思っている。
それよりあたしは琢磨とエッチなことをしたかった。こんなことを言ったら多分軽蔑されるかもしれない。だから、言わないけれど。交際しているわけじゃないし。あたしは自分が淫乱女だと思った。そういうお年頃だからかな。でも、そうじゃない子もいる。人に寄るかぁ。でも、1つ伝えたいことがあるの、
「琢磨、あたしね、あなたに対して思っていることがあるの。それはね、さっきあたしに真剣に話してくれた時の顔がかっこいいと思ったんだー」
それを聞いて彼は、
「マジで? そうなんだ。それは嬉しい」
と喜んでいる様子。それに、笑っている時の顔がチャーミング。それも伝えると、
「そうなんだ、それは真面目に受け止めていいの?」
「もちろんよ」
あたしは琢磨に話したいことは話したし、あとは彼氏の河合泰一と話しつけなきゃ。嫌だなぁ……。
「ありがとね。少し気分が晴れた。それとね……」
「うん?」
彼は優しい眼差しで僕を見ている。
「あたしとエッチィことしよ?」
琢磨は固まってこちらを見ている。
「そういうことは彼氏と別れてからにしてよ」
彼は堂々としていて、あたしの発言にたじろいだ様子もない。さすが。
「じゃあ、エッチィことしてくれるの?」
「僕は構わないよ」
あたしは彼氏と親友に裏切られてから、人を信用出来なくなっていた。相当ショックだったから。今、信用できるのは、石川琢磨とお母さん。
あたしは家でお母さんに話した。
「お母さん、あたしね、彼氏と麻美に裏切られたの」
夕ご飯を作りながら聞いてくれている優しいお母さん。あたしの事を1番に考えてくれる。
「裏切られたって何があったの?」
「|泰一に浮気された。しかも麻美と」
そう言うとお母さんは驚いた表情になり、
「麻美ってあんたと仲が良かったあの麻美ちゃんでしょ?」
あたしは頷いた。
「本当にかい。へー、そういうこともあるんだねぇ」
お母さんに言うかどうか迷っている話がある。それは、街でナンパされてその男とセックスした事。怒られるかもしれない。お母さんは普段は優しいけれど、怒ると怖い。でも、言いたかったので言った。
「それとね、そういうことがあったから街でナンパされた男とセックスしちゃった……」
するとお母さんは素早くこちらを見た。
「マジで?」
「マジ。自暴自棄になっちゃって」
「だからってあんた、知らない男に抱かれるなんて気持ち悪くないの?」
あたしは俯いて、
「別に気持ち悪くないよ」
と言った。
お母さんは立て続けに、
「もしかしたら性病とか持ってるかもしれないのに。最悪、妊娠とかもあるかもしれないでしょ」
あたしは黙っていた。図星だから。
「その男は避妊してくれた?」
左右に頭を振った。
今度はお母さんが黙った。呆れているのかな。
「今度から見ず知らずの男とそういうことするのやめなさいよ!」
「わかった」
やっぱり怒られた。あたしが悪いから仕方ないか。
あたしにはお父さんがいない。聞いた話だとあたしが産まれる前に病死したらしい。病名はなんだろう? わからない。今、訊いてみよう。
「お父さんって何ていう病気で死んだの?」
「どうしたの? 急に」
「いや、思いついたから訊いた」
「実はね……病気じゃないのよ。自殺。だから、病気はきっかけに過ぎないの」
「きっかけ? 自殺するきっかけになった病気ってこと?」
お母さんの表情が暗くなってしまった。訊かなければ良かったかな?
「そう」
「何ていう病気がきっかけ?」
「うつ病よ」
ああ、聞いたことある病名。確かにうつ病にかかると死にたくなるらしい。怖い病気。でも、何でうつ病になったんだろう? それも訊いてみた。お母さんは、
「多分、働きすぎが原因だと思う。責任感の強い人でね、家にも仕事を持ってきて、俺がやらないといけないんだ、とか言って1人で抱え込んじゃって。手伝ってもらったらは? と言ったんだけど俺にしかできないって。家族より仕事を大事にしてた感じはあるね」
お母さんは、頷きながら喋っている。きっと反芻しながら話しているのかもしれない。あたしは凄く真面目なお父さんだったんだなぁと思った。
「あ、お父さんの写真があるのよ。2階の物置にあるからちょっと待ってて」
お母さんは立ち上がり、2階に向かった。紙の袋を持って来た。
「これ見てごらん。お父さんの写真があるから」
アルバムを開いてみると、あたしが幼少の頃やお母さんが載っていた。
「この2人は誰?」
「おじいちゃんとおばあちゃんよ、お父さんの方のね」
おじいちゃんは細い体型で煙草を吸っていて、カメラには目線を合わせていない。おばあちゃんはぽっちゃりしていて、笑顔でカメラ目線。1枚ずつめくっていくとお父さんらしき男性を見つけた。30代くらい。おじいちゃんのようにカメラからは目線を外していて、体型は細い。
「これお父さん?」
「そうよ」
「真面目そうだね」
「そうね」
おじいちゃんとおばあちゃんは、あたし達とは一緒に住んでいない。
お父さんの顔は初めて見た。疑問に思ったことを言った。
「でも何でお父さんが病死って嘘をついたの?」
「小さかったあんたには自殺って言ったら衝撃が強いと思ってね」
「そうなんだ。やっぱ、お母さんは優しいね」
そう言われて笑っていた。
あたしはお父さんの写真をアルバムから抜き取り、床に置き、スマホで撮影した。
お母さんと話して元気が出てきた。泰一にお別れのLINEを送ろう。
<あんた、麻美と浮気したでしょ? 一緒に学校から帰るの見たんだから>
今は午後3時30分頃。彼からのLINEは約30分後にきた。
<それは浮気じゃない。里佳子の勘違いだ! 部活で言う事を聞かない後輩がいるから、その相談をしてただけだ。麻美とは同じ卓球部だってこと知ってるだろ?>
<え? そうだったの!? あたし今まで貴方が麻美と浮気しているものだとばかり思ってた。あれだけ泰一の知らないところで泣き喚いたあたしが馬鹿だった。だから、貴方に連絡もしなかったの>
あたしは急に嬉しくなった。
<ちゃんと確認してくれよ。勝手に思い込まないでくれ>
<はーい! じゃあ、今まで通りだね!>
<そうだ>
あたしの気持ちは一変した。もちろん明るいほうに。これを機に学んだことがある。それは「確認」することは大切ということ。
なので、お母さんや石川琢磨にその旨を話したら、お母さんは、
「なーんだ、でも勘違いで良かったね」と言い、
琢磨は、
「なんだ、そうだったんだ。人騒がせな」
と言われた。泰一と麻美のLINEのブロックも解除した。
まあ、何にせよ泰一と別れることもなく、麻美とも親友のままでいられるから良かった!
(終)