夢の中、今宵も華鏡よさりは碌でもない夢にうなされる。

華鏡よさりチャンネル
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生きのいいエビフライは悪夢で飛び跳ねる

 まただ、またこれがやってきた。

 

 Vtuber華鏡よさりはそう思ってしまった。

 

 この一切凝りもしない真っ黒い空間、手抜きと差し支えない場所に何があるというのか。

 

「……」

 

 華鏡よさりは言葉を失った。

 

 いや、後ずさりしたと言ってもいい。

 

 空色の髪をした美少女は、目の前の……厳密には前方やや下、目線は地面にあるわけだが。そこで勢い良く跳ねているそれを見て、絶句した。

 

 動作的にはピチピチと言った擬音語が似合うのだろうが、外見的な音としては、ガサガサ、あるいはサクサクと言った音が似合うソレ。

 

 だから、思うのだ。

 

(夢だこれ)

 

 全身の筋肉を使い、あらん限りの表現力を以て主張してくるソレ。

 

 そう、生きのいいエビフライが跳ねるたびに衣をまき散らしながら跳ねていた。生きのいいエビではない、生きのいいエビフライだ。陸に上がったエビではなく、油から揚がったエビフライが元気よくピチピチと言う効果音が似合いそうな動きで飛び跳ねていた。

 

 頭が付いているわけでもないし、きつね色の衣を見れば、よく火が通っているはずなのだが、元気よく飛び跳ねていた。ガッサガッサと衣が音を立てている。

 

 そこへ、カツカツカツと、革靴が床を踏み鳴らす音を立てながら、人影が現れた。

 

 知っている、もう大体わかるのだ。そこでエビフライが飛び跳ねているという事は、ここに表れる人影が一体何なのかなど、察しが付く。そして、わざわざ革靴を履いているという事は、その姿形まで容易に想像できた。

 

 視線をやってみれば、いつも通りの黒服に頭部がエビフライ……ではなかった。

 

「誰えええー⁉」

 

「チャウチャウやけど、なに?」

 

 そこに居たのはチャウチャウだった。厳密には頭部がチャウチャウの黒服だ。

 

 チャウチャウ、犬のチャウチャウである。そう、茶色の毛並みをした。

 

 まるで段ボールにでも入ってステルスミッションとかやりそうな声をしたチャウチャウだ。

 

「何でエビフライじゃないの⁉」

 

 リスナーの姿であるエビフライ頭の黒服ではなく、チャウチャウ頭の黒服に思わずツッコミを入れてしまった。

 

「何でって、なにが」

 

「チャウチャウちゃうやろ」

 

「ちゃうちゃうちゃう、チャウチャウや、ほら」

 

 チャウチャウはキメ顔でそう言った。

 

 頭と体と声がどうあっても一致していないチャウチャウ頭の黒服。現在進行形でチャウチャウと言う概念をゲシュタルト崩壊させしめんとするだけのややこしさがある。

 

「いやほらって、胴体黒服じゃん」

 

「今は多様性の時代なんやから、チャウチャウやってこのぐらい着こなすやろ、自分やってそんなけったいな耳しとってよう言うわ」

 

 無茶苦茶な理論を夢の中で展開される華鏡よさりはなぜかぎこちなく頷いてしまった。

 

 まるで最近のチャウチャウは革靴を履いてスーツを着こなし、ネクタイを締め、日常的に二足歩行していると言いたげだが、そんな訳がない。

 

 と言うより、首から下は人間のそれなのだから、チャウチャウの頭を被っていると言われた方が説得力がある。

 

「ほら、お先に失礼して」

 

 そう言うと、このチャウチャウ頭の黒服はさも当然というように、地面でピチピチと言う具合に元気よく跳ねているエビフライの尾を摘まむと、上を向いて踊り食いかの様にエビフライを口に放り込もうとする。

 

「いやいやいや、何してんの⁉」

 

「エビフライの踊り食いやけど」

 

 頭上で全力で暴れ狂うエビフライを摘まんだまま、チャウチャウ頭の黒服は顔だけ華鏡よさりの方へ向けてくる。まるで「さして珍しい事でもないが、どうした?」とでも言いたげなきょとんとした雰囲気は異常そのものだ。何しろ、顔がチャウチャウなのだ、DNAが柴犬の次ぐらいには狼に近いと言われているチャウチャウなのだ。

 

「え、うん。え⁉」

 

 エビフライを手掴みで⁉ という感情もあるのだが、そもそもエビフライの踊り食いという起こり得る訳もない事態だ。まるで振り回しているかのようにエビフライが衣をまき散らしながら凄まじい勢いで抵抗しているあたり、底知れない狂気を発している。

 

「物珍しい訳でもあるまいし」

 

「物珍しいが⁉」

 

 と言っている合間に、チャウチャウ頭の黒服がエビフライを人の見した。一瞬、エビフライの尻尾が口からはみ出たが、その際、物凄い勢いで尻尾を振り回していたのだが、敢えて見なかったことにした。

 

 すると、どうした事か、チャウチャウ頭の黒服は突如として頭を押さえて呻きだし、頭から煙を上げ始めた。

 

 心配する暇もなく、煙は飢えに登るのではなく、よく見たことのある形に姿を変え、形状が構築される。そう、エビフライだ。

 

 ある意味では落ち着くべき形に落ち着いたとも言えるのだが、どうにも釈然としない心持にさせられた。

 

「……うん、ちょっと察してた」

 

 これはこれでやはり奇妙な姿なのだが、半ば慣れてしまった感覚が強い。

 

 一方のエビフライ頭になった黒服は、ビシッと敬礼すると、背を向け、背中から見事な翼を生やした。ちなみに、別にエビフライは翼を授ける某飲料水とは関係ない。

 

 そして、何事もなかったかのように飛び去って行く黒服を華鏡よさりは唯々見送っていた。

 

(……何なんだろう、この夢)

 

 などと思っていると、空からどさりと何かが落ちてきた。

 

 それは、生きの良いエビフライだった。一尾、二尾、まるで雨が降ってきたかのように、徐々に、徐々に空から降って来るエビフライの量は加速度的に増えていった。

 

 それが勢いよく跳ねるというのだから、これが悪夢であるとよく再認識させてくれる。

 

 辺りを埋め尽くすエビフライ、華鏡よさりは視界一杯のエビフライに埋もれ、全身油まみれになったのだが……そこで飛び起きるように悪夢から目が覚め、現実に戻るのであった。


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